朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

文字の大きさ
128 / 214
第七章

128

しおりを挟む

「ギムレット!! てめぇ、ここまで落ちたか!」

 アドラーは、怒りに任せて先に剣を抜いた。
 
「貴様のせいだろうがっ!」
 ギムレットも応じる。

「自業自得だ!」と、アドラーも叫び返す。

 かつて”太陽を掴む鷲”の団長だったギムレットは、幹部だったミュスレアに団長と借金を押し付ける形で団を捨てた。

 莫大な借金は、ミュスレアと妹弟を奴隷にするに充分な額。
 だが、団にはアドラーも残っていた。

 命の恩人でもある三姉弟を救うため、強引に団長となったアドラーは、債権者と武力による交渉をし、大陸を東へ南へと冒険をして団を立て直す。

 そしてギムレットの新しい団と直接対決に持ち込んで、勝った。
 それが二ヶ月前。

「ギムレット、たった二ヶ月で今度はゴブリン狩りとは!」

 アドラーの踏み込みに気圧されたギムレットだったが、引きはしなかった。
 手で八十人の部下を抑える。

「待て、お前達ではこいつに敵わん。俺に任せとけ」

 アドラーも気付く、僅か二ヶ月でギムレットはこの傭兵団の副隊長に登りつめ、よく部下を把握していると。

「二ヶ月……? そういえば、クルケットが旅立ったのもその頃だっけ……」

 アドラーは冷静になった。
 剣を抜いて対面するギムレットが安堵したのが伝わってくる。

 軽い打ち込みに変更したアドラーが「少し話を聞こうか」と伝えると、ギムレットも答えた。

「部下の手前だ、戦ってるふりをしてくれ」と。

 外から見ると、圧倒的な力と技術を持つ剣士二人の目にも止まらぬ戦いに見える。

 実際に、ギムレットは強い。
 元々は何の強化も受けないミュスレアを上回る実力がある。

 団にいた頃は、ギムレットの強さを10とするならミュスレアが8か9。
 更に自慢の魔法剣――アドラーに叩き折られた――で、五割増しがギムレットの強さだった。

 今のミュスレアは、アドラーの特殊バフを受けて三倍以上に戦闘力を高める。
 そして、素の状態でもギムレットを凌ぐアドラーは、自己バフとも掛け合わせておよそ九倍にまで強化出来る。

 ライデン市の冒険者でもトップ10に入ったギムレットが、辺境の傭兵団であっさり副長になったのも当然。
 またアドラーには勝てない事も理解していた。

「降伏しろ、ギムレット。命までは取らん」
「少し待て」

「お前は、ゴブリン狩りまではやってないのか?」
「狩りは今日が初めてだな。まあ見張りはやってたんだが……」

「同罪だな。だが許してやる、情報を寄越せ」
「偉そうに!」

 ギムレットが強く剣を叩き付けたが、アドラーは軽く受け流す。
 周りからは死闘にしか見えないが、二人は余裕の打ち合いで会話がメイン。

「お前は、あんな奴の下に付くつもりか?」
 アドラーが砂漠に倒れて悶えるコルテスを示す。

「いずれは始末して乗っ取るつもりさ。コルテスの部下と俺の部下を見たろ?」

「ならば、俺の言うことを聞け。さもないと雇い主ごと、叩き潰すぞ」

 今度はアドラーが剣に力を込めて、ギムレットを弾き飛ばす。
 再び剣を合わせて、今度はギムレットから尋ねた。

「何をする気だ? 半エルフの次はゴブリンに肩入れして、何を考えている?」
「お前には理解出来んよ。だが、ゴブリン達は救い出す。それからデトロサ伯も終わりだ」

「ふんっ、また無謀なことをっ!」

 ギムレットが大きく振りかぶって渾身の一撃、と彼の部下には見えた。
 横目で見ていたミュスレアとダルタスには、無謀な一振りに見えた。

 そしてアドラーには、ギムレットが話を飲んだと分かった。

 頭上に落ちてきた剣を、アドラーが切り飛ばして剣先を相手に向ける。

「参った、降参だ」
 ギムレットが短くなった剣を捨てる。

 頼りの副隊長が負けた”神聖十字団”は、完全に戦意を失った。

「な、なにを勝手に! 戦え! ギムレットもお前らも戦わんかー!」

 コルテスだけがまだ元気に叫んでいたが、このうるさい傭兵団長が元気ではアドラーも困る。
 話は通じる相手としたいのだ。

 すたすたとコルテスに近寄ったアドラーは、よく動く顎を軽く蹴り上げた。
 骨が砕ける音がして、静かになった。

 アドラーが、怪我人だらけの百二十人を相手に告げる。

「副長は降伏を申し出た。命だけは助けてやる、もう砂漠へは来るな。次にここで見かけたら必ず殺す。交渉は、副長のギムレットとおこなう」

「運の良いやつらめ」
 まだ動き足りない顔で、ダルタスも付け加えた。

 アドラーは、ギムレットを呼んで話を聞く。
 その間に、神聖十字団の者は治療にあたるが……戦いの終わりを見て、ゴブリン村の子供達が出てくる。

「あの、お水……」
 村の井戸から汲んだ水を、傷ついた男達にも分け与える。

 ゴブリン族は、困ってる者を放っておけない。
 厳しい砂漠を生きるのに、競争でなく共存共有を選んだ種族。

 クルケットがアドラーのところへやって来た。
「団長さま、添え木が足りません!」

 折れた骨は軽く三百本を超え、木は砂漠ではとても貴重だ。
 アドラーは転がる怪我人達へ命令した。

「おい、お前ら剣を出せ。鞘を代用する、中身はこっちで再利用するから捨てていけ」

 ゴブリン族の子供らの優しさにあてられた傭兵達は、素直に武器を捨てる。
 一部の者はうなだれて後悔しているし、残りもゴブリン族に復讐したりはしないだろう。

 鉄も貴重品、傭兵団の剣はいずれ農具に変わる。

 リューリアもやって来たが、負傷者の多さに絶望して腕を切り落とされた五人に絞って治す。
 コルテスは放置するようアドラーが指示する、目を覚ますと面倒だから。

 これで、名実共にギムレットが代表になった。

「さてギムレット、賠償金は取らないから協力して貰おうか」

 ギムレットに抵抗する気はなく、素直に両手を挙げる。
 実力の差も知っているし、元々は傭兵団を乗っ取るのが目的、この男は野心家である。

「お前、こんなとこに居たのか」
 まだ顔を隠したままのミュスレアもやって来る。

「誰だ、この下品な女?」
 よく日焼けした踊り子を指差し、ギムレットはアドラーに聞いた。

「なっ!? わたしだわたし!」

 ミュスレアが顔と髪を覆った布を取る。

「なんだ、ミュスレアか」
「何だとはなんだ! わたしはお前らのこと許してないからな!」

 娼館に売り飛ばされそうになったミュスレアの怒りは当然。

「ところで、グレーシャは? 一緒じゃないのか?」
 ふと気になった事をアドラーが聞いた。

「……あいつは、とっくに別れたよ。ライデンを出た翌日には、金目の物を持って消えていた」

「あっ……」
「ふーん……」

 アドラーとミュスレアは、肩を落とす元団長にほんの少しだけ優しくしてやろうと思った。

 ギムレットは、アドラーの要求を全て無条件で受け入れる。

 団長のコルテスは、帰りの道で死んだ。
 夜の砂漠に迷いでて行方知れずになったと、ギムレットは語った。

 傭兵団を掌握したギムレットは、アドラーとの約束を果たす。
 あらゆる情報をアドラーへ送り、デトロサ伯への工作も済ませる。

「さてと、救出作戦の開始だ」

 村を襲うバジリスクは消え、下準備も終え、いよいよゴブリン族救出へアドラー達は出発した。

しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...