朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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八章

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「父ちゃん!」とブランカが呼ぶ度に、ダークエルフのリヴァンナが苦しそうに心臓の辺りを抑えてよろめく。

 その様子が面白くて、ブランカは何度も「父ちゃん!」と言う。
 まだ二十五歳のアドラーには不満であった。
 アドラーは試しに訂正してみた。

「お兄ちゃん、で良いんだぞ?」
「それなら、だんちょーでいいや」
 ブランカはまったくつれない態度。

 白竜の子供は密命を受けていた、命令を出したのは次女のリューリア。
 北へ行く前に、リューリアはブランカの目を見て言い聞かせていた。

「良いこと、ブランカ。もしも万が一にも、団長に女の人が近寄ってきたら親子のふりをするのよ?」
「はーい! けど何で?」

 ブランカは純粋な疑問で聞き返す。

「わざわざ子持ちの男を誘惑しようなんて女は、絶対にいないからよ。お兄ちゃん、ああ見えて意外ともてるから……お金もないし、見た目も普通なのに何処が良いのかしらね」

 リューリアは自分のことは棚にあげて、微妙にずれた答えを返した。
 幼いブランカにはいまいち理解出来なかったが、何時も美味しい料理を作る次女の言葉は絶対で、きちんと命令を守っていた。

 そしてアドラーは、イグアサウリオにこっそり尋ねた。
「……リヴァンナさ、体調悪いみたいだけど大丈夫かな?」

 リザード族のプリーストは、具体的なことは一切答えず、心底から残念な者を見る目つきを若き友人に向けただけだった。

 イグアサウリオとリヴァンナ、それと付いて来たシャーン人が三名、合計で五人の助っ人が加わった。
 元々、アドラーやダルタスは並の三倍は貢献度を稼ぎ、イベント大好きなミュスレアは十倍も稼ぐ。

 実力ある者が五人も増えれば何とかなるとアドラーは考えていた。
 出来ればもう一人くらい欲しいところだ、飛び抜けて戦力になり、尚且アドラーと親しい者などそう簡単には見つかるはずもない。


 一行が南の大陸に戻るのには、最も近いミケドニア帝国の遺跡を使う。
 アドラーは事前に、バルハルト将軍から通行許可証を貰っていた。

 バルハルトは「余り揉め事は起さんでくれよ?」と言いながらも、アドラーの頼みを引き受けた。

「ただ行って帰るだけです、揉め事なんて起きようはずもありません!」
 アドラーはそう力説したのだが、歴戦の将軍に信じる様子は全くなかった。

 そして揉め事は、アドラーが起こすのではなく行った先にあった。

 ミケドニア帝国の遺跡を囲む基地――ここの警備は帝国軍が担う――の前で、小柄な人物が騒いでいた。

「ここを通せ!」
「許可の無い者は通せない」

 ミケドニア軍も、支配者として新大陸に君臨することには失敗したが、武力と技術と文明は圧倒的に優位な立場のまま。
 高圧的といかないまでも、上からの目線は変わらない。

 一方の小柄な人物は有翼族だった。
 翼を背に持つ平和的なはずの種族が、一歩も引かず帝国兵に怒鳴り散らす。

「てめぇら、俺が誰か知ってるのか!? 死んで後悔しやがれ!」

 魔弾杖を装備した帝国兵に対し、過激な行動を取ろうとした人物を止める為にアドラーは動いた。

「イグアサウリオ、行くぞ」
「いかんな、これは危険過ぎる。早く止めねば」

 戦闘態勢に入った二人が可能な限りの速度で走り出す。
 アドラクティア大陸の平和と、帝国兵の命を守るために。

 暴力的なまでの魔力が膨れ上がる兆しをアドラーは感じ取る。
 その魔力の波動と、禍々しくも美しく広がる緑色の混じった白い翼にアドラーとイグアサウリオは覚えがあるのだ。

 ぎりぎり巻き込まれない距離まで近づいたアドラーが、かなり真剣に大声で叫ぶ。

「やめろ、バシウム! 俺だアドラーだ、分かるか? よーし落ち着け、殺すな、話せば分かる、分かるんだぞ?」

 小柄な有翼族は、自分の翼と同じ色合いの髪を振り乱してアドラーを見る。
 人を殺せる目つきで睨んでから、長髪の有翼族は急に表情を崩した。

「あれ? なんだアドラーか!?」

 骨を溶かせる温度の魔法を準備していた有翼族は、あっさりと攻撃を中断した。
 アドラーが兵士達とバシウムの間に入り込んで、一枚の紙を取り出して帝国兵に言った。

「ライデン市の冒険者だ。ここにバルハルト閣下の署名がある、特別通行証だ。俺に任せて武器を下げてくれ」

 兵士達は書類を確認したが、魔弾杖はバシウムに向けたまま。
 何故ならば、今も青い炎が有翼族の周りを漂っていたのだ。

 アドラーがかつての仲間にも語りかける。
「バシウム、お前もだ。魔法を解いてくれ、そのままだと俺まで灰になってしまう」

 じりじりと近づいていたバシウムが、ようやく気付いたといった顔をして、超高熱魔法を停止させてから、一挙に距離を詰めてアドラーに飛びつく。

「あはははっ! 本物のアドラーだ、生きてたし生きてる! お前酷いなあ、俺に挨拶もせずに消えるなんて!」

 頭から飛び込んできたバシウムを、アドラーは軽々と受け止めた。
 有翼族は、骨も細く筋肉も余り付かない種族で、北の大陸アドラクティアだけに住む。

 男女の差が少なく、バシウムも少年なのか少女なのか簡単には見分けが付かない。
 実はアドラーも詳しくは知らなかったが、とりあえず『女の子』として扱っていた。

 陽気でお喋りで、音域の高い良く響く声で歌い、戦場に居た頃のアドラー達を和ませていた、攻撃型の魔法使いがバシウムだった。

 じゃれ付くバシウムを押し返しながらアドラーが答える。
「だってさ、旅に出てて何処にいるか分からなかったし。それにしても、元気そうで良かった」

 押し返す手をかわして、もう一度バシウムがアドラーに抱きつこうとした時、白い物体が邪魔に入った。

「おい! だんちょーはあたしのだんちょーだぞ!」
 珍しくも、ブランカが敵意をあらわにしてバシウムに凄む。

「なんだお前? アドラーは俺の隊長だぞ?」
「あたしのだんちょーだ!」

 緑が混ざる白髪と、金属的な光沢を持つ白髪を持つ二頭が睨み合う。
 背の高さも同じくらいで、どちらの顔つきもまだ幼さが抜けていない。

 そしてアドラーは知っていた。
 ブランカは竜の化身、その一撃は大地をも消し飛ばす。
 翼を持つ一族のバシウムは、生まれ持った魔法の才能を全て攻撃力に注ぎ込む、灼熱の天使。

 この二頭が好きに暴れれば、辺り一帯は何も残らない、遺跡だって蒸発してしまう。

「どうどう、二人とも落ち着け。いいか、その攻撃態勢を解くんだ今すぐに!」

 額を付けて睨み合うブランカとバシウムを引き離しながらアドラーは続けて聞いた。

「ところでバシウム、お前は何でこんな所に? 南の大陸に用事でもあるのか?」

 再び思い出したといった顔になったバシウムがアドラーに訴える。

「あのな、こいつらが俺の仲間をさらって返さない! だから力づくで取り戻しに来たんだ! 隊長、手伝ってくれ!」

 バシウムとアドラーが共に戦ったのは、もう四年近くも前のこと。
 当時十四才だった有翼族の天才児は、アドラーの命令で持てる全ての魔力を敵にぶつけていた。

 その時と変わらない、完全に信頼する目をアドラーへと向ける。

「よし分かった、詳しく聞こう」
 もちろんアドラーは請け負った、そしてミケドニアの兵士に頼み事をする。

「すまないが、ここの司令官に伝えてくれ。ライデンの冒険者ギルド、”太陽を掴む鷲”の団長、アドラーだ。至急お目にかかりたいと」

 二人の兵士が、飛び跳ねるようにして駆け出した。
 この大陸に派遣された兵士なら、アドラーのことを知っている。
 わずか半年前に、ドラゴンの大群を引き連れて百万の魔物に囲まれた味方を救った男だから。

 そしてアドラーは、再び睨み合いを始めたブランカとバシウムを丁寧に引き剥がす。
 さらに後ろでは、ダークエルフのリヴァンナが何も言わずに子供二人に構う隊長を見つめていた。

 様子を眺めていたイグアサウリオが、そっとリヴァンナに近づく。
「あ奴はああ見ておなごに好かれる。積極的にいかねば、南の大陸から帰ってこなくなるぞ?」

 無口なリヴァンナは返事はしなかった。
 だがお節介なリザード族の一言が、死霊使いネクロマンサーのダークエルフに火を付けていた。

 その直後、走って戻って来た兵士が言った。
「アドラー様、司令官がお会いになるそうです。お連れの皆様も中へ!」

 アドラーがまだ睨み合っている二人の少女を連れ基地の中へ。
 後ろには、イグアサウリオとリヴァンナと三人のシャーン人が続く。

 まだアドラーは知らないが、この時に、南の大陸で睨み合う二つの超大国、ミケドニア帝国とサイアミーズ王国に跨る大事件が幕を開けていた。
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