朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第七章

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 サイアミーズ軍は、百人の小隊を五つで大隊。
 十二の大隊で一つの軍団となり、今は二十四個の軍団を備えている。

 集落へ入り込んでいたのは二個小隊で、およそ二百人。
 アドラーが倒したのは、一方の小隊長と副隊長。

「くそがっ、脆すぎるなこいつら」
 アドラーは、予想外の反応に毒づいた。

 頭を失った百人の兵士は、一斉に逃げ出していた。
 上官の死体も見捨てて全員で集落から遁走していく。

 アドラーは追いながら周囲を探る、予定にない兵士の動きに冷静さが戻っていた。

 漂う血の臭いと肌を刺すような敵意が充満し、戦いの記憶が蘇る。
 この先に何が待つか、地球の知識とこの世界での経験から確実に予測出来た。

「指揮官を失った小隊は即座に大隊長の元へ戻り、無傷の小隊はその場で戦闘準備か。なら、浮かれて深追いすれば……」

 アドラーは、逃げる一隊を追うふりをして村の入口から顔を出した。
 村を攻囲していた残りの三百人が列を揃えて待ち構え、五十ほどの弾丸が一斉に飛んでくるが、即座に頭を引っ込める。

「なんつー軍規だ。大陸最強の陸軍国家は伊達じゃないな」

 サイアミーズの兵士は、小隊長と副官を失ってなお決められた軍律に従って後退し、アドラーを味方の杖列に引き込もうとした。

 飛び下がって伏せたアドラーの上を、魔弾杖から発射された加速体が飛んでいく。

 僅かに、アドラーの耳に敵の声が聞こえてきた。

「避けただと! くそっ、何処の者だ!?」
 サイアミーズ軍は、『何者か』でなく『何処の国か』を気にしていた。

 アドラーは軽率な行動を少し後悔した。
 既に、魔弾杖を知る南の大陸の者だとバレてしまった。

「大隊クラスでこれか、先が思いやられるな」

 定数六千の一個軍団に、大隊長は十二人いて軍団長もいる。
 アドラーでも、六千人とは戦えない。

 だが、集落に残る百人ならば一戦交える価値がある。
 敵の斉射の合間にアドラーは村の奥へ戻り、兵の死体から魔弾杖を集めた。

 単純に金属の玉を発射するだけの兵器は、数が伴って素晴らしい威力を発揮していた。
 魔力を補給する魔術師さえいれば、火薬も必要なく雨でも使える。

 弓矢の矢は一人五十本を運ぶのも難しいが、弾丸は百でも一人で運べる。
 五百の兵士から一万発を超える攻撃を受けた集落は、既に廃墟だった。

 穴だらけになった家の間を通り抜けたアドラーの近くで、二つの人影が倒れ込む。
 アドラーは、軽率な行動が無駄でなかったと知った。

「ひっ! お、お許しを!!」
「母ちゃん!」

 貴重な鉱石が出る渓谷地帯の集落には、当然ドワーフ族が多い。
 生き延びたドワーフ族の母が、子供を庇いながら地面に頭を擦り付ける。

「静かに。大丈夫だ、味方だ。ヴィエンナ方面軍の……元だけど、敵じゃない」
 アドラーはこちらの言葉で語りかける。

「急にやってきて! わたし達だけでは!」
 母ドワーフは、まだ恐怖から立ち直れず顔もあげない。

「落ち着いて、山に逃げても良いが。逃してくれるか分からない、地下室があればそこへ」

 『山』と聞いた母ドワーフがアドラーの顔を見た。

「お、男達が山に! 直ぐに戻ってきます、あなたも一緒に!」
 母親は、アドラーにも隠れるように勧めたが、そうはいかない。

「そうか。男達が不在か、ならば急がねば。さあ早く!」

 這うようにして一件の家に入り込んだ母子と別れ、アドラーは進む。
 ドワーフの男は、器用でそして勇敢。

 怒り狂った彼らが侵入者に襲いかかり、そして皆殺しになる前に決める必要があった。

 アドラーは、集落に居座る百人の小隊を伺う。
「円形で二重の防御陣、中央に指揮官と魔術師。外と連絡を取ってるな」

 銃とほぼ同じ魔弾杖なら、防御は方陣が良いがまだそこまで戦術が発展していない。
 アドラーは隙を作るため、死体から拾った二本の杖を使った。

 散弾になるように弾を三つ込めて、時間差で起動するように魔力の流れを調節してから、その場を離れる。

 およそ1分後、無人の魔弾杖が円形の防御陣に向けて弾丸を発射し、小隊は一斉に反撃した。

 次の弾を込めようとして出来た隙に、別の方角からアドラーが切り込んだ。

 掛け声などなく静かに左右に振るわれた竜牙刀は、血しぶきと悲鳴を生み出し、刃が最優先の目標を捉えた。

「ぐぁ……!」
 一刀で魔術師が縦に別れて絶命する。

「な、何者か!?」
 小隊長と副隊長と、周囲を固める二十名ほどが剣を抜くが遅い。

 アドラーの操る短射程の攻撃魔法が立て続けに炸裂し、副隊長と共に十人ほどが吹き飛んだ。

 爆煙の中で、アドラーは小隊長の剣を指ごと落とした。

「下がれ! 貴様らの隊長が死ぬぞ!」
 アドラーは捕まえた小隊長が、部下に嫌われていないことを祈る。

「くそ、構わん! 俺ごと殺せ!」と小隊長が叫び、アドラーは少し安心していた。
 このタイプの指揮官は、部下には好かれるものだ。

「大隊長と話がしたい。その後にこいつは返してやる、もう無傷ではないけどな」
 アドラーは兵士の判断を超える条件を持ち出した。
 上司を名指しされると、部下は動けないのが組織の良いところ。

「本隊のとこへ行け! 死体を拾うのを許す」
 きつく締め上げた小隊長に代わり、アドラーが命令を下した。
 判断が付かぬ兵士が従って動き出す、誰も直接の隊長を殺したくはない。

 まだ四百八十人以上が残るサイアミーズ軍大隊と、小隊長を人質に取ったアドラーが向かい合う。

「部下を離し投降せよ。命は保証しよう」
 徒歩の大隊長が告げた。
 十人以上の同僚を殺された兵士は殺気立っていて、捕まれば命はないのはアドラーも分かっている。

 だが大隊長は情報も欲しがっているので、直ぐに殺すつもりはないとも分かる。
 そしてアドラーは投降する気などない。

「この大陸には、先住民が住む。言葉も近く分かり会えるはずだ。何故殺した」
「やはり我らと同じ土地から来た者か……。ミケドニア、アビシニア、その他あるが所属を名乗られよ」

 大隊長は質問で返した。

「種族連合ヴィエンナ方面軍所属、アドラクティアのアドラーだ」
 アドラーは、古い所属を名乗った。

「アドラクティアとは何か」
「この大陸の名前だ」

 大隊長も、周囲の兵士も息をのむ。
 まだその名前も知らなかったようだ。

「シ、シルクスト隊長、奴を捕まえよ! 貴重な情報源だぞ!」

 大隊長に口を出す者があった。
 一人だけ騎乗し、衣服は軍人ではないが華美で偉そうなもの。
 宮廷の者か神殿の者か何かの学者か、アドラーには判別が付かないが大隊長も気を使っている。

「まずいな……」
 目の前で揉めてくれるのはアドラーには有り難かったが、別の問題が発生していた。

 アドラーから見て左手の山陰に動く集団があった。
 ミュスレアやダルタスではない、ドワーフの男達が山から戻ってきていた。

 このまま混戦になるのだけは、絶対に避ける必要がある。
 ドワーフ達がさらに殺されるだけでなく、訓練された数百人に囲まれればアドラーでも危険なのだ……。
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