朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第七章

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 ルーシー国を去る間際、アドラーは見送りに来たアストラハンにこっそり聞いた。

「本当にクリミアを呼び寄せるつもりだったの?」
「も、もちろんですよ! 当たり前じゃないですか! やだなあ、アドラーさんたら」

「ふーん……」
「ほ、本当ですよ!? だってもう五年も付き合ったのに……」

「過去形じゃないか。前の対抗戦で来た時に気付いたと思うが、ライデンって美人多いだろ? 交易都市であちこちの血が混ざってるから」

「それはまあ、思いましたが……や、やめてください! それよりも、これからは、孤児院だけでなく子供の分もしっかり稼ぐので、何かあったらお願いします!」

「それはもう、こっちこそ頼りにしてるよ。ただしばらくは、この大陸を離れるかも知れない。無茶はするなよ?」

「えっ大陸をですか? まあアドラーさんが何をしても驚きませんが」

 アドラーはアストラハンとがっちり握手をして、別れた。


 ルーシー国から東へ進むと、レオン王国を横切って海に出る。
 アドラー達が道中で止められる事はなかった。

 ゴブリン狩りをして奴隷として使っていたデトロサ伯フェリペが、僻地の小さな砦で自殺して、レオン王国に平和が戻った後だった。

 レオン王国の首都レオン。
 ミケドニア帝国の大使館に一人で入ったアドラーは、受付に書状を見せた。

 受付の役人は、書状の印章とアドラーを二度見してから、奥に走っていく。

 アドラーにも、何故に帝室の紋章が押されていたか分からない。
 これまで、バルハルトはともかく帝室とは何の関わりもない。

「誰か、ミケドニアのアグリシア家に知り合い居たりする?」
 首都レオンまでの道中、何の収穫も期待せずにアドラーは団員に尋ねた。

 女神のバスティも含めて、女性陣は全員首を横に振る。
 ダルタスは家の名前さえ覚えてないが、少年が手を上げた。

「あのー、兄ちゃん」
 全員の目がキャルルに集中する。

「ギムレットと戦ったギルド会戦の時に、偉い人がいっぱい来てたでしょ? その中に居たんだって、帝国の皇子が」

「えっ、ほんとっ!? 見初められたらどうしよう!」
 リューリアだけが乙女らしい反応をする。

「もう嫁さん居るらしいよ。あいてっ!」
 次女は一瞬にして野望を砕いた弟の頭を叩く。

「リュー、弟だからってぽんぽん叩いちゃ駄目だよ?」
「はーい」

 アドラーが注意しても、リューリアに反省の様子は一切ない。

「ところで、それだけ? たったそれだけで便宜は図らないと思うけど……」
 アドラーはキャルルに続きを尋ねた。

「あーっとね、最近友達になったのだけど、アスラウと。あいつ、その皇子と親戚なんだってさ。ボクらの事も聞かれたって言ってた」

 アスラウは、バルハルト侯爵が後見する宮廷魔導師の一族の少年。
 若くして天才的な才能を持つが、ギルド会戦ではマレフィカに弄ばれた。

「まさかの第二夫人!」とリューリアは再び盛り上がったが、アドラーは逆に警戒をする必要があった。
 偉い人に目をつけられると、ろくなことにならない。

「まあ、使える駒くらいなら良いけど……」
 アドラーには、頼まれたら断れない相手とお近づきになる気はない。

「ねえねえ、アドラー」
 白馬の王子様などが大好きな、夢見るリューリアのテンションは上がっていた。

「なんだい?」
「アドラーは、ちゃんとした教育を受けてるでしょ?」

「まあ、そうだね」
「ひょっとして、北の大陸で王子だったりしないの?」

「まったくしない。というか、世襲の支配層すらなかったよ」
「なーんだ、残念。せっかく第二夫人になってあげようと思ったのに」

 リューリアは軽い冗談のつもりだったが、ぼんやり話を聞いていたミュスレアが衝撃の余りにミスリル合金の槍を落とした。

「え……アドラーって、結婚してたの……?」

 リューリアとキャルルは必死に姉の誤解を解き、ブランカは面白そうに落ち込んだミュスレアを眺めて、猫はロバの上で昼寝をする、何時もの平和な団の風景だった。

 最後に、マレフィカがアドラーにそっと囁いた。
「知ってるか? 実はわたし、ミュスレアよりも年上なんだ……」


 アドラー達は、大使館に居た駐在武官達の厳重な護衛の下で軍艦に乗り込む。

 帝国大使が決められた解呪道具を使って開いた書状には、短い命令が書いてあった。

 ――この書状を持つ一行を、軍艦ゼーレ―に乗せ直ちにライデンへ送り届けよ――と。

 待ち構えていたゼーレー号は、直ちに錨をあげる。
 今回のアドラー達は、軍船を派遣してまで運ぶ客人で、湾を出て帆を張ると艦長が挨拶に来た。

「太陽を掴む鷲の皆様、乗艦を歓迎します。ライデンまでは三日の予定ですが、冬に入り海が荒れますので天候次第です。了解ください。」

「アドラーです、よろしくお願いします」
 アドラーが挨拶を返すと、艦長は手を取ってからいった。

「バルハルト閣下より伺っております、アドラー様。過去の冒険は聞いても良いが、これからの事は聞くなとも。よろしければ、夕食を艦長室へ招待したいのですが。是非、スヴァルトでの話をお聞きしたく」

 ゼーレー号と艦長は、スヴァルト国の沖合で行われた合同演習に参加していた。

「団の皆を招待していただけますか?」
 アドラーは、艦長に尋ねた。
「もちろんです!」と、艦長は即座に答えた。

 オークやエルフの混じる一行を、奇異の目で見る人々は多い。
 嫌な顔一つ見せず即答してくれた艦長を、アドラーは気に入った。

 波は高いが船旅は快適。
 ベッドがダルタスには狭いのを除けば、海水を沸かした風呂まである。

 ライデンまであと丸一日の距離に近づいた頃、艦長が再びアドラーの元へやって来た。

「申し訳ありませんが、今夜は嵐になります。近くの島影に船を泊めますが、大きく揺れるのでご注意ください」

「嵐!?」
 それを聞いた団の子供達が一斉に反応した。
 台風や暴風雨は、何故か子供を惹きつける。

 アドラー達が停泊した軍艦の上で黒い雲と白い波を眺めていると、マレフィカが怖い話を始めた。

「ひょっとしてこの島は……やっぱりそうだ、不死の島じゃないか」

「止めてよ、マレちゃん」
 ミュスレアは嫌がったが、キャルル達は聞きたがる。

「かつて、偉大な魔導師がおったのじゃ……!」
 マレフィカは雰囲気を出して語る。

「その魔導師は、死の間際に秘法を完成させた。朽ちた体に魂を縛り付け、不死の存在となる魔法じゃ。だがそれは腐って崩れいく体を見続けるという呪いでもあった。精神に異常をきたした魔導師は小さな島へと渡り、呪いを解く方法を探してるという……」

 一応、アドラーは聞いてみた。
「それ、本当にあった話?」

「世間では御伽話だけど、魔女の間では真実として伝わってるよ。何でも、実験に使うべく魔法生物で子供をさらうとか。今でも生きてるかは分からないけどねー」

 ブランカだけは律儀に「ひいー」と驚いた。
 キャルルやリューリアは、この話で震えるほど子供でもないのだが……甲板から、二人の足がふわっと浮く。

「むっ!?」
「ガーゴイルだと!」

 ダルタスとアドラーが同時に反応したが、揺れる船で一瞬だけ遅れてしまう。

「姉ちゃん兄ちゃん!」
「お姉ちゃん! お兄ちゃん!」
 キャルルとリューリアの声が島の奥へ向けて遠ざかった……。

 艦長は直ちにボートを下ろす。
 高くなる波をものともせず、鍛えられた乗員達はアドラー達五人と黒猫を浜辺へと運ぶ。

「時間をいただければ、陸戦隊を五十は出せます」
 艦長がアドラーに提案したが、アドラーは考える間もなく答えた。

「直ぐに戻る」と。

 自ら死を超越した大魔導師――不死の王リッチ――は、まだこの孤島に住んでいた。

 どれほどの軍勢を送り込もうが、敵対するゾンビとスケルトンになって戻ってくると言われる不死の王。

 手出しをしようものなら国さえも脅かす異形の存在。
 討伐依頼を出しても冒険者ギルドは見向きもしない、たちの悪い冗談か、本気ならば報酬が絶対に釣り合わないから。

 決して歯向かってはならぬ相手だったが、アドラー達は、かなり本気でキレていた……!
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