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新章:
番外編:消えたアンジェロ②
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目が覚め『アンジェロ』と呼ばれてから半日が経った。
あれから自分がとんでもない状況に置かれていることを知らされる。
日本ではなく知らぬ世界にいること、そして「アンジェロ・ベルシュタイン」という人の体にいるということ。
なーにがどうなってるのか全く分からなかったが、鏡を見てようやく現状を理解した。
きらめくふわふわの金色の髪に碧色のクリクリおめめ。可愛らしいさくらんぼの唇に透き通るような白い肌。
天使のごとき可愛らしい青年が呆然とした顔で鏡に映っている。
頬をつねると可愛いほっぺが赤くなった。
つまり、これは……異世界転生ってことだろうか。
まだ現状を受け入れられない俺を他所に、周りは騒がしさを増していく。
ベッドの周りを取り囲む人々。
俺の診察をした医師……ここでは治癒士と呼ばれている中年の男性フォルクが現在の状態を皆に説明している。
「アンジェロ様は現在、アンジェロ様ではない別の人格が現れております。名前を『オガワトーマ』と名乗っております」
「それで、主人格であるアンジェロ殿はどこへいったのだ」
爽やかゴツめ系王子ジェスが怪訝な顔をして治癒士フォルクに問いかける。フォルクは困った顔をして答える。
「どこへいったのかは私も分かりません。状況からして、頭を怪我したために一時的に記憶を失っているのか……いや、記憶を失ったとなると自分が何者なのか分からなくなるため違うかもしれません。なんらかの魔法をかけられ、アンジェロ様の記憶を消し去ったと考えるとしても、このオガワトーマという人格が何故現れたのかが分かりかねます」
フォルクがチラリと俺を見てくる。
俺に答えを求めているようだが、そんなの俺が聞きたい。
黙っていると、黒髪の長髪男ノルンが話しだす。
「アンジェロ様を襲った者は、アンジェロ様を襲ったあとすぐに毒を飲み、一命を取り留めているものの意識はありません。取り調べを行うのは難しい状況です。今は、逃げた襲撃者たちを追っているところです」
報告が終わると沈黙が流れた。
分かったことは、俺が転生したアンジェロは命を狙われる身だということくらいだ。
前世で余命宣告されてから必死に病と戦ってきたのに、今世でも命の危機にさらされるって……神様、あんたはどんだけ俺に試練を課すつもりだよ。
神様に心の中でぶつぶつと文句を垂れていると、ジェス王子が口を開く。
「とりあえず、アンジェロ殿はこのまま私が保護しよう。王宮で起こった事件だ。責任を持って対処しよう」
「—— っ! お待ち下さい王子。このまま、アンジェロ様を王宮に置いておくのは危険ではありませんか? 敵の正体も分からぬ今、また、襲われることも考えれば前線に戻ることが最善では……」
ノルンの言葉にジェス王子は首を振る。
「前線に戻る道中は警備も手薄になるだろう。それに、前線では何かあった時に対応できることが少ない。警備も強化し、アンジェロ殿の護衛には私直属の部下たちをつける。その者たちは信頼をおける者だ。それに、腕もたつ。ノルン、お前は前線に戻ることも可能だがどうする?」
「……私は、アンジェロ様を一生涯お守りすると誓っております。そばを離れることは決してありません」
「ならば決まりだ。アンジェロ殿……いや、オガワ殿。貴殿の身は、私が守ると誓おう。まずは心と体を休めるのが最善だ」
「はぁ……そう、ですね」
とりあえず、第二王子の言うことを聞いておく。俺も少し考える時間が欲しかった。
王宮にとどまることが決まり、俺の護衛には長髪男のノルンがつくことになった。
ノルンを残し、皆が部屋から去っていくと重苦しい空気が流れた。ノルンと目が合うと、俺の方へと近寄って自己紹介をしてくる。
「アンジェ……オガワ、トーマ様。改めて自己紹介をさせていただきます。私は、ノルン・リザードアルと申します。アンジェロ様の……護衛をさせていただいておりました。どうぞよろしくお願いします。私のことは、ノルンとお呼び下さい」
切ない顔をして自己紹介をしてくるノルン。その顔は大切な主人を失った悲しみ以上のものを感じられた。
「小川斗真です。これといって自己紹介することもないんですけど……どうぞよろしくお願いします。俺のことは、斗真でも小川でも呼びやすい方で呼んで下さい」
「では、トーマ様と呼ばせていただきます」
「様とか付けなくていいですよ。俺は貴族でもなんでもない平民ですし」
「いえ、呼び捨てはあまり慣れておりませんので、トーマ様と呼ばせて下さい」
「そう、ですか。じゃあ、それで……」
ノルンの第一印象は見た目通りザ・真面目くんだ。できればジェス王子くらいノリが軽い感じの方が俺はありがたい。
だが、魔獣が蔓延るこの世界の前線でアンジェロとともに活躍しているらしいので、側にいてくれるのはとても心強い。
ノルンから今日は休みましょうと促され、キングサイズの大きなベッドに入り込む。
これからどうなってしまうのか……不安だらけの異世界転生一日目が終わった。
あれから自分がとんでもない状況に置かれていることを知らされる。
日本ではなく知らぬ世界にいること、そして「アンジェロ・ベルシュタイン」という人の体にいるということ。
なーにがどうなってるのか全く分からなかったが、鏡を見てようやく現状を理解した。
きらめくふわふわの金色の髪に碧色のクリクリおめめ。可愛らしいさくらんぼの唇に透き通るような白い肌。
天使のごとき可愛らしい青年が呆然とした顔で鏡に映っている。
頬をつねると可愛いほっぺが赤くなった。
つまり、これは……異世界転生ってことだろうか。
まだ現状を受け入れられない俺を他所に、周りは騒がしさを増していく。
ベッドの周りを取り囲む人々。
俺の診察をした医師……ここでは治癒士と呼ばれている中年の男性フォルクが現在の状態を皆に説明している。
「アンジェロ様は現在、アンジェロ様ではない別の人格が現れております。名前を『オガワトーマ』と名乗っております」
「それで、主人格であるアンジェロ殿はどこへいったのだ」
爽やかゴツめ系王子ジェスが怪訝な顔をして治癒士フォルクに問いかける。フォルクは困った顔をして答える。
「どこへいったのかは私も分かりません。状況からして、頭を怪我したために一時的に記憶を失っているのか……いや、記憶を失ったとなると自分が何者なのか分からなくなるため違うかもしれません。なんらかの魔法をかけられ、アンジェロ様の記憶を消し去ったと考えるとしても、このオガワトーマという人格が何故現れたのかが分かりかねます」
フォルクがチラリと俺を見てくる。
俺に答えを求めているようだが、そんなの俺が聞きたい。
黙っていると、黒髪の長髪男ノルンが話しだす。
「アンジェロ様を襲った者は、アンジェロ様を襲ったあとすぐに毒を飲み、一命を取り留めているものの意識はありません。取り調べを行うのは難しい状況です。今は、逃げた襲撃者たちを追っているところです」
報告が終わると沈黙が流れた。
分かったことは、俺が転生したアンジェロは命を狙われる身だということくらいだ。
前世で余命宣告されてから必死に病と戦ってきたのに、今世でも命の危機にさらされるって……神様、あんたはどんだけ俺に試練を課すつもりだよ。
神様に心の中でぶつぶつと文句を垂れていると、ジェス王子が口を開く。
「とりあえず、アンジェロ殿はこのまま私が保護しよう。王宮で起こった事件だ。責任を持って対処しよう」
「—— っ! お待ち下さい王子。このまま、アンジェロ様を王宮に置いておくのは危険ではありませんか? 敵の正体も分からぬ今、また、襲われることも考えれば前線に戻ることが最善では……」
ノルンの言葉にジェス王子は首を振る。
「前線に戻る道中は警備も手薄になるだろう。それに、前線では何かあった時に対応できることが少ない。警備も強化し、アンジェロ殿の護衛には私直属の部下たちをつける。その者たちは信頼をおける者だ。それに、腕もたつ。ノルン、お前は前線に戻ることも可能だがどうする?」
「……私は、アンジェロ様を一生涯お守りすると誓っております。そばを離れることは決してありません」
「ならば決まりだ。アンジェロ殿……いや、オガワ殿。貴殿の身は、私が守ると誓おう。まずは心と体を休めるのが最善だ」
「はぁ……そう、ですね」
とりあえず、第二王子の言うことを聞いておく。俺も少し考える時間が欲しかった。
王宮にとどまることが決まり、俺の護衛には長髪男のノルンがつくことになった。
ノルンを残し、皆が部屋から去っていくと重苦しい空気が流れた。ノルンと目が合うと、俺の方へと近寄って自己紹介をしてくる。
「アンジェ……オガワ、トーマ様。改めて自己紹介をさせていただきます。私は、ノルン・リザードアルと申します。アンジェロ様の……護衛をさせていただいておりました。どうぞよろしくお願いします。私のことは、ノルンとお呼び下さい」
切ない顔をして自己紹介をしてくるノルン。その顔は大切な主人を失った悲しみ以上のものを感じられた。
「小川斗真です。これといって自己紹介することもないんですけど……どうぞよろしくお願いします。俺のことは、斗真でも小川でも呼びやすい方で呼んで下さい」
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「いえ、呼び捨てはあまり慣れておりませんので、トーマ様と呼ばせて下さい」
「そう、ですか。じゃあ、それで……」
ノルンの第一印象は見た目通りザ・真面目くんだ。できればジェス王子くらいノリが軽い感じの方が俺はありがたい。
だが、魔獣が蔓延るこの世界の前線でアンジェロとともに活躍しているらしいので、側にいてくれるのはとても心強い。
ノルンから今日は休みましょうと促され、キングサイズの大きなベッドに入り込む。
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