77 / 214
第五章
77
しおりを挟む”太陽を掴む鷲”団と、”シロナの祝祭”団。
古豪の名門ギルドと現在のトップギルドの空気は、悪かった。
シロナの面々はハボットを中心に固まり、『なんでこんな連中と……』の雰囲気を隠そうともしない。
原因の一つは、中央に仁王立ちする巨大なオークのせいかなと、アドラーは考えた。
人族ばかりのシロナ団は、見慣れぬ種族への警戒と排斥が強かった。
「ま、このあたりでオークは珍しいものなあ」
アドラーは手招きでダルタスを呼んだ。
オークは極地にも住むが肌の色が濃い。
雪焼け対策なのか、ダルタスの肌も深い赤茶色。
その上にスキンヘッドで、230センチを超える筋骨逞しい大男で、発達した犬歯が時々見える。
人族からすれば恐怖を呼び起こす容貌だが、ダルタスは素直にアドラーの所へやってくる。
「なんだ、団長」
「昨日の魔物を、俺は知ってる。ほとんどが斥候型で脅威度は低い。が、急に襲われたくはない。その背を活かして良く見張ってくれ」
「了解した」
ダルタスはアドラーの命令に忠実。
しかも、弱い子供たちを守るのも自分の役目だと認識している。
「頼りにしてるぞ」と、アドラーが一声かけると、オークは鋭い牙を見せて嬉しそうに口の端を持ち上げた。
ダルタスが立っていた空間に、小さな影が二つ入り込み、シロナの一団へ近付く。
一つは、エスネと従卒のように控える三人の女冒険者のところへ。
「こんにちわ。ボク、キャルルって言います。何時も姉がお世話になってます」
サラサラの金髪を乗せた小さな顔を少し傾けて、キャルルが挨拶をした。
前髪が少し目にかかり、『知らないお姉さんと話すのは恥ずかしいな』を表現する、はにかんだ笑顔。
完璧であった。
「はぅ!」とか「きゃ!」といった声にならぬ悲鳴が、エスネ達から上がる。
場の空気が急速に緩む。
「キャ、キャルルくんも来るのかい? あ、危ないよー?」
エスネのキャラが壊れかかっていた。
「お姉さん、強いんでしょ? それにボクだって、ほら!」
キャルルがぴょんっと回って背中に縛り付けた大剣を見せる。
「ねっ?」と肩越しに振り返り、三人の女冒険者を撃沈する。
「末恐ろしい……」
アドラーは、屈強な女冒険者の瞳が乙女に変わる瞬間を見てしまった。
「厳しい男社会で生きる女性にとって、無垢な少年の笑顔は麻薬なのじゃー」
いつの間にかアドラーの隣に来ていた、引きこもりの魔女がうんうんと頷いている。
キャルルの姉も、笑顔を振りまいた。
「リューリアです! 新人ですけど、よろしくお願いします!」
冒険者はルーキーに厳しい。
命にかかわるのだ、足を引っぱりそうなヤツには当然ながら厳しく当たる。
だが、極稀にだが例外もある。
「よろしくお願いしまーす!」
ハボット以外の男達の声が揃う、満面の笑みで。
新人の美少女ヒーラーエルフ耳に厳しく出来る冒険者など、存在しない。
いや女性からは嫌われることもあるが、そちらは少年剣士に夢中。
「二人とも凄いなあ……」
アドラーは思わず拍手しそうになる。
二人が場の空気を和ませる為に進んで動いてくれたと、アドラーには良く分かった。
抱きしめて頬ずりしたいところだったが、リューリアに「やめて。きもい」と言われると立ち直れないので我慢する。
アドラーは、時々甘やかす優しいお兄ちゃんの立場を死守したいのだ。
エスネの団から三人が、マークス達に付き添ってライデンへ戻る。
残りの十二人とアドラー達が、再びオカバンゴ・デルタに踏み込む。
伝説のエルフの痩せ薬を求めて――。
「うーん、プテラノコンドルが飛んでるな。空から探すのは無理かな?」
アドラーは湿地の上空を見上げる。
翼長が三メートル以上ある巨大な鳥が、何十羽と舞っていた。
「食われるのは嫌だにゃ」
バスティが代表して答えた。
首輪に魔法の写真機を付けたギルドの守り猫は、マレフィカのホウキに乗って偵察という新しい任務が増えていた。
昨日、ナフーヌに襲われるマークス達をあっさりと発見したのも、魔女と黒猫の成果。
「とりあえず、昨日の現場まで行こう。エスネ達は、敵の姿も見たことないだろ?」
「ああ、是非とも見たい。興味がある」
アドラーが先頭に立って歩きだす。
ハボットのみが反対したが、指揮権はアドラーで統一された。
「一団の長が居るならば、そちらが仕切るのは当然であろ?」
エスネが意見を述べて決まった。
数百ものナフーヌの死骸に、プテラノコンドルやその他のスカベンジャーが群がっていた。
「こういう光景は、珍しいなあ……」
アドラーも初めて見る。
ナフーヌは、同族の死体を回収もするし、食物連鎖の輪に入ってるとこをほとんど見ない。
「そもそも、餌も不明なんだよなあ。体を開いても、肉を食ってる様子はないし……」
アドラーはもちろん敵の事を調べた。
今のところ、巨大なコロニーを形成して、ハキリアリのように何か培養して栄養としていると推測されていた。
農業を営む人の活動に近いと。
エスネがアドラーの隣にやってきた。
「意外と大きいんだな。先月報告したのは、貴公だったな?」
「ああそうだ。もっと東の山中で見た。体の幅を見てくれ、平たいだろ? 普段はもっと乾燥した地域に居るんだ。砂漠にもいる」
「詳しいんだな、新種なのに」
エスネの目は鋭く、知ってるなら話せとプレッシャーをかける。
「あー、以前居たとこでも付き合いがあってね。時たま、大発生して困ってたんだ」
「なるほど……まあそれでも良いが。あっちは火炎か。それであれが斧、槍、剣。まさか、四人で片付けたのか、この数を?」
エスネは傷跡から戦闘を推測してみせた。
「うちの連中は強いんだ、ああ見えて」
アドラーはちょっと自慢混じりに答えた。
「ふっ、ミュスレアとも一度手合わせしたいと思ってたが、あのオークは何者だ? 私もオーク族と会ったことはある。しかし、あれだけの者は見たことがない。アドラー団長、貴公の実力にも興味はあるがね……」
突如、女騎士のようなことを言い出したエスネに、アドラーは困った。
そして適当に話題を変えた。
「うちの団、変なのばかり集まるからなあ。キャルルとか、かわいいだろ?」
「そ、それはもう! 目が合うと天使かと思った! なあ、連れて帰っていいかな?」
今度は物騒なことを言い出す。
ライデン最強と言われる女剣士も変わり者だと、アドラーは知った。
そのキャルルは、湿地帯をきょろきょろと見回して青い花を見つけては走り出す。
アオイロマンゲツソウは、名前の通りに真円の青い花を付ける。
群生しないので、地道に探すしかない。
花に向かって一直線に走る少年の後ろを、ダルタスが大股でついていく。
何か出た時の護衛だが、ダルタスが片手でキャルルを抱き上げて叫んだ。
「団長! 撃ちもらしだ! 一匹くるぞ!」
ナフーヌが一体、湿地の草陰から現れる。
全員が慌てることもなく、荷車を中心に円陣を組んだ。
「よし、私が試す。皆、援護してくれ!」
エスネが歩きながら剣を抜いた。
「ほー、あれが強さの秘密か」
アドラーには、エスネがまとった魔法が分かった。
一つは剣にかけられた魔法。
もう一つは、何処かの神殿で入手したか、血筋に伝わるものか、強力な神授魔法。
『剣の方が、攻撃力を五割増し。神授魔法が戦闘神かな。こちらも攻撃力が七割増しってところ』
アドラーは比率まで正確に読み取った。
通常、同種のバフは競合することが多いが、エスネは見事に二つを加算させていた。
合計して己の攻撃力を二倍強。
青のエスネの自己強化は、通常の冒険者が持つ最高峰のもの。
はぐれのナフーヌをあっさり片付けた副団長に、”シロナの祝祭”団の者が喝采を送る。
「うちの団に来てくれれば、さらに三倍の強化が出来るんだけどなあ」
アドラーから見ても、是非ともスカウトしたい逸材だったが、ライデン市で序列2位のエスネが、潰れかけの貧乏ギルドに来る可能性はゼロであった……。
ただしメイド服は着る。
0
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる