朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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八章

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 ”太陽を掴む鷲”団の北大陸支部、そこの長を務めるイグアサウリオは慎重な男である。

 ヒト族よりも少し長い寿命の半分ばかりを過ごし、同族のみならず他種族からも尊敬を集める優れた治癒魔法の使い手。

 慎重なイグアサウリオは、人生で一度だけ大きな賭けに出たことがあった。
 まだ若きアドラーを、自分が補佐するから上級指揮官へ抜擢しろと上層部に迫ったのだ。

 イグアサウリオは賭けに勝った。
 だがリザード族の英雄は、アドラーに恩着せがましく接したことはない。

 支部に戻って来たイグアサウリオは、普段と空気が違う事に気付いたが表には出さなかった。
 その代わり後ろの連れに、にこやかに話しかけた。

「どうだ活気があるだろう? あちこちから夢見る若者が集まっておる。お主の能力を生かすにも良い場所だぞ?」

 リザード族の後ろに立っている女は、黒いトーガに黒い帽子を目深に被っていて、何の感慨もなく言い返す。

「騒がしいだけ。うるさいのは嫌い」

 感情のない言い方にも、イグアサウリオは嫌な顔一つしない。
 むしろ牙を見せるくらい笑って答えた。

「まだまだこれからなのだよ、この冒険者団も、この大陸も。だからお主のような実力者をだな……」
「サウリオ……そういうのは良い。私のダークエルフ族はお前の商売を手伝うだろう」

 にこやかなイグアサウリオを見ながら、ダークエルフの女は小さな声で尋ねた。

「サウリオ、ここに、ア、アドラーが来るのか?」
「そりゃあいつが団長だからな。様子を見に来るさ、お主も会いたいだろう?」

 ダークエルフの少女リヴァンナは、帽子で表情を隠しながら答えた。
「……生きてるなら、顔を見たいだけ」
「ま、そういう事にしておこうか」

 イグアサウリオが上から下までリヴァンナを見る。
 ゆったりとした黒い上衣も帽子も、エルフ族の伝統的な喪服だった。

 前回、北の大陸に帰って来たアドラーは「急ぎの用事がある!」とさっさと南へ戻った。
 理由はもちろん団で挑むイベントだった。

 かつての仲間だったリヴァンナに生存を伝える役目は、イグアサウリオに託された。

「イグアサウリオ、機会があれば伝えてくれ」とアドラー。
「自分でやれ」と即答したリザード族に、アドラーは本気の表情で言った。

「いや、だって、リヴァンナとは余り仲良くないし……むしろ嫌われてたかなって」
 その言葉を聞いたイグアサウリオは「お前は馬鹿か?」と言いたげに若い友人を見つめていた。

 華やかなダークエルフ族には珍しく、リヴァンナは物静かな性質だった。
 物言いたげに見つめるならともかく、何を考えているか分からず、常にレイスやゴーストと内緒話をする死霊使いネクロマンサーの少女が、アドラーは苦手であった。

 闇の森の支配者リヴァンナは、北の大陸でただ一人、戦闘級の能力を持つネクロマンサーだった。
 
 しかし何故かアドラーにだけは厳しく当たる。
 小さな声で暴言を吐かれたことも、十回や百回ではない。

「どうやら余り好かれてないらしいが、彼女は人々を守るために仕方なくでも従ってくれている」
 アドラーはそう思っていた。

 ただしイグアサウリオは、古代ハイエルフに先祖還りしたかのような力を持つ少女と、変わった知識と能力を持つ少年を暖かい目で見つめていたが。

 その支部長の所へ、受付のノームが急ぎ足でやってくる。
 報告を受けたイグアサウリオはノームに尋ねた。

「誰と共に来た? エルフの娘と一緒に来たか?」
「いいえ、リザードの娘、いや本人は竜だと言い張ってますが、お二人でいらっしゃいました」

「ふむ、それなら良いかな」
 慎重なイグアサウリオは、後ろのリヴァンナに悟られぬように胸をなでおろす。
 もしも、この大陸最強のネクロマンサーが暴発すれば、イグアサウリオが何年もかけて浄化せねばならない数の悪霊が溢れることに間違いない。

「あー、リヴァンナよ。心して聞いてくれ、待ち人来るじゃ」

 褐色肌に濃紺の髪と瞳、他人の目を惹く容姿と身体を持った少女は顔に疑問符を浮かべる。

 イグアサウリオは続ける。
「アドラーの奴がな、来ておる。二階の支部長室に、おるとな」

 何も言わずに、リヴァンナは風の精霊を使って一瞬で二階に飛び上がった。
 大陸最強のネクロマンサーは、エルフ族らしくエレメンタラーも兼ねる二重能力者。
 その気になれば、一人で数千人分の兵士の役割が出来る最後のハイエルフ。

 ほとんど表情を変えない、使役者らしく感情も表に出さないリヴァンナが、薄く微笑みながら、支部長室の扉を開く。
 中では、アドラーとブランカが仲良く昼ごはんを食べていた。

「うおっ、誰だ!? って、リヴァンナか? 流石はエルフ、四年くらいでは何も変わらんなあ」
 間抜け面のアドラーが、お箸でたくあんを持ち上げたまま喋った。

 ダークエルフの娘は、珍しくも複雑な表情を浮かべる。
 言いたいことは山程あったが、今は再び生きて会えた喜びを伝えるべきだとリヴァンナの聡明な脳が告げる。

「あ……」
 何事かを言おうとしたリヴァンナより少しだけ早く、ブランカが口を開いた。

「父ちゃん、誰だこのひと?」
「え? む、娘!?」

 驚いたリヴァンナに、アドラーが手を振りながら答える。

「いやいや、違う! たった四年でこんな大きな子が出来るはずないだろ! ブランカも、普通にだんちょーって呼んでくれよ」

 いたずらっ子らしく小さく舌を出したブランカが「はーい」と返事をしたが、リヴァンナは聞いていなかった。
 度重なる衝撃の余り、その場で気絶したネクロマンサーの周りには、一体で兵士二十人分とも言われるレイスが、数体ばかり湧き出していた。

「お、おい、リヴァンナ! やめろ、止めろ! イグアサウリオ、居るか? レイスが出た、浄化と封印だ! またリヴァンナがやりやがった!」

 しばらくの間、太陽と鷲の支部はレイスを外に出さないために、全力で戦う羽目になった……。


「な、なんでこんな目に……」
 レイスを三体も相手にし続けたアドラーは、疲れ切っていた。
 そして純粋な疑問から、目を覚ましたリヴァンナに聞く。

「気絶するほど驚かなくても良いだろ? もし幽霊だったとしても、そっちはお前の専門分野なんだしさ」

「違う」と言ったきり、リヴァンナは「分かるでしょ」と言いたげにアドラーを見る。
 もちろんアドラーは「さっぱり分からん」といった表情を返す。
 ただイグアサウリオだけが、楽しそうであった。

 竜のはずのブランカは、団長にしがみついてまだ震えていた。
「幽霊、こわい」と。

 起きてからずっと非難する目つきのリヴァンナに、アドラーも何となく謝る気になった。

「あー、すまん。生きてたんだが、遠くに飛ばされて記憶も曖昧だったんだ。こっちに来れるようになったのも最近でね……」

 期待していたのと違う言葉だったリヴァンナは、細い指をアドラーに向けながらイグアサウリオを見る。

 リザード族は、また笑いながら答える。
「こいつはそういう奴だ、お主も知ってるだろう。ところでアドラーよ、何か用事があると聞いたが」

「ああ、そうだった。ちょっと力を借りたいと思ってね」
 ようやく本題に入れたアドラーが事情を話し、イグアサウリオは即座に快諾した。

「ほう、南へか。ちょうど興味があったところだ、わしが行こう。手の空いてる者を何人か同行させても良いが、リヴァンナよ、お主はどうする?」

 聞かれたリヴァンナは後ろを見た。
 彼女の背後には、数人のシャーン人――以前に、アドラーに捕らわれてリヴァンナに預けられた南の大陸のダークエルフ族――が居た。

 今回は、彼らに出来る仕事を求めてリヴァンナはやって来たのだ。
 シャーン人の一人が、代表してリヴァンナに話す。
 
「わたくしどもは何処へでも。むしろ南の大陸の方がお役に立てるやも」

 まだ決めきれぬリヴァンナを後押しする一言を、イグアサウリオは言った。

「ときにアドラーよ、南で出会ったハーフエルフの娘とは上手くいっておるのか?」

 今度はアドラーが答えるよりも先に、リヴァンナが手を挙げた。
「わたしも、行く」

 そしてダークエルフ族で最強の娘は、まだ怯えるブランカを押しのけるようにしてアドラーの隣に立つ。
 喪服として着ていた黒いトーガと帽子は、その辺に投げ捨てる。

 ゆったりとしたトーガから出てきた褐色の体を見たブランカが、一つ唾を飲んでから言った。

「こ、これは、ミュスレアよりも大きい……!」

 南の森エルフと北の闇エルフが出会う時が来る。
「これは面白くなりそうじゃ」と、イグアサウリオだけが密かに笑う。

 アドラーは、理由は分からないが嫌な予感しかしなかった。
 対抗戦の予選を突破できる戦力が整ったはずなのに……。
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