朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第六章

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 アドラーは、とても緊張していた。

 誰にでも苦手なものはある。
 それが前世由来のトラウマだったとしても。

 こちらの世界に生まれて二十余年、それから遡ること十五年ほど。
 前世で十代前半の頃、アドラーは怖い女性の群れに追いかけられた事があった。

「……レディースと言ったかな、当時は……」
 思い出したくないもない、過去だった。

 たまたま塾の帰りに集団の前を横切っただけで、自転車で二時間も逃げ回る羽目になった。
 追ってくる原動機の爆音と、モヒカンでないのが不思議な程に攻撃的で綺羅びやかな女達。

 転生してもなお、強くて怖そうな女性の集団を見ると手足が凍りつく。
 アドラー、最大の弱点であった。

「お、ミュスレアじゃん? どした?」
 ”偉大なる調和”団の一人が、先を歩くミュスレアに声をかける。

 後ろを歩くアドラーは、エルフの長い耳越しにそっと周囲を観察した。
 全員が女の”偉大なる調和”団は、揃いも揃って熊のように強そうであった。

『あ、無理だ。これ』と、早くも恒例の挨拶に来たことを後悔する。
 さっさと出発して、魔物とでも向き合う方が一万倍は気楽であった。

「あーうちの団長がね。今日、わたしらと対戦だろ?」

 ミュスレアに恐れる様子はない。
 むしろ堂々と胸を張り、後輩の顔を見に来た先代総長といった貫禄がある。

「ちっす」
「ちわっす、ミュスレアさん。ご無沙汰してます」
「あねさん、お久しぶりっす」
「先日の戦い見ましたよ! 流石っすね!」

 ”偉大なる調和”団の者が、次々にやって来てミュスレアに挨拶する。

 ミュスレア・リョースは、その見た目から男冒険者にも人気があるが、女冒険者に信者が多い。
 エスネは正論で戦うが、ミュスレアは拳で語る。

 酔った男冒険者どもに絡まれてるところを、助けられた女性も多いのだ。

「ハーモニアはいるかい?」
 ミュスレアが団長の居所を聞いた。

「奥に居ますけど……あねさんのとこの団長ってこんなでしたっけ?」

 見つかったアドラーは、何とかぎこちない笑いを返す。
 こんな呼ばわりされても、怒る気力もない。

「てめーこら、アドラーは……うちの団長は強いんだぞ?」

 ミュスレアが軽く凄むと、こんな呼ばわりした方が慌てた。

「いえいえ! 噂は聞いてますけど! なんか脅えてるなーって」
「そんなはずあるかって、ど、どうしたのアドラー、顔色悪いよ?」

 振り返ったミュスレアは、体を縮めるアドラーを見つけた。
 心配そうに顔を覗き込み、額に手を当てるライデン市でも飛び切りの女冒険者を見て、ガラの悪い女達が騒ぎ始めた。

「あれー? あねさんどうしたんすかー?」
「あ、あねさんが、乙女の顔になっちまった!」
「強いって、夜が強いのかなー?」
「あーそれで骨抜きにー」

 見事なチームワークで、弱みを見せた大物を仕留めにかかる。

 ミュスレアのような戦士が、屈強な猛者でなく学者か魔導師のようなアドラーに従うのが謎といった感じ。

「う、うるせえぞ! てめえらっ!」

 ミュスレアが冒険者言葉で反撃するが、何時もの切れがない。
 彼女はこういった冷やかしが弱点だった。

 アドラーは、おろおろしながら立ちすくんでいた。
 過去のトラウマには逆らえない。
 実をいうと、戦闘態勢に入ったミュスレアさんのことも少し苦手だった。

 ただし、こちらの場合は家でリューリアとキャルルを可愛がる優しい面を見ているので相殺されたが。

 ”偉大なる調和”団の十人ほどが騒ぐ中、奥の天幕から一人の女が姿を見せた。

「なんだぁ? 騒がしいな?」
 ぴたりと小鳥達が静かになる。

 アドラーには分かる。
 出てきたこの女性こそ、ハーモニア団長だと。

 身にまとう空気、盛り上がる筋肉、鋭い視線、どれをとっても強者の風格がある。
 そして何より、アドラーより頭一つ大きかった。

「おう、ミュスレアじゃねーか。どうした、うちに来る気になったか?」
「なわけあるか。うちの団長が挨拶したいってよ」

 ハーモニアがじろりと睨むと、アドラーは思わずお辞儀をしてしまう。

「ふーん、まあいい入りな」

 手招きされて天幕に入るアドラーに、ミュスレアがそっと告げた。

「彼女、エルフとオークのハーフなんだ。だから、昔からあれこれ話す仲なんだ」

 やっとアドラーも納得する。
 人間離れした体格にエキゾチックな顔付き、優れた身体に尖った耳と長いさらさらの髪。
 オークとエルフの特徴を受け継ぎ、彼女もまた自由都市ライデンに流れ付いた者だった。


「こ、こわかったー!」
 アドラーは無事に皆の所へ戻ってきた。

 脅えてはいたが、アドラーに異種族への偏見や差別はない。
 ハーモニアも、太陽と鷲がエルフやオークを仲間にしてると知っていた。

 会談と挨拶は、とても友好的に終わった。
 しかしただ一つ。

「アドラー団長、あんた強いんだって? タイマンで勝負つける?」とハーモニアが言い出して、これにミュスレアが応戦。

「てめーが、アドラーに敵うかよ!」
 そう言い放った時だけは肝が冷えた。

「さて、そろそろ出発しようか。バスティ、どうかな?」

 アドラーの居る六層は、浅く水が溜まっている場所が多い。
 本日のバスティは、体を濡らすのを嫌がって珍しく少女型。

 大きな耳と目で、広い階層をじっと見通す。

「何かあるとすれば、こっちかにゃ?」
 バスティがまだ掃討の済んでない一角を指さした。

 アドラーは大物の魔物か、ダンジョンに隠された転移装置を探している。
 バスティが感じ取った方角へ進むと決めた。

「よし、行こうか。みんな油断しないように、何か出るぞ!」

 アドラー達に付いてくるギルドもある。
 今回の対抗戦は何が飛び出すか分からない――運営は何も対策をしない――ので、集まったり強いギルドに付いていくなど、それぞれの団が防衛策をとっていた。

「お、いたいた!」
「あたしらも一緒に行くよ!」

 出発の間際に、もう一団が合流してきた。
 ハーモニア率いる”偉大なる調和”団。

 十代から三十代の女性で構成された三十人の上位ギルド、戦闘力は折り紙付き。
 本来なら喜ぶべき状況だったが、アドラーの動きは固くなる。

「だんちょー、どした?」
 ブランカが不思議そうに尋ねたが、「な、なんでもないよ」と答えるのが精一杯。

 後ろでは、キャルルが女傑の群れに囲まれる。
「ぼく、かわいいねえ」
「うちの団に入る? みんなの共有財産にしたげる」
「ほんとに男の子? 確かめてあげよっか?」

「てめーら! うちの弟にちょっかい出すんじゃねえ!」
 ミュスレアが怒鳴り、一行は和気あいあいと進んでいた。

 魔物は次々に出るが、数人ずつのローテを組んで順調に討伐する。
 この状況なら、死人を出す心配はない。

 自然とアドラーを中心にハーモニアや各ギルドの団長が集まり、司令部を構成する。

 ギルド対抗戦の三日目は、危険な場面もなく討伐数を重ねていた。
 そして昼過ぎ。

「まじか、これ……」
「何時の間にこんなものが……」

 アドラー達はダンジョンの壁まで辿り着き、そこに巨大な穴を見つけた。
 生きてる迷宮で、新しい通路や部屋ならともかく穴が開くのは異常。

 アドラーが冒険者の手信号を全隊に送った。

 ここまで来るギルドは、よく訓練されている。
 中央に弱い者や回復要員を集め、全周警戒の陣形を素早く作り上げる。

 フェンリルが這い出て来た穴に間違いなく、アドラーも剣を腰から抜いた。
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