107 / 214
第六章
二つの大陸と二つの文明
しおりを挟む「だんちょー、崩れそう!」
「脆くなってるにゃ!」
未知の遺跡へ続く通路は、巨大なフェンリルが通ったせいでボロボロだった。
「行ったきり戻れなくなると、困るね」
「困る!」
ブランカとバスティが、勢いよく同意した。
少し背が伸びて地上最強に近づいた竜の幼生と、猫と冒険の女神に怖いものなど……なくもない。
居心地の良い仲間と暖かなベッド、それに美味しい食事は失いたくないと思うに充分。
ブランカには、生まれ故郷のアドラクティア大陸に戻るという使命はあるが、せいぜい五百年もすれば自力で飛んで行けるのだ。
「あたしの故郷に連れていけ!」と、アドラーに頼んだことなど八割方忘れていた。
「変な感覚だにゃあ」
バスティがアドラーの肩の上で周囲を見渡す。
魔物などの気配はないが、ブランカは服の裾を握ってアドラーの後ろについた。
膨大な力を秘めるとはいえ、まだ守ってもらいたい年頃である。
「離れるなよ?」
「うん!」
「はいにゃ!」
神と竜と人は、同じ側に並ぶ存在。
反対側には、巨人族や昆虫型の群生体がある。
かつては神の敵もあった。
全てを混沌に統一しようとするモノで、多数で個別に生きようとする神々と争い負けた。
この世界は、個体が自由に生きる世界を選びつつある。
三世代同居とも言えるアドラー達が、小走りで進む。
目的地は、はっきりしている。
強い魔力の集中する遺跡中央部。
ブランカにとってアドラーは、祖母の次の保護者で群れのボスの『だんちょー』。
「離れるな」と言われればくっつき、「待て」と言われれば待つ。
そのブランカが、意識せずに命令を破る。
大きな空間の床に描かれた複雑な魔法陣。
そこから溢れ出す懐かしい感じに、思わずアドラーの服から手を離して駆け寄った。
「ブランカっ!?」
アドラーは驚いたが迷わなかった。
魅入られた様に離れた竜の子に追いつき、そして庇うように抱き寄せる。
魔法陣に踏み込んだ瞬間から、強い魔法が起動したのを感じ取っていた。
「だ、だんちょー! ごめんなさい、何故かつい!」
「大丈夫、大丈夫。魔法に抵抗するな、逆らおうとすると酷い目にあうぞ。経験済みだ」
腕の中にブランカとバスティを抱えて、アドラーは落ち着いて全ての魔法を切る。
かつて一度だけ経験した長距離転移魔法。
アドラーには、この魔法に制御しようと介入した時、凄まじい反発力で体を引き裂かれた経験がある。
「今度は無理しない。二人とも、心を落ち着けてしっかり掴まれ」
ふと、転移した瞬間に三体が混ざったらどうしようと、アドラーは不安になった。
神と竜と人が融合した、至高の存在が誕生してしまう。
――そして、転移魔法が発動した。
アドラーにとっては二度目である。
「うー気持ち悪い……」
腕の中で、ブランカが転移酔いを訴えた。
「バスティ、いるか?」
「こ、ここにいるにゃ」
猫の神はアドラーの右腕にしがみついて付いていた。
「よし、一旦離れるぞ!」
二体を抱き上げ、アドラーは魔法陣から走り出る。
「何処か痛いとこないか? 平気か?」
「怪我はないよ。それより、だんちょー、ここ……」
ブランカが上を見た。
先程まで居た遺跡とは、あきらかに違う。
天井には大きな穴が空き、薄曇りの空から細かな雪が舞い落ちる。
アドラー達が参加していたギルド対抗戦は、夏の終わりに開催されていた。
「まさか、本当に戻れてしまうとは……」
アドラーとブランカは、生まれ故郷に居た。
「げっ、まじか。姉さまの存在が凄く近い……」
バスティが一つ身震いした。
穴をよじ登ったアドラーは辺りを見渡す。
祭祀場だろうか、環状列石の中央に穴はあった。
「アドラー、どうしよう?」
ブランカが不安そうに尋ねた。
「心配するな。さっきの魔法陣も、あっちのとほぼ同じ。つまり、行き来できるぞ?」
「ほんと!?」
ブランカに笑顔が戻る。
二人とも、まだみんなと離れる覚悟は全くなかった。
「それどころか、二つの大陸の交易を独占して大儲けだ!」
「なんと!?」
アドラーは地球経験者らしく算盤を弾く。
ブランカもバスティも、よく分からないが喜んで団長の周りを走る。
――そんな怪しい集団を見つめる視線があるとも知らずに。
「しかし、ここ何処らへんだろう?」
アドラクティア大陸の何処かだとは推測しても、正確な場所が分からない。
「探検する?」
「うーん、少しだけな」
穴の空いていた小高い丘を降りる頃には、アドラーとブランカは気付いた。
「だんちょー?」
「分かってる。バスティ、肩に乗って。お出迎えだ」
少し離れた茂みから注がれる視線。
狩人のように上手く消してる者もいれば、全くの素人も混ざる。
「余り強そうじゃないね?」
「そうだね。普通の農民かな? 怪我させちゃ駄目だよ」
「あい!」
ブランカの返事を合図に、二人は一気に距離を詰めた。
茂みから人々が慌てて飛び出し、ばらばらの方向へ散る。
アドラーがその中の一人、若い男を捕まえた。
手には農具のくわを持つが、抵抗する素振りもない。
「やあ、怪しい者ではない。言葉は、通じるかな?」
男は何度も頷いてから叫んだ。
「ね、猫と踊る男!」
「なんだそれっ!?」
この短い間に付けられたあだ名に、アドラーは思わず抗議した。
アドラーの故郷、アドラクティア大陸は恒常的に昆虫型の魔物に襲われていた。
竜語で”奴ら”を意味するナフーヌと、アドラーは名付けた。
それ故、どの地方のどの種族も防衛の戦力を整えている。
しかし、捕まえた男も散り散りになった男達も、どう見ても素人。
「あれ、ここってアドラクティア?」
不安になったアドラーは尋ねた。
若い男は、二度頷いたが横にも三回首を振って答えた。
「ほ、本土から、離れた島だよ! あんたら、本土から来たのかい?」
アドラーが辿り着いたのは、目的の大陸からちょっと遠い場所だった……。
0
あなたにおすすめの小説
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜
たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。
だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。
契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。
農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。
そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。
戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる