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2章
リトと涙とイクスと新聞
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帰ってきて執事のアンゾロに「これは何です! 情けない!」と、開口一番に言われ、ゴシップ記事を突きつけられる。
もうこんな田舎町にも記事は届いていたのかと、耳を下げると屋敷の中が慌ただしく、ビブロースが慌てて屋敷から飛び出してきた。
「どうしたのです?」
「リト様が倒れた。医者を呼んできます」
「リトが!?」
直ぐに屋敷に入ろうとして、玄関ホールでメイド長のアーデルカとメイド達に非難の目を向けられる。
しかし、そんなものに構っている暇はなく、寝室へ急ぐとメイミーが「フーッ!」と威嚇した声を出して毛を逆撫でていた。
「リトは!? どうしたんだ!」
「イクシオン殿下のせいです! お可哀想に!!」
リトもゴシップ記事を見たのか……顔を見れば、涙がまつ毛に掛かってまだ頬を濡らしている。
ズキリと胸が痛んで、申し訳なさで、ここへ帰ってくる前のガリュウの言葉が蘇る。
誤解など、話し合えば何とでもなると思ったが、誤解を解く前にリトが心を痛めて泣く事など、想像していなかった自分の考えの低さに腹立ちさえする。
「リト、本当に……すまない」
「イクシオン殿下は、少しリト様から離れてくださいませ!」
「いや、オレはここに居る」
「医者を呼んでいますから、イクシオン殿下は着替えて来て下さいませ。任務の後ですから多少なりとも汗のにおいがします! リト様に不快感を与えないで下さいませ!」
そこまで言われて、後ろ髪を引かれながらすごすごと部屋から出ていき、風呂に入ってから着替え終えると、アーデルカとアンゾロに掴まった。
連れてこられたのは談話室で、屋敷のメイド達が集まっていた。
「イクシオン殿下、この記事は何かの間違いでよろしいのですよね?」
「当たり前だ。オレにはリトが居る。第一、その令嬢は十五歳だ」
「イクシオン殿下……リト様をお見初めなさった時、リト様は十四歳でしたわ」
「殿下……もしや少女趣味の……育て方を間違えましたか……」
勝手に想像して、人を少女趣味の変態と同列に見る様な目を向けてくる執事にメイド達に頭痛がしそうだ。
早めにこいつ等にも誤解を解かないと、オレが変態にされる。
「だから、この令嬢はビブロースの妹で、宰相の孫娘だ!」
「まぁ! 臣下の大事な妹を……」
「待て待て! エリナ嬢はだな……」
「イクシオン殿下、リト様はこの記事を見て、口を押えて吐き気を催すほど、傷ついたのですよ!」
「そうですわよ! 涙を浮かべて私達の前では泣かないように、走って行かれたというのに!」
「私も見ました! 記事を庭で燃やしていらっしゃいました! その後泣いているのをビブロースに慰めて貰っていたのですよ!」
メイド達の言葉に、胸にグサグサと突き刺さるが、リトはどれ程傷ついたのか……目を覚ましたら、謝り倒して誤解を解かなければいけない。
診察が終わったのか医者がビブロースに連れられて玄関へ向かっていた。全員で「リト様の容態は!?」と、医者に詰め寄ると、医者が「大丈夫ですよ。何の問題もありません」と言い帰って行った。
寝室へ急ぐと、ウィリアムにホットミルクを入れて貰ったのか、チビチビと飲んでいるリトがコップから顔を上げる。
「リト……」
顔をくしゃっと歪めて大きな瞳を潤ませたリトに、何と言って誤れば良いのかと近付くと、コップをベッドのサイドテーブルに置くと、リトがベッドの上を飛び降りて、泣きながら両手を広げて駆け寄ってきた。
「イク、スッ、おか、えりなさ……ッ、ぐすっ、イクス、心配、したよ」
「リト、すまない……泣かせるつもりじゃなかったんだ……」
「怪我してない? どこも、何ともない? ひくっ、うぇぇ~っ」
「大丈夫だ。泣かないでほしい。オレは浮気なんて出来る程、器用じゃない。オレにはリトだけなんだ」
抱きついて、ヒクヒクと泣くたびに肩を揺らすリトの頭を撫でて抱きしめると、少し焦げたような燻したような匂いがしていた。
あと、少しバターの香りがしている。
「イクスが怪我したり、何かあったのかって、不安だったよ」
泣いてそう告げるリトに、こんなに心配をさせていたのに、浮気の様な記事も出れば傷ついて倒れてしまう事もあるのだと、痛感した。もう、知り合いの娘だ孫だと言われても、女性と二人きりの状態になるのはよそう。
こんな風に泣いてくれる妻に、余計な心配はもうかけられない。
「イクス、あのね、あのね……、おかえりなさい」
「ただいま、リト」
目に涙を浮かべたまま、嬉しそうに「おかえり」と言うリトの可愛らしさに、胸が詰まってくる感じがする。
どれだけ、オレを好きにさせていくんだろう? この可愛い番は……
「あとね、燻製機ありがとう。凄く嬉しかったよ。明日、何か作るね?」
「ああ。リトに土産は何が良いかとエリナ嬢と見て回って、アレにしたんだ。だから、リトの為の土産を選ぶのにエリナ嬢には付き合って貰っただけで、記事はでたらめだから、気にしないでくれ」
「エリナ嬢……? 記事?」
コテンと首を傾げるリトに、横で見ていたウィリアムが「これの事ですよ」と、記事を折りたたんだ物をリトの手に渡す。
記事を手に、リトの眉間がグッとしわが寄ってくる。
もしかして、リトは記事の事を知らなかった……?
「イクス……むぅぅ~っ、説明! 説明しなさい!」
「いや、だから、リトの土産を買うのに付き合って貰ったんだ」
「むぅー……本当に、それだけだよね……?」
少し口を尖らせたリトに、ビブロースの妹だと教え、リトの方はリトの方で、芋を喉に詰まらせて涙目でメイド達の前を走ったり、芋を手に持つための新聞だと勘違いして、記事は読んでいなかったりと、誤解であることも判明した。
結局、二人して屋敷の者達に頭を下げる羽目になったが、オレ達はこの屋敷の主では無かっただろうか? と、頭を過ったものの……リトが恥かしそうにメイド達に「ごめんなさい」と言っている姿が可愛かったので、良いものが見れたという事にしておこう。
もうこんな田舎町にも記事は届いていたのかと、耳を下げると屋敷の中が慌ただしく、ビブロースが慌てて屋敷から飛び出してきた。
「どうしたのです?」
「リト様が倒れた。医者を呼んできます」
「リトが!?」
直ぐに屋敷に入ろうとして、玄関ホールでメイド長のアーデルカとメイド達に非難の目を向けられる。
しかし、そんなものに構っている暇はなく、寝室へ急ぐとメイミーが「フーッ!」と威嚇した声を出して毛を逆撫でていた。
「リトは!? どうしたんだ!」
「イクシオン殿下のせいです! お可哀想に!!」
リトもゴシップ記事を見たのか……顔を見れば、涙がまつ毛に掛かってまだ頬を濡らしている。
ズキリと胸が痛んで、申し訳なさで、ここへ帰ってくる前のガリュウの言葉が蘇る。
誤解など、話し合えば何とでもなると思ったが、誤解を解く前にリトが心を痛めて泣く事など、想像していなかった自分の考えの低さに腹立ちさえする。
「リト、本当に……すまない」
「イクシオン殿下は、少しリト様から離れてくださいませ!」
「いや、オレはここに居る」
「医者を呼んでいますから、イクシオン殿下は着替えて来て下さいませ。任務の後ですから多少なりとも汗のにおいがします! リト様に不快感を与えないで下さいませ!」
そこまで言われて、後ろ髪を引かれながらすごすごと部屋から出ていき、風呂に入ってから着替え終えると、アーデルカとアンゾロに掴まった。
連れてこられたのは談話室で、屋敷のメイド達が集まっていた。
「イクシオン殿下、この記事は何かの間違いでよろしいのですよね?」
「当たり前だ。オレにはリトが居る。第一、その令嬢は十五歳だ」
「イクシオン殿下……リト様をお見初めなさった時、リト様は十四歳でしたわ」
「殿下……もしや少女趣味の……育て方を間違えましたか……」
勝手に想像して、人を少女趣味の変態と同列に見る様な目を向けてくる執事にメイド達に頭痛がしそうだ。
早めにこいつ等にも誤解を解かないと、オレが変態にされる。
「だから、この令嬢はビブロースの妹で、宰相の孫娘だ!」
「まぁ! 臣下の大事な妹を……」
「待て待て! エリナ嬢はだな……」
「イクシオン殿下、リト様はこの記事を見て、口を押えて吐き気を催すほど、傷ついたのですよ!」
「そうですわよ! 涙を浮かべて私達の前では泣かないように、走って行かれたというのに!」
「私も見ました! 記事を庭で燃やしていらっしゃいました! その後泣いているのをビブロースに慰めて貰っていたのですよ!」
メイド達の言葉に、胸にグサグサと突き刺さるが、リトはどれ程傷ついたのか……目を覚ましたら、謝り倒して誤解を解かなければいけない。
診察が終わったのか医者がビブロースに連れられて玄関へ向かっていた。全員で「リト様の容態は!?」と、医者に詰め寄ると、医者が「大丈夫ですよ。何の問題もありません」と言い帰って行った。
寝室へ急ぐと、ウィリアムにホットミルクを入れて貰ったのか、チビチビと飲んでいるリトがコップから顔を上げる。
「リト……」
顔をくしゃっと歪めて大きな瞳を潤ませたリトに、何と言って誤れば良いのかと近付くと、コップをベッドのサイドテーブルに置くと、リトがベッドの上を飛び降りて、泣きながら両手を広げて駆け寄ってきた。
「イク、スッ、おか、えりなさ……ッ、ぐすっ、イクス、心配、したよ」
「リト、すまない……泣かせるつもりじゃなかったんだ……」
「怪我してない? どこも、何ともない? ひくっ、うぇぇ~っ」
「大丈夫だ。泣かないでほしい。オレは浮気なんて出来る程、器用じゃない。オレにはリトだけなんだ」
抱きついて、ヒクヒクと泣くたびに肩を揺らすリトの頭を撫でて抱きしめると、少し焦げたような燻したような匂いがしていた。
あと、少しバターの香りがしている。
「イクスが怪我したり、何かあったのかって、不安だったよ」
泣いてそう告げるリトに、こんなに心配をさせていたのに、浮気の様な記事も出れば傷ついて倒れてしまう事もあるのだと、痛感した。もう、知り合いの娘だ孫だと言われても、女性と二人きりの状態になるのはよそう。
こんな風に泣いてくれる妻に、余計な心配はもうかけられない。
「イクス、あのね、あのね……、おかえりなさい」
「ただいま、リト」
目に涙を浮かべたまま、嬉しそうに「おかえり」と言うリトの可愛らしさに、胸が詰まってくる感じがする。
どれだけ、オレを好きにさせていくんだろう? この可愛い番は……
「あとね、燻製機ありがとう。凄く嬉しかったよ。明日、何か作るね?」
「ああ。リトに土産は何が良いかとエリナ嬢と見て回って、アレにしたんだ。だから、リトの為の土産を選ぶのにエリナ嬢には付き合って貰っただけで、記事はでたらめだから、気にしないでくれ」
「エリナ嬢……? 記事?」
コテンと首を傾げるリトに、横で見ていたウィリアムが「これの事ですよ」と、記事を折りたたんだ物をリトの手に渡す。
記事を手に、リトの眉間がグッとしわが寄ってくる。
もしかして、リトは記事の事を知らなかった……?
「イクス……むぅぅ~っ、説明! 説明しなさい!」
「いや、だから、リトの土産を買うのに付き合って貰ったんだ」
「むぅー……本当に、それだけだよね……?」
少し口を尖らせたリトに、ビブロースの妹だと教え、リトの方はリトの方で、芋を喉に詰まらせて涙目でメイド達の前を走ったり、芋を手に持つための新聞だと勘違いして、記事は読んでいなかったりと、誤解であることも判明した。
結局、二人して屋敷の者達に頭を下げる羽目になったが、オレ達はこの屋敷の主では無かっただろうか? と、頭を過ったものの……リトが恥かしそうにメイド達に「ごめんなさい」と言っている姿が可愛かったので、良いものが見れたという事にしておこう。
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