朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第六章

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 アドラーは復活した。

「わーい!」と、斜め後ろからリューリアが体当たりして腰に抱きつく。
 思春期の乙女心よりも、嬉しさが勝ったのだ。

「ボクも!」
「あたしも!」
 キャルルとブランカは、遠慮なく背中や肩によじ登る。
 バスティは猫の姿で頭に飛び乗った。

 ダルタスは遠慮したが、どさくさに紛れてマレフィカも抱きついた。
 魔女の背の高さは、キャルル以上ブランカ未満。
 ついでにくっついても、アドラーはギリギリ耐えた。

 ミュスレアは出遅れた。
 抜群の戦闘能力を誇る彼女の背丈は、女性にしては高い。
 引き締まったスタイルも抜群だが、内包するのはしなやかで実用的な筋肉。

 密度の高さと引き換えの体重が、クォーターエルフの長女の悩み。

「うっ、どうしよう……」
 アドラーで空いてるのは真正面の腕の中だけ。
 考えるより体が動くと言われるミュスレアもこれは迷う。

 ここで腕を広げて待ち受けるなどの甲斐性は、アドラーにはない。
 それどころか、ちょっと目が合った二人はそのまま別の方向を向いた。

 これには、リューリアもキャルルも呆れてしまう。

「仕方ないわね」
「うん」
 かわいい姉弟は、長女の為に少しだけ離れてあげようと企む。

 だが、アドラーには後遺症があった。
 マカイキノコは、幸いな事に気管や体内で発芽することはなかった。

 しかし体表以外で、女神の聖水洗浄を潜り抜け、育つ場所が一箇所だけあった。

「は、はーっくっしょん!!」

 くしゃみをしたアドラーの鼻から小さなキノコが勢いよく飛び出し、地面に直立する。

「あは、ははははっ!」
 笑いすぎたブランカが、アドラーの背中からずり落ちた。

 ミュスレアも吹き出して、リューリアは団長の服に顔をうずめて震えている。
 ダルタスまで大口を開けて笑ったところで、ロマンチックな空気は笑い飛ばされた。

「えーっと、今日も頑張ろうっ!」
「おーっ!」

 ヤケクソなアドラーの掛け声に、全員が声を合わせた。
 太陽と鷲は、本戦の三日目に挑む。

 しばらくの間、アドラーは鼻から出てくるキノコに悩まされたが、もう倒れることはなかった。


 初日の勝利ギルドが64で、二日目も勝った32が八層と九層に進む。
 この32ギルドは、自他共に認める最上位ギルド。

 さらに十層へ進むためのルート開拓が託される。

 三日目のアドラー達は、六層に居た。
 初日に勝ったが二日目は負けた32ギルドと、初日に負けて二日目は勝てた32ギルド。

 合計64のギルドが六層と七層の掃討にあたる。

「いよーアドラー、もう良いのか?」
「体からキノコが生えて、死にかけたって?」

 顔馴染みになったギルドの面々が朝の挨拶にやってくる。

 運営は、全くあてにならない。
 自分の仲間と、一緒に潜ったギルドとの横の繋がりだけが頼り。

 ”シロナの祝祭”団は、二つの部隊を参加させていたが両方とも連勝して最前線。
 ”鷲の幻影”団は、二日目に勝ってアドラーと同じ層に居た。

「アドラー団長、おはようございます」
 ”鷲の幻影”団のアストラハンがやって来た。

「おはよう。先日は、そちらの団長に世話になった」
「いえいえそんな。フェンリルと戦った方が、大変だったでしょう。それと……これからも、よろしくお願いします」

 アドラーの団とアストラハンの団は、同盟ギルドになった。

 ”太陽を掴む鷲”は、冒険者の巣窟、ライデン市のギルドである。
 救援依頼を出せば、必ず何処かが助けにやってくる。

 辺境のルーシー国では、そうもいかない。
 有力なギルドと関係を持つのは、このギルド対抗戦に参加した目的の一つ。

 アドラーと若者はがっちり握手をした。

「ところで、アドラー団長はシード権取れそうですか?」
「うーん、まだ圏外なんだよなあ」

 シード権は、四勝した八つのギルドと、それ以外のポイント上位56ギルドに贈られる。
 フェンリルを倒したとはいえ、”太陽を掴む鷲”はまだ75位。

「そうですか……うちは90位ほどで厳しいです」
 女神のアクアを含めて、十三人しか居ない”鷲の幻影”にシード獲得は困難。

「けど、今日も勝って下に進めば可能性もありますから!」

 アストラハンは前向きだった。
 下の階層ほど、敵が強くポイントも良くなる、ただし大物も出る。

「それで、勝てそうな相手なの?」
「いえ、よく知らないところです。アドラー団長は?」

「こっちは有名所が相手だよ……」
 アドラーは組み合わせの紙を見せる。

 三日目の対戦相手は、遠いルーシー国のアストラハンでも知っている、ライデンの名物ギルドだった。

「が、頑張ってくださいねっ!」
 好青年のアストラハンは、引きつった表情で去っていった。

 今日の相手は、アドラーも余り関わりたくない。
 最初から敵視される事が分かっているのだ。

 実力はあり、団員の結束は冒険者ギルドにあるまじきレベル、そして他の団とは一切関係を築かない。

 ”偉大なる調和”団――大層な名前と意味を持つこの団は、女性のみで構成された世にも珍しい冒険者ギルドだった。

「ミュ、ミュスレアさーん! 挨拶に行くから一緒に来てー!」
 アドラーはビビりまくっていた。

 曰く、団員にちょっかいをかけた男冒険者は半殺し。
 魔物もオスだけ選んで殺す。
 酔って絡んだ男冒険者が泣きながら全裸で逃げ出した。
 普通の少女も猛牛のような戦士に育て上げる。

 などなど、流れる噂は半端ないものばかり。

「仕方ないわね―」と言いながら、ミュスレアがやってくる。

 アドラーの持つ組み合わせの紙を、最近の勉強をいかして読み上げたミュスレアがいった。

「あれ、この団って誘われたことがあるわよ」
 アドラーは、数々の噂が本当だと確信した。

 地上最強の女性専用ギルド”偉大なる調和”の、ヒト族最強の女とも言われる団長ハーモニア。

 アドラーは、ミュスレアの後ろに隠れながら彼女らの集まる一角へ向かった……。
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