朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第四章

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「えー、これから一緒に戦ってくれる人を募集します。…………いや、そんなに沢山は必要ない」

 希望者のオークは、手を挙げただけで四、五千人。
 しかもどんどん増える。
 アドラーと対戦した六十八名も、全員が立候補した。

「ありがたいが、そんな大軍を連れてく余裕はないよ……今はね」

 アドラーは、ダルタスと合わせて五人を選んだ。
 いずれもオルタスの試練で戦った中で、強かった者達。

「すまんが、それぞれが四十人程選んでくれ。強くて健脚で、俺の命令に従うと約束出来る者」

 オークの勇士たちに人選を任せ、次はファゴットと打ち合わせをする。

「偵察は?」
「先ほど、騎兵を出しました。各地の砦にも連絡を出しましたが、こちらは早くて三日はかかるかと」

「姫様、無事だと良いな」
「ありがとうございます」

 アドラーは、シュクレティア姫を心から心配していた。
 キャルルと同じ顔をした、かわいくわがままなお姫様、陰謀に巻き込まれ殺されるなど考えたくもない。

 そのシュクレティア姫は、国境に近い古い城館に隠れている。
 砦としての機能はほとんどないが、弓兵二百五十とフュルドフェルが百五十も付いている。

「並の傭兵ならば、千でも二千でも攻めあぐねるが……」

 アドラーは、地球の火器に似た魔導兵器が、攻城において最も威力を発揮すると知っている。

「失礼します。アドラー様、こちらをお召し下さい」

 エルフの護衛隊長が、一揃いの鎧と兜を持って来た。
 一番小柄なエルフの兵士から取り上げたのだろうか、それでも人族の平均的体格のアドラーには大きい。

「いや、気持ちだけで……やっぱり兜だけ貰えますか?」

 頭が吹き飛ばない限りなんとかなるのが、治癒魔法の凄いところ。

「はい、喜んで」
 護衛隊長は、嬉しそうに兜を差し出す。

「隊長さん」
「なんでしょう」

 アドラーが作戦の概要を説明する。

「オーク二百とエルフ兵で、真っ先に王女の安全を確保します」
「ありがたきお言葉です」

「出発は夕刻、夜道を強行します。迷わなければ明け方には王女の所へ。道に詳しい兵士を選んで下さい。それと、言い難いのですが……」

「何でもお申し付けください」
 護衛隊長は、指揮官が言い淀むとろくな事がないと知っている。

「敵は魔弾杖という飛び道具を使います。ご存知ですか? ……あ、知りませんか。矢でなく弾を飛ばす兵器です。威力は強く、エルクでも一発で仕留めることが可能ですが、一度撃てば装填に時間がかかります」

 護衛隊長は、承知したとばかりに大きく頷いた。

「アドラー様、ありがとうございます。先陣の名誉を頂き感謝いたします。オークどもに、我ら森の民の勇猛を見せつけてやりましょう!」

「だからそういう種族意識は忘れてだな……」

 マスケット銃以上の破壊力がある魔弾杖。
 今の戦力で有効な戦術といえば、縦隊突撃から乱戦に持ち込むくらい。

 ただし、先頭に立てば必ず死ぬ。
 アドラーは、オークでなく自国を守るエルフにその役割を任せた。

 会議が一通り終わったアドラーは寝た。
 生きてるだけでも不思議な試練をくぐり抜け、思った以上に疲労が酷い。

「ダルタス、今宵は徹夜で歩く。皆にも休めと伝えてくれ」

 用意された一室で眠るアドラーのところに、ギルドの面々がやって来たが気付くこともなかった。

 夕方、アドラーが目を覚ます。
 部屋は織物の上に毛皮が敷かれたオーク風。
 アドラーの周りでは、ミュスレアと妹弟、それにブランカが輪になって寝ていた。

 静かに立ち上がったアドラーに、ミュスレアが声をかけた。

「行くの?」
「ああ、みんなを頼む」

 今回は、誰も連れていかない。
 敵は人間で、間違いなく殺し合いになる。

「それは良いけど……こうなったら、アドラーが行かなくても……」
「うーんまあ、乗りかかった船だから」

「何か、隠してない?」
 エルフは鋭い。
 アドラーは、この国が平和なら三姉弟を受け入れるという話を、まだ伝えていない。

「な、何も! ほんとだよ!」
「ほんとに?」

 ミュスレアも立ち上がって、アドラーの前に立った。
 
「本当です! 冒険者の神に誓って!」
 バスティへの誓いなら嘘でも良いだろうとアドラーは判断した。

「なら、約束して。無事に戻ってくるって」

 答えを待たずに、ミュスレアが顎をあげて目を閉じた。
 幾らアドラーでも、その意味は分かる。

 半歩踏み出したアドラーの足が、床板を僅かに鳴らす。
 あと半歩のとこで、ミュスレアがぱっと目を開いて床を睨んで叫んだ。

「二人とも、おはよう!」
 姉が睨んだ先には、こっそりと二人を伺うリューリアとキャルルがいた。

「あんたが、え? やるの? とか呟くから!」

 リューリアのげんこつが、弟の頭に炸裂した。
 アドラーは全く気付いてなかったが、エルフの聴覚はとても鋭い。

 四人にも見送られて、エルフとオークの混成軍が集落を出る。

 幸いなことに雨はない。
 季節は初夏で月もあり、行軍には申し分なかった。

 夜道なので騎兵は全て置いてきた。
 オーク戦士が二百十名、エルフの弓兵が百七十名。
 二日分の水と食料、そして武器だけを持つ。

 大股でオーク領の森を駆け抜け、エルフ領へ入る。

 偵察からの報告は、最悪だった。
 シュクレティア姫の居場所はバレていて、表門におよそ八百人、裏門にも五百人の傭兵が押し寄せ、包囲されていた。

 連絡球の通信では、鉄の弾が何百と飛んできて死傷多数、陥落も間近と伝えてきた。

 夜明けの直後、アドラー達は目的地を視界に捉える。

「大砲か……!?」
 アドラーは、魔弾杖を大型にした中世時代そっくりの武器を見つける。

 十分ほどの間隔で数人で抱える砲弾を発射し、城館は崩壊も間際。

「こう明るくては、もう夜襲も無理だなぁ」
 アドラーは、逸るエルフを手で制止しながら兜を脱ぐ。

「うーん、ちょっと挨拶してくるか」
 短く作戦を伝えると、アドラーは裏門を囲む一団へ向かい、一人で歩き出した。
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