朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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八章

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 旅用の毛布にもなるマントに包まれて、ブランカは熟睡していた。
 背中には「だんちょー」の体温が伝わり、山よりも高い大空の上でも、ブランカにとって世界で一番安心出来る場所。

 そしてアドラーは、そろそろ三十六時間ほどぶっ続けで起きている。

「ふう、重くなったなあ」と眠る竜の子を腕の中で抱え直す。
 一万年は優に生きる祖竜の最初の百年、最も弱いが最も大事な子供の時期を、ブランカは『みんな』と一緒に過ごすと決めた。

 今飛んでいる北の大陸には、もうしばらく成長してから戻ってくれば良い。

「お前もすまないなあ。一日中飛びっぱなしで」
 アドラーは座っている竜を撫でた。

 北の大陸に来て、丸一日探し回ってようやく見つけたドラゴンは、アドラーとブランカを乗せて東へと飛行中。

「時速なら、三百から四百キロかな。それで二十四時間、アドラクティア大陸って大きかったんだな」
 その間、ずっと起きていたアドラーも疲労困憊。

「軍で不眠不休の雪中行軍訓練をしていなければやばかったな」
 眠らない訓練はある、今のアドラーは三日三晩くらいなら耐えられる。

 野生の竜や、強力な魔物や魔獣に勝つには、ヒト族はひたすら時間をかけて粘り倒すしかない。
 魔力も体力も各種族で真ん中といったヒト族も、持久力だけは優れていた。

 東の空に朝日が登り、普段の三倍の勢いで駆け上がる。
 この景色を見せてやろうと、アドラーは腕の中のブランカを揺り起こした。

「ほら、凄いぞ。見てみろ!」
「ううーまだ眠いー……」

 しがみついて抵抗したブランカも、しつこい保護者に渋々目を開く。
 竜の青い瞳に来光が飛び込み、一度目を閉じたが直ぐに覚醒した。

「だんちょー! すごい、見て! 丸い地上に丸いおひさまが!」
 高高度から見下ろす日の出は絶景だった。

 以前にブランカは、一度竜の体になった、一晩寝たら元の人形に戻ったが。
 白いダックスフンドにニワトリの羽が付いたような幼体では、空は一ミリも飛べなかった。

 短い後ろ足では耳の後ろをかくことも出来ず、前足がようやく首に届くといった謎の生き物で、元の体に戻った時はブランカでさえ「ほっ」とした。
 アドラーも食費で破産せずに済んで安心した。

「ぐんぐん飛べー! おひさままで行けー!」
 浮かれたブランカは、せっかく来てくれた竜の首を叩きながらはしゃぐ。

「す、すいません! こらブランカ、大人しく乗ってなきゃ駄目でしょ!」
「えーだってあたしの下僕しもべだし!」
「いーえ、まだ違います。だとしても背中で暴れてはいけません」

 否定したアドラーに同意するように、竜が後ろを見ながら「くえっ」と鳴いた。

「うむむ……まだぱわーが足りない……」
 頬を膨らませたブランカには、まだまだ竜の長として従えるだけの力はない。
 仲間の竜族に認めてもらうには、ほんの五百年ほどかかるのだ。

 アドラクティア大陸の東海岸が見えて来た。
 ”太陽を掴む鷲”の支部がある都市ヴィアーナも近づく。

 背上の姫様より賢いドラゴンは、ゆっくりと高度を下げ始める。
 到着は現地の朝に合わせた飛行プラン、今のところアドラー達だけが使えるドラゴン航空は食事が出ない以外は完璧だった。

「うーむ、竜種の協力が得られれば、輸送と貿易で一財産築けるのだが」
 惜しみながらも、アドラーはドラゴンと手を振って分かれる。

 都市ヴィアーナの城壁はすぐそこ、集団で襲いくる魔物に対しての防御で、二足種族の出入りは自由。

「朝ごはん?」とブランカが催促する。
「そうだねー、早開きの食事処があれば食べて行こうか?」

 親子は手を繋いで歩く。
 血の繋がりはないが、名付け親ではあるのだ。
 今はアドラーが見守るブランカも、世代が進むと役割を交代する。
 アドラー・エイベルデインの家が続く限り、美しき白い竜との特別な関係は続く。


「こんちわー。誰かいるかな?」
 アドラーは支部の暖簾をくぐった。
 太陽と鷲の支部にあるまじき事だが、こちらは大繁盛していた。

 南北の大陸を繋ぐ転移遺跡は、次々と発見されている。
 正常に動き、良い位置へ転移出来るのは少ないが、それでも毎日五百人ほどなら無理なく行き来出来る。

 進んだ南の大陸の各国は、交流交易に調査探索と忙しく人を送り込み、そして案内人を雇う。
 今は軍隊を送り込むのは禁忌――何故なら竜を怒らせる可能性があるから――で、護衛や通訳の需要まで含めて北の大陸アドラクティアは、史上初の好景気を迎えようとしていた。

 受付っぽいところにいたノーム族が、二人に声をかけた。
「いらっしゃいませー、ご依頼……じゃないな。入団希望かい? 軍人上がりなら歓迎だけど、うちに託児所はないよ」

 支部にやって来た目立たぬヒト族と尻尾の少女は、依頼に来たお大尽には見えない。
 実入りの良い新しい職業にありつこうとやって来た親子に見られていた。

「あーいやー、そうじゃないんだけど……」
 寝不足のアドラーは何となく弱気、そもそも強気の場面は余りないが。

「親父さんの方は戦えるの?」
 ノームは構わず聞いてくる。

「うちの父ちゃんは強いぞ!」
 今度はブランカが得意満面に答えた。

「へーそりゃ凄いね。ならちょっと腕をみてみるか。おい誰か、入団希望だ!」
 ノーム族はせわしない。
 丸太小屋でのんびりのイメージがあるがそれは嘘、ゴブリンと同じ小型種のノームは商売向きの忙しい種族なのだ。

「え? あれ? 何でこうなるんだ?」
 あっという間に、アドラーは支部の中庭に出された。
 ブランカは椅子と一緒に果実汁を貰ってご満悦。

 この支部を任されているのは、イグアサウリオというリザード族。
 最上位の司祭級の魔法が使え、接近戦も強く、部下の扱いも上手く乱暴狼藉などは決して許さない。
 いきなりやって来た子供にジュースを出すくらいの社員教育はしている。

 そして中庭には、オークが一人現れた。
 斧でなく幅の広い木剣を持っている。

「新人教育係のゴルゴスだ。見ての通りのオークだが、手加減はしてやるぞ。自分の剣を使うか? それとも木剣がいいか?」

 アドラーは木剣を催促した。
 急成長する支部の実力を、何となく確かめてみようと思ったのだった。

「ま、少し相手してやろう。ゴルゴスと言ったか……ん? 見覚えあるような?」

 オーク族を見分けるのは難しい、どいつもこいつも常に武装して似たような戦面いくさづらをしているからだ。
 だが――四年も前の大戦で、オーク族の主力部隊を率いた者はそう多くはない。

 半身で右手を前に出し、収まりの良い形をとったアドラーを見て、オークのゴルゴスの方が動揺した。

「そ、その構え、い、いやまさか!?」
 両手で木剣を持ったゴルゴスの腕に力が入る。

 側で見ていた受付のノーム族が声をかけた。
「おい、ゴルゴス! 何を力んでる、怪我なんかさせるなよ!?」

 アドラーは一言尋ねた。
「ひょっとして、俺の指揮下にいたか? 心配するな、幽霊じゃないぞ。それに本気で打ち込んでも構わん」

 小さく頷いたゴルゴスは、気合の大声を上げて飛びかかった。
 周囲の者は――ブランカ以外――オークが狂ったと思った。
 そしてヒト族の男が頭を割られて死んだとも。

 ゴルゴスの剣は宙を切らされていた。
 軽く軌道をそらしたアドラーの剣は、柄の方でオークの顎を軽く叩くと、その巨体を片腕で投げた。

 地響きと土埃の中央に居たゴルゴスは、見下ろす茶色い髪の男が誰か確信した。

「ア、ア、アドラー隊長どの! 自分は四年前の主塔攻略戦において、一兵卒で参加しておりました! 再びお目にかかれ光栄であります、よくぞご無事で!」

 寝転されたまま叫んだオークの大声に、何事かと支部の者が集まり、互いにひそひそと話し合う。

「アドラーって?」
「ヒト族には多い名前だな。アドラクティアの男って意味だ」
「違うだろ、バカ!」

 数人が同時に気付く。
「ヒト族のアドラー! あ、あれが!?」

 先の大戦を終わらせた七つの種族の七人の英雄、”ヒト族のアドラー”は今では固有名詞になっていた。

 受付のノームは、思わず倒れそうになった。
「う、嘘だろ、あれが本部の団長!? え、だって普通の冴えない男としか……!」

 何とか持ちこたえたノームを、ブランカの尻尾が軽く叩く。
「この美味しい果汁をもう一杯! あとね、だんちょーが弱そうに見えるのは仕方ない。けどだんちょーは、そんなことで怒ったりしないよ?」
「は、はい、直ちにお持ちします!」

 ノームが駆けていき、困ったアドラーは周りの面々に聞いた。

「あの、突然で申し訳ないんだけど、イグアサウリオは居るかな?」

 しばらくの間、支部では上を下への大騒ぎになった。
 皆が、ひと目で良いからアドラーを見たがったのだ。

 そして、支部長のイグアサウリオは不在だった。
 明日には戻ると言うので、アドラーは支部長室を使って寝不足を治す。

 この時アドラーは、イグアサウリオが何処に行っているか聞かなかった。
 もしも、ダークエルフの住む闇の森へスカウトに行っていると知ったら、荷物をほどかず逃げ出していたかも知れない。

 何故ならば、闇の森と死霊の主リヴァンナは、アドラーが最も苦手とする人物だった。

 眠るだんちょーに代わって、ブランカは優雅に過ごしていた。
 珍しくも「お嬢様」扱いされ、ちょっと試合で実力を見せれば拍手喝采の嵐。

「うーむ、この大陸も悪くない。早くに戻ってこようかな?」と思うくらいの歓迎だった。

 それから眠り続けて飯を食ってまた寝たアドラーのところへ、イグアサウリオが戻ってくる。

 もちろん、ダークエルフ族の首領にして英雄、最後のハイエルフと呼ばれるリヴァンナを連れて――。
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