朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

文字の大きさ
137 / 214
第七章

137

しおりを挟む

 ”鷲の幻影”団は、東寄りの五つの村への護衛を買って出てくれた。

「お二人がこれほど怪我をするなんて、詳しく知りたいのですが……」
 アドラーとダルタスを見るアストラハンは、無念の表情。

「本当に助かる、ありがとう。ゆっくり話せれば良いのだけど……」

 アドラーも話す暇さえないのは心苦しいが、千ニ百人もゴブリンがいると日々の食料だけでも莫大なもの。

 半分の六百人の護衛を、アストラハン達が引き受けてくれる。

「よろしければ、ルーシー国へ来ませんか? アクア様も喜びますし、怪我や美容に効く温泉もありますよ?」

 ”鷲の幻影”の団長は、アストラハンでなくレーナ川の女神アクアで、水の神様は砂漠へなど来ない。

「それは嬉しいなあ。ほとぼりも冷ましたいところだし」

 アドラーは、怒りに任せて名前と所属を何度か名乗った。
 どうせ調べればバレるのだが、しばらくは何処かへ身を隠したい。

 アストラハン――彼は団長代理を任されるだけあって有能で強い――は、ダルタスの折れた斧を見て付け加えた。

「うちの国には、伝説の斧があります。自分も見たことありますが」

「なんとっ!? 団長!」
 オークが反応した。

「それなら行ってみるか、約束だしな」
 アドラーは、高原地帯に広がるルーシー国へ足を伸ばすと決めた。

 まずは六百人のゴブリンが、口々に礼を言い、手を振りながら去って行く。

 本当は宴会でも開きたいが、酒も余分な食い物もない。
 あっけない別れだが、生きてる者は家族に会え、労役先や道中で亡くなった者も故郷に戻ることが出来る。

 残りのゴブリン族も、順番にアドラー達が送り届ける。
 残った四百枚の金貨は十の村に均等に分けて、村の再建に使われる。

 そしてクルケットとの別れの時が来た。

「団長さま! クルケットは寂しくて悲しいです! ありがとうございましたです!!」

 体当たりでアドラーに抱きついたクルケットは涙まみれ。
 全員と抱擁しても、涙腺が止まることはなかった。

「ク、クルはこれからもみんなと居たいです! けど……村はこれからなのです……」

 クルケットの両親は無事だったが、彼女にはまだ幼い弟妹が居て、両親を失った子供も沢山いる。
 お姉さんのクルケットには、やるべき事がたくさんあった。

「また来る」とは、アドラーも約束は出来なかったが、連絡の取り方は伝えた。

「何かあれば東のルーシー国へ。ここからでも歩いて行ける距離で、そこのレーナ川の流域には女神の神殿が沢山ある。何処でも良いから飛び込んで、”鷲の幻影”からうちに連絡してもらってね。必ず助けに来るからね」

「はいっ!」
 クルケットが元気よく返事をした。

 アドラーは、デトロサ伯を放任していたレオン王国を全く信用していない。

 実際に数カ月後には、喉元を過ぎたレオン王国は何があったか調査を始め、ゴブリンに対しても特に融和的になる事はなかったが……。
 
 直ぐにミケドニア帝国から横槍が入って調査は中止される。
 軍を握るバルハルト侯爵と、さらに上の人物が直接の圧力をかけたのだ。

 驚いて慌てふためいたレオン王国は、ゴブリン族に対しても一方的に不可侵を宣言した。
 ミケドニア帝国に口実を与えるのは、レオン王国の滅亡を意味する。


 これより数百年の平和を享受するゴブリン族は、クルケットという名の少女が長老となってさらに繁栄の時を迎える。

 砂漠に住む全てのゴブリンから尊敬される長老には、三人の息子がいて、上から、アドラー、ダルタス、キャルルという珍しい名前を持っていた――。


 もう一人にも話がある。
 最前線で取材を続けたアーネストも、しぶとく生き残っていた。

 彼はゴブリンの村を何十年も行き来して、貴重な文献を多く残す。
 
 月刊冒険者に連載された『ゴブリンと砂漠』は、ゴブリンの歴史から調べ上げ、砂漠の生活から大脱走までを描いた重厚なものとなったが……学術や歴史資料に等しく、いまいち盛り上がりに欠けた。

 さらに数年後、連載を終えた彼は一冊の本を出版する。
『ゴブリンの冒険』と銘打たれた小説は、長く評価され冒険物の定番になった。

 ゴブリン族の少年達がリザード族の助けを借りて砂漠を抜け出し、各地を旅しながら半エルフの美しい少女と出会い、そして一匹狼のオークと出会い、力の腕輪を手に入れ故郷の村を救いに戻る。

 この単純明快な物語は、ヒト族のゴブリン族に対する理解を大いに深めることになる。

 再会したアーネストに、アドラーが尋ねる機会があった。

「ゴブリンの冒険、面白いんだけどさ。何で俺は出てこないの? あとキャルルが女性にされたって怒ってたぞ」

 アーネストは悪びれずに答えた。
「だって、アドラー団長が出たら現実味がなくなるので……」


 レオン王国の内戦で、”太陽を掴む鷲”がヒト族の公式記録に残る事はなかった。
 だが砂漠のゴブリン族は何時までも、黒猫を連れた七人の勇者と、彼らの元へ旅した少女の事を語り継いだ……。

しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜

たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。 だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。 契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。 農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。 そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。 戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...