朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第六章

100話

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「誰か分かる?」
 アドラーは右肩の黒猫に聞いた。

「分かるわけないにゃ。この大陸だけで五万くらいはいるのに」

 アドラーが歩み寄る”鷲の幻影”団。
 その中央に座る女性は、あきらかに異質。

 冒険者らしくないと誰にでも分かるが、バスティには同族だとはっきり感じ取れる。

 ロゴスに「もう一柱、神さまが来てる」と言われてなければ、アドラーでも何処かの魔女か聖女だと思っただろう。

「しかし、あれだけの女神様がこんなところに来るかな?」
「うちだって来てるじゃないかにゃ!?」
 バスティが苦情を申し立てるが、外見だけでも神格が違うのが分かる。

 青味の強い大河のような髪に、穏やかで慈愛に満ちた瞳と顔。
 母のようでも姉のようでもあり、豊かな胸は一ミリも垂れることなく、その身から流れ出る空気だけで、”鷲の幻影”団どころか周囲まで癒やしの空間が広がる。

「あれはこないだ出会った野良の神とは違うね」
 アドラーは湿地帯の”春と花の神”を思い出していた。

「ちゃんと信仰を受けて祈られてる神だにゃー。羨ましいにゃ、アドラーももっと頑張るにゃ!」

 バスティが肩の上で爪を立てた。
 そう言われても、アドラーに新興宗教の開祖になるつもりはないのだが。

 すっと、女神の瞳がアドラーと黒猫に向いた。
 思わず歩みを止めてしまう程の迫力があったが、一瞬で消えた。

「アストラハン」
 女神が一人の若者に呼びかけ、こちらに気付かせる。

「あっ、アドラーさん!」
 アストラハンがアドラーに駆け寄ってくる。

「やあ、また会ったね。よろしく頼むよ」
 アドラーは手を差し出して握手した。

 対戦相手は敵ではない。
 一時期、足の引っ張り合いが多発して死者が増えたことがあった。
 有効な対策を出せない運営に業を煮やし、上位ギルドが連合して声明を発表して収拾した。

 要約すると「今後、乱暴狼藉妨害工作は許さん。やったら俺達が潰す」という単純なもの。

 百五十年ほど昔のことで、アドラーの”太陽を掴む鷲”も名を連ねていた。
 それ故、今でも団の知名度は高い。

「あの太陽と鷲の団長だったとは、先日は失礼しました!」
「いえいえそんな。就任したばかりだし……今は潰れかけだし……」

 持ち上げられてもアドラーは照れるしかない、むしろあんな小遣い稼ぎをしていたのが恥ずかしくなった。

「あーそれで、団長さんに挨拶したいのだが……」
 誤魔化すようにアドラーは女神に視線を向けた。

 アストラハンは迷っていたが、バスティが口を出した。

「心配すんにゃ。正体はわかってるにゃ!」
「うわっ! 猫が喋った!?」
 普通に驚いたアストラハンは、普通の若者に見えた。

「えっと、うちの団長のアクア様です。正体は内緒にしてくださいね?」

 アストラハンが紹介すると、女神アクアは小さな結界を張った。
 薄く水を引き伸ばして周囲を囲み、声が漏れなくする。

「にゃんだ、オケアニデスか? にゃんでこんなとこに、お仕事沢山あるだろ」

「オケアニデスって?」
 アドラーがこっそり聞いた。

「川、池、海、地下水。あらゆる水の神の一門だにゃ。悔しいけど人気ある大勢力だにゃー」

 ようやく結界を張り終わった女神が、口を開いた。

「猫の神! 好き勝手に喋るんじゃないわよ! 持ち場を離れて地上に来てたって母様と父様に知れたら大変なんだからっ!」

「猫って言うな! バスティって立派な名前があるにゃ!」
「あら、あなたも名前貰えたの? おめでとう、バスティ」

「ありがとな! アクア!」

 二人の女神は、周りに聞こえないのを良いことに、自由にお喋りを始める。
 川の守護神で、最初は清楚なお姉さんに見えたのだが、喋ると若いなあとアドラーは印象を変えた。

「あのーところで、アクア様はどうして此処に?」

 女神の会話が年寄りの大神達の悪口に移ったので、アドラーは意を決して尋ねた。

「お金儲け」
「えっ?」

 異変を告げるダンジョン、強化された魔物、繋がる二つの大陸。
 そして目覚める怪しい存在……といった返答を期待していたのだったが。

「ルーシー国の真ん中を流れる、レーナ川が私の持ち場なの」
 アクアが説明を始めた。

「国のみんなは、よく崇めてくれるわ。わたしも洪水や渇水を起きぬよう、毎年頑張ってるわ。でね、流域に八つも神殿を立ててくれたのだけど、その内の四つに孤児院があるの。みなし子が出るのは悲しいけど仕方ないわよね、だって彼らの命は限りがあるんですもの……」

「いいから、要点だけ話すにゃ」
 六百歳のバスティは、千五百歳のアクアに説教した。

「はいはい。ルーシー国は、貧しいの。大国の庇護もない。だからどーしても孤児院の運営費用がね……」

 とても素晴らしい理由だったが、アドラーの予想は大きく外れた。
 この女神は、たまたまここに来ただけだった。

「では、あの子達は?」
 アドラーは”鷲の幻影”団の少年少女達を見た。

「才能ある孤児の子に、母様のコネで戦女神ヴァルキリア盾の女神アイギスの加護を貰ったのよ。どう、強いでしょ?」

 アクアは自慢そうに大きな胸を張った。

「はあ、そうですね……」
 やっと妙に強い一団の理由が解けた。

「けど、貴方には負けるわね。我が家の一番手がアストラハンだけど、団長さんの足元にも及ばないわ。そうでしょ?」

「当たり前だにゃ。アドラーにはうちの姉様が付いてるにゃ!」
 バスティが代わって答える。

 アクアは、薄水色の髪を顔にかけるようにして、下からアドラーを覗き込む。
「そこで、団長さんに、お願いがあるんだけどなぁ」

「な、なんでしょうか?」
「わたし達に、勝たせてくれない? 駄目?」

 前かがみになったアクアの胸元が、アドラーからはっきりと見えた。
 女神の肌に染みやそばかすはない、巨大な山脈がゆっくりと近づく圧力に、アドラーは負けた。

「ありがとねー。遊びにきたら、サービスしてあげるからねー」
 アクアが手を振って見送る。

 元々、アドラー達七人よりも、”鷲の幻影”団の方がポイントを稼いでいた。
 アクア以外の十二人が均等に稼ぐ戦い方で平均800点以上。

 稼いでいるミュスレアには悪いが、アドラーは夜遅くまで戦い続ける気はなかった。
 キャルルやリューリアが居るし、四日間もあれば一つくらい勝てる。
 それに最終日はどの団も十層まで進んで良く、探索は出来る。

 それ以上にアクアの出した、「わたしの神殿まで来れば、好きな神の神授魔法を頼んであげる」という交換条件が良かったのだ。

「普通に神殿で祈って貰うと、お金と時間がとんでもないからなあ」
 これなら皆も納得するだろうと、アドラーは思った。

 もちろん、早く引き上げるのにミュスレアも文句はない。
 彼女は勝敗よりもアドラーの判断を重視する。

 だが「こいつ、女神のおっぱいに誘惑されたにゃ」とバラした、バスティの報告はまずかった。

 姉妹のみならず、ブランカやマレフィカまでも怒ってしまう。
「わたしの方が大きいのにー!」とはマレフィカ。

 そんなこんなで、団長の威厳は減りつつも、本戦初日は無事に終わりかけていた。

 夜になり、地上に戻ったアドラーの所へ、シロナ団の者が駆け込んで来るまでは。

「失礼します! アドラーさん、五層で信じられない化け物が。うちのロゴスからの増援依頼です。お願いします!」

 アドラーが剣を掴んで立ち上がる。
 指示するまでもなく、ミュスレア、ブランカ、ダルタス、マレフィカが出撃準備を整える。

「タックス、二人を頼む!」
 アドラーは、右手でキャルル、左手でリューリアを抱き寄せてから友人に頼んだ。

「こっちは任せとけ。下は頼むぞ」
 
 二人は地上に置いて行く。
 ギルド対抗戦は事前の予想通りに、荒れる気配が漂い始めた。
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