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第七章
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しおりを挟む「ギムレット!! てめぇ、ここまで落ちたか!」
アドラーは、怒りに任せて先に剣を抜いた。
「貴様のせいだろうがっ!」
ギムレットも応じる。
「自業自得だ!」と、アドラーも叫び返す。
かつて”太陽を掴む鷲”の団長だったギムレットは、幹部だったミュスレアに団長と借金を押し付ける形で団を捨てた。
莫大な借金は、ミュスレアと妹弟を奴隷にするに充分な額。
だが、団にはアドラーも残っていた。
命の恩人でもある三姉弟を救うため、強引に団長となったアドラーは、債権者と武力による交渉をし、大陸を東へ南へと冒険をして団を立て直す。
そしてギムレットの新しい団と直接対決に持ち込んで、勝った。
それが二ヶ月前。
「ギムレット、たった二ヶ月で今度はゴブリン狩りとは!」
アドラーの踏み込みに気圧されたギムレットだったが、引きはしなかった。
手で八十人の部下を抑える。
「待て、お前達ではこいつに敵わん。俺に任せとけ」
アドラーも気付く、僅か二ヶ月でギムレットはこの傭兵団の副隊長に登りつめ、よく部下を把握していると。
「二ヶ月……? そういえば、クルケットが旅立ったのもその頃だっけ……」
アドラーは冷静になった。
剣を抜いて対面するギムレットが安堵したのが伝わってくる。
軽い打ち込みに変更したアドラーが「少し話を聞こうか」と伝えると、ギムレットも答えた。
「部下の手前だ、戦ってるふりをしてくれ」と。
外から見ると、圧倒的な力と技術を持つ剣士二人の目にも止まらぬ戦いに見える。
実際に、ギムレットは強い。
元々は何の強化も受けないミュスレアを上回る実力がある。
団にいた頃は、ギムレットの強さを10とするならミュスレアが8か9。
更に自慢の魔法剣――アドラーに叩き折られた――で、五割増しがギムレットの強さだった。
今のミュスレアは、アドラーの特殊バフを受けて三倍以上に戦闘力を高める。
そして、素の状態でもギムレットを凌ぐアドラーは、自己バフとも掛け合わせておよそ九倍にまで強化出来る。
ライデン市の冒険者でもトップ10に入ったギムレットが、辺境の傭兵団であっさり副長になったのも当然。
またアドラーには勝てない事も理解していた。
「降伏しろ、ギムレット。命までは取らん」
「少し待て」
「お前は、ゴブリン狩りまではやってないのか?」
「狩りは今日が初めてだな。まあ見張りはやってたんだが……」
「同罪だな。だが許してやる、情報を寄越せ」
「偉そうに!」
ギムレットが強く剣を叩き付けたが、アドラーは軽く受け流す。
周りからは死闘にしか見えないが、二人は余裕の打ち合いで会話がメイン。
「お前は、あんな奴の下に付くつもりか?」
アドラーが砂漠に倒れて悶えるコルテスを示す。
「いずれは始末して乗っ取るつもりさ。コルテスの部下と俺の部下を見たろ?」
「ならば、俺の言うことを聞け。さもないと雇い主ごと、叩き潰すぞ」
今度はアドラーが剣に力を込めて、ギムレットを弾き飛ばす。
再び剣を合わせて、今度はギムレットから尋ねた。
「何をする気だ? 半エルフの次はゴブリンに肩入れして、何を考えている?」
「お前には理解出来んよ。だが、ゴブリン達は救い出す。それからデトロサ伯も終わりだ」
「ふんっ、また無謀なことをっ!」
ギムレットが大きく振りかぶって渾身の一撃、と彼の部下には見えた。
横目で見ていたミュスレアとダルタスには、無謀な一振りに見えた。
そしてアドラーには、ギムレットが話を飲んだと分かった。
頭上に落ちてきた剣を、アドラーが切り飛ばして剣先を相手に向ける。
「参った、降参だ」
ギムレットが短くなった剣を捨てる。
頼りの副隊長が負けた”神聖十字団”は、完全に戦意を失った。
「な、なにを勝手に! 戦え! ギムレットもお前らも戦わんかー!」
コルテスだけがまだ元気に叫んでいたが、このうるさい傭兵団長が元気ではアドラーも困る。
話は通じる相手としたいのだ。
すたすたとコルテスに近寄ったアドラーは、よく動く顎を軽く蹴り上げた。
骨が砕ける音がして、静かになった。
アドラーが、怪我人だらけの百二十人を相手に告げる。
「副長は降伏を申し出た。命だけは助けてやる、もう砂漠へは来るな。次にここで見かけたら必ず殺す。交渉は、副長のギムレットとおこなう」
「運の良いやつらめ」
まだ動き足りない顔で、ダルタスも付け加えた。
アドラーは、ギムレットを呼んで話を聞く。
その間に、神聖十字団の者は治療にあたるが……戦いの終わりを見て、ゴブリン村の子供達が出てくる。
「あの、お水……」
村の井戸から汲んだ水を、傷ついた男達にも分け与える。
ゴブリン族は、困ってる者を放っておけない。
厳しい砂漠を生きるのに、競争でなく共存共有を選んだ種族。
クルケットがアドラーのところへやって来た。
「団長さま、添え木が足りません!」
折れた骨は軽く三百本を超え、木は砂漠ではとても貴重だ。
アドラーは転がる怪我人達へ命令した。
「おい、お前ら剣を出せ。鞘を代用する、中身はこっちで再利用するから捨てていけ」
ゴブリン族の子供らの優しさにあてられた傭兵達は、素直に武器を捨てる。
一部の者はうなだれて後悔しているし、残りもゴブリン族に復讐したりはしないだろう。
鉄も貴重品、傭兵団の剣はいずれ農具に変わる。
リューリアもやって来たが、負傷者の多さに絶望して腕を切り落とされた五人に絞って治す。
コルテスは放置するようアドラーが指示する、目を覚ますと面倒だから。
これで、名実共にギムレットが代表になった。
「さてギムレット、賠償金は取らないから協力して貰おうか」
ギムレットに抵抗する気はなく、素直に両手を挙げる。
実力の差も知っているし、元々は傭兵団を乗っ取るのが目的、この男は野心家である。
「お前、こんなとこに居たのか」
まだ顔を隠したままのミュスレアもやって来る。
「誰だ、この下品な女?」
よく日焼けした踊り子を指差し、ギムレットはアドラーに聞いた。
「なっ!? わたしだわたし!」
ミュスレアが顔と髪を覆った布を取る。
「なんだ、ミュスレアか」
「何だとはなんだ! わたしはお前らのこと許してないからな!」
娼館に売り飛ばされそうになったミュスレアの怒りは当然。
「ところで、グレーシャは? 一緒じゃないのか?」
ふと気になった事をアドラーが聞いた。
「……あいつは、とっくに別れたよ。ライデンを出た翌日には、金目の物を持って消えていた」
「あっ……」
「ふーん……」
アドラーとミュスレアは、肩を落とす元団長にほんの少しだけ優しくしてやろうと思った。
ギムレットは、アドラーの要求を全て無条件で受け入れる。
団長のコルテスは、帰りの道で死んだ。
夜の砂漠に迷いでて行方知れずになったと、ギムレットは語った。
傭兵団を掌握したギムレットは、アドラーとの約束を果たす。
あらゆる情報をアドラーへ送り、デトロサ伯への工作も済ませる。
「さてと、救出作戦の開始だ」
村を襲うバジリスクは消え、下準備も終え、いよいよゴブリン族救出へアドラー達は出発した。
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