133 / 214
第七章
133
しおりを挟む「だんちょー、やるか?」
祖竜の子供、ブランカが牙を見せてアドラーに聞いた。
今のブランカは、十五日に一発くらいはドランゴブレスが撃てる。
威力は絶大、地面ごと騎兵隊の一部は消滅するだろう。
「いや、止めておこう。まだ攻撃してくる様子はない」
問答無用で突進してくるならアドラーも考えたが、追ってきた騎兵は見える位置で止まった。
頂上生物であるブランカは、短いサイクルで巡る命に配慮はするが遠慮はしない。
歯向かうならば輪廻を巡れとばかりに消し飛ばす。
だがアドラーは、女の子にそんな命令をする気はなかった。
アドラーがよく知る地球の動物は、オスがよく争う。
特に哺乳類のオスは、メスの奪い合いに縄張り争いと命をかける場面が常に訪れる。
高等生物で平和主義が多いのは鳥類。
この種は、見た目の美しさや歌声やダンス、巣作りの上手さでメスを争う。
「人類に一番近いのは鳥では?」と、前世のアドラーは常々思っていた。
メスが命をかけて戦うのは、哺乳類も鳥類も、子供を守る時がほとんどである。
「ブランカはあっちで食事をしといで。ここは俺に任せて」
「ほんとにいいのー?」
「ほんとうだ」
白い髪をぽんと叩くと、白い尻尾を振りながらブランカは走っていく。
「あ、あのーアドラー団長? 本当にどうするんです? 突撃してきたら皆殺しですよ」
月刊冒険者の記者、アーネストも聞いてきた。
「そりゃまあ、攻撃しないでって頼むしかないなあ」
アドラーは、小説を書くために記者になったという男を気に入っていた。
「そんな無茶な。あれだけの重装騎兵なら、千人のゴブリンくらい簡単に押し潰せますよ?」
「そうならないように手は打ったんだが、レオン王国がねえ。首都レオンの様子はどうだった?」
「いえ、私はマレフィカさんに会ってから、直ぐに漁船を借りて北上してきたので……」
レオンの冒険者ギルド本部に出入りしてたアーネストは、話を聞いて意気込んでやってきた。
冒険者ギルド本部は、ライデンやレオンのように大都市や国ごとにある。
彼はゴブリンへの偏見が薄かった。
この二日間、誰彼構わずに話を聞いて、中立かゴブリン寄りの記事を書いてくれそうであった。
「戦って引いてもらうしかないかもな」
他人事のようなアドラーに、アーネストが抗議する。
「いいですか、アドラー団長。私にもこんな機会は滅多に……いや、向かって来てるのは、どう見てもデトロサ伯の騎士団ですよ。ただ馬に乗った兵士とは訳が違います、戦争の専門家です。一人や十人で何とかなるはずが……小説は大団円でないと駄目なんですよ……」
アーネストの本音がちらほら漏れていた。
アドラーやクルケットから話を聞いた小説家志望の記者は、これが傑作を書くチャンスだと思っていた。
どんな話を書くのか、楽しみになってきたアドラーが敵の動きを見つけた。
「お、偵察か? いや軍使か。手順を踏むつもりらしいな」
アドラーは、まだ話足りないアーネストを置いて、一人で南に歩き出した。
見るからに立派な装備の騎士級が五人、馬に乗ったままアドラーを待っていた。
そして先に名乗った。
「フェルナンド・デ・マガリャネス。デトロサ伯の騎士で、騎士団長である。そなたの名前をお聞かせ願う」
マガリャネスは威風堂々、正面からアドラーを見下ろす。
「アドラー・エイベルデイン。ライデンの冒険者、”太陽を掴む鷲”の団長だ」
ライデンと聞いて騎士達がざわつく。
ミケドニア帝国の北の玄関口、北部海域一円に手を伸ばす商業都市を知らぬ者はない。
「ライデンからこのデトロサまで、遠路ご苦労である。して何用で参られたか。帝国の冒険者とはいえ、そこのゴブリンどもは伯爵家の財産であるが」
マガリャネスは表情一つ変えぬ。
「彼らはただ自分の家に帰ろうとしているだけです」
アドラーも応じた。
「奴隷の逃亡は罪である!」
「それは借金を背負った奴隷と、戦争で身代金が払えなかった者の話だ。レオン国法もデトロサの国内法も、理由なき奴隷を認めていない」
「そなたは、フェリペ閣下の財産を奪おうとしておるのだぞ?」
「違う、あくまでゴブリン達の自力救済だ。私はそれを助けているに過ぎない」
アドラーは、この地の歴史と成文法は一通り読んでいた。
「我が伯国は、長いことゴブリンを使ってきた。我らの慣習を犯すと言われるか」
「過去の労役、たとえばこの”アルフォンソの道”は、ゴブリン族との交易発展の名目があり、アルフォンソ伯は食料と引き換えにゴブリン族の助力を得たのだ」
マガリャネスの声が一際大きくなった。
「我々はフェリペ閣下の命を受けてここに来た、それでも従わぬと言うか!」
アドラーも大声で返す。
「俺が依頼を受けたのはライデン市だ。帝国にゴブリンを助けるなという法も、伯爵ごときに従えという法もない!」
マガリャネス団長が強く睨んだが、アドラー団長は一歩も引かぬ。
「もう一つ聞こう。そなたは戦うつもりか?」
「必要とあらば」
「何故、そのような無茶をする。ライデンの冒険者といえば、大陸一の評判も高い。ゴブリンなどに肩入れせずとも、幾らでも武名は立てられよう」
「この男達が戻らねば、ゴブリン族が多く死ぬ。残された女子供らがだ。もし北方の砂漠が無人になれば、この国に魔物がなだれ込むぞ?」
アドラーが見つめるマガリャネスの目が、初めて動揺した。
法解釈などどうでも良くとも、女子供が犠牲になるというのは、マガリャネスにとって衝撃だったようだ。
「わ、我々が北の砂漠に出て、警備をしよう。ゴブリン族の扱いを改めるよう、伯爵閣下にも奏上する。労役に戻す気はないか?」
「俺たちを見逃して、伯爵を諌めてくれないか? もう大勢が死んだ。これ以上の犠牲は出したくない」
アドラーは僅かな希望に賭ける。
「……すまぬが、連れ戻せとの命令だ」
かなり長く沈黙したマガリャネスが、交渉断絶を告げた。
「そうか……俺が死ねば、ゴブリン達も降伏する。ほとんど武器も持ってない」
「歯向かわぬ者への攻撃は禁止させる。我々は太陽が真上に来たら攻撃を開始する。アドラーと申したな、そなたが逃亡しても追わぬと約束しよう」
マガリャネスは、アドラーに逃げよと伝えて馬首を返した。
正午まではあと一時間余り。
0
あなたにおすすめの小説
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜
たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。
だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。
契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。
農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。
そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。
戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる