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第七章
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しおりを挟む試しに転移装置を動かしても、土砂が出てくる事はなかった。
それでもアドラーは、安全を確認する為にバスティを最初に送る。
「動物虐待だにゃ」
「神様なんだから我慢して」
「酷いにゅ! まあうちは死んだりしないけど……」
体だけなら時間はかかるが再生出来る猫の神は、罠もなく空気もあると確認して戻ってきた。
アドラーとブランカは、ギルド対抗戦からおよそ三ヶ月ぶり。
他の五人は初めて北の大地を踏んだ。
「兄ちゃん、暗い!」
「まっくら!」
キャルルとブランカのテンションは高い。
アドラーも心躍るのだが、はしゃぐ二人を見て落ち着かせる。
ここはアドラクティア大陸の西岸沖にある離れ島。
春から夏は本土から船が来ると、村人は語っていた。
以前アドラーが会った村人達は、忠告を聞き入れて遺跡をしっかり隠していた。
「縄はしごがある……」
明かりをつけたマレフィカが出入り口を見つけた。
このあたりの住人は素朴である。
「いっちばーん!」とブランカが飛びついて猿のように軽々と登る。
「ちょっとキャルル、下から覗くんじゃないわよ?」
「誰が見るか、そんなもん! いたっ!」
生意気な弟をしめたリューリアは、結局アドラーが背負ってよじ登った。
それから、縄に荷物を結び何度も往復させる。
今回のアドラーは様々な物を持ち帰っていた。
「では、私はこれで……」
最後にマレフィカがほうきに乗って、縄を使わずに穴から出た。
遺跡から出た地上は、シード島と呼ばれる孤島。
冬のライデンから夏の青空へ移動して、アドラー達は一斉に服を脱ぐ。
シード島の様子は、タタンカと呼ばれる黒い野牛があたりを走り回り平和そのもの。
「がおーがおっがおっ! ブランカ様のお帰りだぞー」
再び故郷の土を踏んだ竜の子は、とてもご機嫌。
「ブランカ、ちょっと叫んでみて。仲間の竜を呼ぶつもりで」
「きょ、今日は吠えてもいいのか!?」
「ああいいぞ、存分に吠えろ。二度唸っても良いぞ」
普段は、ライデン市に竜が飛んできたら大騒ぎになるので、ブランカのドラゴンブレスと咆哮は団長の許可制。
しかしここまで来れば、何の遠慮もいらない。
アドラーは、ブランカの眷属を使って空の旅を決め込むつもり。
そのために、重いドリーさんと荷車は置いてきた。
「完璧な作戦だ。これでサイアミーズ軍が整う前に強襲して説得出来る。ふはははっ!」
アドラーの高笑いに続いて、ブランカの鋭い遠吠えが北半球の空に初めて響き渡った。
草を食んでいた野牛のタタンカがびっくりして走り出す、遠くの森では鳥の群れが逃げ飛ぶ。
「……何もこないな」
「うう……返事もない……」
「よ、よしブランカ、もう一度だ」
次の咆哮は、少し悲しそうな響きが混じっていた。
「だんちょー、ひょっとして、あたしの一族はもう……」
「そ、そんなことない! そんなことはないぞ! ここは大陸から外れた孤島だ、きっと声が届かないだけだからな!?」
アドラーは、涙ぐんだブランカをぎゅっと抱きしめる。
ブランカが腰に回した手に力が入り、骨と内臓が悲鳴をあげたがアドラーは強化魔法を使って全力で耐える。
アドラーも、まさか何の反応もないとは思っていなかった。
「心配しないの、一族が見つかるまでお姉ちゃん達がずっと一緒に探すから」
「ほら泣かないの。かわいいお顔が台無しよ?」
ミュスレアとリューリアが、ブランカを挟み込むようにしてあやす。
三姉妹の三女の位置にある竜の子は、二人に交互に慰められてやっと顔を上げた。
「全然へいき! 竜は高い山がすき、だから行ってみないと分からない!」
夏の日差しの中で、にこっと笑ったブランカに一行は安心したが、アドラーは困っていた。
「竜に乗せてもらおうと思ってたんだけどなあ」とは口が避けても言えない。
アドラーは失念していた。
音波や振動で何十キロも離れてコミュニケーションを取る動物は沢山いるが、同族でも初めて聞く声には警戒が先に来ることを。
ところが、竜の声を聞いてやって来た者もいる。
「あんれ? あんたら、また来ただか?」
島の住人が、手に手に農具を構えてやってきていた。
アドラーは、軽く手をあげて村人に挨拶をする。
転生人のヒト族と、ヒトとエルフのクォーター、魔女とオーク、それに竜と猫の集団は、この大陸では目立たない。
だが完全武装で珍しい文物を持ってるとなれば別。
村に入ると、子供らが寄ってくる。
「がおー、だぞ」
「ブランカ、やめなさい」
かわいいブランカが子供を脅し、綺麗なリューリアが妹を叱る。
村の子供らに警戒される要素は、まったくなかった。
天敵である昆虫型モンスターが同居する北の大陸では、次世代を担う子供を親だけでなく社会で守る。
孤児になったから、別の種族だからと区別される事はなく、子供らを守る社会はアドラーにとっても前世から馴染みのもの。
「村長の家さ行くだ。あれ以来、本当に三つ首の魔物を見なくなって、お礼を言いたかったでな」
村人はアドラーを歓迎した。
フェンリル――元は南から来たものだが――を倒してくれた礼を改めてしたいと。
村長との再会もそこそこに、アドラーは頼み事をする。
「ほう、今回は海を渡りたいと」
「そうです。この大陸に、優れた武器を持った軍隊がやってきます」
「交易船が来ておりますから、ご紹介はいたしましょう。いささか、信じ難い話ではありますが……」
「これを見てもらえますか?」
アドラーは、二丁の魔弾杖を取り出した。
シャイロックに紹介させたカナン人の武器商人から裏ルートで仕入れた最新型、二丁で金貨十六枚。
「穴の空いた棒……?」
シード島の村長の反応は、いたって普通。
「外で威力をお見せしましょう」
アドラーは、最新兵器の実演を行った。
手軽で高威力な武器を、シード島の村長は欲しがったがアドラーもここでは渡せない。
もっと大きな街、出来ればドワーフの工房があるとこで二本ともくれてやるつもり。
一本を実験用、もう一本を分解し、ドワーフ族なら数年内に模倣品を作れるだろう。
「同水準の武器があれば、一方的な侵略は止まる」と、アドラーは知っている。
もちろんこの魔弾杖は、対ナフーヌ戦でも絶大な威力を発揮するはず。
村長に紹介された交易船を、アドラーはこの夏一杯の契約で貸し切った。
金貨に加え、これまた南の大陸特産である、風の精霊を呼ぶ帆を付ける。
船主でもある船長は、素晴らしい笑顔でアドラーに雇われた。
アドラー達は、アドラクティア大陸の南岸に沿って東を目指す。
途中で巨大なサメや、手足を振り回すクラーケンが出るが、当然のように一蹴する。
「このあたしに襲いかかるとは、世間知らずな雑魚どもめ!」
特にブランカは、故郷の大地から力を得て絶好調。
アドラーは、北の大陸の地理を知っている。
サイアミーズ国は、移転先がどの辺りか全く分からず、断片的な情報はミケドニアにも漏れた。
バルハルトから情報を受け取ったアドラーは、敵の出現位置に目星を付ける。
間違いなく大陸中央南岸の、渓谷地帯だと。
だがしかし、まだアドラーは敵対するとは決めていない。
サイアミーズ国が、武力を脅しに使い有利に話を進めるにしても、平和的に交易を申し込むならば手を出す理由がない。
それはアドラーにとって、理想的な両文明の接触だから。
昆虫型の魔物ナフーヌの侵入が少ない渓谷地帯には、街が点在する。
その一つをアドラー達は目指す。
「待て、ここで止まれ」
アドラーが右手をあげて、全員が止まる。
「ミュスレア、全員を連れて山に隠れろ。俺は様子を見てくる」
街まで数キロの地点で、アドラーが単独で斥候に出る。
炊事にしては濃すぎる煙と、嫌なものが焼ける臭いが漂っていた。
アドラーは、この大陸の住人とも、サイアミーズ国とも意思の疎通が出来る。
多少の揉め事ならば、出て行って穏便に解決することが可能。
崖の上から町を見下ろしたアドラーは、大声を出してしまう。
小さな町で、住人は千も居ない。
飾り程度の防壁は、強力な正規軍を相手には何の役にも立たず、家が崩れて人が倒れていた。
その中に、ドワーフ族の子供と思われるものが幾つかあった。
「何てことをした! 貴様ら、子供を殺したな!!?」
町を攻めたサイアミーズの部隊は、五百あまり。
圧倒的な軍事力で、戦死どころか負傷者すら出さずに攻略し、食料をかき集めていた。
叫んだアドラーが、崖から飛び降りて切り込む。
アドラーの二つの人生で、怒りに我を忘れたのは二度目。
一度目は、前世で命を落とす原因になった、殺される子猫を見つけた時。
不意を突かれた兵士の首が二つ同時に飛ぶ。
よく訓練された兵士達は、武器を手にして指揮官を見るが、アドラーはその視線を追った。
小隊長とおぼしき者が、三人目の死者。
兵士は指揮序列に従い次の指揮官を見たが、命令が出るよりも早く、アドラーが殺す。
士官を失って崩れた兵士の背中も、アドラーは斬りつける。
二つの大陸の出会いは、最悪なものになった。
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