211 / 214
八章
211
しおりを挟む大人数での縦断など不可能と言われたアルデンヌの森を、アドラー達は駆け抜けた。
森を飛び回るのが得意なキャルルが、常に先頭でみんなを引っ張った。
アドラーは手放しで、自分のことのように嬉しく、キャルルを褒める。
「偉いぞキャル、よくやったな! キャルのお陰で怪我人も脱落者もなかったぞ!」
実際のところは樹の間を動くエルフよりも、地上を歩くアドラー達3人が獣の目に止まっただけだが、そんなことはお構いなし。
アドラーはここぞとばかりにキャルルを褒める。
「へへへ、やだなぁ兄ちゃん。ボクは当たり前のことをやっただけだよ」
謙遜しながらもキャルルは満点の笑顔、誰だって褒めて貰うのは嬉しい。
照れる少年を押しのけるようにして、ブランカもやってくる。
「だんちょーだんちょー。あたしも先頭で走ったよ?」
「ブランカも偉いぞ、ありがとうな」
右手でキャルル、左手でブランカと、アドラーは小さな頭を撫でる。
二人共とても満足そうに目をつむる。
アドラーは『褒めて育てる使う』などといった処世術を実行してるわけではない。
小さな貧乏ギルドで、十分な報酬もなく贅沢も出来ないが、せめて団長として頑張った隊員はひたすら称讃するを心がけていた。
そして小さな二人には、大好きなアドラーに褒めてもらえるのが、何よりのご褒美だった。
その後、アドラーは全員を集めて方針を伝える。
「みんなよくやった! 無事に乗り切れたのは皆の努力と活躍のお陰だ。そして、あとはライデンまで戻るだけだ……あと一日で!」
森を抜け出た時刻は、夕方の少し手前。
明日いっぱいは移動に使えるが、明後日からはギルド対抗戦の予選が始まる。
予選と言えども、朝の7時から24時までぶっ続けを二日間。
このような設定をした運営には、温かい血など流れていないと確信できる過酷なもの。
アルデンヌの森を子供を背負って駆け抜けたシャーン人は文句一つ言わず頷いたが、リューリアが代表して苦情を言った。
「ねえ、流石にもう諦めたら? これから強行軍で、その後に過酷な対抗戦なんて無理よ。怪我人がでるわ」
実のところ、うすうすだがアドラーも厳しいと感じていた。
だが団長が真っ先に諦めるわけにはいかない。
ギルドイベントは、義務なのだ。
「リューリア、良いかい分かってくれ。対抗戦からは逃げられないんだ」
アドラーは真っ直ぐにかわいい妹分を見つめ返して断言した。
緑の瞳で団長を見つめるリューリアは、頬を染めるでもなく激しく言い返すでもなく「だって!」と言ってほっぺを膨らませた。
予想外の反撃にアドラーは怯む。
「うっ……」
不満を顔全体で表現したクォーターエルフの美少女に、普通の男は逆らう術がない。
そしてアドラーは至って普通だった。
「あーそうだなぁ、うん、ちょっと冷静に考えるかな……」
団で一番の常識人、リューリアの当たり前の提案に、アドラーは考えなおすことにした。
普通に考えれば、運営の課した過酷なイベントにギルドを上げて参加する義理などない。
たとえ報酬がとびきりな物だとしてもだ。
団員やここにいる皆の健康と安全が第一なのだと、毒されていたアドラーの呪縛が解けようとしていた。
目が覚めたアドラーが「たかがイベントの一つや二つ」と、至って常識的な判断を下そうとした時、異変が起きた。
まず真っ先にブランカが「なにかくる!」と反応した。
続いて周囲を警戒していたシャーン人から、中央のアドラー達へ合図が飛ぶ。
言い争いはひとまず中断して、守るべき者を中に、戦える者は外側へ、そして団長は防衛陣形の先頭に立つ。
森を抜け出たばかりの、見渡す広さのある草地に居たアドラー達に、もうもうと土煙を上げた集団が接近してくる。
「これは、大軍だな……」
アドラーの右を固めたダルタスの声でさえ、上ずりかけていた。
一気に視界に迫る軍勢は、騎兵ばかりが一万以上、いずれも重装備の正規軍。
掲げた旗は百旒を優に超え、中央にはこれでもかと主張する獅子の紋章があった。
「帝国騎士団が、何故こんなところに……?」
アドラーでなくとも分かる、大陸でこれだけの騎士団を擁するのは、ミケドニア帝国の皇統、アグリシア家しかない。
”太陽を掴む鷲”を威圧しない距離で止まった帝国騎士団から、たった二騎だけが踊り出てきた。
馬上の一人は若者、もう一人は髭面の初老だが、鎧は着けていない。
二騎は、アドラーの前までくると、馬から降りずに話かけた。
「やあアドラー団長、また会ったね。サイアミーズ国に変ありと、我が家の騎士を率いて南下してきたのだが、もう騒ぎは収まったのかな?」
アドラーは、直接話しかける無礼はせずに、肯定の意味で静かに頭を下げた。
皇子の供をした初老の男、バルハルトがすまなそうに声を出した。
「すまぬな、お止めしたのだが。どうしても団長から直接に話を聞きたいとな」
ミケドニア帝国の皇太子マクシミリアンが、アドラー達を出迎えてくれていた。
結局、アドラーは一晩を皇太子に付き合わされた。
軍営とはいえ食事も酒も豪華なもので、しかも全員に分け隔てなく振る舞われ、扱いは何の文句もなかった。
長い話の途中で「サイアミーズのフィリップ殿下が生きていた」という情報が、帝国には最も重大事であった。
マクシミリアンとバルハルトは互いに見合い、サイアミーズ王国を攻めるのを諦めた。
豪胆公フィリップは、それ程の人物であった。
朝まで皇太子と語り、存分に飲んだアドラーに与えられたのは、二十両もの馬車と先導する騎兵が百騎。
「やった! これで対抗戦に間に合うぞ!」とアドラーが喜んだのも束の間、馬車に揺られた帰り道で盛大に吐くことになる。
アドラー率いる”太陽を掴む鷲”は、予選初日を完全欠席することになった。
それでも団長が諦めるわけにいかない。
アドラーは運営本部へ殴り込む。
「テレーズさん!! まだ予選は一日ありますよね? 参加できますよね!?」
優秀な受付嬢テレーズは、まだ青い顔をしているアドラーの剣幕に押され黙って頷くのみ。
”太陽を掴む鷲”はシード権を持っている。
予選の初日にいなくとも、参加はしているのだ。
だが、既に他の団は一日をかけて大量のポイントを稼ぎ、アドラーの本戦出場は絶望的であった。
絶対絶命の窮地にあったアドラーの、本当の戦いはこれから始まる――。
0
あなたにおすすめの小説
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる