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第五章
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しおりを挟むアドラー達は急いで怪我人を運ぶ。
先頭をブランカ、殿をダルタス、リューリアが荷台の上で怪我人を看る。
三日三晩看病し続けていたキャリーは、ミュスレアが背負う。
「行くぞ、街に着くまで歩き続ける。日が沈んでもだ!」
オカバンゴ・デルタは季節で出来る沼沢地。
暗くなると地面か沼かも見分けが付かないが、ブランカの目と鼻は正確に道を選び出す。
「す、凄いな彼女。リザード族かい?」
マークスが、この辺りに広く住むリザード族と間違えた。
「しっ! それを言うと怒るんだ。あの子は……ドラゴン族、みたいなもんだ」
アドラーは控えめに答えた。
闇夜を白い尻尾を振りながら、ブランカが先導する。
魔物を避けているのか魔物が避けているのか、どちらか分からないが戦いはなかった。
たぶん両方だろうと、アドラーは思う。
今のブランカは、まったく気配を隠していない。
いずれ大陸を守護する圧倒的な存在感は、野生の方が感じ取れるはずだった。
湖沼地帯の入り口の、小さな街ハボローネ。
辺境にぽつんとある町だが、常に冒険者が行き交うので繁盛している。
深夜の到着だったが、幸いにも優秀な治癒術士が起きていた。
一ヶ月もすれば、失った手足も再生するだろう。
「疲れてるとは思うが、何があったか話してくれないか。早めに知っておきたい」
アドラーは”鷲の翼を持つ猫”の団長に頼んだ。
マークスも長の役目を果たすべく了承したが。
「その前に、礼を言わせてくれ。本当にありがとう、もう駄目だと思っていたのに、全員で生きて戻れるとは……!」
マークスは涙を零しながらアドラーに抱きついた。
「おい、待て。お前臭うぞ、何日風呂に入ってない?」
「あー……もう四日は体も拭いてない」
男の冒険者同士には定番のやり取りなのだが、ミュスレアに背負われていたキャリーは赤面した。
「平気よ。ぜんっぜん臭わないから」
「ありがとうございます、ミュスレア様……」
強く美しく、それでいて男に媚びないミュスレアは、女冒険者から絶大な支持がある。
声も出さずに夜の原野を歩き続け、ようやく一息付けたところだったが、さらに一団の冒険者が到着する。
先頭はライデンのトップギルド、”シロナの祝祭”団の副団長、青のエスネ。
女騎士のような出で立ちと口調、それに面倒見の良い性格で信者が多い、ライデンの女冒険者の代表格。
「無事であったか! さすがはアドラー殿だな!」
エスネは、アドラー達を見て凛々しい顔を緩ませる。
エスネに続くのは、十五人ほどの”シロナの祝祭”団の面々。
ハボローネまで重装備の強行軍、それでも疲れた素振りを見せないのは流石のトップギルド。
「……ギルド本部から?」
アドラーが尋ねた。
「そうだ。人の街から二日の距離、捨て置けぬとの判断だ」
堂々とした態度でエスネが答える。
「今から、詳しい事情を聞くのだけど」
「おお! では同席させて貰えるか? ハボット、一緒に来い。残りの者は、一度見回りしてから宿に戻れ!」
エスネは、返事も聞かずにきびきびとした指示を出す。
「お知り合いですか?」
有名人――青のエスネを知らないライデンの冒険者は居ない――の登場に、マークスが恐る恐るアドラーに聞いた。
「委員長には、以前に手間をかけてな……」
「委員長?」
「俺はそう呼んでる」
「……ぴったりですね」
以後、ライデンの男冒険者の間ではこの呼び名が定着する。
余計なこそこそ話をするアドラーに、ハボットと呼ばれた男が近づいた。
彼はこの一団の副長格である。
「うおっほん!」
ハボットは咳払いをしてアドラーを睨む。
年長で髭を蓄えた立派な身なりの冒険者に、アドラーは口を閉じた。
「あー、我々が来るのですから、少し自重なさった方が良かったのでは?」
ハボットは、キャルルやリューリアを見ながら言った。
「そんな! 彼らが駆けつけてくれたから……!」
マークスが訂正しようとしたが、アドラーは手で制止して答えた。
「おっしゃる通りです。シロナの皆さんが来ると知ってれば、無理はしませんでした。まだ経験の浅い者を連れて行ったのは、団長として未熟でした」
意外にも下手に出たアドラーにハボットは驚き、「ふむ。分かってるならよろしい」と、話を打ち切ろうとした。
そこへエスネが余計なことを言う。
「なんだハボット、知らぬのか? アドラー殿は名うての魔法剣士だぞ。鉄十字のランク持ちだ」
「あーいえいえ! とんでもありません!」
アドラーは全力で否定したが、ハボットの目つきは更にきつくなった。
『ギルドの姫ならば、言動に気を付けて欲しいなあ。迂闊によそ者を褒めるなど……』と、心の底からアドラーは思う。
だが、エスネは実力も備えた姫である。
マークスからの情報も、的確に処理する。
「やはり討伐するか。総数がわからぬのは不安だが、アドラー殿はどう思う?」
委員長のエスネは他人の意見を聞く器量があった。
「おほんっ! 太陽と鷲が無事に戻れたなら、我らでも充分でしょう。残りの五百とやらを追い詰めるべきです! 我々だけで!」
ハボットは、アドラーに喋る隙を与えない。
「俺たちは……」
「アドラー殿は、このままマークス殿を連れてお戻りになるがよろしいかと」
やはり隙がない。
「ハボット、少し待て。ところで、貴公はどうしてここに?」
エスネが質問の形でアドラーに喋らせた。
「アオイロマンゲツソウを求めて……」
「採取クエストですか」
ハボットが鼻で笑う。
実力のある団は、その手のクエストは卒業するもの。
「素材集めか。マークス殿の話を聞く限り、中止した方が……」
エスネも、これには賛同しない。
「……ちょっと、エスネ。こっち来て」
「なに?」
同席していたミュスレアが、エスネを呼んだ。
全体の二割程度しかいない女冒険者、その三大巨頭の二人、当然ながら馴染みはある。
「えっとね……でね、エルフのね……クスリ……上手くいけば……」
部屋の隅で、ミュスレアは重大なことをエスネに伝えた。
エスネの顔付き、いや目の色が変わる。
「それは仕方ない! アドラー殿、わたしも全力でお手伝いしよう! 痩せ薬……いや、地域の安全の為に我が団は助力を惜しまぬ!」
体力仕事の女冒険者にとって、体型の維持は大問題。
幾ら引き締まってても、男と間違えられるシルエットは嫌なのだ。
また、引退してからも食が落ちずに直ぐに太ると言われている。
ライデン市最強の女剣士は、ハボットの反対を一刀両断してアドラーへの助力を申し出た。
もちろん真の目的は、リザード族などへ警告を届けながらの、敵集団の探索と撃滅になる。
だがその道々で、レアな植物を集めたとしても、誰が責めようか。
「ははは……ありがたい……申し出です……」
女性のダイエットにかける情熱は、今ひとつアドラーに伝わっていなかった。
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