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第七章
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しおりを挟むゴブリン族が住むゴブ砂漠から、南へ下るとデトロサ伯爵領。
ド田舎のド辺境もいいところで、明確な国境線などないが、南北へ伸びる街道が一本通っている。
砂漠を超えてしばらく行くと、小規模な検問所といった建物があった。
アドラー達七人とロバのドリーは、そこで呼び止められる。
「何処から来た? いや方角でなく出身な」
二十人程が詰める検問所から、兵士が数人出てくるだけ。
アドラーは、ライデン市の冒険者ギルド本部が発行した書類を出す。
確認されてる間に、一人の兵士がミュスレアに目をつける、兵の質は余り良くない。
「うおっ!? 上玉のべっぴんだな、俺らと良い事しない?」
いささか古い台詞で声をかけた兵士が、ミュスレアに殴られる前に別の兵士が止めた。
「やめろ、こっちを見ろ!」
止めた兵士が、ドリーの引く荷車を指す。
「げっ!? こりゃまた失礼しました……」
荷台に載せた巨大なバジリスクの頭骨を見て、兵士が引っ込む。
「今回の獲物だ。売ろうと思ってね」
アドラーは、大物を退治して戦利品を売りに来た冒険者ギルドを装っていた。
「ライデンの者か。人数も七人だ、問題ない通ってくれ」
冒険者で有名なライデン市のギルドとあって、通行はすんなり許された。
アドラーとダルタス、ミュスレアとリューリアが荷車の左右を歩き、残りの三人は荷台で頭骨を支える。
検問所が見えなくなってから、荷台の一人がフードをとった。
「ふぅ、緊張したです!」
七人目は、クルケットだった。
勇敢なゴブリン少女は、来てもらったからには危険な任務も同行すると主張した。
「クルが一緒にいれば、ゴブリン族もよく話を聞いてくれるです……」という主張は、一理あった。
だが当然ながら、アドラーは断固拒否。
一時間に渡ってクルケットを説得したが、最終的に受け入れた。
理由は幾つかある。
ゴブリン族に「一緒に逃げよう」と言って信用されるかが一つ。
次の理由が、キャルルやミュスレア、それにブランカも戦いから遠ざけておきたいから。
三人共が、アドラーと一緒に戦いたがる、相手が人でもだ。
それをクルケット護衛の名目で後ろに回したい。
ついでに”太陽を掴む鷲”の七人目になってもらった。
「クルケット、よく頑張ったな。お陰でバレずに済んだ」
アドラーが褒めると、一番小さな少女は大きな笑顔を見せる。
「えらいえらい」と、ブランカが頭を撫でると嬉しそう。
ブランカは、自分が褒められるのが好きなので、他人も同じ様に褒めようとする。
ただし年頃のキャルルだけは、女の子に褒められるのを嫌うが。
「さてと、無事に入り込んだことだし。あとはマレフィカとバスティだな」
デトロサ伯爵領は、辺境の鎮守を担う諸侯で、国土はレオン王国の実に四割を占める。
ただし人口で言えば二割、軍事力では三割といったところだが、王家に次ぐ大諸侯であることに違いない。
優秀な受付嬢テレーザから受け取った情報は更に詳細。
デトロサ伯とレオン王家は、縁戚であるが非常に仲が悪い。
原因は跡目争い。
現在のレオン王は、先王に二人いた王女の孫で、長女の息子が王位を継いだ。
そしてデトロサ伯フェリペは、次女の方を娶って公子もいる。
王の父になり損ねたデトロサ伯フェリペは、現王に非常に不満がある、との噂をアドラーは利用する。
「激しい戦いは、レオン王家とデトロサ伯でやってもらう。その隙にゴブリンを連れて逃げ出す!」
これがアドラーの立てた作戦の本線。
まだまだ軍隊同士の決戦が主流の世界で、アドラーは情報戦を仕掛ける。
もちろん準備は怠らない。
「と言う訳だ。マレフィカ、バスティ、頼んだよ」
「猫使いの荒いご主人さまだにゃあ」
黒猫は面倒だと言いいながらも、魔女のほうきに飛び乗る。
ほうきの行く先は、デトロサ伯フェリペの本城で、傭兵団を率いたギムレットも向かう先。
そこでギムレットが「王家に雇われたかもしれない連中の邪魔が入りました」と報告すれば、一触即発の事態へ様変わり。
例えデトロサ伯フェリペが、自重して戦争の準備をしなくとも、アドラーはそこにも火を付ける。
報告を聞いたデトロサ伯フェリペは、王家に対する不満や文句、更には二千五百の兵と八百の傭兵に用心や行動の指示を出す。
「それをバスティが映像と音声で記録して、マレフィカが編集してレオン王家に流す。フェリペはどうあがいても、反逆者となるわけだ」
「うわー捏造だー」と、マレフィカでも思いつかない悪逆非道の手段。
「まあ心配するな。派手な内戦にならないように、デトロサ伯の戦力は俺とダルタスが削る。傭兵団は、ギムレットが説得して離脱させる。万全だろ?」
バスティの首輪に付けた水晶球は、アドラーがアイデアを出して短時間の録画と録音までこなすように改造されていた。
動く証拠を見せられたレオン王家は、動かざるを得ない。
あとはフェリペが断頭台に送られた後で考える。
アドラーは、フェリペを倒すだけなら単身で城に乗り込んで首を落とす、それが一番早いと分かっていたが、ゴブリン達の安全も買う必要があった。
武力を見せつけて砂漠は恐ろしいと思わせる、レオン王国を内戦でがたがたにしてゴブリンに手を出せなくする、城に忍び込んで直接脅す。
幾つか候補があったが、一番穏当な方法を選んだつもり。
デトロサ伯の兵士は百人単位で死ぬだろうが、自業自得だとアドラーは切り捨てた。
伯国の兵士も、ゴブリン狩りに参加して労役を監視している。
十を超える村から集められた男のゴブリンは一千以上で、取り残された女子供と合わせて既に多くが死んだ。
「因果応報というわけでもないが……自分たちも狩られる側になれば良い。まずは、ゴブリン族の強制収容所で一番大きなところから叩く。鉱山に設置された所だ。あとは彼らを守り、次々と解放しながら北へ戻る」
皆に説明したアドラーは、地図の一点を指さした。
ゴブリン族が囚われて酷使される鉱山へは、今宵たどり着く予定だった。
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◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
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