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1章
年末年始
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雪に閉ざされ、年末を迎えても私の生活は変わりない。
日々を生きる事、これだけかな?
木彫りもやることが無いから大分コツを掴んできたし、素人ながらに中々上手くなってきたよ。
まぁ……手も何度か刺したけど、お玉、木べら、スプーン、ゲッちゃんのお皿、デンちゃんのお皿、自分のお皿に、予備のお皿、ガタガタな感じの作りだけど、川で拾った丸い石で何度もこすって滑らかにしたりした。
やることが無いし、時間はあるしで、器用度が上がっていく。
今は大きめの深いお皿を作っていて、これで春には色々採取しようと思ってる。
網籠だと小さな木の実とかは諦めてしまったりもしてたから、取りこぼしの無い器が欲しかったんだよね。
「あっ、そろそろご飯の支度をしようかな」
「ワフッ!」
「デンちゃん、ご飯はご飯だけど、デンちゃんのご飯じゃないよー?」
「ワフワフッ!」
尻尾がぐるんぐるんに回る様に揺れて、この期待した目に見つめられるとあげるしかない……
ジャーキーを一枚備蓄庫から出して、デンちゃんに「お手」と、手を出すと顔をグイグイと手に乗せてくる。
デンちゃんの大きさは、また少し大きくなったようで立ち上がると私の背丈を超えてしまうサイズ。
「デンちゃん、お手が出来ないねぇ」
「ワフッ!」
「はいはい。ジャーキーだよー」
ジャーキーを嬉しそうに齧って、尻尾をブンブン振っている姿は大変可愛い。
まだ顔も幼い感じで、これは大きくなりますねぇ……と、少しだけ遠い目になってしまう。
結構な備蓄があるけど、デンちゃんには足りなくなっている気がする。
最近のお散歩も朝出掛けたら夕方まで帰ってこなくて、何かを狩りで食べてきているのか口元に血が付いていたり、胸毛についていたりする。
少し心配だけど、ここには大型の動物は少ないから平気かな? と思ってるけど、散歩時間が長い事から、狩りは大変なんだろうなぁ。
そういえば、デンちゃんの成長はともかく、私はどうなんだろう?
身長伸びたかなぁ? ここに来た時に柱にでも身長を付けておけばよかった。
胸は少し、ほんの少し大きくなった……気がする!! お肉食べてるからね! きっと、大きくなったはず!!
一応、私も年頃の女子としては、気になるところなんだよ~っ!
後ろ髪も伸びて、少しだけお姉さんっぽくなったんじゃないかなー? とかね思うわけだよ。
なんというか、紳士さんに会った時に、ちょっとは女の子らしく見せたいなぁって……
いや、紳士さんには『まだ見ぬ君』さんがいるのは、わかってるけど、私の中で紳士さんだけがこの生活の中で救いになっていたから、特別視しちゃうんだよね。
私宛の荷物じゃないけど、でも、やっぱりベーコンとか無かったらスープは出汁がお肉しか無いから美味しくなかっただろうし、オリーブオイルとか石けんとかも、本当に有り難くて……
お礼を言うのに、ちょっとだけ可愛く見えたり女の子っぽく見せたい。
私の微妙な乙女心なのだ……
まぁ、また小学校の時みたいに『男女が似合わねぇ』なんて事言われたら、流石にもう立ち直れないんだけどね。
私は少し自分の肩を越した髪の長さに、そろそろ髪を束ねる可愛いリボンが欲しいなと、料理に取り掛かりつつ、食べ終わったらクローゼットから柄物の服で着ないヤツを使ってリボンを作ろうと予定を立てた。
年末最後にやることはいつも通りの料理に、リボン作りくらいだ。
明日は新年だし、料理は少し豪華に鶏肉を焼いた物と、果物のコンポートにベーコンとキノコの炒め物にしよう。と、明日のご飯を気にするぐらいだ。
**********
暗闇が広がり、銀色の満月が姿を見せる。
雪が視界を悪くする中で、雪原には獣人達が戦いに備えて巨大なカタパルト式の弓矢を準備し、各自が戦闘配置について、息を殺して敵の出現を待つ。
雪の雪原の大型魔獣_アイシクルセイレーン。
姿は全身が氷で出来ている蛇の様に長い体をし、魚のような鱗が全身を包み、目は六つ。
セイレーンと呼ばれる理由が、声にある。
キヤアアアアァァァァァァァー!!
耳の良い獣人程ダメージが大きい鼓膜を破りそうな程の大声、そして声による振動でしっかりと足を踏みしめていないと吹き飛ばされてしまう。
雪原の中から突如として現れ、叫び声で開戦となった。
「カタパルト! よーい、撃てーぇ!!」
各部隊のリーダーが、カタパルトからの矢を放てと部下達に命令し、矢に付いたロープでアイシクルセイレーンの長い体に突き立てて、動きを束縛する作戦を実行に移す。
アイシクルセイレーンの顔に火の魔法がぶつけられ、その前を銀色の狼を先頭に獣化した十人の部下達が広がって走る。
「カタパルトでの捕縛が終わるまでは、オレ達が囮役だ! しっかり引き付けろ!」
「魔法をぶつけまわれー!」
イクシオンとガリュウが指示を出しながら、アイシクルセイレーンの顔を目掛けて魔法を放つ。
魔法自体にそれ程の威力は無い。ただ派手に火花が散る演出の様な魔法で、自分達の方へと注目を集めようとする。
「もうすぐ年が明けようっていうのに、何でこう相性の悪い魔物なんだか!」
「それを言っても仕方がない。ガリュウの日頃の行いが悪いからだな」
「人のせいにするな! でも、国王陛下が魔法の武器を褒美にするわけだよな。ったく、預言使いも知ってて黙ってたなこれは」
ガリュウがガウッと吠えながら、イクシオンも半ば今年の最後の討伐は骨が折れそうだと鼻の頭にしわを寄せる。
長期遠征は移動しつつ、各国の魔獣を討伐し、年末最後にランダム発生する大型魔獣というものが存在する。
それは『予言使い』と呼ばれる者が、今年はどの場所でどんな魔物が出るかを王に告げるが、今年は場所だけが告げられた。
嫌な予感はしていたが、対策は何パターンも考え即時に実行するのが獣人達の狩りの能力の高さであり強みでもある。何が現れても良い様に準備はしてきたので、後はいつも通り、自分達の力を信じて戦うだけである。
「本当に、兄上はオレに死んでほしいらしいな」
ボソリと呟いて、イクシオンはここからでは見えない聖域の方を見て、「負けられないな」と言い、気合いの入った眼でアイシクルセイレーンに向かう。
日々を生きる事、これだけかな?
木彫りもやることが無いから大分コツを掴んできたし、素人ながらに中々上手くなってきたよ。
まぁ……手も何度か刺したけど、お玉、木べら、スプーン、ゲッちゃんのお皿、デンちゃんのお皿、自分のお皿に、予備のお皿、ガタガタな感じの作りだけど、川で拾った丸い石で何度もこすって滑らかにしたりした。
やることが無いし、時間はあるしで、器用度が上がっていく。
今は大きめの深いお皿を作っていて、これで春には色々採取しようと思ってる。
網籠だと小さな木の実とかは諦めてしまったりもしてたから、取りこぼしの無い器が欲しかったんだよね。
「あっ、そろそろご飯の支度をしようかな」
「ワフッ!」
「デンちゃん、ご飯はご飯だけど、デンちゃんのご飯じゃないよー?」
「ワフワフッ!」
尻尾がぐるんぐるんに回る様に揺れて、この期待した目に見つめられるとあげるしかない……
ジャーキーを一枚備蓄庫から出して、デンちゃんに「お手」と、手を出すと顔をグイグイと手に乗せてくる。
デンちゃんの大きさは、また少し大きくなったようで立ち上がると私の背丈を超えてしまうサイズ。
「デンちゃん、お手が出来ないねぇ」
「ワフッ!」
「はいはい。ジャーキーだよー」
ジャーキーを嬉しそうに齧って、尻尾をブンブン振っている姿は大変可愛い。
まだ顔も幼い感じで、これは大きくなりますねぇ……と、少しだけ遠い目になってしまう。
結構な備蓄があるけど、デンちゃんには足りなくなっている気がする。
最近のお散歩も朝出掛けたら夕方まで帰ってこなくて、何かを狩りで食べてきているのか口元に血が付いていたり、胸毛についていたりする。
少し心配だけど、ここには大型の動物は少ないから平気かな? と思ってるけど、散歩時間が長い事から、狩りは大変なんだろうなぁ。
そういえば、デンちゃんの成長はともかく、私はどうなんだろう?
身長伸びたかなぁ? ここに来た時に柱にでも身長を付けておけばよかった。
胸は少し、ほんの少し大きくなった……気がする!! お肉食べてるからね! きっと、大きくなったはず!!
一応、私も年頃の女子としては、気になるところなんだよ~っ!
後ろ髪も伸びて、少しだけお姉さんっぽくなったんじゃないかなー? とかね思うわけだよ。
なんというか、紳士さんに会った時に、ちょっとは女の子らしく見せたいなぁって……
いや、紳士さんには『まだ見ぬ君』さんがいるのは、わかってるけど、私の中で紳士さんだけがこの生活の中で救いになっていたから、特別視しちゃうんだよね。
私宛の荷物じゃないけど、でも、やっぱりベーコンとか無かったらスープは出汁がお肉しか無いから美味しくなかっただろうし、オリーブオイルとか石けんとかも、本当に有り難くて……
お礼を言うのに、ちょっとだけ可愛く見えたり女の子っぽく見せたい。
私の微妙な乙女心なのだ……
まぁ、また小学校の時みたいに『男女が似合わねぇ』なんて事言われたら、流石にもう立ち直れないんだけどね。
私は少し自分の肩を越した髪の長さに、そろそろ髪を束ねる可愛いリボンが欲しいなと、料理に取り掛かりつつ、食べ終わったらクローゼットから柄物の服で着ないヤツを使ってリボンを作ろうと予定を立てた。
年末最後にやることはいつも通りの料理に、リボン作りくらいだ。
明日は新年だし、料理は少し豪華に鶏肉を焼いた物と、果物のコンポートにベーコンとキノコの炒め物にしよう。と、明日のご飯を気にするぐらいだ。
**********
暗闇が広がり、銀色の満月が姿を見せる。
雪が視界を悪くする中で、雪原には獣人達が戦いに備えて巨大なカタパルト式の弓矢を準備し、各自が戦闘配置について、息を殺して敵の出現を待つ。
雪の雪原の大型魔獣_アイシクルセイレーン。
姿は全身が氷で出来ている蛇の様に長い体をし、魚のような鱗が全身を包み、目は六つ。
セイレーンと呼ばれる理由が、声にある。
キヤアアアアァァァァァァァー!!
耳の良い獣人程ダメージが大きい鼓膜を破りそうな程の大声、そして声による振動でしっかりと足を踏みしめていないと吹き飛ばされてしまう。
雪原の中から突如として現れ、叫び声で開戦となった。
「カタパルト! よーい、撃てーぇ!!」
各部隊のリーダーが、カタパルトからの矢を放てと部下達に命令し、矢に付いたロープでアイシクルセイレーンの長い体に突き立てて、動きを束縛する作戦を実行に移す。
アイシクルセイレーンの顔に火の魔法がぶつけられ、その前を銀色の狼を先頭に獣化した十人の部下達が広がって走る。
「カタパルトでの捕縛が終わるまでは、オレ達が囮役だ! しっかり引き付けろ!」
「魔法をぶつけまわれー!」
イクシオンとガリュウが指示を出しながら、アイシクルセイレーンの顔を目掛けて魔法を放つ。
魔法自体にそれ程の威力は無い。ただ派手に火花が散る演出の様な魔法で、自分達の方へと注目を集めようとする。
「もうすぐ年が明けようっていうのに、何でこう相性の悪い魔物なんだか!」
「それを言っても仕方がない。ガリュウの日頃の行いが悪いからだな」
「人のせいにするな! でも、国王陛下が魔法の武器を褒美にするわけだよな。ったく、預言使いも知ってて黙ってたなこれは」
ガリュウがガウッと吠えながら、イクシオンも半ば今年の最後の討伐は骨が折れそうだと鼻の頭にしわを寄せる。
長期遠征は移動しつつ、各国の魔獣を討伐し、年末最後にランダム発生する大型魔獣というものが存在する。
それは『予言使い』と呼ばれる者が、今年はどの場所でどんな魔物が出るかを王に告げるが、今年は場所だけが告げられた。
嫌な予感はしていたが、対策は何パターンも考え即時に実行するのが獣人達の狩りの能力の高さであり強みでもある。何が現れても良い様に準備はしてきたので、後はいつも通り、自分達の力を信じて戦うだけである。
「本当に、兄上はオレに死んでほしいらしいな」
ボソリと呟いて、イクシオンはここからでは見えない聖域の方を見て、「負けられないな」と言い、気合いの入った眼でアイシクルセイレーンに向かう。
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