朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第七章

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「それなら、トリーニ島に住むフェニックス! 燃える羽で作った襟巻きとか、わたくしにしか着こなせないわ!」

「そんな島、聞いたこともないです」

 女神アクアとアドラーの条件交渉は難航していた。

「えーっ! これもダメ? 北海の黒大亀の甲羅もダメ、東に住む青竜秘蔵の勾玉もダメ、フェニックスの尾羽根もダメ! なんなら出来るのよ」

「伝説退治は無理ですってば! ライデンに戻ったらヘルメス卿が作るユニコーンの革鞄と、魔術師ガーモの足が綺麗に見える靴、この二点を送るので勘弁してください!」

 女神の要求は、メモ帳二枚分はあった。
 地上で欲しい物を書き留めていたが、どれもこれもアドラーには入手方法さえ分からない。

 神さまは、物欲がないわけではない――バスティ談。
 むしろせっかく作った肉体を、綺麗に着飾ったり美味しい物を食べたりするのに貪欲である。

 中には浮気や不倫に及ぶ神もいて、孤児院で子供達に愛情注いで育てることに専念するアクアはかなりマシな方。

 なので、アドラーはなるべく要望に応えたかったが、市販の女性用高級ブランドが精一杯。

「アドラーさん、すいません。アクアさまも、余りわがまま言わないで下さい」
 同じテーブルで話を聞いていた、アストラハンの方が困っていた。

 アストラハンの横には、クリミアという女の子が座る。
 二人とも二十歳前後で、アクアの孤児院で育ち母親のような女神には親しみと気安さもある。

「そうですよ、高級品なんか貰ってもきっと子供達の玩具ですよ」
「えー平気よ、わたくしの神室に隠しておくから」

 アクアとクリミアは姉妹のように喋る。

「その部屋、たまに隠れんぼで忍び込んでた……」
「あんた達のせいか、隠してた水あめの減りが早いのは!」

 女神に叱られても、アストラハンは嬉しそう。
 交渉と言うよりも、世間話の延長といった感じで夜は更けていく。

「まあ良いわ、成り金女神なんて言われるのも嫌だし。実は一つだけ問題があるのよ」

 幻影団と太陽と鷲、どちらも少年少女の多い団の大半が寝静まった頃、酒杯を片手に女神アクアは本題に入った。

「レーナ川をずっと遡ると湖があるわ。そこの管轄がわたしの従姉妹で、湖の女神伝説があるの。何でも、斧を放り込むと金の斧に換えて貰えるとか。そんな美味しい話あるわけないのに」

 ひたすら飲み続けていたアクアが豪快に笑う。
 水のようにぶどう酒を飲む女神に付き合っていたアドラーはまぶたが重い。

「湖の掃除の依頼ですか? ついでに斧も貰えると」
「投げ込まれた斧に、千年物の戦斧もあるそうよ。オークちゃんが気に入れば貰っていけばいいわ。けど、問題はその先なの」

 アドラーは、手元の酒を飲み干して最後の気力を振り絞るって話を聞く。

「湖から西に伸びる支流があるの。そこから人の境界を出た先でね、一頭の白い虎がわたくしの川の水を飲んでるの。それは別に良いのだけど、その虎、放っておくと手に負えなくなるわ。追い払ってくれない? これより先は怖い土地だぞって」

「倒さなくとも良いので?」

 女神さまは優しく笑う。
「だってその虎ちゃん、普通に暮らしてるだけだもの。けどヒトに被害が出れば、団の子達が出向くわ。そうなる前に脅して欲しいの、あなたの竜の子ちゃんで」

 白竜を使った白虎脅迫。
 いずれは魔獣や神獣と呼ばれる怪物になるかも知れないが、この世界の竜と虎の実力は乖離している。

 賢く強い獣なら、ブランカの姿を見るだけで逃げ出すはず。

「それだけで良いのですか? ヘルメスの鞄やガーモの靴は?」
「うーん、春の新色が出たらこっそり送ってくれない? 余裕がある時でいいわ、お礼はするから」

 団長同士の会談という名の飲み会は終わった。
 アドラーは用意された部屋へ千鳥足で戻る。

 女神アクアは、これから四つの孤児院を巡って子供達の寝顔を見て回る。
「べ、べつに心配なんてしてないんだから! ただの日課よ、日課」

 何処で覚えたのか、女神はアドラーには馴染みのある言い訳をした。


 ――翌朝。
 アドラーは、酔った頭で川船の底に転がっていた。

「あー飲み過ぎたー」
「またか」
 ブランカはすっかり呆れ顔。

 同行するのは、他にリューリアとダルタス。
 マレフィカは密林へ踏み込むのは嫌だと、キャルルとミュスレアは、アクアが新しい力を授けてくれるので留守番。

 既に癒やしの女神パナシアと契約するリューリアに、新しい神の加護は付かない。
 マレフィカは法術魔法を極めし血統の魔女、神授魔法とは縁遠い。
 ダルタスには魔力がなく、授かっても発動出来ない。

「ちぇっ、キャルルだけずるいなー。あたしも強力魔法ほしかったなー」

 不満を漏らすブランカに、魔法をかけられる存在はほとんどない。
 名付け親のアドラーが特別なだけ。

「まーキャルにも意外な才能があったってことだ」
 寝転んだままアドラーが答える。

 既にバスティの加護を受けた少年の額に口づけをして調べたアクアが驚いた。

「へえー、凄いわね。まだまだ容量があるわ、かわいいの顔してやるわねえ」

 かわいいと言われたキャルルは、目の前にある女神の胸部に釘付けになっていたが。
 そのせいでリューリアの機嫌が悪い。

「あの女神、キャルルに変なことしなきゃ良いけど!」

 むくれる次女に、鷲の幻影団の者が声をかけた。

「大丈夫ですよ。女神様はああ見えてちゃんと節度を守ります」
 船には、アストラハンとクリミア、他にも四名ほど幻影団の者が乗っていた。

「ご、ごめんなさい、そういう意味じゃないのよ……」
 リューリアの声が小さくなる、孤児にとって母親代わりの存在がどれほど大事か、彼女はよく知っている。

「いやいや、言いたいことは分かります」と、アストラハンが笑い飛ばしてくれた。

「そうそう。大きくなったら目のやり場に困るんだよね、アクア様」
「ずっと若くて綺麗なままだしなあ」
 幻影団の若者達も同意する。

 船上の雰囲気はとても良かったが、クリミアだけは少し悲しそうな目でアストラハンを見ていた。

 女神の船は、川の流れに逆らってどんどん進む。
 水流が外輪山を切り取った絶壁が両岸に迫る。

「これは、凄いなあ」と、アドラーも口を開いて見上げる絶景。

 壁の間をすり抜けた船は、さらに南下を続けて、湖の女神が待つ小さな孤島へ静かに近づく。

「俺の手に合う斧があれば良いがな」
 上から目線のオークが、豪快に船から飛び降りた。
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