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第六章
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しおりを挟むキャルルが、シロナのロゴスにかけてもらった魔法は毒抵抗だった。
詳細に検分したマレフィカが感心していった。
「へー、キャルルくん良かったねー。これ五日は持つよ、油断して刺されても大丈夫だ」
「五日も? やっぱり凄い人なんだなぁ」
アドラーも本当に驚いた。
効果は並でも、持続期間が別格――生き物は魔法が解けやすい。
ライデンの盾と呼ばれるロゴスの実力は本物であった。
「改めてお礼といきたいが、これではな……」
東西南北の四角から出発した128の冒険者ギルドが、続々と四層の中央に集結し始めていた。
どの団も、団旗を中心にして集まる。
赤青緑に白黒などのカラフルな地に、鷲や竜などの動物から剣や盾に酒盃まで、様々な意匠をあしらった団の象徴。
「うちも旗を出すか」
ギムレットとの戦いで危うく取られそうになった”太陽を掴む鷲”の団旗。
地平線から昇る赤い半円に、翼を広げた鷲が止まる紋章が描かれている。
「これは宿り木じゃないにゃ。太陽を大空に引き上げる神話の鷲をあらわしてるのにゃ!」
太陽と鷲団の歴史はおよそ六百年。
その始まりから守り猫を勤める”猫と冒険の女神”が偉そうに解説した。
アドラーは、目立つ旗を掲げて皆の戻りを待つ。
ここに、獅子をモチーフにした”宮殿に住まう獅子”の隊旗は何本かある。
だが、ライデン支部のものはない、予選を落ちたのだ。
ギムレットとグレーシャ、それと共に主力メンバーの大半が辞めた。
太陽と鷲から揃って移籍して、立ち上げから大ギルドとして活動しようとした目論見は、完全に潰えていた。
「ただいまー!」
目印の団旗を見つけて、ブランカとダルタスが帰ってきた。
「あれ、ミュスレアは?」
アドラーが聞くと、ブランカは足元を指さした。
「もう五層まで行ったのか。まあ、仕方ないか」
四層の中央に空いた穴から五層に降りるが、手付かずの層は危険度が跳ね上がる。
まず五十人ほどの精鋭で威力偵察するのが常であった。
ギルド同士の対抗戦ではあるが、中に入れば冒険者達は協力する。
それでも毎年数人死者が出るが、これを数十人に増やすほど冒険者はバカではない。
「おい、ブランカ。お前どれだけ倒した?」
キャルルが胸元の魔法カードを覗き込み、ブランカが小さな胸を張った。
「げっ、もう千点超えてるじゃん! くそっ差がついた!」
「けけけ、お子様には負けないよー!」
背が伸びたブランカが、見下ろしながら言った。
アドラーは、目の届く範囲から離れるのをキャルルには許可しない。
「兄ちゃん、ボクも目玉狩り以外をやらせてよー」
目玉の愛称を持つバトイデア――空飛ぶエイのような魔物――以外、キャルルは戦ってない。
「駄目だ。今回は、何時もより敵が強い。慎重にいく」
アドラーは今回が四度目の対抗戦。
この四層の敵が、前回よりも強いと気付いていた。
「けど、わたしの出番はないのよねー」
ヒーラーのリューリアが暇そうに杖を振り回す。
本戦に進むギルドは、何処も回復役の一人や二人は揃えている。
怪我人なら、他団の者も治癒してあげる意気込みだったが、駆け出しヒーラの出番はまだなかった。
「ダルタス、その傷治してあげよっか?」
「いや、いい。かすり傷だ」
「いーから、見せて!」
ダルタスの傷は、木の枝に引っ掛けた程度のもの。
オークにとっては怪我の内にも入らないが、リューリアが小さく魔法を唱えた。
彼女にとって、これが今回の初仕事。
「見ろ、オークがゴブリンに魔法かけられてるぞ」
「亜人種とは珍しいな。尻尾のリザードまで連れてきて」
大きなダルタスに小さなリューリアが魔法をかけるのを、からかった者がいた。
本戦の参戦者は四千人近く、中には口が悪いのが冒険者らしいと思い込む若者もいる。
アドラーはいちいち言い返したりはしないが、若い冒険者達は調子に乗った。
「子連れでこんなとこに来るとはなあ」
「まともな人が集まらないからって、亜人種で穴埋めか?」
図星を突かれて、アドラーは少し悲しくなった。
いい加減に消えろと、アドラーが立ち上がりかけた時、青い流星が視界を横切った。
「どーん!!」
子供っぽい掛け声で冒険者に飛び蹴りを入れたのは、青のエスネ。
「ああん? てめー何処のもんだ? うちの妹たちに文句あんのか、こらぁ?」
使い慣れた冒険者言葉で、残った一人の襟首をねじ上げたのはミュスレア。
「な、なんだお前ら!? 俺はパリスの竜剣戦士団の者だぞ!?」
「あっ? 知るか、そんな雑魚ギルド。私はライデンのエスネだ。喧嘩なら何時でも買うぞ?」
普段は騎士然としたエスネも、朝から昼過ぎまでの連戦ですっかり冒険者モードになっていた。
「名乗っていいのか? ライデンのミュスレアだ。てめーのギルド、五分で潰してやろうか?」
周りの冒険者たちがざわつき、誰かがぽつりと言った。
「死んだな、あいつ」
冒険者の街ライデン、そこで誰でも知ってるなら、ミケドニア帝国の冒険者の半分は知っている。
ライデンの三大鬼姫は、ここに来るほどの者なら名前は分かる。
「えっ!? あーーえっと……すいません……でした」
「お、お姉ちゃん! エスネさんも、わたしは平気ですから!」
ゴブリン呼ばわりされたリューリアが二人を止めた。
ーーこの世界のゴブリンは、草地や乾燥地に根付く種族で邪悪でも何でもないが。
片手でつま先立ちにされていた若者がやっと解放された。
もう一人は、腰の骨にひびが入って転がっていた。
「エスネさんったら、ここまでしなくても!」
「ごめんごめん。戦闘直後でちょっと気が立ってた、のである」
あのエスネに釘を刺し、自分を罵った怪我人にも優しく回復魔法をかける、とてもかわいいエルフ娘は直ぐに噂になる。
リューリアの二度目の仕事は、かなりの重傷者であった。
「で、どうだった? 下の様子」
アドラーはミュスレアに五層のことを聞いた。
「何時もと変わらない、と言いたいけどちょっと強い。五十二人で偵察して六人も負傷したの。エスネが全隊に周知するから、それまで様子見かな」
「そうか。やっぱり活動期かなあ」
魔物が出てくるのは生きてるダンジョン。
閉じかけのダンジョンもあれば、活発なものもある。
保護対象を抱えたアドラーには、考えものであった。
「ちょっと着替える。鎧外すの手伝ってくれる?」
汗まみれのミュスレアが両手をあげて、アドラーが留め具を外す。
鎧を外した長女は、下の服まで勢いよく脱いだ。
上半身が胸を隠す下着だけになり、白い肌がアドラーの目の前で汗に光る。
「おおっ!?」
アドラーが凝視していると、数秒で次女が飛んできて両手で目隠しをする。
「お、お、お、お姉ちゃん!!?」
「仕方ないよ、戦場だからね。ほら、周りも恥ずかしがってないだろ?」
周囲の女冒険者も、着替え程度で恥ずかしがる様子はない。
男たちも、なるべく意識してないふりをする。
男女混合の部隊を上手く回すには、割り切った関係が必要だった。
「だ、だからって。えっ、ひょっとしてわたしも何時かこうなるの?」
「慣れだよ、慣れ」
ミュスレアが布巾で体を拭きながら答えた。
家では肌を見せたりはしないのに、不思議なものである。
「えっ、わたしも慣れるの?」
リューリアが絶望的な声をあげた。
「へーきへーき、リューねえの貧相な体なんて、誰も見ないよ」
キャルルが、ここぞとばかりに姉を攻撃する。
両手をアドラーの目に当てたままのリューリアは、少し迷ってからアドラーの首をひねった。
「ぐおっ!?」
合掌ひねりの要領で、アドラーは地面に倒される。
そしてキャルルは、姉の反撃から逃げ回ることになった。
もちろん、数発の直撃をくらい半泣きにされた。
地面に転がったアドラーは、見知った顔を発見した。
真新しい団旗と、こんな場所に似合わぬ落ち着いた女性を中心に十二人の若者。
「あれは、”鷲の幻影”団か」
本戦初日の対戦相手。
「バスティ、おいで。挨拶しよう」
アドラーは、黒猫の形をした女神を肩に乗せた。
「アドラー、あの女!」
「分かってるよ、バスティ。言われてないと分からなかったけど」
初日の対戦相手は、一癖も二癖もありそうだった。
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