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第六章
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しおりを挟む行き交う大量の冒険者と、賑わいを見せる出店。
「ここでカレーの店を出せれば大儲けなのだが」と、アドラーは悔やんでいた。
今はスパイスが揃わないので、あの味が出せない。
キャルルは、そんなアドラーを見ながら人知れず安心する。
あのメイド服とやらを着る心配がないからだ。
ただし、来年の祭りでは着せられる。
その翌年は前日から逃亡する。
さらに次の年は、遂に成長期に突入したキャルルが着れるメイド服がなくなる。
しかし、男物の接客衣装をまとったキャルルの集客力は、更に高まることになるが……物語には全く関係ない。
予選に集まった帝国や周辺国からの冒険者の群れを見て、アドラーは思いつく。
「よし、一儲け……するか。キャル、お前の剣を貸してくれ。あとブランカとダルタスもこっちへ来てくれ」
みんな素直に従う。
時々は、地球由来の突飛なことも言い出すが、強くて頼れる団長を団員達は心から信頼している。
特にキャルルは、父親を知らないこともあってよく懐き、兄のように慕うアドラーから任せられる男になるのが当面の目標である……。
「ひ、酷いよ兄ちゃん! そんなことに使うなんて! 返して、返してよっ!」
キャルルは、エルフの宝剣をアドラーから取り戻そうとしていた。
飛び跳ねて取り戻そうとするキャルルから逃がすように、アドラーは剣を片手でさらに持ち上げる。
「大丈夫、大丈夫。ダルタスやブランカが負けると思うか?」
強化魔法などかけなくても二人は強い。
「だとしても、賭けの景品にするなんて!」
「これだけの人が集まってるんだ、一稼ぎしないと駄目だろ?」
アドラーは、とても良いことを思い付いたと思っていた。
早速、出店の場所を借りる。
テーブルを二つ並べ、一つにはダルタスが座り、もう一つにはブランカ。
二つのテーブルには、こう書かれた紙が貼られた。
――腕相撲で勝てばエルフの宝剣を差し上げます
オークとの対戦料は銀貨1枚
女の子との対戦料は銀貨5枚
アドラーの感覚では、銀貨1枚は千円から二千円。
それなりに美味いものを腹いっぱい食える金額。
「いいかキャル、銀貨5枚は高い。だが二つの選択肢を並べて比較させることで、心理的な障壁が下がる。男たるもの、心の読み合いに長けることも必要だぞ?」
「……兄ちゃんの、男にはってのはあてになんない!」
キャルルは学習していた。
ダルタスはどかっと座って腕を組み、通り過ぎる人々を眺める。
その隣の女の子に向かって、キャルルは頼んだ。
「ブランカ、負けるなよ? 絶対だぞ!?」
「う、うん。頑張る……」
ブランカは「簡単に勝つな、ちょっと苦戦してる風にするんだ。あと怪我もさせるなよ」と、アドラーに言われていた。
”太陽を掴む鷲”の出店、第二回戦が始まった。
「さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。世にも珍しいエルフの剣が手に入る機会が銀貨1枚で! こんなこと二度と無いよー!」
アドラーが呼び込みを始める。
実際、エルフの剣の造りは素晴らしい。
誰が見ても銘品だと分かり、冒険者なら手にとってみたいと思わせる代物であったが……。
「ふーん」
「へー良い剣だな」
足を止める冒険者は多いが、財布を出す冒険者がなかなか現れない。
それもそのはず、こんな見え見えの罠に真っ先にひっかかるなど、冒険者としてはあるまじき失態。
「誰かいけ」
「いや仕掛けが分からんと」
「それをお前が確かめろ!」
譲り合いになっていた。
「よ、よし、俺が挑むぞ!」
やっと一人名乗り出たが、その表情は固い。
美味い話に飛びつくのではなく、露骨な警戒を隠そうともしない。
「お客さん、お名前は?」
せっかくなので、アドラーは聞いた。
「パンノニアから来たアールパードだ!」
「それはそれは遠くからようこそ。どちらに挑みますか?」
「こっちの女の子で」
アールパードは、ダルタスのオーク筋肉をじっくりと観察してから宣言した。
五枚の銀貨が机に出され、緊張した面持ちの両者が組み合った。
腕相撲の開始である。
ブランカは、指示通りにゆっくりアールパードの腕を倒した。
「ふー、ありがとございましたー!」
安堵してお礼をいうブランカのかわいい笑顔に、さらに数人が釣れた。
だが、アドラーもそろそろ気付く。
「あれ? これ失敗?」と。
当然だが、ライデン市の者でブランカに挑む者はいない。
そして冒険者の情報網は広く早い。
八人ほどがブランカに破れたところで、客足が途絶えた。
足を止める者も、珍しいオークと白い角の少女を見るくらい。
「……兄ちゃん、もう諦めよう?」
「ま、待て! ショバ代も払ったんだ、ここで止めたら赤字なんだ!」
アドラーは、最大の危機に陥った。
ギルドの出納係はリューリアで、彼女はアドラーが相手でもきちんと怒る。
「だ、誰かやりませんかー!? エルフ王から貰った聖剣宝剣ですよー!」
罠をかける方が必死になれば、獲物は逃げるのみ。
進退窮まり、艱難辛苦のアドラーを見て、キャルルもブランカもダルタスも、大きなため息を付いた。
彼らの団長は、万能ではなかったのだ。
「さあ、もう止めようよ」
キャルルが自分の剣を取り戻したところで、声をかけた一団があった。
「おっ、凄い剣じゃん。お兄さん、俺らもやっていい?」
五人ほどの集まりで、統一感のない一行であった。
「ああ、もちろん。いらっしゃいませ……」
応じたアドラーは直ぐに気付く、ただ者ではないと。
「じゃあ……こっちの大きいのには、モルドバ。お嬢ちゃんには、クリミアで良いか。はい、銀貨六枚」
大男と女が一人進み出た。
クリミアと呼ばれた女性は「こんなことやってて良いの?」と言いながらも、席に付く。
「皆さん、何処から? 失礼、自分はライデンの”太陽を掴む鷲”のアドラーです」
指示を出していた男が代表して答えた。
「ルーシー国です。田舎から、腕試しにこのグラーフ山のダンジョンに挑もうと思って。団は”鷲の幻影”で、自分はアストラハンっていいます」
ルーシー国は、ミケドニア帝国外の小国。
ど田舎と呼んで言い地方で、これだけの一団が揃うなどアドラーも少し驚いた。
「始めっ!」
アドラーの合図で、腕相撲が同時に始まった。
ダルタスが力を込めると、徐々にモルドバとやらの腕を押し倒す。
一方のブランカは、迷ったようにアドラーを見た。
『いいぞ』と、アドラーが頷くと竜の子はちょっと本気を出した。
勝負は一瞬で付いたが、机が持たなかった。
ブランカとクリミアの肘の下で、木の板が真っ二つに割れる。
「うわっ、まじかー。流石はライデンだなあ。ルーシー国では、行くとこ敵なしだったのになあ」
アストラハンは、さして驚く様子でもなく声をあげた。
「もう一回と言いたいけど、遅れたら団長が怒る。アドラーさん、ではまた。何処かで」
一行は去っていった。
「女なのに結構強い。ミュスレアと同じくらい?」
ブランカが、ぽつりと感想を述べた。
「変わった連中だったな。もう、終わるか」
毒気を抜かれたアドラーは、九人抜きをして四十五枚の銀貨を稼ぎ出したブランカの頭を撫でた。
ブランカに挑んだ者 九人 銀貨45枚
ダルタスに挑んだ者 一人 銀貨1枚
出店の場所代 銀貨60枚
「お兄ちゃん!? アドラー! 団長!! 何やってるのよっ!?」
激怒したリューリアに、アドラーはしっかり叱られた。
ギルド対抗戦の予選が終わった。
そして初日の組み合わせが決まる。
”太陽を掴む鷲”の相手は、遠国からやってきて僅か十三人で予選を突破した、謎の新興冒険者ギルド”鷲の幻影”団だった。
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