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第六章
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しおりを挟む「まいったな、これ。どうしよう」
ダンジョンの壁に空いた大穴は、下へ向かって伸びその先は不明。
今のアドラー達に出来ることは二つ。
見なかったことにして魔物のハントを続けるか、何とか塞ぐ努力をするか、である。
放っておいても、半年もあればダンジョンが自力で修復するが……。
「噂は本当だったかー」
「流石だなあ、アドラー団長」
他団の者が、にやにやしながらアドラーに近づく。
行く先々でトラブルが起きるというのが、最近のアドラー達の評判。
「はぁー、放ってもおけないか。手伝ってくれる?」
アドラーの誘いに、付いてきた三つのギルドはいずれも文句を言いながらも応じた。
文句といっても、本気ではない。
このギルド対抗戦、地上ではお祭り騒ぎで莫大な金が動くが、建前上は『地上に溢れ出る前に魔物を討伐』である。
ついでにダンジョンで宝探しが出来て、最高水準の報酬が出る。
三勝するギルドならば、金貨換算で三百枚は稼ぐ。
最上位の天上ギルドとなれば、並のギルドの1年分の収入があると言われる……。
「悪いな」と言いつつも、アドラーも悪いとは思ってない。
埋め戻すか、もう安全かを確かめねば寝覚めが悪い。
冒険者とは、そういうものである。
「マレフィカ、ブランカ来てくれ! あと他の魔法使いも」
魔法使いたちに、マナの痕跡を辿らせる。
フェンリルの巨大な足跡はそこにあったが、他の魔物も出てきたのか知らねばならない。
「駄目だな、フェンリルの痕跡が強すぎる」
マレフィカは最初に匙を投げて、穴の方を調べ始める。
”偉大なる調和”団の精霊使いが、代わって名乗り出た。
「わたしがやってみよう。ユグドラシルの葉と引き換えに、ここを通ったものの姿を教えておくれ、精霊たち」
精霊使いは、かなり高価な触媒を使って情報を仕入れた。
意外に協力的な”偉大なる調和”に、アドラーはハーモニアへもお礼を言うべきか迷う。
普通の相手なら普通に告げるのだが、ハーモニアの周りは三十人近い怖そうな女性が固めている。
二の足を踏み続けるアドラーより、先に動いた男がいた。
「よう、お前のとこの団員もなかなかやるな」
「あん、誰だ貴様?」
身長は190近く、肩幅はアドラーの五割増し、純粋な力だけならこの集団でも二番手と目されるハーモニアに声をかけたのは、ダルタスだった。
「俺はダルタスという。名前を聞かせてもらっても良いか?」
アドラーも見た事がないほど緊張したオークの雄がそこにはいた。
気は優しくて力持ち、ライデンの冒険者で最も筋肉量の多い戦士が、固い表情でハーモニアに語りかける。
「な、なんでてめぇなんかにっ!」
初めて見上げる程の男に声をかけられたハーモニアの反応は、意外と乙女。
驚くと同時にぷいっとそっぽを向く。
「そう言わずに教えてくれないか。その……なんだ、オークの村でも、君ほど逞しい女性は見たことがない」
この一団は百人ほど居たが、ほぼ全員がざわついた。
しかし、冷やかすわけにもいかない。
なんと言ってもこの二人、他の女や男よりずば抜けて立派な体格を持つ。
「て、てめーうちの団長を口説くつもりかよ……?」
調和団の者が、やっと一言絞り出した。
「い、いや、そんなつもりはないが」と言いつつも、ダルタスは照れて鼻の頭をかいた。
身長230センチを超える大男がである。
「ふっざけんな!」
「消えろ、ボケっ!」
それを合図に女達が爆発した。
女性だけの団を作るには理由がある。
男嫌いに男性不信、粗野な男冒険者に耐えきれないなどで、男女交際など当然ご法度。
ダルタスでさえ、勢いに負けて追い返される。
寂しそうなオークの大きな背中に、小さな声がこつんと届いた。
「……ハーモアニア。オークの父が名付けてくれた」
ダルタスは立ち止まり、振り返らずにいった。
「……美しい名だな」
「だ、団長ぉぉぉお!!?」
”偉大なる調和”団の女達の声が、地下迷宮の天井に響いた……。
「で、お前らは何をやっとるんだ?」
壁の穴を調べていたマレフィカが、呆れ声でいった。
「いや、面白い見世……いや、ロマンスが」
アドラーも、顔のにやけが収まらない。
「青春も良いがな。この穴の底から、変なとこに繋がってるぞ。恐らく、別の迷宮だ」
「詳しく教えてくれ」
アドラーは表情を戻した。
フェンリル以外に、大物の出入りがないことは精霊が教えてくれた。
そのフェンリルが何処から来たのか、単純に下層から登って来た訳ではなかった。
「一度、別の迷宮に繋がる。これは良くあることだな。そちらへ迷い込んだフェンリルが、力を付けてこちらに戻ってきた。多分間違いない」
それからマレフィカは、アドラーだけに聞こえるようにいった。
「別の迷宮だが、波長が湿地帯のものと似ている。ひょっとするぞ」と。
グラーフ山は、この大迷宮以外にも古代遺跡だらけ。
アドラーの探す転移装置が、その一つにあっても不思議はない。
「そうか……」
しばらく考えたアドラーは、ハーモニアを始め各ギルドの団長に話した。
「この穴は、別の生きてるダンジョンに繋がっている。中の様子を、俺が確かめてくる。何らかの仕掛けがあるのは間違いない」
結論を述べたアドラーに、各団長の顔は渋い。
「危険過ぎるだろ」
「運営に任せる案件では?」
「それは正論だが、何があるか確かめたい。あの魔獣が、半年であそこまで成長するのは異常だからな」
今現在、アドラーの戦闘能力には高い評価がある。
それでも一団をまとめる団長達は、容易には賛同しない。
「うちからも手練を一人だす。せめて隊を組んでいけ」
有り難い申し出も、アドラーは丁重に断った。
「ブランカ、おいで。ここは二人で行く。なあに、様子を見てくるだけだ」
渋々ながらも団長達は同意した。
キャルル達は、彼らがしっかり守ってくれる。
穴の底へと縄を垂らし、アドラーは降下の準備を始める。
「あたしもいくにゃ!」
バスティが猫型に戻ると同時に服を脱ぎ捨て、アドラーの肩へ飛び乗った。
見ていた冒険者たちは驚くが、今更”太陽を掴む鷲”が何をやってもと直ぐに納得する。
「一刻半――およそ三時間――は待つ。それまでに戻ってくれよ」
縄を握る冒険者が告げたのを合図に、アドラーとブランカは垂直に穴を降り始めた。
深さは四十メートルほどで、そこからは横穴が続く。
「魔物の気配はないけど、あっちに何かあるね」
ブランカが指差した方向に、アドラーも強い魔力の集中を感じる。
「さてと、何が出るかな?」
アドラーとブランカとバスティは、未知の迷宮へと踏み込んだ。
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