朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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八章

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 大人数での縦断など不可能と言われたアルデンヌの森を、アドラー達は駆け抜けた。

 森を飛び回るのが得意なキャルルが、常に先頭でみんなを引っ張った。
 アドラーは手放しで、自分のことのように嬉しく、キャルルを褒める。

「偉いぞキャル、よくやったな! キャルのお陰で怪我人も脱落者もなかったぞ!」

 実際のところは樹の間を動くエルフよりも、地上を歩くアドラー達3人が獣の目に止まっただけだが、そんなことはお構いなし。
 アドラーはここぞとばかりにキャルルを褒める。

「へへへ、やだなぁ兄ちゃん。ボクは当たり前のことをやっただけだよ」

 謙遜しながらもキャルルは満点の笑顔、誰だって褒めて貰うのは嬉しい。
 照れる少年を押しのけるようにして、ブランカもやってくる。

「だんちょーだんちょー。あたしも先頭で走ったよ?」
「ブランカも偉いぞ、ありがとうな」

 右手でキャルル、左手でブランカと、アドラーは小さな頭を撫でる。
 二人共とても満足そうに目をつむる。

 アドラーは『褒めて育てる使う』などといった処世術を実行してるわけではない。
 小さな貧乏ギルドで、十分な報酬もなく贅沢も出来ないが、せめて団長として頑張った隊員はひたすら称讃するを心がけていた。
 そして小さな二人には、大好きなアドラーに褒めてもらえるのが、何よりのご褒美だった。

 その後、アドラーは全員を集めて方針を伝える。

「みんなよくやった! 無事に乗り切れたのは皆の努力と活躍のお陰だ。そして、あとはライデンまで戻るだけだ……あと一日で!」

 森を抜け出た時刻は、夕方の少し手前。
 明日いっぱいは移動に使えるが、明後日からはギルド対抗戦の予選が始まる。

 予選と言えども、朝の7時から24時までぶっ続けを二日間。
 このような設定をした運営には、温かい血など流れていないと確信できる過酷なもの。

 アルデンヌの森を子供を背負って駆け抜けたシャーン人は文句一つ言わず頷いたが、リューリアが代表して苦情を言った。

「ねえ、流石にもう諦めたら? これから強行軍で、その後に過酷な対抗戦なんて無理よ。怪我人がでるわ」

 実のところ、うすうすだがアドラーも厳しいと感じていた。
 だが団長が真っ先に諦めるわけにはいかない。
 ギルドイベントは、義務なのだ。

「リューリア、良いかい分かってくれ。対抗戦からは逃げられないんだ」

 アドラーは真っ直ぐにかわいい妹分を見つめ返して断言した。
 緑の瞳で団長を見つめるリューリアは、頬を染めるでもなく激しく言い返すでもなく「だって!」と言ってほっぺを膨らませた。

 予想外の反撃にアドラーは怯む。
「うっ……」

 不満を顔全体で表現したクォーターエルフの美少女に、普通の男は逆らう術がない。
 そしてアドラーは至って普通だった。

「あーそうだなぁ、うん、ちょっと冷静に考えるかな……」

 団で一番の常識人、リューリアの当たり前の提案に、アドラーは考えなおすことにした。
 普通に考えれば、運営の課した過酷なイベントにギルドを上げて参加する義理などない。
 たとえ報酬がとびきりな物だとしてもだ。

 団員やここにいる皆の健康と安全が第一なのだと、毒されていたアドラーの呪縛が解けようとしていた。
 目が覚めたアドラーが「たかがイベントの一つや二つ」と、至って常識的な判断を下そうとした時、異変が起きた。

 まず真っ先にブランカが「なにかくる!」と反応した。
 続いて周囲を警戒していたシャーン人から、中央のアドラー達へ合図が飛ぶ。
 言い争いはひとまず中断して、守るべき者を中に、戦える者は外側へ、そして団長は防衛陣形の先頭に立つ。

 森を抜け出たばかりの、見渡す広さのある草地に居たアドラー達に、もうもうと土煙を上げた集団が接近してくる。

「これは、大軍だな……」
 アドラーの右を固めたダルタスの声でさえ、上ずりかけていた。

 一気に視界に迫る軍勢は、騎兵ばかりが一万以上、いずれも重装備の正規軍。
 掲げた旗は百旒を優に超え、中央にはこれでもかと主張する獅子の紋章があった。

「帝国騎士団が、何故こんなところに……?」
 アドラーでなくとも分かる、大陸でこれだけの騎士団を擁するのは、ミケドニア帝国の皇統、アグリシア家しかない。

 ”太陽を掴む鷲”を威圧しない距離で止まった帝国騎士団から、たった二騎だけが踊り出てきた。
 馬上の一人は若者、もう一人は髭面の初老だが、鎧は着けていない。
 二騎は、アドラーの前までくると、馬から降りずに話かけた。

「やあアドラー団長、また会ったね。サイアミーズ国に変ありと、我が家の騎士を率いて南下してきたのだが、もう騒ぎは収まったのかな?」

 アドラーは、直接話しかける無礼はせずに、肯定の意味で静かに頭を下げた。
 皇子の供をした初老の男、バルハルトがすまなそうに声を出した。

「すまぬな、お止めしたのだが。どうしても団長から直接に話を聞きたいとな」

 ミケドニア帝国の皇太子マクシミリアンが、アドラー達を出迎えてくれていた。

 結局、アドラーは一晩を皇太子に付き合わされた。
 軍営とはいえ食事も酒も豪華なもので、しかも全員に分け隔てなく振る舞われ、扱いは何の文句もなかった。

 長い話の途中で「サイアミーズのフィリップ殿下が生きていた」という情報が、帝国には最も重大事であった。

 マクシミリアンとバルハルトは互いに見合い、サイアミーズ王国を攻めるのを諦めた。
 豪胆公フィリップは、それ程の人物であった。

 朝まで皇太子と語り、存分に飲んだアドラーに与えられたのは、二十両もの馬車と先導する騎兵が百騎。

「やった! これで対抗戦に間に合うぞ!」とアドラーが喜んだのも束の間、馬車に揺られた帰り道で盛大に吐くことになる。
 アドラー率いる”太陽を掴む鷲”は、予選初日を完全欠席することになった。

 それでも団長が諦めるわけにいかない。
 アドラーは運営本部へ殴り込む。

「テレーズさん!! まだ予選は一日ありますよね? 参加できますよね!?」

 優秀な受付嬢テレーズは、まだ青い顔をしているアドラーの剣幕に押され黙って頷くのみ。
 ”太陽を掴む鷲”はシード権を持っている。
 予選の初日にいなくとも、参加はしているのだ。

 だが、既に他の団は一日をかけて大量のポイントを稼ぎ、アドラーの本戦出場は絶望的であった。

 絶対絶命の窮地にあったアドラーの、本当の戦いはこれから始まる――。
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