朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第七章

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 デトロサ伯領を南北に貫く”アルフォンソの道”を、アドラー達はゆっくり北上していた。
 遅いのは仕方がない、怪我人や病人も連れた集団である。

 しかしゴブリン族は即席の太鼓やラッパを作って演奏し、歌いながら陽気に進む。

「疲れないのかな?」と、キャルルが純粋な疑問で聞く。
 アドラーは笑って答える。

「とても良い傾向だよ。キャル、お前も歌ってこい。みんな喜ぶぞ」
「えっ、やだよ! 恥ずかしい!」

 まだ美しいボーイソプラノの少年は、即座に断った。

「なんでだ、もったいない。キャルは歌も上手いのに」
「そういうのはリューねえで良いじゃん。それか、姉ちゃんが酒瓶持って脱ぎながら歌えば、ぐはっ!」

 即座に長女のげんこつが弟の頭に炸裂する。

「何処で覚えたの、そんなこと!?」

 噛みつかんばかりにキャルルに詰め寄るミュスレアから、かわいい弟子を庇ったアドラーは続けて解説する。

「こういった行軍や行進を、静かにやらせる指揮官は駄目なんだよ。音楽があったり、歌ったり喋ったりする方が不思議と足が進む。黙って歩くと、体よりも心が疲れてしまう」

「ふーん、そんなものか。うちも、いっつもお喋りしてるもんね!」
 キャルルが、まったく疲れのない笑顔を見せた。

 砂漠を超え山を登り、ゴブリン達を護衛する立場になっても、付いてこられるくらいに少年は成長していた。
 ただし声変わりはまだだが。

 だが、順調な逃避行に安堵していたアドラーの首筋を、ミュスレアの右手が襲う。
 ぐいっと団長の顔を引き寄せた長女は、低い声で尋ねた。

「ねえ、まさかキャルルを変な店に連れてってないでしょうね?」
 ミュスレアの鋭い緑の目は本気。

「け、決して、そ、そんな事はしてません! ぼ、僕もそんな店には団長になってからは一度も行ってません!」

「ふーん……で、団長になる前は? ちょっとこっち来てくれる?」

 今回のクエストで、アドラーを襲った二番目の危機がこれだった。
 

 それよりも、アドラーにはもっとすべきことがある。
「食料を出せ。余ってるだけ全部だ」

 道中の村々から、食い物を集めて回る。
 代金は、鉱山から拝借した金貨――実に七百枚もあった――を使う。

「えっ、こんなに?」と村人が驚くほど、高く買取る

「良いから取っといてくれ。ゴブリン、敵じゃない、分かるな?」
 
 ゴブリンなどに売りたがる農民はなく、数百人の飢えたゴブリンが来れば村は恐れて門を閉めるが……金貨で強引にこじ開けた。

 アドラーの大盤振る舞いに、家庭的なリューリアは渋い顔。

「もう、せめて普通の値段で買えばいいのに。もったいないわ」
「まあまあ、そう言わないの。今は時間の方が大事でしょ?」

 ミュスレアが助け舟を出したが、思わぬ副産物もあった。
 噂を聞きつけた商人が、売りにやって来るようになった。

 明白にデトロサ伯フェリペに敵対するアドラーだったが、商人の主君は金貨。
 食料どころか武器を売りつけにくる者もある、もちろんカナン人の商人だ。

「武器は要らん。食料と荷車、それに情報なら買うぞ」とはっきり断る。

 弱ったゴブリンが武器を持っても、軍隊には敵わない。
 それよりも突発的な事件が怖い。

 ゴブリンも全員が理想的という訳もなく、果物や卵の盗みなら良い方、時に家畜を奪ったり、井戸を勝手に使ったりと問題は次々起きるのだ。

 多少の事は目をつぶり、大きな事は金で解決しながらアドラーは進む。

 それから、街道に沿った道や砦の工事現場、木材や石材の切り出しから荒野開拓まで、あちこちのゴブリン奴隷を次々と解放する。


 そして、アドラーの一行は千人を超えていた。

「そろそろ追いつかれる頃だ。用心しよう」
 アドラーは仲間達に告げた。
 
 敵襲を警戒して、最後尾に下がったアドラーの所へ一人の男がやって来る。

「やあ、やっと追いつきました。これは大変な数ですねぇ」

 いきなり親しげに話しかけた男は、冒険者にも商人にも見えない。

「どちらさまで?」
 旅慣れてはいるが強そうには見えず、アドラーは『大胆な偵察かな?』と警戒した。

「あの、マレフィカさんに話を聞いて来たのですが……。自分はアーネストといいます。月刊冒険者の調査担当でして……」

「おお、ようこそこんな所まで! お待ちしてました!」
 アドラーは男を歓迎した。

 月刊冒険者とは、冒険者から聞いた話や探検小説を載せるいわゆる雑誌。
 この大陸では珍しい出版業にアドラーは目を付けていた。

 情報は先に出して広めた者が勝ちである。

「何でも見ていって下さい。案内しますよ」
 月刊冒険者の愛読者であるアドラーは、この雑誌を使ってゴブリンの苦境を伝えるつもり。

 レオン王国が上手く動かなかった時の保険である。

「こちらこそ”太陽を掴む鷲”の話が聞けるとは、嬉しい限りです」
 如何にも物書きといった風貌のアーネストは、招かれた取材に大いに乗り気。

 デトロサ伯からの必死の逃亡、現地民から略奪せずにお金を払う良い評判、ついでに団の宣伝まで書いて欲しい事は沢山ある。

 アドラーがアーネストを迎え入れてから二日、砂漠まであと三日になった時、街道の南に土煙が見えた。

「遂に来たか……。ダルタス、どう思う?」
「速いですな、騎乗兵でしょう」

「うん、弓を使われると厄介だ。さりとて手頃な森もなし。ここで待ち受けるか、二人だけで」
「それはよろしいですなあ!」

 アドラーが居るのは、丘の間を縫う街道の曲がり道。
 少数で待ち受けるには、まずまずの場所だった。

「あ、思ったより多いな」
「そうですなあ」

「そんなに恨みを買ったかな? 二百近く居るぞ……」

 十数騎の斥候かと思われた土煙は、伯国の騎兵戦力のほとんどだった。
 急がず慌てず、着実にアドラー達に迫ってくる。

 アドラーは、今回のクエストで最大の危機を迎えようとしていた……。
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