140 / 214
第七章
140
しおりを挟む「それなら、トリーニ島に住むフェニックス! 燃える羽で作った襟巻きとか、わたくしにしか着こなせないわ!」
「そんな島、聞いたこともないです」
女神アクアとアドラーの条件交渉は難航していた。
「えーっ! これもダメ? 北海の黒大亀の甲羅もダメ、東に住む青竜秘蔵の勾玉もダメ、フェニックスの尾羽根もダメ! なんなら出来るのよ」
「伝説退治は無理ですってば! ライデンに戻ったらヘルメス卿が作るユニコーンの革鞄と、魔術師ガーモの足が綺麗に見える靴、この二点を送るので勘弁してください!」
女神の要求は、メモ帳二枚分はあった。
地上で欲しい物を書き留めていたが、どれもこれもアドラーには入手方法さえ分からない。
神さまは、物欲がないわけではない――バスティ談。
むしろせっかく作った肉体を、綺麗に着飾ったり美味しい物を食べたりするのに貪欲である。
中には浮気や不倫に及ぶ神もいて、孤児院で子供達に愛情注いで育てることに専念するアクアはかなりマシな方。
なので、アドラーはなるべく要望に応えたかったが、市販の女性用高級ブランドが精一杯。
「アドラーさん、すいません。アクアさまも、余りわがまま言わないで下さい」
同じテーブルで話を聞いていた、アストラハンの方が困っていた。
アストラハンの横には、クリミアという女の子が座る。
二人とも二十歳前後で、アクアの孤児院で育ち母親のような女神には親しみと気安さもある。
「そうですよ、高級品なんか貰ってもきっと子供達の玩具ですよ」
「えー平気よ、わたくしの神室に隠しておくから」
アクアとクリミアは姉妹のように喋る。
「その部屋、たまに隠れんぼで忍び込んでた……」
「あんた達のせいか、隠してた水あめの減りが早いのは!」
女神に叱られても、アストラハンは嬉しそう。
交渉と言うよりも、世間話の延長といった感じで夜は更けていく。
「まあ良いわ、成り金女神なんて言われるのも嫌だし。実は一つだけ問題があるのよ」
幻影団と太陽と鷲、どちらも少年少女の多い団の大半が寝静まった頃、酒杯を片手に女神アクアは本題に入った。
「レーナ川をずっと遡ると湖があるわ。そこの管轄がわたしの従姉妹で、湖の女神伝説があるの。何でも、斧を放り込むと金の斧に換えて貰えるとか。そんな美味しい話あるわけないのに」
ひたすら飲み続けていたアクアが豪快に笑う。
水のようにぶどう酒を飲む女神に付き合っていたアドラーはまぶたが重い。
「湖の掃除の依頼ですか? ついでに斧も貰えると」
「投げ込まれた斧に、千年物の戦斧もあるそうよ。オークちゃんが気に入れば貰っていけばいいわ。けど、問題はその先なの」
アドラーは、手元の酒を飲み干して最後の気力を振り絞るって話を聞く。
「湖から西に伸びる支流があるの。そこから人の境界を出た先でね、一頭の白い虎がわたくしの川の水を飲んでるの。それは別に良いのだけど、その虎、放っておくと手に負えなくなるわ。追い払ってくれない? これより先は怖い土地だぞって」
「倒さなくとも良いので?」
女神さまは優しく笑う。
「だってその虎ちゃん、普通に暮らしてるだけだもの。けどヒトに被害が出れば、団の子達が出向くわ。そうなる前に脅して欲しいの、あなたの竜の子ちゃんで」
白竜を使った白虎脅迫。
いずれは魔獣や神獣と呼ばれる怪物になるかも知れないが、この世界の竜と虎の実力は乖離している。
賢く強い獣なら、ブランカの姿を見るだけで逃げ出すはず。
「それだけで良いのですか? ヘルメスの鞄やガーモの靴は?」
「うーん、春の新色が出たらこっそり送ってくれない? 余裕がある時でいいわ、お礼はするから」
団長同士の会談という名の飲み会は終わった。
アドラーは用意された部屋へ千鳥足で戻る。
女神アクアは、これから四つの孤児院を巡って子供達の寝顔を見て回る。
「べ、べつに心配なんてしてないんだから! ただの日課よ、日課」
何処で覚えたのか、女神はアドラーには馴染みのある言い訳をした。
――翌朝。
アドラーは、酔った頭で川船の底に転がっていた。
「あー飲み過ぎたー」
「またか」
ブランカはすっかり呆れ顔。
同行するのは、他にリューリアとダルタス。
マレフィカは密林へ踏み込むのは嫌だと、キャルルとミュスレアは、アクアが新しい力を授けてくれるので留守番。
既に癒やしの女神パナシアと契約するリューリアに、新しい神の加護は付かない。
マレフィカは法術魔法を極めし血統の魔女、神授魔法とは縁遠い。
ダルタスには魔力がなく、授かっても発動出来ない。
「ちぇっ、キャルルだけずるいなー。あたしも強力魔法ほしかったなー」
不満を漏らすブランカに、魔法をかけられる存在はほとんどない。
名付け親のアドラーが特別なだけ。
「まーキャルにも意外な才能があったってことだ」
寝転んだままアドラーが答える。
既にバスティの加護を受けた少年の額に口づけをして調べたアクアが驚いた。
「へえー、凄いわね。まだまだ容量があるわ、かわいいの顔してやるわねえ」
かわいいと言われたキャルルは、目の前にある女神の胸部に釘付けになっていたが。
そのせいでリューリアの機嫌が悪い。
「あの女神、キャルルに変なことしなきゃ良いけど!」
むくれる次女に、鷲の幻影団の者が声をかけた。
「大丈夫ですよ。女神様はああ見えてちゃんと節度を守ります」
船には、アストラハンとクリミア、他にも四名ほど幻影団の者が乗っていた。
「ご、ごめんなさい、そういう意味じゃないのよ……」
リューリアの声が小さくなる、孤児にとって母親代わりの存在がどれほど大事か、彼女はよく知っている。
「いやいや、言いたいことは分かります」と、アストラハンが笑い飛ばしてくれた。
「そうそう。大きくなったら目のやり場に困るんだよね、アクア様」
「ずっと若くて綺麗なままだしなあ」
幻影団の若者達も同意する。
船上の雰囲気はとても良かったが、クリミアだけは少し悲しそうな目でアストラハンを見ていた。
女神の船は、川の流れに逆らってどんどん進む。
水流が外輪山を切り取った絶壁が両岸に迫る。
「これは、凄いなあ」と、アドラーも口を開いて見上げる絶景。
壁の間をすり抜けた船は、さらに南下を続けて、湖の女神が待つ小さな孤島へ静かに近づく。
「俺の手に合う斧があれば良いがな」
上から目線のオークが、豪快に船から飛び降りた。
0
あなたにおすすめの小説
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる