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八章
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しおりを挟むアドラーは、地球で徹底的に組織というものを叩き込まれた。
当時は歯車になるためだったが、リーダーとなった今では感謝することもある。
ただし、ふと思うこともある。
「当時は……上からの情報共有って、ほとんど無かった気がするなぁ」と。
その教育と教訓を生かし、アドラーは全員と目的を分かち合う。
「さて今回の救出作戦だが……こら、逃げるなお前ら」
退屈な話が始まると勘付いたブランカとバシウムを、左右の手で器用に捕まえる。
「だって、だんちょー」
「だって、たいちょー」
火力お化けの二人は、アドラーの命令に従ってふっ飛ばせば良いと思っている。
山を丸ごと消し去るブランカも、山の一つを溶岩に変えるバシウムも、自分の力は団長または隊長の許可制だと分かっている。
難しい話など聞きたくない。
二人は仲良く唇を尖らせた。
「長い話はきらいー」
「短くするから聞いてなさい」
アドラーが説得して座らせる。
その様子をキャルルが勝ち誇った顔で見ていた。
少年にとっては、大人の会議に混ぜてもらえるのは嬉しいことだった。
見下されてることに気付いたブランカが、団長に訴える。
キャルルを指差しながら「あいつが昨日、あたしの裸を見た!」
バシウムも加勢する。
「あっ! 俺も見られた!」
「なっ! 見てない、見てないよ! ずっと目を閉じてたもん!」
キャルルは証人として姉に助けを求めた。
「はいはい」と騒ぎに割って入ったミュスレアが、口々にキャルルを責める二人を引き取った。
右手と左手でブランカとバシウムを抱き寄せたミュスレアは、もう良いわよとアドラーに合図する。
ようやく静かになったところで、アドラーが話を再開する。
何時もの太陽と鷲の光景だったが、上手に子供をあやすミュスレアを見たリヴァンナの目は複雑な色。
死霊使いのリヴァンナは、戦場ならゾンビやスケルトンを呼び出しアドラーの役に立てるが、料理を作ったり子供の世話をしたりは苦手。
戦力だけではないミュスレアやリューリアを見て、徐々に自信を失いつつあった。
再開したアドラーの説明は、10時間に及んだ会議を極限まで圧縮していた。
「えーまずは、サイアミーズ国内に入って、アルデンヌの森を抜けてブルゴーニュ地方に入ります」
アルデンヌの森とは、ミケドニアとサイアミーズ、両大国の国境に茂る大森林。
お互いの安全保障のために開発が進まず、軍隊の移動は不可能とされる。
アドラーは続ける、右手にはロシャンボーから貰った機密書類。
「ブルゴーニュの領主はブルゴーニュ公ウード、そのままだね。サイアミーズの王族で、最後の大領主と呼ばれる大物だ。このブルゴーニュ公って奴が、問題あってね……えー、児童虐待に領民殺害、亜種族の売買に、変死体の収集……本当か、これ?」
君主は時に言われない評判を流される。
敵が多い場合はなおさらだ。
ブルゴーニュ公のウードにまつわる噂は、定番の悪評ばかりだったが、確かな事実が一つ混ざっていた。
アドラーは、ロシャンボー将軍から受け取った裏のリストを取り出す。
「なんにせよ、有翼族はウードとやらに横流しされた。そして高値で同じ趣味の連中に売る、裏オークションで売り飛ばすつもりだ。俺たちは、これを落札して取り戻す」
キャルルが右手を高く挙げた。
「はい、兄ちゃん!」
「キャルル、なにかな」
「落札するってお金払うの? 問答無用で殴り込めば良いじゃん、うちお金ないし」
アドラー団長は満足そうに生徒に頷く。
「キャルは賢いなあ。お金はロシャンボーが用意してくれた。実は、サイアミーズの王様でも手を出せない事情があるんだよ」
機密書類を一枚めくったアドラーが読み上げる。
「えーっとなになに、これも本当か? 先代のブルゴーニュ公フィリップは、幼い現王の後見者となる。内においては反乱を撃滅し、外では介入したミケドニア帝国に完勝し、大陸最高の将軍と称される。王国の政治と軍事の近代化を推し進め、自らは清貧を貫き、現王が成人すると同時に表舞台から退く」
豪胆公と仇名された先代は、剣と弓と魔法の時代の最後を飾る大英雄だった。
キャルルがもう一度手をあげた。
「はい、兄ちゃん!」
「キャルル、なにかな」
指名された末っ子は嬉しそうにまた質問する。
「そんな人物なら、何故息子の暴走を止めないの?」
アドラーも嬉しそうに答える。
「キャルは賢いなあ。誰も手出し出来ない英雄だけど、家督を譲ってからここ二年は姿を見せていない。もしフィリップが死んでると分かれば、ロシャンボーが前面に出る約束になっている。それを確かめるのは、リヴァンナ」
突然指名されたリヴァンナが驚いて顔を上げた。
今の今まで、自分とミュスレア達を比べて、心の迷路をさまよっていたのだ。
「は、はい! なんでしょう?」
聞き返したリヴァンナに、アドラーはもう一度説明する。
「先代のブルゴーニュ公フィリップの魂を、呼び出して欲しいんだ。もし呼び出せれば、英雄の死を隠したウードは厳しい立場になる」
「あ、あの私はお役に立てますか?」
リヴァンナは、応諾する前に質問した。
「ん? ああもちろん、リヴァンナにしか出来ないことだし……」
「やります、私やります! 役に立ちます」
珍しくやる気と声を出すリヴァンナに、アドラーはいささか困惑する。
クエストの表向きは簡単だった。
英雄の息子であるブルゴーニュ公ウード、彼は王でも逮捕出来ない。
上級どころか国で五指に入る特権階級なのだ。
アドラー達は、ロシャンボーの用意した金で有翼族を買い戻し、そのついでに先代の生死についても調べるだけ。
戦いの要素など全くない、安全なクエストになるはずだった。
アドラー達は商人に化ける。
売り物は、世にも珍しきクォーターエルフの美人姉妹。
「なによこれっ!?」と、リューリアが怒る。
それもそのはず、女性用の鎧と同じくらい隠す部分が少ない服を着せられていた。
同じ服を着せられたミュスレアは満更でもないが、次女には恥ずかしい。
「た、頼むよ、リュー。裏オークションに忍び込むためなんだ、今回だけ、お願い!!」
アドラーが白いおへそを見ないように、目をそらしながら頼む。
「なんでわたしが! 商品の役目なら他にも……!」
言いながら、リューリアは辺りを見渡した。
竜の娘、この大陸に居ないはずの有翼族、弟のキャルル、希少なダークエルフと、珍しい者達が並んでいた。
「はぁ……」と溜め息をついたリューリアは「仕方ないわね、他の子は一発で正体がわかりそうな子ばかりだもの」と仕方なく納得した。
アドラーは目をそらしたままで、次女の手を取る。
「ありがとう、リュー! 中に入ったら、有翼族の一家を見つけて声をかけてくれ『助けに来た』と。バシウムの名を出せば信じるから」
アルデンヌの森を迂回して、裏オークションに参加する商人に化けたアドラーは、ブルゴーニュ公の領地へ入る。
ロシャンボーから預かった金貨は三千枚。
これだけあれば、充分に買い戻せるはずであった。
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