悪役令嬢ポジションが俺で、回復魔法がキスな件!?

ろいず

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一章 悪役令嬢フェルミナ・ドロッセル

お茶会と毒殺事件

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 お茶会の会場は、庭の見えるガラス張りのサロン。
 どうやら、お茶会とは名ばかりの俺を呼び出すだけのものだったらしく、ラローシュと俺だけしか居ない。
 正確にはルカリオンや、ラローシュ付きの従者にメイドが居るのだけどね。
 このサロンは『野ギス』のイベントでも見たことがある。
 確かSSRカードがお茶会仕様で、衣装と能力が多少アップするらしく、課金するかどうするかで姉が吠えていた。
 カードで見たティースタンドのお菓子だなぁ……懐かしい。

『アンタ、ガチャ石を溜めているわよね?』
(訳:お前もガチャを回すのよ!)
『アンタ、同じもの作ってみる気、無い?』
(訳:作りなさいよ!)

 特に要らないカードのために溜め込んでいたガチャ石は、湯水のごとく使い込まれ、ヒルクスのSSRカードが一枚出ただけだった。
 大学受験前に、お菓子を弟に作らせようとする姉。
 しかも、スマートフォンで『頑張って溜めた石が無くなっちゃったよ! でもSSRが一枚出ました!』『失敗しちゃった。頑張って再現できるまで頑張るぞ!』と、写真付きで非公式の『野ギス』ファンサイトに載せてくれたり……本当にあれは、地獄だった。
 いや、本当に懐かしいね。

 貝の形をしたマドレーヌを口に入れる。
 バターの風味と蜂蜜の甘さが口に広がる。でも、少しだけしっとり感が足りない。
 おそらく、形を綺麗にすることだけを念頭に置いたのだろう。焼きの最後にシロップを塗っていないのかもしれない。
 シロップにお酒を入れる事もあるから、子供用に止めただけかもしれないけどな。って、すっかりお菓子作り男子の考えだよ! 姉のせいで余計な事ばかり得意になった気がしないでもない。

「そういえば、さっきの紅茶は淹れ方に違いがあるのかな?」

 ラローシュが紅茶に砂糖を入れて、銀のティースプーンでかき混ぜつつルカリオンへ問う。
 ルカリオンは俺の皿にケーキを載せてから、ラローシュに小さく首を傾げた。

「茶葉自体はご用意できなかったので、最大限あの茶葉で旨味を出すには、茶葉の量を調節しなくてはいけません。先ほどのパーラーメイドは、一人分の茶葉を二人分入れていましたし、お湯の温度も高すぎですね。渋みが出ていました。あれでは、毒を盛られた時に気付くのが遅くなるでしょうから、わたしなら、雇わないです」

 目が笑ってないルカリオンの表情に、笑顔のままのラローシュはサロンの奥で待機している先程のパーラーメイドを一瞬だけ見た。

「なるほど、ね。それで解毒の魔石だったのかな」
「どうでしょうね。坊ちゃんも含め、王族や貴族は毒を盛られやすいですから」

 これはもしかすると、もしかしただろうか?
 第一王子の毒殺事件はお茶会、そして今まさにお茶会の最中である。
 お茶に毒物を入れられる可能性が高く、貴族の捨て駒になりやすいのはパーラーメイドの可能性が高い。
 おそるおそるルカリオンに目を向けると、「まだ入っていないようですから、安心して下さい」と耳打ちしてきた。
 それを聞いて、これ以上は飲める自信はないぞー!

「そこの君、紅茶を一度入れ直してくれない? 砂糖を入れすぎたみたいなんだ」

 ビクッと肩を揺らしたパーラーメイドは、次の瞬間ドレスエプロンのポケットに手を入れると、何かを掴み口に入れた。
 
「不味い! 毒を飲んだ! 吐かせて、誰が仕組んだ事か口を割らせろ!」

 ラローシュの言葉にサロンに居た従者たちがパーラーメイドに駆け寄るが、彼女は床に倒れて口から泡を出してもがいていた。

「坊ちゃん! 全体回復で彼女を生かして下さい! 王子殿下は、先程の解毒魔術を彼女に!」
「わ、わかった!」
「折角貰ったのに、仕方が無いな。あとでフェルに追加してもらわなきゃね」

 ルカリオンの瞬時の判断が良かったのか、俺の投げキッスでパーラーメイドの体力回復とラローシュに渡した解毒魔石で、死なせる事なく毒殺事件のキーパーソンが確保出来た。
 今日、お茶会に解毒魔石を選んで正解だったわけだ。
 魔石が無い場合、俺がラローシュにキスで解毒する事になっていただろうから、本当に俺よくやった!!
 心の中でガッツポーズをして、お茶会は幕を閉じた。
 もちろん、ラローシュに解毒魔法を魔石に吹き込まされたけどね。
 ルカリオンの嫉妬に見守られながらの作業は、俺の心をすり減らしてくれた。

 自分の屋敷に帰った頃には、公爵家にも今日の事が伝わっていて、「大事な跡取り息子が死ななくて良かった」と、両親に言われた俺の気持ちを察して欲しい。
 貴族には跡継ぎが必要なのは分かるけど、俺個人じゃなくて、跡継ぎとしか見ていないんだなと、令嬢のフェルミナの心が砕けて、俺が覚醒してしまった気持ちがなんとなく理解できた。

「坊ちゃん! 誕生日の余りです。存分に浸かって下さい!」

 バスタブにまた白バラが大量に投下され、ルカリオンなりの気遣いかな? と、少しだけ癒されて、ルカリオンに机の引き出しから赤い木箱を取ってくるようにお願いした。

「これですか?」
「ありがとう」

 ルカリオンが持ってきた赤い木箱は、ラローシュに解毒魔法を吹き込むのに何個か用意した余りの魔石だ。
 まだ回復魔法は吹き込んでないから、今から吹き込むんだけどね。
 透明のクリスタルのような魔石に唇を付けて、息を吹き込めば白く光る魔石が出来た。

「ルカリオンの分。今日はありがとな」
「いえ。坊ちゃんのためですから」

 ルカリオンに魔石を渡すと年齢相応の嬉しそうな表情に、これまた激レアシーンを見てしまった気がする。
 姉が居たら、確実に首を絞められるやつだと、苦笑いが漏れた。
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