朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第五章

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『ギルドのマイスターによるシュラハト』
 かつては職工ギルドのマイスターが、互いの技量を競うものであった。

 やがて馬借ギルドが新酒を運ぶ競争として取り入れ、あらゆるギルドの実力を示し合う大会となり、冒険者ギルドにも広まった。

 一対一の個人戦を10回で、最終戦は団長同士の一騎打ちで二勝分。

 現在は”宮殿に住まう獅子”ライデン支部の、副団長グレーシャが圧勝して四勝。

 負けたリューリアのところへ、アドラーが駆け寄った。

「な、なんてことを!」
 アドラーは絶句する。

 かわいいリューリアの目元には、グレーシャに殴られて薄くあざが出来ていた。

「リュー……こんな事に巻き込んで……」
「その先は言わないの! わたしは、みんな一緒にいたいから参加したの。これくらい平気よ!」

 リューリアは元気に立ち上がる。
 それから、アドラーとやって来たミュスレアを見て少し悩み、両手を姉の方に広げた。

「お姉ちゃん、おんぶ」
 甘えた声を出した妹を、ミュスレアがしっかりと背負う。

「えへへ、久しぶり。お姉ちゃんの背中」
「リューリア、よく頑張ったわね。体も、痛いでしょ?」

「ちょっとだけ」
 服と鎖かたびらの上からでも、鞭を受けてはただでは済まない。
 運が良ければ赤い腫れ、悪ければ紫の跡が全身に付く。

 アドラーは、見通しの甘かった自分に怒っていた。
 だが、アドラー以上の怒りを抱える人物が一人いた。

「次の試合を執り行う!」

 泥ゴーレムの残骸が片付いた闘技場では、早くもバルハルトが五回戦を開始する。

「宮殿に住まう獅子からは、団の幹部にして”疾風乱舞の速剣”スパークル! 対するは、”半エルフエルフィッシュ鬼姫オーガ”ミュスレア。なお、ミュスレア・リョースは、先程負けたリューリアの姉である!」

 集まった冒険者達にとって、注目の戦いだった。
 ギムレットの右腕と呼べる剣士のスパークルと、女冒険者で屈指のアタッカーと言われるミュスレア。

 副将戦に相応しい一戦を、バルハルトはここに持って来た。
 闘技場に出ようとしたミュスレアを、マレフィカが呼び止める。

「ちょっと待って、奴らの使う個別強化の種類が解ったの。何処かの神殿で祈って選別したのね、多分”激情と争いの神”のものよ」

 ミュスレアは、魔女の方を見ていった。
 声はとても落ち着いている。

「ありがとう、大丈夫よ。絶対に勝つからね」
「あっ、待って! この魔法の特徴はね、効果は強いけど時間が……って、行っちゃった……」

 ミュスレアは話を聞かずに舞台に上がる。

『まさか……緊張してるのか?』
 アドラーは不安になった。

 何時もの彼女は、良くも悪くも単純明快。
 怒っても嬉しくても悲しくても、すぐに顔に出る。

 愛する妹が傷ついて心中穏やかなはずもなく、怒りを周囲に振りまくのが自然に思われた。

「よう、ミュスレア。久しぶりだな」
 太陽と鷲でも幹部だったスパークルが話しかけたが、ミュスレアは答えない。

「俺は反対したんだぜ、一度は。けどまあ、ああするしかなかったんだ、許せよ」

 ミュスレアよりも頭一つ大きなスパークルはよく喋る。
 相手が反応しないと見るや、さらにまくし立てた。

「へへっ、お前が店に並べば俺が常連になってやったんだがな。今からでも遅くない、俺の女になるか? どうせ居場所もなくなるんだ」

 普段なら絶対に言い返すミュスレアも黙ったまま、スパークルにはそれが怯えに見えた。

「戦いを辞退しても良いぞ? 俺が本当にやりたいのはアドラーだ。あいつ、どさくさで俺のことを殴りやがった!」

 スパークルは、四ヶ月前にアドラーに殴られたことを覚えていた。

「お前ごときが、わたしの団長に敵うはずがない」

 うっすらと笑ったミュスレアが言い返したのは、これだけだった。

「始め!」の合図がかかり、双方が同時に剣を抜く。

 アドラーも二人を見つめる。
 ミュスレアに固さはなく、今日はエルフ王から分捕ったミスリル混じりの槍でなく、使い慣れた剣を持つ。

 動きが優先のミュスレアは、体の中央を守る鎧に長いブーツ。
 夏ということもあってか、白い太ももが見える軽装。

 一方のスパークルは、全身を覆うプレートメイル。

『あれが、”激情と争いの神”の神授魔法か。防御に三割ってとこだな、良い効果だ』と、アドラーは早くも見抜く。

 自身が持つ魔法によるバフは禁じられていない。
 神殿に通い祈って供物を捧げ、特定の神から加護を受けることは良くある。

 ただし、豊穣や安産や治癒や職能の神に比べて、戦闘系の神は揃って気まぐれ。

 望みの効果が付くことはほとんどない。
 攻撃強化が欲しいのに防御強化が付いて、泣く泣く役割を変えるなども良くある。

 ”宮殿に住まう獅子”、通称レオ・パレスの財力とコネを生かし、ギムレット達は個別の強化魔法を獲得していた。

 リューリア渾身の体当たりがあっさりと受け止められたのも、そのせい。

「”激情と争いの神”はなー、良い強化が付く可能性が一番高いと言われる」
 マレフィカが、全員に解説する。

「ただし、その名の通り効果が恐ろしく短い。激怒の一瞬、火事場の馬鹿力」

「具体的には?」
「まあ、この砂時計の半分から落ちるまでだなー」

 マレフィカは何処からともなく砂時計を取り出す。
 時間にして十分から十五分といったとこ、だが一対一の戦いなら充分である。

「それでスパークルの動きも良いのか……」

 アドラーは、闘技場に目を戻す。
 視線の先では、激情の神の加護を受けた剣士が、妹が傷つき激怒した姉にタコ殴りにされていた。

 温厚な人が怒ると怖いとよく言われるが、怒るはずの人が怒ってないのはもっと怖いと、アドラーは知った。

 最初の数分は、高い技術の応酬で観客も見惚れるほどだった。
 だが直ぐにミュスレアの速度と強さが圧倒し始めた。

 彼女は、元々素質だけで戦うタイプだったが、今はアドラーの副官格として考えることが増えた。

 ブランカに剣を教えてやり、試合好きのダルタスの相手もして、時にはアドラーから正統派の技術も習う。

「完全に役者が違うか……。それにしても、本気で怒ると黙るんだね、ミュスレアさん。今後は気をつけよう……」
「ボクも……」

 アドラーとキャルルが、寄り添って震えるほどであった。

 ミュスレアの剣は、プレートメイルを着込んだスパークルの僅かな隙間を的確に撃つ。
 相手の剣も鋭いが、かする気配もない。

 めきっと鈍い音が闘技場に響いた。

「あー……あれは、痛い」
 アドラーも思わず片目をつむる。

 スパークルの剣を丁寧に受け流したミュスレアが、懐に入って剣の柄で顔の真ん中を叩き上げた。

 前歯と鼻が折れ、大量の血が吹き出る。

「降参するか? 今なら許してやるぞ」

 大きく呼吸して息を整えたミュスレアが聞いた。

「ほ、ほざけっ!」
 スパークルが大きく剣を振り回す。
 追い詰められたあがきの様だが、狙いは別にある。

 避けたミュスレアを左腕で捕まえるつもり、体格差を活かして肉弾戦に持ち込む気かとアドラーは見て取った。

 もちろん、ミュスレアも読んでいた。
 左手の親指を掴むと、勢いを利用して大きく投げた。

「く、くそがっ!」
 強い防御バフのかかったスパークルは直ぐに立とうとしたが、今日のミュスレアはまったく優しくない。

 うつ伏せで晒された無防備な膝の裏を、骨を砕く勢いで踏み抜く。
 そして、地面から打ち上げる要領で、顔を剣で撃ち上げた。

「ゴルフかよ……」とアドラーは思った。

 それでも優しいミュスレアは、刃を横にして使っていた。
 一応、革も張ってある。
 即死することはないが、スパークルの鼻は完全に潰れて白目を剥いた。

「あー、これは駄目だな。勝者はミュスレア!」
 バルハルトは勝利を宣言しながら、手招きで衛生兵を呼んだ。

 美しいエルフの圧勝劇に、会場は大歓声。

 何事もなかったように下がるミュスレアを、アドラーは両手を広げて迎えようとしたが、先に三つの影が飛びだした。

 リューリアとキャルルとブランカが、長女にまとわり付く。
 三つの頭を順番に撫でながら、ミュスレアはいった。

「これで一勝ね。絶対に勝って、みんなで暮らすのよ!」と。
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