朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

文字の大きさ
78 / 214
第五章

78

しおりを挟む

 十九人とロバと猫の集団は、湿地帯をふらふらと進む。
 当たり前だが、歩ける場所は限られる。

「そりゃ大きな町が出来ないわけだなあ」

 雨のない乾季と大量の水が流れ込む湿潤季。
 人が住むにはいささか厳しい。

 アドラー達は、リザード族の集落を目指していた。
 魔物の後を追うにも、足跡が判別出来なかったのだ。

「しかし、ところどころに遺跡があるんだな」
 大声でのアドラーの独り言に、シロナ団の若者が答えてくれた。

「この辺りはめっちゃ多いですよ。石の古代文明ですね。環状列石から石積台状遺跡、地下墳墓にオベリスクまで、何でもあるんですが、水が土を緩めるので沈んで崩れるんですよ。たぶん、大昔はこんな気候ではなかった証拠ですね。リザード族のモノでもなく、名前も記録も残ってない。それでですね、ここからが俺の考えなんですが……」

 どうやら、この冒険者が好きな話を振ったようだった。

 冒険者には、文系の学者肌の者が混じることがある。
 民俗学や考古学は、冒険者ギルドに入って実地に赴くのが一番だった。

 アドラーも、前世でなりたかったのは動物博士。
 まだこの世界の博物史に名を残すことを諦めていない。

 ちなみに、理系の者は魔法に進む。
 これは錬金術時代の地球と変わらない。

 突然、「静かにしろ」と別の者が古代文明好きを黙らせた。
 話がうざくなったわけではない、先頭を歩いていた者が止まれの合図を出していた。

 今はシロナ団の者が先頭に立ち、手でアドラーとエスネを呼ぶ。
 中腰のまま様子を見に行くアドラー達を、ハボットが憎々しげに見つめていた。

 先頭の二人と並んでアドラーも腹ばいになり、低い丘から顔を出す。
「何を見つけた?」とエスネが聞いた。

「あれです。大乱闘ですな」
「ナフーヌが……食われてるだと……」

 アドラーも目を疑った。
 丘に沿って見下ろすと、沼の岸辺でナフーヌが地元のモンスターに襲われている。

 ワニの手足をマッチョにした怪物、セベクの群れがナフーヌを捕食していた。
 セベクは陸上でも素早く、大きさは六メートルを超え、普通の個体でも魔物と張り合う獰猛な獣。

「アドラー、どう思う?」
 腹ばいのままで、エスネが尋ねた。

「指揮系統を失ってるみたいだ……食われてる方が。セベクに任せて避けましょう」

「うむ、私も同意だ」

 アドラー達は、大きく迂回することにした。


 リザードのペペ族の集落に着いた頃には、日が沈みかかっていた。

「村に入れてもらえないと困るな。交渉してくるから、待っててくれ」
 アドラーは自分の剣を預け、荷車から予備の剣を数本取り出した。

 本物のリザード族は、ブランカほどかわいくない。
 爬虫類のような顔付きに、水中に適した滑らかな肌。
 水かきも尻尾もあるが、卵でなく子を産む。

「怪しいものじゃない、冒険者だー。村で一晩を過ごしたい、村長はいるかー?」

 アドラーは、両手で剣の鞘を掴んで、敵意の無いことを示す。
 この予備の剣は、そのまま贈り物にする。
 塩と金属は、何処の地域のどんな種族でも価値がある。

 ペペ族は、アドラー達を受け入れた。
 しかし何やら困ったことがあると、村長に呼び出される。

「旅のお方、実はですな。見知らぬ魔物が村の周りをうろついておりまして……」
「大丈夫です。始末する為に来ました」

 アドラーは食い気味に答えた。

「それはありがたい! それともう一つありまして」
「なんでしょうか」

 アドラーは嫌な予感がした。

「村の子供たちに熱病が流行ってましな。魔物のせいで薬になる植物を取りに行けないのです」
「……その植物とは?」

「丸く青い花を咲かせる植物です」
「そうきたかー」

 アドラーは軽く天を仰いだ。
 だが、一緒に話を聞いていたミュスレアとエスネは、がっくりと膝をつく。

「……村長、丁度手持ちにその花があるので、差し上げます」

 旅の者であるアドラーは、村長に申し出る。
 ミュスレアとエスネは半泣きだったが、反対はしなかった。

「仕方ないわ……子供の病気と聞いたらね……」
「くっ! このような試練が待ち受けているとは……」

 二人の美女は、お互いに慰めあう。
 理由さえ知らなければ、とても美しい光景だなとアドラーは思った。

 アオイロマンゲツソウを煎じて、子供たちに飲ませる。

「わたしが見てるわ。病気も少しは分かるから」

 一時は街の治療院で働くつもりだったリューリアが、ペペ族の子供たちの看病を買って出た。

「癒やしの女神パナシアよ、リューリア・リョースが祈ります。苦しむ幼子を救う慈愛を、あなたに代わって施すことをお許しください」

 神術治療の決まり文句を唱えて、リューリアは手のひらに魔法を集めた。
 リザード族の子の頭を膝に乗せて、優しくおでこに手をあてる。

 熱と痛みが引いたのか、その子は穏やかに眠り始めた。
「お姉ちゃん、僕も!」「わたしも!」と子供達が寄ってくる。

「順番よ、順番。まだ余り上手ではないけどね」
 リューリアの台詞の後半は、見ていたアドラー達にあてたもの。

「いい子じゃないの、あなたと違って」
「わたしに似てとても良い子なんだ」

 エスネがミュスレアに軽口を叩いて、姉は自慢そうに答えた。

 リザードのペペ族は、リューリアの姿を見て出来る限りの歓待をしてくれた。
 一夜の宿だけでなく、魚を中心にしたご馳走まで出す。

「美味いな、これ」
 魚料理の種類は多く、アドラーの舌に合った。

 熱病の子供達を隔離した小屋からは、エルフの子守歌が聞こえてきた。
 エルフが歌と音楽を好むのは有名で、リューリアが子供らにせがまれて歌いだしたのだ。

 ちらりと小屋を見たアドラーは、すぐに手元の焼き魚に視線を戻して、また小屋を見た。

「マ、マレフィカ! あれ見て! 小屋の方!」
「なんだー? 急に……って!」

 アドラーとマレフィカが立ち上がり、病院代わりの小屋の戸を開く。

「きゃっ、なによ二人共。いきなりっ!」
 びっくりしたリューリアが、歌うのをやめた。

「リュー、もう一回歌って」
「どうしてよ、わたしの歌声に聞き惚れたの?」

 リューリアは恥ずかしがったが、真剣な表情のアドラーに促されて歌い直す。

「どう? マレフィカ?」
「へーこりゃ凄い。増幅した範囲魔法か、滅多に見られるものじゃない」

 リューリアには、歌に乗せて治癒魔法を広める力があった。

 子供達の熱病は、急速に良くなる。
 適切な薬と、クォーターエルフの少女の歌声で。

 ペペ族は大喜びで、「この御恩は決して忘れません」とまで言いだす。
 アドラーは何の要求もなかったが、マレフィカが村長に頼み事をした。

「何を頼んだの?」
「内緒だよー。上手くいったら教えてあげる」
 血統の魔女は怪しく笑う。


 翌日、アドラー達は更に湿地の奥へ進む。
 ペペ族が漁を休んで船を出してくれる。

 新種の魔物――ナフーヌ――の残存集団は、東へ向かっていた。
 アドラーはこの後を追う。

 次のリザード族の村へ着いたが、多少は慎重に行かねばとアドラーは考えていた。

 ペペ族は人の勢力圏に近く、冒険者にも慣れていた。

「またちょっと行ってくる」
 交渉に出ようとしたアドラーを、引き止めた者があった。

「ごほんっ! 今回は自分に任せてもらいましょう! ”シロナの祝祭”の方が、名が通っておりますからな!」

 ハボットだった。

 アドラーはエスネを見たが、『すまないな』といった表情をされたので、この男に任せることにした。

 リザード族は、それほど好戦的な種族ではない。
 怒らせなければ、取引や交渉を守るタイプ。

 ハボットともう一人が、村の入口へ近付く。
 見張りに止められるところまでは、アドラーと同じ。

 その数分後、アドラーは呟いた。
「……何やってんだよ……」

 ハボットが、剣を抜いてリザード族に突きつけていた。
 直ぐに多数の村人が集まり、ハボットはあえなく捕まる。

「えー……今日は道を戻って野宿します! ダメ?」
 アドラーは宣言したが、騎士のように凛々しいエスネの困り顔を見つけてしまう。

 アドラーは、剣を外してミュスレアに放り投げた。

「ちょっと行ってくる……」
 指揮権を預かったのはアドラーで、ここで見捨てて逃げるわけにもいかない……。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...