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第七章
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しおりを挟む自ら死を超越した大魔導師に拐われた二人を助けに、アドラー達は走る。
「あっち!」
ブランカは、夜の闇を透かしてガーゴイルの行方を追う。
「あっちにゃ!」
「うん、あちらだね」
バスティとマレフィカも魔力の気配を感じ取る。
能力の高い術者は、魔法の使用を隠すことが出来る。
アドラーも隠蔽系を使えるが、マレフィカには通用せず、逆に彼女が隠すと何をするか分からない。
もしアドラーとマレフィカが戦えば、突然火の玉が飛んでくるといった事態になる。
だが一対一ならばアドラーが勝つ、呪文を使う前に反応出来ない速度で首を落とせるから。
マレフィカはダルタスに背負われて、五人は最高速で駆け抜ける。
夜道の二キロを五分で走り、隠された塔に辿り着いた。
少し前、キャルルとリューリアは塔の最上階へと運ばれていた。
「あいて」
ガーゴイルが乱暴に投げ出して、キャルルは苦情をいった。
「エルフの姉妹か……かわいいお客さんだ」
闇の中から声がして、キャルルは苦情を申し立てる。
「ボクは、男だよ! リューねえ、大丈夫?」
「平気よ、あんたは?」
幼い姉弟は互いに支えるようにして立った。
薄暗い広間に魔法の明かりが灯り、魔導師の赤いローブが浮かびあがる。
二人からは、ミイラ化した腕と手が握る杖だけが目立って見える。
「我が名は魔導師ゲルテンバルグ。かつて地上で最も真理に近づいた者、今は闇夜と死を統べる超越の存在……」
律儀に自己紹介するリッチとなった大魔導師に、リューリアが問う。
「な、なんのつもり!? わたしたちに手を出すと、大変な目に合うわよ!」
リューリアは脅しではなく、確実な警告をゲルテンバルグに伝えた。
「大人しくするが良い。さすればいずれ帰してやらぬ事もないが……しかしだ、この塔へ無断で侵入するとなると……」
ゲルテンバルグは含んだ語り方をした。
「どうなるって言うんだ!?」
ここでキャルルが一歩前に出た。
「くくく……この七階建ての塔には、我が集めた秘法秘材を使った生を離れたものが蠢いておる。お前達も勝手に出歩くでないぞ、特に一階のボーンドラゴンは狂暴でな……」
ゲルテンバルグは、塔の一階から六階までに、恐るべきガーディアンを配置していた。
迂闊に踏み込めば、気付かぬ内に大魔導師の配下となる。
「姉ちゃん、下がって!」
キャルルが左手で姉を後ろに庇い、右手を背中の剣に伸ばす。
エルフ王の長剣を、片手でも上手く抜けるようになったのだ。
無謀な戦いに挑もうとした弟を見たリューリアは「駄目よ!」と言うつもりが、声が出なかった。
恐怖ではなく、感激の余りに。
リューリアが三つの時に、キャルルが生まれた。
「今日からリューリアもお姉さんね」
そう母親に言われたと、リューリアは信じている。
妹になった時の記憶はないが、姉になった日は覚えているのだと。
リューリアが八つの時に母が亡くなり、泣いてばかりのキャルルも彼女が抱っこすれば泣き止んだ。
ミュスレアが冒険者になってからは、弟の世話は全面的に次女の役目になった。
ずっと大事に可愛がって面倒を見てきて、最近では邪魔者扱いしてくる弟が、自分の前に立ちはだかって守ろうとしている。
リューリアにとって、後ろから抱きしめて「大きくなったわねえ」と言いたいくらいの感動だった。
「……? 姉ちゃん大丈夫?」と、キャルルがそっと聞く。
「う、うん! 平気、全然平気よ!」
リューリアからは、場に似合わない明るく弾んだ声が出た。
長い剣を片手で構える弟も頼もしいが、リューリアは姉とアドラーと仲間達を心から信頼していた。
「その子に傷を付けたら、絶対に許さないし許されないわよ!」
リューリアが宣言すると同時に一階の扉が吹き飛ぶ音がしたが、ゲルテンバルグの声は揺らぎ一つない。
「ほう、もう来たのか……。一階はボーンドラゴン、二階はリビングアーマー九体、三階はマジカルスライム、四階は……。まあ良い、どれしばらく見学といくかね?」
ゲルテンバルグは、青く輝くスフィア球を生み出して、そこにアドラー達の姿を映し出す。
信じられないほどの、地上で並ぶものなき魔力量と技術であった。
そして次の瞬間、スフィア球の中でボーンドラゴンが怒りを撒き散らす祖竜の一撃で砕け散った……。
――十五分後。
「名前は」
「ゲルテンバルグです」
「住所は」
「この塔です」
「職業は」
「不死の大魔導師です」
「なぜこんな事をした?」
「可愛かったので、つい」
アドラーの取り調べに、マレフィカが口を挟む。
「駄目だよー可愛くても手を出しちゃー。眺めるだけだから許される」
魔術で巧妙に隠された塔に着いたアドラー達は、先頭のブランカが勢いのまま扉を破り侵入した。
一階のボーンドラゴンは、「あたしを誰だと思っている!」と激怒するブランカが自らの爪で砕いた。
崩れる骨の横を止まらずに駆け抜けたダルタスが、二階のリビングアーマー九体を切り刻む。
ドワーフの合金で出来た斧は、刃こぼれ一つしなかった。
三階では、あらゆる服も鎧も溶かすスライムが壁中に張り付いていたが、マレフィカが魔法で焼き払う。
四階は踏み込んだ瞬間に十二種類の攻撃魔法罠が発動したが、ミュスレアの絶対障壁が防ぎ、五階のメトロテカクロム鋼の機械人形、六階の魔導師の分身はアドラーが一閃した。
あっさりと捕らわれたゲルテンバルグは素直に自供し、不死の王リッチとなってからの身の上話を始めていた。
「もう大昔ですが、島に難破船が流れ着いたんです。中には赤ん坊だけが生きてましてね。このままではと思い、自分が育てたのですが……この環境にこの顔でしょ?」
ゲルテンバルグは、ミイラ化して筋張り、目も唇もなくなった顔を見せた。
「きゃっ! あ……ごめんなさい」
リューリアが、この日初めての悲鳴をあげた。
「いいんです、いいんです。当然の反応です。けどその子、女の子だったのですが、こんな自分にも懐いてくれましてねえ……。しかし何時までも島に置いておく訳にもいかず、十五年ほどしてガーゴイルで近くを通った船に送り届けました。それから引き篭もって五百年、別れたのと同じ年頃の女の子を見かけて、つい魔がさして……」
「かわいそう」と怒りも収まったブランカが言い、「ボク、男だし!」とキャルルが抗議した。
アドラーは、もう一つ聞いた。
「子供をさらって実験に使う魔導師と言う噂は?」
「こう見えても、元は魔導の一族です。そこまでの悪さは出来ませんよ。そこの魔女と近い部族かも知れませんね、昔は紅い瞳だったんですよ。もう無いですけど」
からからと乾いた笑い声を出したゲルテンバルグを、ダルタスが軽くどつく。
「調子に乗るな」と。
マレフィカが、アドラーを見上げていった。
「だ、団長、この魔導師……許してやってくれない? とても他人とは思えない……」
紅瞳黒髪の魔女に頼まれなくとも、アドラーは魔導師を復活不能になるまで切り刻む気は失せていた。
キャルルもリューリアも、傷一つ無かったから。
賠償、ではなく庇ってくれたお礼にと、ゲルテンバルグが数冊の魔導書をマレフィカにくれた。
「ふおー!? こ、これは失われし古代魔法! こっちは完全な新呪文! 使い方も分からぬ魔道具! ほ、ほんとうに、も、貰ってよいのかな?」
「ここで朽ちるよりは、有効に使ってくだされ」
マレフィカの魔法、強さは、魔力量よりも知識に依存する。
魔法は知らない事は出来ないのだ。
一時間余りで海岸へ戻ったアドラー達は、そこで嵐に揺られる軍艦を見ながら夜を過ごした。
ミケドニア海軍の乗員は優秀で、船を流されたりする事もなく、翌朝には無事に出発する。
ライデンを出てから、団員それぞれが大きく成長する旅になった。
特にキャルルは内面から大きく成長したはずだったが、「キャルルがね『お姉ちゃんは僕が守る!』ってわたしの前にね!」と言って回る姉の自慢が恥ずかしくて、またしばらく引っ込み思案の末っ子に戻る。
今回のクエスト報酬――クルケットから貰った小さな光る鉱石
舞台はライデン市から北の大陸へ移る――。
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