奴隷の僕がご主人様に!? 〜森の奥で大きなお兄さんを捕まえました〜

赤牙

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白騎士イーゼル ④

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「ハァ………ハァ……」

あれからどれくらい歩いただろうか……。
マンティコアから受けた傷と毒は少しずつ私の体を蝕み続け、右腕はもはや使い物にならずダラリと垂れ下がっていた。
マンティコアで受けた傷跡が痛みだし、体力もすでに限界だった私は一度座り込んでしまう。

「こんなところで野垂れ死になどしてたまるか……」

変色し動かなくなった自分の右腕を見つめながら小さくため息を吐き、私は胸元からペンダントを取り出す。
ペンダントの先についたキラリと光る緋色の魔石……。
これは騎士学校を卒業する際に、ロンヴァルトと交換した魔石だ。この魔石の中にはロンヴァルトの魔力が蓄積されており、魔力を切らした時に使用できるようになっている。
ロンヴァルトとバディを組んだ時に、お互いを守り抜くと誓い合って交換した大切な物……。

「すまないロンヴァルト……。使わせてもらうぞ……」

魔石を胸元に掲げ、呪文を唱えるとロンヴァルトの力強い魔力が私の体を巡る……。
魔石は小さく、治癒魔法をかけられる程度の魔力しか補充出来なかったがそれでも十分だった。
治癒魔法で出血部位を止血し終えれば、いくらかマシになり私は再び歩き出す。

血を出しすぎたせいで朦朧とする頭では、森の奥へ向かっているのか自国へと戻っているのか分からない。

前に進まなければ……

その一心で私は歩き続けていった。


††††


歩き続けて三日……。
マンティコアの猛毒までは治癒魔法で完治する事が出来なかった為、毒は体を巡る。
体中の神経が動く度に軋むように痛み、目が霞む。息をするのもやっとの私は、ついに力尽き倒れてしまう。

湿った地面を背に空を見上げるが、大きな大木が茂る森では木々の葉によって空は隠されていた。
僅かに入る陽の光で薄暗く照らされた森の中は気味が悪い程に静寂だった……。

「こんな……ところで……私は死ぬのか……」

息を吸い肺を広げただけでも苦しくなり、私は自分の『死』を悟る。
騎士という仕事柄、『死』について考えた事は何度もあった。魔獣と対峙し命が途絶える事も分かってはいたが……誰にも見取られず一人虚しく死んでいく状況に自然と涙が溢れてしまう。
それに……私はまだ死にたくない……。

そんな事を考えていると、茂みの奥がガサリと揺れ、枯れ木を踏みつける音が聞こえ、薄暗い木々の間からは巨体な何かが見える。
この三日間、運良く魔獣や獣にすら出会わずに過ごしていたが、どうやら運も使い果たしてしまったようだ。
毒により死ぬのが先か、魔獣や獣に喰い散らかされ死ぬのが先か……。私の結末が変わる事はない。
茂みの方をぼんやりと見つめていれば、僅かに入る陽の光に照らされて足音の主が現れる。

霞む目にも眩しく見える純白な逞しい四つ足の体と、美しい曲線を描くようにスラリと伸びた首……そして、本来ならばその頭頂部には立派なツノが生えているのだが……見当たらない。

ツノのない……一角獣……?

ぼんやりとした意識の中、現れた一角獣を見つめていると、一角獣はゆっくりと私の方へと近寄ってくる。
縄張り意識の強い一角獣の事だ……すぐにでも私を殺すのだろうと覚悟を決めゆっくりと瞼を閉じる。
近づいて来る足音が私の横でピタリと止まる。縄張りへと侵入した者を怒りのままに痛めつけるのかと思っていたが……そうではないようだ。

一角獣の呼吸は穏やかで、匂いを嗅ぐように私の顔に鼻先が触れる。不思議と恐怖感は感じられず、閉じていた瞼を薄らと開けると、目の前には一角獣の顔が……。大きな漆黒の瞳と目が合えば、何故だか安心してしまう。

ヒュゥ……と、弱々しく呼吸をする私を見つめる一角獣は私を心配するように頬に顔をすり寄せる。
そして……漆黒の瞳から大粒の涙が流れ落ち、半開きになった私の口の中へ……。
温かな涙をコクリ……と飲み込めば、呼吸するだけでも苦しくてたまらなかったのが嘘のように楽になる。

「すま……ない……」

まるで私を助けてくれたかのように感じそう言葉を告げると、一角獣はもう一度私の頬を鼻先で撫でどこかへ行ってしまう。
また一人になってしまった私は、小さく息を吐く。

今のは一体何だったのだろうか……。
もしかして、私は死ぬ間際におかしな夢でも見ているのだろうか……。

死にたくないと願うあまりに見えた御伽噺のようなおかしな幻想。
死ぬ間際の夢だけでも温かなものだった事に、安心した私は再び瞼を閉じる。
もう二度と開く事などないと思いながら………。





†††††

「あの……聞こえますか……?」

柔らかな声に閉じていた瞼を開けると、栗色の髪の少年が心配そうに私を覗き込んでいた。
そして、その後ろには夢に出てきたツノのない一角獣も……。

夢か現実か分からず、体を動かせば針を突き刺されたような痛みが全身を襲い、右腕は紫色に変色し感覚すらも無くなっていた。
悲惨な状況は変わりないが、生きていた事が何よりも救いだった。


そして……色々あり私は何故か一角獣の背に跨り、ヴァントーラ公爵邸を目指す事となった。
一角獣を従える不思議な少年ココくんと共に……。


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