朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第六章

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『グラーフ山の地下迷宮の共同探索期間』

 ギルド戦やギルド対抗戦と呼ばれる、大イベントの時期になった。

 アドラーは気もそぞろ。
 楽しみと不安が交互に押し寄せて、団員たちが心配する程だった。

 過酷なイベントなので、終わった直後は二度とやりたくないと思うのだが、半年もすると恋しくなる。
 不思議なものだが、アドラーにも理由は分からない。

「だんちょー、どうした?」

 鎧を木のブラシで磨いているアドラーの頭に、ブランカがよじ登る。

「こら……あー、ちょっとお姉さんになったのだから、そういうのは止めなさい」

「重い!」と言おうとして、アドラーは言葉を変えた。

 150センチに満たない子供だったブランカは、数年分を一気に成長した。
 だが中身はそう簡単には変わらない、今でも飛びついて構ってもらうのが好きだ。

「そうそう。浮かれてたり沈んだり、ギルド対抗戦ってそんなに面白いの?」

 キャルルも話を聞きたがる。

 二人は、お揃いのワンピースを着ていた。
 と言っても、温暖なこの地域の寝間着は頭から被る貫頭衣で、姉たちのお古を仕立て直したもの。

 並んでぺたんと座ると「姉妹みたいだなあ」とアドラーは思ったが、キャルルが泣くのでやめておいた。

「そうだな、寝る前に少し話しておくか」

 アドラーは、ギルド対抗戦について話すことにした。

「シードが64ギルドで予選通過が64ギルド。予選には、800以上のギルドが国中からやってくる」

「げっ!」と、キャルルが驚いた。
 ミケドニア国内には二千余りの冒険者ギルドがあるが、半数近くが集うことになるのだ。

「だから予選は、本戦で一回勝つより至難だと言われてるんだ。うちがシード権を取れたのは、お前らのお陰だぞ。ありがとなあ」

 二人とも嬉しそうに鼻の穴が膨らんだ。
 大好きな団長に褒められてとても嬉しいのだ。

 一方で、斧の手入れをしていたダルタスが、大きな体を少し小さくした。

「グラーフ山の地下迷宮は、地下一階が一番広い。奥に進むほど狭く、そして魔物も強くなる。そいつらが地上まで出てこないように排除するのが俺たちの役目だ」

 かつて魔物は自由に地上へと溢れ出て、この巨大ダンジョンを囲むように幾つも城塞都市が作られた。
 何百年もかけて地下へ押し戻し、ライデン市はその城塞から歴史が始まった。

「迷宮が生み出すのは野生の獣が魔物化したものではない。マナというか魔素というか、溜まった魔力が循環して結晶化、それが魔物になる、と言われてる。だからほぼ無限に出てくる」

「怖いー!」と、二人は声を揃えたが、ブランカに恐れる様子は一切ない。

「地下へ地下へと降りてくわけだが、先へ進むギルドは二つに一つ。どんどん狭く強くなるからな。組み合わせで決まった二つのギルドが、討伐数を競うんだ。うちは七人だから不利だけどな」

 今度は二人揃って「頑張る!」と声をあげた。

 細かなルールは、他にも沢山ある。
 だが重要なのは、上位の64ギルドに入って次回のシード権を取ること。

 それには高ポイントの魔物――当然深い階層に出る――を何体も討伐する必要がある。

 組み合わせで決まる対戦ギルドや、出会う魔物などの運要素もあるが、基本的に強いギルドはどんどん奥へ進みポイントを稼ぐ。

「まあ参加人数が多くて、意外と安全なんだけど……」

 アドラーは、大事なことを二人に隠さず告げることにした。

「今回はちょっと予想が付かない。この付近のダンジョンが次々に活性化してるからな。それにだ、湿地帯でのことを思い出してくれ。グラーフの大ダンジョンは、何処かで別の大陸に繋がってる可能性がある」

「それって!?」
 ブランカが大きな声をあげた。

「そうだ、俺たちの故郷の大陸だ」

 アドラーは、もう五ヶ月近くも前にライデン近郊の村で”魔狼”を退治した時から、その疑問を持っていた。

 アドラクティア大陸ではよく見る魔物が、ほとんど報告のないここメガラニカ大陸で見つかった。

 それと、自分がグラーフ山に近い場所に転移してしまったこと、”春と花の神”から聞いた話と合わせて、確率は高いと思っている。

「え、兄ちゃん、帰るの?」
 キャルルが思い切り動揺した顔になった。

「いや、待てまだだ。まだ全然分からん! それを確かめたいから、シード権が欲しかったんだ。簡単に行き来が可能とも思えないしな。けど、黙っててごめんよ?」

 アドラーの台詞を聞いたキャルルは、ほっとした顔に変わる。
 ブランカも複雑そうな表情になる。

 少し重い空気が漂ったところで、「さあさあ二人とも、もう寝なさい」と、ミュスレアがそれぞれの寝室へ追い立てる。

 二人を見送ったミュスレアが、床に座るアドラーを見下ろして言った。

「そんな大事なこと、今まで黙ってるなんて!」

 大きな棘のある声色に、アドラーは小さな声で脅えながら答えた。

「いや……まだ何の確証もないので……」
「ふんっ! わたしも寝るわ、おやすみ!」

 この様子を見ていたダルタスが、喉の奥で笑いながらいう。
「団長は、女には弱いのだな」と。


 800もの冒険者ギルドが集まる予選は、ライデン市の商人にとっては稼ぎ時。

 全部で二万を超える冒険者が集まるのだ、食料から日用品、探検道具に武具の修理や研ぎ、果ては見世物小屋から飲み屋まで何でも集まってくる。

 予選で使うのは地下の三層目まで。
 数は多くとも出てくるのは雑魚ばかり、つまり本戦の露払いの意味が強いのだが、今年は様子が違った。

 怪我人がとても多いのだ。
 ライデンのギルド本部は、治癒術士のパーティを急遽編成して、何組も送り込んだ。

 冒険者たちも、様々に語り合う。

「……不穏だな」
「迷宮の活性期、ってことがあるのか?」
「うちはリアイアするよ」
「新団員がまったく働かねえ……」
「傭兵枠で雇ったのにクソ弱いんだが」

 何時もと変わらぬ風景もあったが、今回は何か違うと多くの者が思い始めていた……。
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