悪役令息に転生したビッチは戦場の天使と呼ばれています。

赤牙

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2巻

2-3

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 正直すぎるマリアの本音に驚く。
 マリアはつらつらと王子の愚痴ぐちを述べると、最後に大きな大きなため息を吐いてニコリと笑った。

「あ~! アンジェロに全部話したらスッキリした!」

 いつもと変わらない強気なマリアを見て、僕は思わず笑った。

「王子に対してそんなことを言えるのはマリアくらいだよ」
「そう? みんな思ってるんじゃない? 言うことは上っ面だけで内容がないし、気に入らない人には意地悪だし。それにアンジェロのことを落ちこぼれだって言う人は……嫌い」

 マリアの言葉がなんだか嬉しくて「僕のことは気にしないで」と返した。
 するとマリアは僕をじっと見つめて、重々しく口を開く。

「マイク王子から聞かされたんだけど……アンジェロは、フテラ様から呪いを受けたの?」
「え……」

 呪いのことを聞かれ、血の気が引いた。あのときのことは、なるべく思い出したくない。
 うつむくと、マリアは僕の手を優しく握った。

「アンジェロ、辛いことを聞いてごめん。でも、教えてほしいの。どうしたらその呪いを受けても、こんなに元気でいられるのか……」

 その言葉の意味がわからなくて顔を上げると、彼女は今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「なんでって言われても……僕にもわかんないよ。マリアはなんで呪いのことを気にするの?」

 僕の問いかけに、マリアは沈んだ声で答える。

「私の妹も……フテラ様からの呪いを受けたの」

 洗礼式の日に見た光景が脳裏によみがえり、ズキリと背中の傷が痛む。
 教会の地下室にはフテラ様になれなかった子たちがたくさんいた。
 マリアの妹も僕と同じように呪いを受けて、あの場所にいるのだろうか。

「マリアの妹さんは……今、どこにいるの?」
「今は教会で保護してもらってる。二年前の洗礼式のときに、フテラ様に反抗的な態度をとったから呪いを受けたって聞かされて……でも、リリアはそんな子なんかじゃない。私より信仰心も厚くて、素直で優しい子なの。そんな子が呪いを受けるなんて……。呪いを受けてからあの子は、リリアはずっとおびえてた。どんなに声をかけても、抱きしめても、リリアの心は壊れていって……私だけじゃどうにもできなくて……。ねぇ、アンジェロ。どうすれば呪いに打ち勝てるの? 私はどうすればリリアを救えるの?」

 僕の手を握るマリアの手は、小さく震えていた。
 彼女は緋色の瞳をうるませて必死に問いかけてくるが……僕だってその答えが知りたい。

「僕も……わからない」

 うつむきながらそう答えると、マリアはそっと手を離す。

「そっ……か。ごめんね、アンジェロ。貴方も辛いのに……」
「ううん……」

 僕とマリアの間に沈黙が流れる。
 マリアは小さく鼻をすすり、涙をこらえているのがわかる。
 呪いを受けてから十年が経ち、僕は呪いのことから目をそらしてきた。
 辛く悲しい日々を思い出したくなくて、時間とともに記憶が薄らいでいくのを待つだけだった。
 僕自身、未来がどうなるかなんてわからない。でもフテラ様になんて絶対になれないのはわかる。
 このままヨキラス様や教会のいいようにさせていたら、マリアの妹リリアのような被害者は増えていくだろう。
 じゃあ、僕にできることは……?
 僕はマリアの手をとった。

「マリア、僕……呪いを解く方法を探してみるよ」

 僕の言葉に、マリアは涙で濡れた瞳を大きく開く。そして、じっと僕を見つめた。

「本当に……?」
「……うん。僕も、呪いに打ち勝ちたいんだ」

 その言葉はマリアに向けたものではなく、自分に向けたものだった。
 ずっと見ないふりをしていた『呪い』という鎖。
 もがけばもがくほどにキツく絡まってくるその鎖に、僕はずっと囚われたままだ。
 このままでは、僕は鎖に繋がれたまま一生を過ごすことになる。
 それは、マリアの妹も同じ。
 教会の地下で見た少年少女たちは、きっと未来の僕の姿だ。
 僕だって……そんな未来をたどりたくはない。
 ずっと怖くてなにもできなかったけど、今は違う。
 自分のためにも、大切な友人のためにも、僕はやらなきゃいけないんだ。

「ねぇ、マリア。僕と一緒に呪いと戦ってくれる?」
「うんっ! もちろんだよ!」

 マリアは僕の手を握ると、涙で濡れた顔を綻ばせる。
 こうして僕たちは呪いに打ち勝つために動きだした。
 まずは情報を集めようと図書館に通い、ふたりで魔法についていろいろと調べた。
 呪いについての文献は少なかったが、呪具について書かれた、古びた怪しげな本を見つけた。
 恐る恐るページをめくっていくと、様々な呪具のことが記載されており……僕を傷つけた短刀も載っていた。
 見た瞬間吐き気がしたが、ぐっと歯をくいしばる。

「アンジェロ、大丈夫?」

 隣で違う本を読んでいたマリアが心配そうに顔を覗きこんでくる。僕は「大丈夫だよ」と返事をして、また本と向き合った。
 呪具は使用者の魔力によって呪いを発動する。闇属性でない者も呪いを付与できるようになる大変危険な道具だ。だから教会が厳重に管理していると書いてあった。
 その教会が、呪具を使って子どもたちを傷つけているなんて知ったら皆はどう思うだろうか。
 憂鬱ゆううつな気持ちになりながら、分厚い本は一日で読み終えることができず、また次の日に調べることにした。
 図書館からの帰り道、マリアと呪いについてわかったことを共有していく。

「マリア、呪いについてわかったことはあった?」
「ん~あまりなかったかな。闇属性の講習と同じ内容ばかりだったから」

 マリアの言葉に僕は少し驚く。
 その講習を受けられるのは闇属性を持った人だけだ。

「マリアは教会で闇属性の講習を受けたことがあるの? もしかして……マリアの属性は闇なの?」
「うん……」

 問いかけにマリアは答えにくそうにうなずく。闇属性は聖属性と対になるもので、その特徴からあまりいいイメージを持たれない。
 いつでも他人に呪いをかけられる存在だと思うと、人によっては恐怖になるだろう。
 けれど、彼女がそんなことをする人ではないと僕は知っている。
 マリアはどんな属性を持っていてもマリアなのだから。

「そうなんだ。じゃあ、この学園に入ったのも、闇属性の能力が高くて推薦されたの?」
「うん。教会で闇属性の魔法について勉強して、魔力のコントロールができるようになったときに、ヨキラス教皇様からお声がかかったの」

 突然出てきたヨキラス教皇の名にピクッと体が反応した。

「闇属性の魔力を持った子は基本的に教会で過ごすんだけど、ヨキラス教皇様は私に『教会以外の世界を知り見識を広げてきなさい』っておっしゃったわ。それに、リリアのこともあったから。私が学園で学んで将来教会のために働くなら、リリアを保護して治療してくださるって言われたの。だから、どんなに虐められても辛くても、リリアのためなら頑張れる」

 ――マリアがどんなに辛い目に遭っても頑張れたのは、すべて妹のためだったんだ。
 妹の話をするときのマリアはとても優しい顔を見せる。それだけマリアにとって、リリアは大切な存在なんだ。
 僕にとってはオレリアン兄様みたいな感じかな。
 マリアと別れた僕は、久しく会っていない兄様の姿を思い出しながら家へ帰っていった。
 家へ帰りつくと、玄関に執事が待ち構えていた。
 屋敷へ入るなり早く部屋に行くように促される。
 そういえば、今日はだったな……と思い出し、憂鬱ゆううつな気持ちになった。
 今日は、月に一度のヨキラス教皇様の訪問の日だ。
 教皇の座を継承したあとも彼はこうして僕を訪ねにやってくる。
 父様はそんなヨキラス教皇様を慈悲深い神のような方だと称賛していたが……実際はそんな人ではない。
 ヨキラス教皇様がいるというだけで気分は重たくなり、自分の部屋に入るのに大きく深呼吸をしてから扉を開く。
 中へ入ると、僕の本棚を眺めている教皇様の姿が見えた。
 彼は僕が入ってきたことに気づいて目を細める。

「アンジェロ様、おかえりなさい。今日はいつもより遅かったですね」
「……勉強をするために残っていました」
「そうですか。アンジェロ様も、もうすぐ卒業を迎えますからね。学生のうちにたくさん学ぶといいです。さぁ、傷を見せてください」
「……はい」

 シャツを脱いで背中の傷を見せると、ヨキラス様はいつものように背中を撫でる。
 傷口の様子を確かめるように触れられて、指先が傷の中心に入りこみ、痛みで顔をしかめる。
 呪具の本に載っていたあの短剣を見たせいか、洗礼式のことを思い出してしまい、いつもより強く恐怖を感じた。
 拳を握りしめて必死に診察を耐えていると、ヨキラス教皇様がそっと僕の体に手をまわす。

「アンジェロ様、今日はどうなさったのですか? いつもよりもおびえてらっしゃるようですが」
「いつもと……変わりません……」
「もう傷に触れることにも慣れたと思ったのですが、まだ治療が必要なようですね」

 教皇様はそう言うと、僕のつむじに唇を落とし、優しく抱きしめてくる。
 教皇様は、昔から治療のときにこうして僕に触れてくる。
『気持ちが悪い』と思っても、僕はその手を振り解くことができる立場ではない。
 それに、今はヨキラス教皇様に聞かなくてはいけないことがある。

「あの……教皇様。洗礼式のときに見せてもらった、フテラ様になれなかった子たちは、どうなるんですか……?」

 ゆっくりと振り向きヨキラス教皇様を見上げると、彼はうっすらと笑みを浮かべ答えてくれた。

「大切に保護していますよ。あの子たちは、失敗したとはいえ大切なフテラ様からの贈り物ですからね。傷をいやし、教会でなに不自由なく過ごしています」
「そう、ですか……」

 僕とマリアが呪いを解くことができれば、教会にいたあの子たちもきっと助けることができる。
 安心すると、ホッと気をゆるんだ。
 しかしヨキラス教皇様の口から、意外な言葉が出てきた。

「リリア……でしたか。一年前に教会で保護した子がいましてね。その子もアンジェロ様と同じように素晴らしい力を授かったのですが、残念なことに心を閉ざしてしまいました。今は私のもとで引きとっているんですよ」
「…………」

 ひゅっと息を呑んだ。
 僕の表情を見て、教皇様はニタリと笑みを深くする。

「アンジェロ様は、リリアの姉マリアとずいぶん仲がいいようですね。マリアから話は聞いていますよ。大切な友達ができたと、とても喜んでいましたが……それは本当ですか?」

 ヨキラス教皇様の声は、ねっとりと絡みつくようだった。
 異様な雰囲気のヨキラス教皇様を見つめ、僕はなんとか首を横に振る。

「仲よく……ありません」
「おや、そうなのですか? では、なぜマリアと一緒にいたのですか?」
「……平民がどんなものなのか気になっただけです」
「ハハ。そうですか。確かに、平民と貴族では生活も考え方も違いますからね。アンジェロ様は不憫ふびんなマリアに少し興味を持っただけなんですね。その言葉を聞いて安心しました。もし、仲がいいなどと聞かされたら……私は深く嫉妬していたでしょう。アンジェロ様の味方は私だけなのだと」

 ヨキラス教皇様はそう言って僕の体を再度抱きしめる。そして、背中の傷を撫でながら何度も僕の名を呼んだ。
 ヨキラス教皇様が部屋から去った後、僕は大きなため息を吐きベッドにうずくまる。

「背中、痛い……」

 いつもよりうずく背中の傷。
 教皇様の言葉が頭の中をぐるぐるまわる。
 マリアと仲よくすることを、教皇様はよく思っていない。
 距離を置いたほうがいいのだろうか。せっかく仲よくなれた、僕の大切な友達。
 その友達でさえ、この傷のせいで、ヨキラス様のせいで失ってしまうなんて……
 ベッドに入っても、いろいろと考えこんでしまった。
 マリアと距離をとるべきだと思ったが、リリアの件を考えると言い出せる気がしない。
 毎日、呪いを解く手掛かりがないか、呪いを軽減できないかと必死な姿を知っているのだから、なおさらだ。
 明日、マリアに会ったらふたりでいることは内緒にしてくれるように頼んでみよう。
 けど、理由を聞かれたらなんと言い訳をすればいいだろう。
 そんなことを考えていると、朝を迎えてしまった。
 そして今日も僕たちは図書館の片隅で、呪いについて調べていく。
 分厚い本を一冊読み終えただけで疲れが押し寄せ、ふたりしてため息がもれる。

「ハァ、なかなか手がかりは見つからないわね……」
「そうだね。でも、リリアちゃんのためにも早く見つけてあげないと」

 僕がそう言うと、マリアは緋色の瞳を細めて微笑んだ。

「あ、でもね、少しだけいい知らせがあるんだよ」
「え? なになに?」
「実は、昨日ヨキラス教皇様が私のところに来て、リリアのことを教えてくれたんだ」
「……え?」
「今はヨキラス教皇様でも解けないくらい、フテラ様の呪いは強いみたいなんだけど、リリアがこのまま教会で過ごして、穏やかな心を手に入れられれば、少しはフテラ様の怒りもおさまるだろうって。そうすれば、呪いを解くことができるかもしれないって言われたの」

 笑顔のマリアとは反対に、僕の表情は険しかった。
 ――ヨキラス教皇様がマリアに会いに……
 マリアの背後に教皇様の影がチラつき、鳥肌が立つ。だが彼女は真剣な顔で話し続けた。

「だから私……頑張らなくちゃいけないの」
「頑張るって、なにを?」

 僕の問いかけにマリアはグッと下唇を噛み、ぎこちない笑みを浮かべる。

「ヨキラス教皇様がね、マイク王子と仲よくなりなさいって。私が教会と王室を繋ぐ役目を担えれば、救われる人たちがたくさんいるって言われたの。リリアのために、皆のために頑張りなさいって。その姿をフテラ様が見てくれれば、きっとリリアの呪いも……」
「そんなのデタラメだよッ!」

 マリアの言葉に思わず声を荒らげた。
 なにがフテラ様の怒りや呪いだ!
 呪いをかけたのは、ヨキラス教皇様なのに!
 そう言葉にしたいけれど、声を出そうとする背中がズキズキと痛み、あのときのことを思い出す。
 洗礼式の後、母様に真実を告げようとしたときに受けた失神するほどの痛み。
 開きかけた唇を噛んで、僕は黙りこむ。

「アンジェロ、なにがでたらめなの?」

 真実を伝えたい。けど……怖い……
 マリアは不安そうに僕を見つめる。

「ヨキラス教皇様を……信じちゃダメ、だよ」
「……なんでそんなことを言うの? ヨキラス教皇様は私たちを救ってくれているんだよ」
「違う! あの人、は……うぐっ!」

 ヨキラス教皇様を否定しただけで、ナイフを突きつけられたような痛みが走る。マリアはそんな僕の姿を見て心配そうに声をかける。

「アンジェロ!? 大、丈夫? どこか悪いの?」
「どこも悪くなんかない……」
「……もしかして、呪いが強くなったの? リリアも、教会のことが嫌いだって言うと背中を痛がってたから」

 マリアがそっと僕の背中に手を伸ばしてきて……僕はマリアの後ろに見えるヨキラス教皇様の影にひゅっと息を呑む。

「僕に触るなッッ!」

 伸ばされた手を払い除けると、マリアは目を見開いた。払いのけた右手がジンと痛む。
 どうしよう。
 マリアにこんな顔をさせたくなんてなかった。
 でも……でも……
 マリアはなにも言わず、僕をじっと見つめている。
 その視線は僕が隠している真実を話すように求めているように感じた。
 涙があふれそうだった。僕は後退り……涙がこぼれ落ちる前に、逃げ出してしまった。
 それからマリアは園庭にも図書館にも姿を現さなくなった。
 ときおり学園で姿を見かけると、隣には必ずマイク王子がいた。
 王子のことは嫌いだと言っていたのに隣にいる理由は、ヨキラス教皇様に言われたからだろうか。
 いや、今はマリア自身が望んでいるのかもしれない。
 楽しげに微笑むふたりの姿を見たくなくて、声を聞きたくなくて、僕は逃げるように背を向けた。
 マリアがいなくなったあとも、僕はずっと呪いについて調べていった。呪いを解く方法なんて、聖魔法による解呪しかないとわかりきっていたけれど、なにかしていないと心がもたなかった。
 いつも隣にいてくれたマリアの姿を思い出しながら、僕は今日も図書館を訪れる。
 今日はどの本を読もうかと本棚をながめていると、ふと闇魔法の教本が目に入った。
 ――闇魔法、か……
 闇魔法という文字に、パッとマリアの顔が思い浮かんで、頭を横に振った。
 古びた分厚い教本を手にとり、パラパラとめくる。
 闇魔法による呪いの付与、制約。
 眉間にしわを寄せながら読み進めていくと、ある一文に目が止まった。

『呪いの付与を安易におこなうことは危険である。かけた呪いを凌駕りょうがするほど強い闇魔法の使い手がいれば、呪いを返されるリスクがあるためだ』
「呪いを……返す……」

 その言葉の意味を理解して、胸の鼓動が速くなる。ドキドキしながら読み進めていくと、返すのに失敗すれば元よりも強い呪いを受けることになるらしく、どちらにせよ危険だと書いてあった。
 けれど、僕にとっては小さな希望に思えた。
 マリアは強い闇属性の加護を受け、魔力量も多いと聞いたことがある。
 魔法のテストでもマリアは常にトップで、百年に一度の逸材だと噂されるほどだ。
 もし、マリアの魔力が僕やリリアにかけられた呪いよりも強ければ、僕たちの呪いを教皇様や教会に返すことができる。
 まずは僕の体で試してみればいい。もしそれでダメでも構わない。呪いにさいなまれるのは僕だけだ。
 早く、このことをマリアに伝えなきゃ。
 そして、あの日手を払いのけたことをちゃんと謝って……仲直りしたい。
 僕は本を抱え、小さな希望を胸にマリアのもとへ走った。
 図書館を出て、いつもマイク王子たちが過ごしている中庭のテラスへ向かう。
 王子とマリア、それにマイク王子の学友たちが楽しそうにテーブルを囲んでいる。
 いつもは近づくこともしないけれど、今すぐにでもマリアに本で知ったことを伝えたかった。

「マ、マリア」

 僕が近づくと、マリアの肩が小さく揺れる。
 そして隣にいた王子が警戒するように僕をにらみつけ、マリアの代わりに返事をした。

「……なんの用だ、アンジェロ・ベルシュタイン」

 敵意のこもった声色に僕は足を止める。

「マリアに、話があって……」

 ぎゅっと強く本を抱き寄せる。
 マリアは僕と視線を合わせてはくれず、なにも言わずにうつむいていた。
 そんな彼女の様子を見て、王子は僕に強気な口調で話しかけてくる。

「マリアはお前とは話したくないそうだ。呪われた者となど、誰も一緒にいたくはないからな」

 くつくつと喉を鳴らしながら王子が嫌味な笑顔を僕に向けると、ずっと黙っていたマリアが顔を上げた。

「……話があるなら、場所を変えましょう」
「あ……うん」

 マリアは王子の隣から離れ、僕の手をとって歩き出す。
 王子が引き止める声も無視して僕たちはいつも過ごしていた園庭へ向かった。
 園庭に到着すると、マリアが振り返り無表情のまま口を開く。

「話ってなに?」
「あのね、図書館で呪いについて調べてきたんだ。それで、呪いを解くのは無理かもしれないけど、呪いを跳ね返すことならできるんじゃないかと思って」

 そう伝えると、彼女は小さくため息を吐く。

「フテラ様がかけた呪いを跳ね返せるわけがないじゃない」
「でも、呪いは……」
『ヨキラス教皇様や教会がかけたもので、フテラ様は関係ないんだ!』

 そう言葉にすることはできず、唇をかみしめる。
 真実を伝えられずに険しい顔をする僕を見て、マリアは冷めた視線を向けてきた。

「……いいわよね、貴方は。呪いを受けてもそんなに元気でいられて」
「え?」

 マリアの言葉の意味がわからず、僕は呆然とした。

「貴方は公爵家でお金もたくさん持ってるから、ヨキラス教皇様じきじきに治療も受けられて。だから呪われているのに平気でいられるんでしょう」
「なに……言ってるの、マリア」
「ヨキラス教皇様から聞いたわ、アンジェロは公爵家の特別な子だから、呪いを抑えるようにしてあげてるって」

 ヨキラス教皇様からの今までの治療を思い出すが、そんなことはあるはずがなかった。
 僕の背中の傷も心の傷も軽くなってなどいない。

「それは、違う。僕はなにもしてもらってない……」
「じゃあ、なぜ貴方はそんなに元気なの? リリアは痩せ細って……もう昔の面影もないのよ。笑顔ひとつ見せてくれない、最近は私のことも忘れちゃって……」

 マリアの瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちる。
 小さく震える彼女になんと声をかければいいのかわからず、そっと肩に触れた。

「マリア……泣かないで……」
「私だって……泣きたくない……。でも貴方を見るたびにリリアの姿が目に浮かんで……なんで貴方だけ普通でいられるのって思ってしまう。特別な貴方が羨ましいって……」

 返す言葉が見つからなかった。
 マリアはそでぐちで涙を拭い、口角を上げる。

「……でもね、教皇様が約束してくれたの。マイク王子ともっと特別な仲になれば、リリアの治療を優先してくれるって。そうすれば、アンジェロみたいに元気になれるって。私が頑張ればリリアを助けられるの、だから私は王子と……」

 涙を流しながら笑顔を浮かべるマリアの姿。
 このままでは、彼女の心が壊れてしまう。
 僕は思わずマリアを抱きしめた。

「ダメだよマリア……そんなの、ダメだ」
「じゃあどうすればいいの? アンジェロがリリアを助けてくれるの!?」

 マリアは抱き寄せた僕を突き返す。

「助けてくれるはずないわよね。だって、貴方は貴族で特別で……なにもしなくても周りが助けてくれるんだもの」

 マリアの冷ややかな言葉が僕の胸に突き刺さり、目頭がじわりと熱くなる。
 好きで呪いなんて受けてない。
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 どんなに辛くても我慢して我慢して……ずっとひとりで耐えてきたんだ……
 じわりと目に涙がたまる。泣きたくないのにあふれた涙が頬を伝い、ポツリと言葉がこぼれる。

「マリアは……僕が嫌いなの……?」
「………………嫌い」

 返ってきた答えに胸が締めつけられる。堪えきれなかった涙がぽろぽろとこぼれおちる。
 マリアは僕の顔を見てくしゃりと顔をゆがめると、目いっぱいに涙を浮かべ大きく口を開いた。

「そんな顔も…………大嫌いよ!」

 マリアはそういって僕に背を向ける。
 僕は腕を伸ばすが……するりと僕の手をすり抜け、マリアは僕のもとを去っていった。
 それからマリアとは話すことも、目を合わすこともなかった。
 ただぼんやりと過ぎていく日々。
 園庭でひとりで食べる昼食。
 ひとりでいることに慣れていたはずなのに、隣で笑ってくれていたマリアの笑顔を思い出すと寂しさに襲われた。

「もう、友達には戻れないのかな……」

 マリアが言い放った最後の言葉を思い浮かべ、大きなため息を吐く。
 あんなことを言われたら、友達になんて戻れるわけがない。
 マリアとの関係修復を諦めてからしばらくしたある日、僕はマイク王子の友人たちに囲まれた。
 話があると言われ、連れていかれたのは学校にある聖堂だった。
 聖堂という場所に恐怖心を抱いていた僕は、学園の聖堂にも近づくことはなかった。独特の雰囲気に包まれたあの空間を思い出すだけで、息が苦しくなる。
 扉の前で足を止めてしまった僕を、マイク王子の友人たちは背中を押すようにして歩かせた。
 そして、開かれた扉の先には……マイク王子とマリア、その隣にはなぜかヨキラス教皇様もいた。
 学生たちも集まっており、入ってきた僕に皆の視線が集中する。
 異様な空気に再び足を止めたとき、王子の声が聖堂に響き渡った。

「アンジェロ・ベルシュタイン。今からお前の罪を暴かせてもらうぞ」

 ――……罪? マイク王子は一体なにを言っているんだろう……?
 呆然と王子を見つめ、隣にいるマリアに視線を移す。マリアも僕に視線を向けているが……その瞳は僕をあわれんでいるように見えた。

「お前の罪を暴く上で、教皇にはその証人となっていただく。アンジェロ・ベルシュタイン、お前は私の婚約者であるマリアを幾度となく侮辱し、水をかけるなどの暴行まがいの行動をしたと聞く。そして洗礼式でフテラ様の怒りに触れ呪いを受けたにもかかわらず、自らの罪をつぐなうこともせずに呪いを解くためにマリアを利用しようとした」
「違います、僕はそんなことはしていな……」
「黙れ! お前がマリアを呼び出していた園庭からびしょ濡れになった彼女が出ていく姿は何度も目撃されている。それに、図書館では呪いについて熱心に調べていたそうじゃないか」
「それは……」

 真実と嘘が入り混じった糾弾に対し、僕はなんと釈明すればいいのかわからなかった。王子が僕の罪を言い立てるたびに、周りの視線が敵意に満ちたものに変わる。

「ぼ、僕はマリアを侮辱なんてしていません! 水をかけるなんてひどいこともしていません」

 必死に訴えかけるが、王子は鼻で笑う。

「お前がなんと言い訳しようが、マリア本人がそう言っているんだ。なぁ、マリア。君を虐げたのは、そこにいるアンジェロ・ベルシュタインなのだろう?」

 王子の言葉に、マリアはヨキラス教皇様へ視線を向ける。
 ヨキラス教皇様が微笑みとともに小さくうなずくと、マリアもマイク王子の言葉を肯定するようにうなずいた。

「……マリア? なんで……」
「往生際が悪いぞ、ベルシュタイン。大人しく罪を認めろ」

 王子は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。周りからは僕をとがめる言葉が浴びせられ、僕はひとり恐怖でいっぱいだった。
 小さく震える手を握りしめ、王子たちとともに祭壇にいたヨキラス教皇様に視線を向ける。
 教皇様はそんな僕を見つめながら、目を細めて小さく口を開く。

『これも試練のひとつです』

 ――……どうして? どうして僕だけがこんなに辛い目に遭わなくちゃいけないの? なんで? フテラ様……どうして……?
 祭壇に飾られたフテラ様の像が目に入る。微笑みを絶やさないフテラ像も、僕を嘲笑っているように見える。
 もう僕の味方は誰もいない。
 信頼していた人に傷つけられ、裏切られ、なにも悪いことなどしていない僕を皆が悪者だと決めつける。そして大事な、大好きな人も……僕を恨み、離れていった。
 もうなにもかもどうでもいい。
 心の中が絶望でいっぱいになる。
 僕は虚ろな瞳でフテラ様を見つめ、最後の願いごとをした。

『フテラ様、お願いします。……もうこんな世界から僕を消してください』

 心の中でそう願うと、フテラ様は僕に柔らかく微笑みかけてくれた。
 すると、フテラ様の像が、まばゆく光り輝いたように見えた。
 手を伸ばすと、ひとつの温かな光が手に入る。
 光はどんどん強くきらめいて……僕はかき消されるように光に包みこまれた。
 ――このまま、この光とひとつになりたい。
 その願いは叶えられ、アンジェロぼくは光とひとつになっていった。


 まぶたの裏に広がっていたまばゆい光が消え、うっすらと目を開けると、涙がこぼれ落ちた。
 ぼんやりとした意識が、嗅ぎ慣れた消毒液の匂いでじょじょにはっきりしてくる。
 見慣れた木の天井と、空きベッドが並んだ部屋を見て、自分が治療小屋にいることを認識する。
 そして、先ほどまで見ていたのがアンジェロの過去なんだと知り、胸が締めつけられた。
 苦しくて悲しくて、自分の体を抱きしめるように毛布にうずくまる。
 背中がズキズキと痛む。
 アンジェロが見せてくれた過去のすべて。
 なんの罪もないひとりの子が、自ら消え去りたいと思うほどに傷つけられていたなんて……

「…………あんなのひどすぎんだろ」

 アンジェロの過去を思い出すと、今にも張り裂けそうなくらいに胸が痛み、涙が止まらなかった。
 衝撃すぎる過去を思い出したせいなのか、背中の痛みのせいなのか、限界を迎えたアンジェロの体はいつのまにか眠りについてしまった。
 それからしばらして、近くで物音がして目を覚ます。
 部屋の中は薄暗く、音のしたほうへ視線を向けるとノルンの姿が見えた。
 その瞬間、悲しさでいっぱいだった心が無意識にノルンを求める。

「……ノルン、さん」
「アンジェロ様!」

 掠れた声で名を呼ぶとノルンが振り向き、こちらに駆け寄ってくる。
 彼の瞳は心底俺のことを心配しているようだった。大きな手が俺の手を優しく包む。

「あぁ、よかった。目を覚まされたのですね」

 うなずくと、握られた手に力がこもる。
 ――あった、かい……
 大きく男らしい手。
 その手から、ノルンの優しさが伝わってくる。
 アンジェロがずっと求めていた温もりに触れると、嬉しさのあとに悔しさがこみあげてくる。
 味方のいない、ひとりぼっちのアンジェロ。
 君がどれだけ辛く寂しい日を過ごしてきたか、俺ならわかってやれるのに……
 アンジェロの過去を思い出すと自分のことのように辛くなり、また涙がこみあげてくる。
 さっきも枯れるほど泣いたはずなのに、心の涙が尽きることはない。
 ポロポロと涙をこぼす俺を見て、ノルンは心配そうに濡れた頬を拭ってくれる。

「どこか痛みますか?」
「痛くは……ありません……」
「……悲しいのですか?」

 ノルンの言葉にコクリとうなずく。すると彼はまた俺の手を両手で包みこんでくれた。


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人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。 追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。 きっと追放されるのはオレだろう。 ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。 仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。 って、アレ? なんか雲行きが怪しいんですけど……? 短編BLラブコメ。

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

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