奴隷の僕がご主人様に!? 〜森の奥で大きなお兄さんを捕まえました〜

赤牙

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リアムの過去 ⑦

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深淵の森は俺のいる国と隣国の国境にある深い深い森。
森の奥深くではレッドドラゴンと同等の魔獣がいると噂されており、深淵の森は互いの国境を守る壁の役割も果たしていた。

そんな森に、体は痺れ毒に侵され魔法も使えない俺が放り投げられれば……もちろん死を意味する。
だが、そんな簡単に死んでやるつもりもない……。

無事に深淵の森に転移した俺はドサリと湿った土の上に落ちる。もしも、落ちる場所が沼や川だったら俺は呆気なく死んでいた。

一番最悪な事態を免れホッとするが、ここで気は抜けない。満身創痍な俺がまずしなくてはいけない事は……とりあえず体の痺れが取れるのを待つ。
体が動くようになれば魔力封じの腕輪を外し、解毒薬になるものを探しにいかなくてはいけない。
幸い、口に入れられたユリネの毒は致死量までは飲んでいない。

大丈夫だ……と、自分に言い聞かせながら寝っ転がっている間は魔獣と出会わないように神に祈る。
薄暗く光もまばらにしか届かない森は薄気味悪く空気も悪い。
こんな場所が死に場所なんて……ごめんだ。

それにしても、俺を殺すためにあのバカ高い転移石を使うなんて貴族様の考えることはまったくもって分からない。
あの石一つで、平民ならば一生働かずに暮らしていけるんだぞ?
それをまだ成人して間もないタリスが易々と使えるなんて……公爵家ってのはどんだけ金持ちなんだよ。
いや……もしかしたらイーゼルがタリスに渡したのかもしれない……。

体の自由が効かない間、そんな被害妄想をしてはイラついたり落ち込んだりしたながら時間が過ぎるのを待った。




運のいいことにしばらくすれば徐々に体の痺れが取れてくる。だが、体を動かせば今度はユリネの神経毒のせいかズキッと切り裂かれたような体の痛みが走る。
まぁ……これくらいならどうにかなりそうだ……。
顔を歪めながら腕についた魔力封じの腕輪を取れば、なんとか魔法が使えるようになる。

軽く体を動かしながら腰に下げていた剣に手をかけ、鞘から取り出し感触を確かめる。

夜会の正装が嫌いで義父母に夜会に参加するのなら軽装でいいから騎士らしくいさせてくれと頼み込み、一人場違いな格好をしていた甲斐があったな……。

「よし……。なんとか剣も握れるな……」

普段よりも扱いずらいが今は贅沢なんて言ってられない。
まずはこの深淵の森を抜け出し解毒して……
そして……そして……俺は一体どこに帰るのだろうか……?
あの、がめつい義父母のところか?
それとも……俺を憎んでいるイーゼルがいる騎士団か……。
よく考えれば俺には帰る場所など無い。
俺を待ってくれている人など……いないんだ……。

そんな事を考えながら深淵の森を彷徨っていると解毒草を見つけ、口に入れれば笑える位に苦い味に鬱々しい気分も吹き飛ぶ。
水で一気に流し込み、ハァ……と大きなため息を吐いた後、気持ちを切り替える。

もう俺も子どもじゃないんだから一人でもやってける。
味方がいなくても、俺には力がある……だから大丈夫だ。

そう自分に言い聞かせながら森の奥へと歩き、俺は隣国を目指す。
どうせなら俺の事など知らない人が多い方がいい。
名前も捨てて初めからやり直そう。


国境を越えるために奥地へと進んでいけば、至る所から魔獣の気配がする。テリトリーに俺が侵入してきた事に気付いているようだが、まだ姿を現さない……。

出来る事なら今の状態での戦闘は避けたい……などと、弱気を見せてしまったせいか背後から殺気がして振り向けばマンティコアの姿が……。
獲物が来たといわんばかりに気味の悪い顔は嬉しそうに歪み、すぐに鋭い爪を俺に向けてくる。

「チッ……」

小さく舌打ちして剣を抜き襲いかかってきた爪を受けるが、ふんばりがきかずに後ろへと吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた衝撃で大木へと頭を強く打ちつけ一瞬意識が飛ぶが頭を振って意識を保つ。
流れてくる血を拭いマンティコアを睨みつければ、早く来いよと余裕の態度で俺を待ち構えていた。

「やってやろーじゃねーかよ……」

俺は剣を握りしめ再度マンティコアへ挑んでいった……。


無我夢中で戦い、倒すことは出来なかったがどうにかマンティコアを追い払う事はできたが……敵はマンティコアだけではない。
その後も大小様々な魔獣達と戦い魔力も切れてしまう。
マンティコア戦で受けた頭の傷は痛み、頭痛も酷くなるばかりだ……。

せめて魔力だけでも補充しとかないとヤバいな……。

そう思い首に下げていた小さな石のついたペンダントを外す。
これは騎士学校時代に作った魔石……。
自分の魔力を込めて魔力切れを起こした際に使うものだ。

そして、騎士学校の風習で卒業時に友人と魔石を交換する習わしがある。俺はイーゼルと魔石を交換しあった。
つまり、この魔石には皮肉にもイーゼルの魔力が込められている。

「最悪だな……」

俺はそう呟き、魔石の魔力を取り込んだ。


それから俺は彷徨うように歩き続ける……。
朦朧とする意識の中、足に何かが引っかかり俺の体は宙に浮く。
頑丈な網に体の自由を奪われ、俺が抵抗したせいか木の枝がしなり反動で網は大きく揺れ近くにあった木に俺は再び頭をぶつけ……そこで俺の記憶はプツリと途絶えてしまう。



次に目を覚ました時には、全ての記憶を失ったまま俺は宙吊り状態。
訳もわからずに抜け出そうとしていると声が聞こえ……そこにいたのがココだった。

記憶もなく素性も知れない俺に優しさと笑顔を沢山くれた。
可愛くて優しくて頑張り屋で……俺にとって愛おしい存在……。
ココのそばにいれる事が俺にとって何よりも幸せで生きる糧だ。


ココにつけてもらった『リアム』という素敵な名前で、俺は第二の人生をココと共に過ごすと心に誓った。
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