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第七章
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しおりを挟むアドラーとダルタスは、村の正面から堂々と出ていった。
デトロサ伯に雇われた二百人ほどのゴブリン狩りの集団は、百二十人余りが村の正面に集まり、残りの統率が取れた八十人が偵察しながら村を大きく回る。
「少数の方は慎重な指揮官のようだ。いきなり村に入り込んだりはしないな」
ニ部隊の動きから判断したアドラーは、まず弱い方から当たる。
しかも人数も騎乗兵も百二十人の方が多い、主攻が無能で助攻が有能、なんて事態は不思議とよく起きる。
たむろしていた連中が、二人に気付いた。
「誰か来るぞ」
「ゴブリンじゃねえ!」
「というか、でけえ……」
当然ながら、注目はダルタスに集まる。
二人ともが日に焼けた顔にターバンを巻き、肩から羽織る布――これが無いと日焼けもするし金属製の鎧は熱くなって耐えられない――で、すっかり砂漠の民。
指揮官らしき男が、わざわざ馬に乗り直して上から声をかけた。
「そこで止まれい! 何者だお前らぁ?」
アドラーは制止を無視して、十五歩ほどの距離まで近づく。
足元が砂でも、これは既にアドラーの間合い。
アドラーの刀は、強力な魔力で刃圏が伸びて、馬上にある指揮官の首まで届く。
だが指揮官はそんな事など知らず、アドラーが命令に従ったと思った。
「あー俺はな、デトロサの伯爵閣下に仕える傭兵団”神聖十字団”の団長コルテスってもんだ。お前ら知ってるか? そーか田舎もんは知らんか。今ここで体に教えてやろうか?」
コルテスは、下品に大笑いする。
この男は体こそ良く鍛えていたが、粗野で乱暴で知能が低い、アドラーが一番苦手なタイプ。
コルテスが強気な理由も、アドラーには分かった。
人数も多いが、魔弾杖が十本ほどある。
『最新の魔導兵器がこんな辺境まで……。これではゴブリン族もどうしようもないな……』
アドラーは、自分に向けられた十の筒口を見ながら穏便に済ませる方法を探す。
「何の用でこんなとこまで来た? あの村にはもう女子供しか残ってない」
あくまで冷静に尋ねる。
「そこの村は全滅したと思ってたんだがなぁ、ゴブどもが戻ったと聞いて様子を見に来た。前にオスは俺たちが連れて行ったが、最近は弱って使い物にならねえ。もう女子供でも良いから連れて来いとの、伯爵閣下のご命令だ」
「何故ゴブリン族に手を出した?」
コルテスは心底以外だという顔をして答えた。
「はぁん? そりゃ頼まれたからだ、俺の団は安くねえぞ? 砦や道を作ったり鉱山で使ったり、ゴブリンでも役に立つからな。使い捨てで良いから気楽なもんだ」
コルテスと周りの男達は、アドラーを馬鹿にする笑いをあげた。
アドラーはもちろん怒っている、とっくの昔に激怒である。
だが今の彼は団長でゴブリン達を守る立場、頭の一部は冷静なままで、手信号を使って後ろに立つダルタスに指示を出す。
「よし分かった。交換条件といこうか」
アドラーの提案に、コルテス達の顔に血が上る。
百二十に囲まれ、最新の飛び道具に狙われた男が、対等の立場のつもりで何か言い出したのだ。
アドラーは、なるべく冷静な声で条件を告げた。
「こんなとこで殺し合いなどしたくないんだがな……。くそみてぇなてめーらにも、親兄弟はいるだろう。今回だけは見逃してやる。臭い足を引きずって砂漠から出て行け、ここのゴブリンは俺が守る。ライデンの冒険者アドラーだ、文句があるならかかって来い!」
喋ってるうちに、怒りが沸点を超えていた。
後ろでオークが小さく笑うのが、アドラーの耳にも聞こえる。
切れた指揮官を馬鹿にする笑いではなく、感情をむき出しにした友人でもある最高の戦士を、むしろ好ましく思う笑いだった。
ダルタスは、巨体に似合わず気配を消すのが上手い。
敵意が団長へと集まった瞬間に、流れるような動きでアドラーから離れる。
「てめーら、やっちまえ!」とコルテスが命令するよりも早く、”神聖十字団”の連中が武器を取り、十本の魔弾杖から加速弾が放たれる。
弾は全てアドラーを狙い、ダルタスは事前の指示で弾幕の外。
何度も相手をしたことがある魔導兵器を、アドラーは難なくかわす。
発射の直前に起動する加速魔法を、魔法も使えるアドラーは読み取ることが出来る。
あとは筒先からちょっと体をずらすだけ。
そして次の弾を込めるよりも早く、アドラーは十本全ての魔弾杖を切断した。
腕ごと斬られた不幸な男が五人いたが、そんなことは気にしない。
「砂漠は傷口が腐るの遅いからな。まあ死なんだろう」
優しいアドラーは、そのくらいの配慮はしてある。
「こ、こいつ、オーク!?」
ダルタスが踏み込んだ先で、傭兵が悲鳴をあげた。
「なんだ、今頃気付いたのか?」
斧を振り回すこともなく、ダルタスが張り手を食らわせる。
屋根から地上に顔から飛び降りるのと同じ衝撃を受けた傭兵は、一発で気絶した。
アドラーも剣を収めて殴り始めた。
オーク戦士を六十八人抜きする拳が、次々と男どもを砂の海に沈める。
二人は、決して手加減をしているわけではない、本気で殴って骨折と重傷を生み出し続ける。
武器を使えばもっと早いが、死体の処理が面倒になるだけである。
「な、長物を使え! 槍とパイクで動きを止めろ!」
騎乗のコルテスが命令を出しながら、じりじりと下がる。
「逃げられたら困るな」と、アドラーが動こうとした時、何かが宙を舞った。
「死ね、こらっ!」
乱暴な言葉使いでコルテスを地面に叩き落として黒い影は、遠慮なくコルテスの足も踏み砕いた。
美しい赤金の髪と顔の大部分を黒い布で隠し、翠玉の瞳だけが目立つ女性が参戦してきた。
「お、女だー!」
ミュスレアを見た男が叫んだが、次の瞬間には回し蹴りで吹っ飛んだ。
顔は隠しても、ブーツにホットパンツで太ももはむき出し、革の胸当てこそ付けているが豊かな胸は隠しきれず、さらに時々おへそが見える。
一瞬目を奪われる傭兵が多発したが、直ぐにも後悔する事になる。
三人目の色っぽい女戦士も、悪夢に出てくるほど強かった。
「う、う、嘘だろ……。百二十もいたのに、素手の三人にもう半分……」
傭兵の一部が急速に戦意を失い、潰走し始めた……が。
「槍を前に出せ、自由に動かせるな。奴らに飛び道具はない、接近戦で来るぞ! 必ず複数であたれ!」
まともな八十人の部隊が戻ってきた。
壊滅した仲間を見ても、逃げ出すこともせず駆け寄りもせず、集団を崩さない。
「ふ、副隊長だーっ!」
「副長が来たぞー!」
傭兵共が歓声をあげる。
「余程、信頼されてるようだな。つまり、奴を倒せば終わりか」
アドラーが先頭に立って歩いてくる副長に足を向けた。
副長とやらは、自身の強さに絶対の自信がある足取りでやって来る。
アドラーから二十歩の距離で、副長と八十人が止まる。
「……」
「…………」
アドラーと副長は一度目を合わせ、それから驚くべきことに双方とも目を逸して、もう一度見つめ合った。
「……貴様、こんなとこで何をしている?」
「それは、こっちの台詞だ! お前こそ何してやがる、ギムレット!?」
アドラーは、ここ二ヶ月ほど行方知らずだった太陽を掴む鷲の元団長と、遥か北の砂漠で再会した。
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