朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第六章

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「ふむう、そうじゃのう……何から話すかのう……」

 アドラーは、バルハルトが口を開くのを待った。

 こちらの大陸に来て2年半ほど、冒険者になって2年、団長になって半年。
 そんなアドラーが、バルハルトと一対一で話せるなど本来はありえない。

 冒険者に階級はなく、上下関係もうるさくはないが、眼の前の爺様は国の冒険者を代表する一人。

 日に焼けたハゲ頭と、鼻の下に蓄えた髭、人好きのする大きな口元、未だ萎む気配もない筋肉。

 アドラーが心底から警戒しても、正面に座る歴戦の勇士を嫌いになるのは難しかった。

「わしは、軍人貴族の家系で、次男坊として生まれた。十五で騎士を志して軍に入隊したのじゃ……」

「えっ!?」
 そこから、と言うのをアドラーは何とか控えた。

「年寄りの話は長いもんじゃ。そこで五年過ごしたが、騎士の育成過程というのは儀礼に決まり事だらけで……」

 バルハルトは結果から告げて、半生を語り始めた。

 二十歳で帝国軍を飛び出し冒険者界に飛び込み、きままで荒っぽい冒険を積み重ね、今や最大手の”宮殿に住まう獅子”に引き抜かれる。

 しかる後に、招集された戦争で冒険者を率いて皇太子を救出して、乞われて宮廷に戻るも貴族連中に嫌気がさす。
 またギルドに専念するも、今度は友誼を育んだ皇太子が即位して爵位を押し付けられて……。

 バルハルトの話は、とても面白かった。

 屋敷の外では、キャルルとアスラウが試合を続ける歓声が響いていたが、何時の間にか聞こえなくなる。
 疲れた二人は、執事の持って来た甘い菓子を黙々と食べていた。


「そんなこんなで今の地位におる訳じゃ。どうかのアドラー団長、貴君のことも聞かせてもらえまいかな?」

 アドラーは、思わず全てを話しそうになった。

 小さな潰れかけの貧乏ギルドの団長に対して、閣下と尊称されるバルハルトは、穏やかで親しみを込めた態度を崩さない。

「バルハルト閣下」
「呼び捨てで良いぞ」

「バルハルト総団長、わたしは、貴方とは敵対はしたくない。いやまあ、もう一度ぶつかりましたけど。それでも、戦場で対面するのは御免蒙りたい」

「奇遇じゃな、わしもそうじゃ。部下をやたらと死なせる無能にはなりとうない」

 帝国男爵にして”宮殿に住まう鷲”の四分の一を指揮下に収める総団長は、にかりと笑った。

「あなた方の探している新大陸には、既に人が住んでいます」
 アドラーは、断言した。

「ふうむ……。みな、お主の様に強いのか?」
「いえ、そんな事は。普通に日々の暮らしを立てる者がほとんどですし、決してこちらの脅威になる程では」

 進んだこの大陸の恐れにはならないと伝えた。

「そうか。ただ魔物が暮らすだけか、手も出せぬほどの人々が住むなら良かったがのう……」

 アドラーは小さく息を吐く。
 バルハルトがただのコンキスタドール的な思想でなく安心をした。

「あのー、実はですね。とある神さまに聞いたところ、大陸は全部で四つあるらしいです。魔物――ナフーヌ――が支配してる所もあるので、そっちに行って欲しいなーって」

「なぬっ!?」
 この情報は、バルハルトも予想外で初耳だったようだ。

 まずはアドラーの生まれ故郷のアドラクティア大陸、現在再建中。
 次はヒト族が支配的なここメガラニカ大陸。
 もう一つはナフーヌの住処で、最後の一つはまったくの不明。

 アドラーは”春と花の神”から聞いたことをぶっちゃけた。

 思わぬ話に悩むバルハルトに、今度はアドラーが尋ねた。

「総団長、優れた軍事力を持ち優越した文明築いたと信じる国家が、未開の部族を見つけたらどうしますか? しかも早いもの勝ちで、交易が成立するほどの経済もない」

 バルハルトは、じっとアドラーを見つめる。

「お主が恐れるのはそれかね。しかしだお主を見る限り、すまぬが集めれるだけの情報は集めたのだ。各地の魔物退治から、スヴァルト戦役、オカバンゴ・デルタの救出戦にギルド会戦と対抗戦。アドラー団長は、最高度の教育を受けてさらに指揮官としての訓練を収めたと判断しておる」

 いきなり褒められて、アドラーは照れた。
 思わず、教育は前世で受けましたと言いそうになるが我慢した。

「それだけの人材を排出する国家を、軽々に侵略し支配するほど我が帝国は愚かではない」

 総団長の言葉を、アドラー個人としては信用したい。
 純粋にこの世界の人間であれば、ほっとして笑ったであろう。

「バルハルト総団長、わたしは貴方の事は信頼している。ギムレットとの戦いの時も、あなたは公正な審判だった。だが、わたしの故郷の人々は、半分以上がヒト族ではない。こちらの文明が彼らを公正に扱うかは、疑問です」

 疑問と言ったが、アドラーはほぼ確信していた。
 そんな平和的な出会いと共存が続くわけがないと。

 そして、バルハルトもここで機密を明かす。

「貴君の心配は最もだが、既に……他の列強も我々と同程度の事は知っておる」

「はい?」
 アドラーは、椅子からずり落ちそうになる。

「アビシニア連邦は、密かにせっせと外洋航路を探しておる。サイアミーズ王国は、自国の古代迷宮の幾つかを軍の管理下に移したそうじゃ」

 ありえる話だった。
 ”春と花の神”は、転移装置は大陸中にあると言っていた。

「アドラー団長が、侵略軍を防ぎたいと思うのは当然じゃ。お主の力ならば、数百や数千ならば、押し返すじゃろう。じゃが……三大国と周辺諸国、総勢で五十万を遥かに超えるわい。これを皆殺しには出来まい?」

 もちろんそこまでする気はない、ただ軍事力での介入さえしなければ良い。
 しかし、国家の力とは九割が軍隊である。

 交渉に使えるカードを隠して譲歩する馬鹿は居ない。

「侵攻して奴隷狩りを始めた連中を、片っ端から殲滅するまでです」

 アドラーは、はったりを効かせたが、バルハルトには余り効果がない。

「どれほどの傑物だとて、一人や数人では、出来ることも限られよう。そこでじゃアドラー団長、帝国軍に入る気はないか?」

 バルハルトは、とんでもない事を言いだした。
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