朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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八章

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 アドラー達は、ミケドニア帝国の首都に向かう。
 帝都アレクサンドリアへ。
 事情に詳しく、後援してくれるバルハルトが帝都に居るのだ。

 道中は馬車である。
 武装兵を十六名も運べる大型の軍用馬車の中で、アドラーは小さくなっていた。

「の、喉が渇くなあ……なんでかなぁ……」
 アドラーがぽつりと口に出すと、両脇から同時に水が差し出された。

 幅のある座席の真ん中にアドラー、そして右にミュスレア、左にリヴァンナ。
 誰もが振り返るエルフ系の美女に挟まれた団長は青い顔。

 ミュスレアが強引に水を飲ませようとする。
「はい、どうぞ。わたしが飲ませてあげるね」

 対抗するようにリヴァンナが水袋をアドラーの顔に押し付ける。
 賢明な団長は「いや、やっぱり喉は渇いてない……」と、唾を飲み込みながら言った。

 アドラー達三人の後ろには、リューリア以下の子供たち四人が座り、前の様子をずっと眺めていた。

「兄ちゃん……だめだめだなぁ……」
 キャルルは少し悲しい顔をしていた。
 強くてカッコ良いはずの団長が、女性に迫られ苦戦してるとこなど見たくない。

 その隣のリューリアは嬉しそうに笑顔が漏れていた。
 リヴァンナの想いが一方的、昔の恋人などではなかったと知り機嫌を直した。

 ヒト族なら十五、六歳のリューリアはまだ争いに割って入る年齢ではない。
 座席で暴れるブランカやバシウムに「ほら、靴脱いで。椅子に砂が付くでしょう」と面倒を見ていた。

 次の一列には、ダルタス、マレフィカ、イグアサウリオの並びで座る。
 アドラーを支える頭脳で主力の三人は、冷静な目で団長を見守っていた。

 ダルタスが尋ねる。
「あやつは、北に居た頃もあんな感じだったのか?」

 含み笑いのイグアサウリオが答える。
「奴は何時もああだったな。人付き合いが下手なのかと思ったが、単に好かれる事に慣れていないだけだな」

 血統の魔女マレフィカも意見を出す。
「団長は、部下や仲間思いだ。だからみんな平等に扱おうとするんだなー」
「ふむ、それはあの二人には不満だろう」
 車中に聞こえる声でダルタスが笑う。

 馬車の最後列には、シャーン人が三人乗っていた。
「走って付いていく」と、暗殺集団として使われた一族は主張したが、アドラーは許さなかった。

 馬車に乗る前に、「俺を恨んでいるか?」とも聞いた。
 かつて四十名のシャーン人と戦ったアドラーは、十人以上を斬り殺し残りは捕虜にした。
 個々の能力は高くとも、数の少ないシャーン人には壊滅的な打撃だった。

 シャーン人を代表して族長の娘ファエリルが言った。
「戦いの中でのこと、しかも我らから仕掛けたもの。その様な問いは一族への侮辱だ。だが恨んでいない理由はある、知りたければ話そう」

「教えてくれるか?」とアドラーは重ねて聞いた。

「我がシャーン族は、子が生まれない事に悩んでいた。生まれても中々育たぬ。だがな、リヴァンナ様の所に預けられ、我らは直ぐに自由を許された。そして一人の若者が、リヴァンナ様の部族の娘と恋に落ちた。私は節操のないそいつを殺して許しを請うつもりだったが……相手の娘はもう妊娠していた」

「手の早いことだな」
 アドラーには真似できない速攻だった。

 ファエリルは恨みなどないと、もう一度念を押す。
「リヴァンナ様は快く許し、受け入れると言って下さった。我がシャーン族は、北のダークエルフと同化してこそ血脈を繋げる。もしも残った一族を救ってくれるなら、アドラー殿、一族を挙げてそなたに忠誠を誓おう」

 それを聞いたアドラーは即座に言い返す。
「いや、それは遠慮する。リヴァンナの所で穏やかに暮らしてくれ!」

 今でも育ち盛りを多数抱え、団の収入の半分は食費に消える。
 新たにシャーン人を雇う余裕などない。

 族長の娘ファエリルは納得せず、如何にシャーン人が役に立つか訴えていたが、思い直したアドラーは一つだけ頼み事をした。

「ああそうだ。人数が欲しい時、例えばギルド対抗戦の時だ。その期間だけ手伝ってくれれば良いよ。それなら給料も払える!」

 アドラーにとっては半分冗談だった。
 だが族長の娘は、新たな契約を貰えたと喜んでいた。

 本部と支部の連合軍は、まとまりを見せ始めていた、二人を除いて。

「着いたわ! 降りましょう!」
 ミュスレアがアドラーの右手を引っ張ると、リヴァンナが左手を掴んで離さない。

 アドラーが情けない悲鳴をあげた。
「い、痛いよ! どっちか手を放して!」

 南の大陸の戦闘型エルフが凄む。
「団長から手を引きなさい」
 北の大陸の古代ハイエルフが言い返す。
「そちらが先に」

 半分にされる勢いで左右に引っ張られ、涙目のアドラーを見ながらキャルルが言った。

「これ、先に手を放した方が本当に愛してるってやつだよね。ボク、知ってるよ!」
 賢い少年の一言で、白と黒のエルフは同時にアドラーを開放した。

 肩が外れていないか確認しながら、アドラーが馬車を降りようとすると、それを追いかけて二人は突進した。

「ぎゃあ、潰れるぅ!」
 狭い出入り口に詰まったアドラーがまたも悲鳴をあげる。
 止まってから無事に地面に着くまで、五分以上もかかる大騒動。
 女の子の扱いに慣れていないアドラーと、アタックに慣れていない二人のエルフ娘が生んだ悲劇だった。

 続いてブランカとバシウムが降りてくる。
 どっちが強いか散々に言い合った二人は、キャルルが一番弱いということで納得し、仲良くなった。
 そして今は、大人たちの喜劇を楽しんでいる。

「バカだ」
「バカだな」

 息も絶え絶えのミュスレアとリヴァンナを見下ろしながら、まずブランカが飛んで降りた。

「だんちょー!」
「おっと」
 跳ねてきたブランカを、アドラーが受け止めて大地に置く。

「あ、俺も! たいちょー!」
「おお、よしよし。バシウムは軽いなあ」
 続いてバシウムも抱きとめる。

「あ、いいな。兄ちゃん!」
「あんた達、子供っぽいわねえ。けどわたしも!」

 キャルルとリューリアが続き、四人は順番にアドラーに降ろしてもらう。
 子供の世話をする想い人の様子を見ていた二人のエルフ娘は、ようやくお互いに視線を合わせた。
 今度は睨むことなく。

 ミュスレアから話しかけた。
「誰にでも好かれるのよね」
「みんなに優しいから」

 次はリヴァンナから言った。
「彼は、困ってる人が優先」
「分かってる」

 二人は妥協することにした。
「有翼族とシャーン人を助け出すまで、一時休戦でどう?」
「同意する」

 このままでは嫌われないまでも避けられると感じたミュスレアとリヴァンナは、強引な奪い合いを止めると決めた。
 だがしかし、ようやく妥結した二人に対して、アドラーにしがみついたままのリューリアが顔を向けた。
 そして一瞬だけ勝ち誇った目になり、直ぐに無邪気な子供の目に戻った。

 リヴァンナが長女に聞く。
「ねえ……ミュスレアさん?」
「なあに? ミュスレアでいいよ、リヴァンナ」

「ひょっとして妹さんも……?」
「いや、そんなまさか! よく懐いてるけど、男として意識してることはない、はず。まだ子供だし……」

 焦る二人の結婚適齢期に、馬車から出てきたマレフィカが追い打ちをかける。
「女の子の成長は早いぞう? それにリューリアは家庭的で料理も上手い」

 ついでに「若い」と言わなかったのはマレフィカの優しさ。
 ミュスレアとリヴァンナは、休戦を終わらせて共同戦線を張ることで密かに同意した。

 やっと一つにまとまった”太陽を掴む鷲”、一行は帝都アレクサンドリアにあるバルハルト侯爵の屋敷に来ていた。
 ライデン市では見ないレベルの大邸宅。

 現皇帝の友人にして懐刀、次期皇帝となる皇太子からも、軍事戦略に関し直々に下問を受けるバルハルトの権勢は強い。
 だが本人はなるべく帝都を離れるようにし、権力闘争に巻き込まれないようにしていた。

「そのバルハルトが、わざわざ帝都を指名したんだ。何か重大な情報がある」
 アドラーはそう確信していた。

 推測は当たる。
 屋敷に入ったアドラーのところへ、早速ながら重要人物がやって来た。

 サイアミーズ王国の上将で、かつて遠征第一軍の総司令官を務めたロシャンボー。
 彼が有翼族の居場所を知っていた。
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