203 / 214
八章
203
しおりを挟むブルゴーニュ公領の首府セダンで、アドラーは商人の様な格好をしていた。
隣を歩く魔女のマレフィカが楽しそうに見上げる。
「団長、似合うなぁ。庶民的な感じがよく出てる」
「いや、紛れもない平民ですけどね」
商人風のアドラーと黒い魔術衣のマレフィカは、地味で街によく溶け込んでいた。
今は公爵ウードの居城であるセダーン城から出てきたばかり。
裏オークションへの参加を希望し、商品――キャルルとリューリア――を預けたところ。
ロシャンボーの用意した身分証明は完璧で、誰もアドラー達を疑う者は居なかった、それ以前に警戒していたかも怪しい。
城の衛兵は緊張感もなく「しばらく調べるから、待て。かなり時間がかかるかもな」と賄賂を催促しただけ。
アドラーが袖の下を渡すと、何の検査もなくあっさりと通した。
「マレフィカから見て、セダーン城の守りはどうだった?」
アドラーは魔法の専門家からも意見を聞く。
「造りは古いが、魔法防御はしっかりしてるねー。と言うよりも最高峰だな、戦いに備えて作られた本物の戦闘城塞だった。並の攻撃魔法では焦げ目すら付かないだろう」
「ふーん、やっぱりね」
アドラーの見立てもほぼ同じ。
ほぼ正方形の城郭に胸壁と尖塔、四方の要所にクリスタルが埋め込まれ外からの魔法を防ぐ。
攻略するには、四つの塔を順番に制覇しクリスタルを砕いて回らなければならない、正統派のお城。
アドラーはもう一つ情報を付け加える。
「作ったのは先代だそうだ。ミケドニアの侵攻は、ここセダーン城で食い止めると」
先代のブルゴーニュ公爵、豪胆公フィリップの情報は直ぐに集まった。
サイアミーズ国では歌に謳われ、史書の先頭にも載る大英雄。
現王の大叔父で、自らが王位に付くことも可能な立場だったが、継承順位を守り内乱を鎮め外敵を退けた。
マレフィカも付け加える。
「先代は魔法に造詣が深く、魔術師と騎士団の混成部隊を率いて、会戦に挑んでは負けなしのつわ者だったそうだ。それがこの城にも受け継がれてるなあ、息子には伝わらなかったけど」
その息子ウードの情報も大量に手に入った。
一応は、アドラーも警戒していた。
ただの素行の悪い駄目な二代目ということはないだろうと、思っていたから。
ただしウードは予想を超えていた、悪い意味で。
ウードの評判は、ブルゴーニュの領内でも良くない。
最近でも道行く母子を馬で跳ね飛ばし、ウードは素知らぬ顔で逃げ去った。
幾ら自分の領内でも、普通の領主なら見舞金くらいは出すものだが、ウードは『領主の往来を邪魔した』と残った父親も投獄したという。
集めた話を、アドラーが口に出してまとめる。
「正式に嫡子として認められたのは十年前、ウードはもう三十歳になっていた」
これは無用な争いを生まぬために、今のサイアミーズ王が成人するまで豪胆公フィリップが控えたがゆえ。
「これにウードは強い不満があるようだ。幼い王に代わり父フィリップが王位に付けば、自身が次代の王だったのにと。以後は、英雄である父の庇護の下に、贅沢三昧のやりたい放題。家督を譲られても所業は直ることなく、しかも二年前からフィリップは公の場に姿を見せてない」
マレフィカは「父君は殺されたかなー?」と尋ねる。
「いや、その線は薄そうだ。まだフィリップの署名付きの書類は出てる。それにウードの権力の源は親父だ。死ねば立場が危うい、ロシャンボーが大軍率いてセダーン城を接収にくるな」
またマレフィカが尋ねる。
「なら、何処かにいる親父を探して殺す?」
「マレフィカ、よしてくれよ。俺達は暗殺者ではない、冒険者だ。困ってる人を助け出す」
マレフィカが「ひひひ」と魔女らしく笑う。
「父君を見つけて叱ってもらうかねー」
「まあ、見つかればね……」
アドラーは余り期待せずに答えた。
とりあえずの目的は、ウードの資金源となっている裏オークション。
公国のトップが主宰者なのだ、何を売ろうが罰せられるはずもない。
各種族の少女のみならず、魔法で作った興奮薬、変わった生き物や死体、裏と呼ぶに相応しいものが品出しされていた。
そして、今回の目玉は南の大陸には生息しない有翼族の一家。
星の反対側に連れてこられ、寄り添って震えるばかりの一家のとこには、キャルルが居た。
「もう心配ないよ! 兄ちゃんが来るからね? あ、わかんないか。アドラーっていうの、バシウムって知ってる? 翼の生えた生意気な奴、そいつと一緒に戦ったアドラー」
警戒されることない笑顔で、キャルルは話しかける。
「バ、バシウム様ですか?」
鎖で繋がれた父親が顔を上げた、表情には希望が灯る。
「うん、そう。あいつ有名なのかー、生意気なのに」
「バシウム様は、一族の最高傑作と言われた魔法使いですから、お名前くらいは。それにヒト族のアドラー様も、お噂はお聞きしてます。しかし、どうしてここへ……?」
キャルルはきょとんとした顔になる。
「どうしてって、助けに来たんだよ。だから心配しないでね?」
有翼族の両親は抱き合って喜び、間に挟まれた子供が窮屈そうな顔になった。
キャルルが子供の頭に手を置いて笑いかける。
「もうちょっとの辛抱だからね」
間近でキャルルの笑顔を見た子供の頬がピンクに染まる。
捕まった子は、女の子だった。
オークション形式ということは、新しい値段が付くまで所有権は出品者にある。
預かった商品は大切に扱わねばならず、味見などといった外道な真似も出来ない。
競り場に出された少女が、ぼろぼろと泣いていては高値にならないから。
商品の見栄えを良くするのもオークショニアの役割で、二十人ほどの少女は一斉に風呂に入れられる。
獣人やエルフにドワーフやオークまで、いずれも年端もいかない美しい子ばかりが、ウードの用意した遣り手ババアに磨かれる。
もちろん、キャルルもこの群れに混ざる。
「なんでだよ! ボク、男の子だぞ!?」
どれだけ叫んでも、離れるくらいなら一緒にと、姉のリューリアが弟を手放さない。
その他の少女達も、助けに来てくれたなら仕方ないとキャルルを追い出したりしない。
キャルルは、姉の背中にぴったりくっつく様にして歩いて行く。
リューリアの髪と肌以外は見ないようにだ。
手に洗い布を持った遣り手ババアが言った。
「おや、これは坊やだね。しかも飛び切りの美少年、お前さんは高く売れるよ」
「ひぃ!」と悲鳴を上げたキャルルが、リューリアの平らな胸に逃げ込む。
怯える弟をリューリアが庇い、周りの少女たちも捕まってから初めて楽しく笑った。
あとほんの半日、深夜にはアドラーが城に来る。
指揮下には、エルフ、オーク、リザード、有翼族に魔女と竜を従えて。
だが、風呂に入る少女達とキャルルを覗いている者が居た。
「エ、エルフの少年は初めてだ! あれはわしが買うぞ! 今直ぐ連れてこい!」
城の主、ウードがさっそくキャルルに目を付けていた。
0
あなたにおすすめの小説
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる