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八章
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しおりを挟む「リューねえ、似合うね。いっそ本職にしちゃえば? いたっ!」
軽口を叩いたキャルルが、早速叩かれた。
リューリアとミュスレアの衣装は、胸だけ隠す布に肩だけを覆う上衣、紐が腰を一周し、あとはパレオのようなものだけ。
手首足首には、動くと音が出るブレスレット、つまり踊り子衣装。
二人とも良く似合っていたが、リューリアは全体的に優しい曲線で、ミュスレアはメリハリが付いている。
オークションに出せば大人気は間違いなかったが、アドラーは日和った。
珍しく晒したリューリアのおへそを見ながら言った。
「やっぱりやめようか?」
もちろん姉妹は怒る。
「はぁ? ここまで来て? こんな格好させといて?」
アドラーは謝りながら、ふっくらと白い淡雪のような次女のお腹から、長女のお腹に目を移しながら言った。
「ご、ごめんよ……けどね、その、ミュスレアさんの腹筋で、奴隷エルフ姉妹ってのは無理があるかなって……」
全員の視線がミュスレアのお腹に注がれる。
引き締まったくびれと、爆発的な戦闘力を生み出すシックスパックがそこにはあった。
「見事なものだ」とオークのダルタスも感心する。
「かちんこちんだ」とブランカがつつく。
「ねえちゃん、流石!」とキャルルは嬉しそう。
「まあ、凡人のものではないな」
マレフィカは楽しそうに友人の腹筋を評価する。
アドラーも皆に同意を求める。
「ね? とても売られる少女には見えないだろ。かと言ってリューリア一人だけ送り込むとか無理だし」
だが一人だけ反対した。
「わたしは平気よ! 売りに出されるってことは、いきなり何かされる訳ではないでしょ? 困ってる人に、助けに来たよって伝えてあげることがどれほど大事か、わたしには分かるわ」
一番嫌がっていたはずのリューリアが主張した。
次女は助けが来なかった経験はないが、待つ怖さを知っていた。
ミュスレアがギルドの仕事で家をあける時、幼いキャルルの世話をしながら姉の無事を祈る、それが日常だった。
姉が「ただいま」と帰って来た時の安心と幸福感は、何物にも代えがたかった。
そして今は、姉に匹敵する強者が何人もリューリアを守ってくれる。
際どい衣装を着て体を張るくらい、何でもなかった。
「うーん……やっぱり止めようか」
ただし弱気になったアドラーは及び腰。
「なんでよ!? 救出作戦で情報なしの強行突入とかご法度でしょ!? 中を探る人が必要でしょ!?」
リューリアの方が正しいことをいう。
「けどね、リューだけを敵地に送るのはね……」
あくまでアドラーは消極的。
ここでキャルルが参戦した。
「ねえ、兄ちゃん。他の売られる人はどうするの? 翼がある人達だけ助けて終わるの?」
「うっ……」
アドラーは返事に詰まった。
その事は考えないでもなかったが、裏オークションのリストは既に載ってるだけでも二十人以上。
全員を買い取るのは不可能で、ミケドニア帝国との国境にあるブルゴーニュ公の領地で実力行使とはいかない。
だからロシャンボーは金貨を三千枚も寄越したのだ。
「そ、それはね、キャルル」
「他にも助けを待ってる人がいるかも知れないよ、兄ちゃん」
真っ直ぐに見つめる少年の瞳に、アドラーが答えを探そうとする。
キャルルが次の疑問を口に出す前に、ミュスレアが弟の頭を抱いた。
これ以上アドラーを困らせないようにと、もう一つの理由は優しく育った弟が嬉しくて。
「な、なんだよ、姉ちゃん急に……」
弟の頭を抱きしめたまま、ミュスレアは答える。
「キャルル、あなたの言いたいことは分かるわ。けどね、アドラーと言えど全員を助けるわけには……」
「よし、作戦を変更する」
アドラーは決めた。
「裏のオークションには参加する、そこで情報を集め、可能な限りを助け出す。俺達は商人じゃない、冒険者団だ。権威と権力に縛られ遠慮することはない。欲しいものは、自力で探して手に入れてみせる」
ダルタスとイグアサウリオが、お互いを見やってにやりと笑う。
団長を見上げるキャルルの緑の瞳は、輝きを増していた。
普段の優柔不断など何処へやら、決めた後のアドラーの動きは早い。
「シャーンの三人は、部族の元へ戻り、ありったけの戦力を連れて来い。マレフィカは、ロシャンボーの所へ手紙を届けてくれ、直ぐに書く。王の望みのものをくれてやるから、これからの事は目を潰れとな」
ブルゴーニュ公の領土は、ミケドニア帝国との国境に沿って広がる。
いわゆる国境防衛の大諸侯で、独立した財政と軍を持つ。
サイアミーズ王からすれば頼もしいが警戒もする相手。
ロシャンボー上将が属する命令系統の本音を、アドラーは勘付いていた。
英雄である先代と問題ある現公爵を、アドラー達が殺してくれれば、労せずして国家の統一が進む。
もちろんアドラーは、そんな安い計略に乗るつもりはなかった。
金の力で最低限の目標だけ果たせば良いと思っていた。
今でもぎりぎりの落とし所を探している。
「城ごと吹き飛ばす訳にはいかない。正面から戦ってやる義理はない。だから、裏オークションに出品される人々は、全て盗み出す。そこで内部の情報を探るのに……おい、キャル」
「なあに、兄ちゃん?」
キャルルは完全に尊敬する目を兄貴分に向ける。
今ならどんな役目を命じられても、忠実にこなす自信が少年にはあった。
「……それで、またこんな役割かー」
不満を顔一杯に浮かべた少女とも少年とも見えるクォーターエルフが、裏オークションの『商品』保管庫に連れて行かれる。
一見すると悲しみに浸ってるようで、受け取った業者も怪しむことはない。
「リューねえ、離れないでね」
「うんうん、頼りにしてるわよ」
キャルルとリューリアは、ブルゴーニュ公ウードの居城へと無事に運ばれた。
暗闇の地下倉庫には、あらゆる種族の娘たちが押し込まれていた。
明日にも値が付けられ、ご主人さまの所へ行くのを待つのみ。
涙も枯れ果てたのか、すすり泣く声さえない。
キャルルは、一番手近な所にいて、膝を抱えた女の子に話しかけた。
「ボク、キャルルって言うんだ。君は何処から来たの? このまま売られるのと、逃げ出すの、どっちが良い?」
はっと顔をあげた女の子は、怯えと疑いの目をしていた。
しばらくキャルルの顔を見ていた女の子は、恐る恐る口を開いた。
「お母さんのとこに、帰りたい……」
キャルルは笑いかけてから、答えた。
「もう少しだけ我慢してね。必ず助け出してあげる」
絶望の地下倉庫に、姉弟は希望の種を蒔いて回る。
もしも期待を持たせて成就しなければ、更に深い絶望が娘たちを襲う。
だが、そんなことはあり得ないと、姉弟には分かっていた。
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