朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

文字の大きさ
150 / 214
第七章

150

しおりを挟む

「全然足りないぞ……」
 アドラーがぼやいた。

 バルハルトから巻き上げた金貨百枚は、銀貨で一万二千枚。
 大金なのだが、集まった人数は予想を遥かに超えた。

「五十人から百人くらいが手伝ってくれて、七日もあれば見つかるかなーって」
 アドラーは予想していた。

 馴染みの連中に加え、エスネがクエストに出てない五十人ほどを引っ立ててきた。
 ハーモニアの団と、”宮殿に住まう獅子”団も幹部のアスラウが率いて参加した。

 この時点で百人は大きく超え、しかも強力な連中ばかり。

 ライデン市で第二位のギルドは、”陸に上がった魚の目”というふざけた名前。
 団旗も青地に白丸という簡略なものだったが、団長のサバーニ・カツウォヌスは漁師上がりの陽気な男。

「なんだなんだ? 大漁か? 戦争か?」と寄ってきた所、ミュスレアとエスネが「お前らも手伝え」と引き込んだ。

 まだ団長歴一年未満のアドラーよりも、二人の美女は顔が広い。
 ライデンで一位と二位のギルドが参加した後は、なし崩し的に増えた。

「わははは、暇人が多いからなこの季節は。良かったな、アドラー」
 エスネが能天気に笑う。

 目的も聞かずに興味本位で集まった八百人が、ライデン市を見下ろすグラーフ山を見上げる。

 委員長のエスネが、集まった連中を分配してダンジョンへ送る。
 メインである『グラーフの地下迷宮』以外にも、周辺には数百の小ダンジョンや遺跡があり、実数はライデンの冒険者ギルド本部でも把握していない。

 そこへ、優秀な受付嬢テレーザとギルド本部の上役までやってきた。
「この機会を逃す手はない!」と。

 半年ほど前、アドラーは新設ギルドの試験官を務めた。
 その時、死んだはずのダンジョンからスケルトンが湧き出して、大問題となった。

 ギルド本部は、こつこつとダンジョンと遺跡の調査を始めているが、まだ二割も終わってない。

 テレーザは、満面の笑みでアドラーにいった。
「自腹で調査してくれるなんて、流石はアドラーさんですね!」

「えっ、ちょと待って! こんな人数、破産しちゃいます!!」
「冗談ですよ、冗談。まあギルド本部で特別予算を組みます、激安の」

 冗談だと否定したが、テレーザの目はあまり笑っていなかった……。

 ベテランどころかライデン市を代表する冒険者が集まった一団は、まともに雇えば一日で金貨百枚を軽く超える。

 ほぼ収入にならないと分かったが、集まった冒険者はよく動いた。

「えー、ほんとにすいません。目的の魔法陣を見つけた組には金貨五十枚。残りの五十枚は、打ち上げに使って下さい」

 アドラーの思い切った一言が効果的だった。

 二日目は、参加者が更に増えて千人を超えた。
 これはライデン市に登録する冒険者の実に四分の一。

 三日目も三百人ほど増え、昼過ぎに怪しい遺跡を見つけた組が出た。

「アドラー、来てくれ。見たことない魔法陣で、うちの魔法使いも知らない波動だと言ってる。金貨五十枚、忘れるなよ?」

 三千メートルはあるグラーフ山の八合目まで登った一隊が、異常に長い横穴の遺跡を見つけた。

 夕暮れにも関わらず、ブランカを連れて登山したアドラーは、目的の物を見つける。
 転移装置は、まだ稼働していた。

「目当ての物は見つけたのですが……」
 アドラーは、優秀な受付嬢に告げた。

「まだです。このままこき使いますから、黙ってて下さい」
 テレーザは容赦なかった。

 テレーザの企みに反して、賞金の五十枚が出たとの噂は直ぐに広まったが、冒険者達は四日目も働いた。

 グラーフ山は、ライデンの目と鼻の先。
 この一帯のダンジョンを把握してマッピングしておく重要性は、ベテラン冒険者ほどよく理解していた。

 四日間で述べ四千人もの冒険者が潜り、調査したダンジョンと遺跡は、七百を数えた。
 新しく見つかったのも一割ほどあり、これで全体の八割程が調査済みとなる。

 魔物が出た生きてるダンジョンもあったが、死者も重傷もゼロ。
 ギルド単位でなく、実力者をリーダーにして十人ほどを編制した作戦が功を奏した。

 このような均質な部隊を多数作るのは、ミケドニア帝国軍が目指す新しい軍制と偶然ながら一致していた。

「ギルド単位の冒険者も、変革の時が来るのかなあ……」

 アドラーだけが、誰に聞こえるでもなく呟く。
 数人から数十人の仲間でつるむ冒険者ギルドというものを、アドラーはとても気に入っていた。

 そして四日目が終わった夜に、ライデン市に雪が降った。

 冒険者達は街中に繰り出して飲んでいる。
 本格的な冬となれば大きなクエストは組めない、新人の訓練や新しい力を求めて神殿通い、武器と防具の整備に体力作りとやることは山程あるが。

 何度か顔を合わせた程度の、とある冒険者がアドラーに声をかけた。

「詳しくは知らねえが……行くのか?」
「ああ。詳しく言えないが、ちょっと遠くへな」

「そうか、気をつけてな。なかなか楽しいイベントだったぜ。春になったらよろしくな」
「おう、またな」

 冒険者は、クエストに出る仲間に「さようなら」とは言わない。


 麓まで雪化粧を始めたグラーフ山を、アドラー達が登る。
 あと三日もすれば、山は閉鎖されてたかも知れない。

 エスネやタックス、それにアスラウら、馴染みの数人が見送りに来た。

「ついて行ってやりたいが、ロゴス団長が腰に魔女の一撃を食らってなあ。今は私が仕切りなんだ」

 エスネが残念そうに、アドラーとミュスレアに言った。
 ぎっくり腰は、この世界の治癒魔法を使っても全快まで時間がかかり、また再発もする。

「気持ちだけもらうわ、ありがと」
 ミュスレアとエスネが軽く包容して別れの挨拶に代える。

 次は自分の番かとアドラーの胸が高なったが、エスネにはリューリアが飛びついた。
 最近のリューリアは、姉以外の女性が団長に近づくことを許していない。

 空振りしたアドラーには、タックスが肩を回す。

 キャルルとアスラウが、ぽんぽんと腕と手を合わせて二人だけの意思疎通をする。

「と、尊い……!」
 マレフィカは感激の余りに涙しそうになっていた。

「僕も行きたかったけど、爺ちゃんが駄目だってさ」
「土産話、楽しみにしてろよ。またな」

 若い二人も流儀にならい「さよなら」は言わない。

 ハーモニアは見送りに来なかったが、ダルタスは「戻ったら食事の約束を取り付けた」と、自慢そうに語っていた。

「みんなありがとう、またな。さて、行こうか」

「にゃー!」と、毛布にくるまれた団の守り猫が気合を入れる。

 ”太陽を掴む鷲”が古代遺跡に踏み込んだ。
 ドリーさんだけは近所の農家に預けて、七人と一匹がいざ北の大陸へ――。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

処理中です...