悪役令嬢ポジションが俺で、回復魔法がキスな件!?

ろいず

文字の大きさ
63 / 73
三章 悪の華

感情バロメーター

しおりを挟む
 名残惜しい弟との触れ合いも、俺たちのところにヒルクスが合流してから夜会の会場に戻ることになった。
 ヒルクスの怪我を治し、服も魔塔で用意されていたものを着直してと、俺たちがどう動くかは、全て王族の手の平の上の事だったようだ。
 なんとなくラローシュの手の平で転がされた事は悔しい、それでも国王に交渉をしてくれた事には感謝するしか無いだろう。

「フェルの従兄弟だっけ? あいつが一番根性あったぞ」
「アシュレイが?」

 ヒルクスは自分に何度も挑んでくる気概きがいのある人間が好きなんだよねぇ。気概というより、歯向かってくる人間が好きなのだ。おそらくアシュレイは、ヒルクスに何度も挑んだのだろう。
 ヒルクスがニッと歯を見せて笑っている事から、アシュレイは確実に目を付けられた。ヒルクスの『よし、強くしてやろう。お前ならまだ高みを目指せるはずだ!』という強制強化に引きずられていく日も近いだろう。

「ヒルクスの悪い癖が、出なければ良いのですが」

 上機嫌のヒルクスの後ろを歩きながら、ルカリオンが俺に同意を求める。
 多分、もうロックオンされているから、心配するだけ無駄だ。

「アシュレイには初めて会ったけど、あの叔父夫婦の子だからな。いい薬になるんじゃない?」
「そうですねぇ。あの夫婦は、坊ちゃんに対する当たりが厳しかったですからね」
「でもルカリオンがにらみをきかせてくれていたから、すぐに逃げてたしな。実害はほぼ無いよ」
「坊ちゃんを守るのは、わたしの役目ですから」

 パサパサと尻尾が『褒めてくれ』と語っている。
 ルカリオンの尻尾を手で梳いて、撫でて、ギュッと両手で抱きしめ、尻尾の先に唇を触れさせた。
 
「坊ちゃん……ッ」

 感極まった! という顔をして、フルッと身を震わせ、ルカリオンが後ろを向く。
 うちの従者は、こういうところがとても可愛いのだ。
 獣人の尻尾はデリケートで、それは感情そのものと言っていい。
 触っていいのも抱きしめるのもキスをするのも、相当親しい物だけの特権である。
 逆に言えば、尻尾を触ろうとして手を叩かれた時は、相当嫌われているか機嫌が悪い。
 感情のバロメーター。

「ルカリオン、可愛い」
「坊ちゃんの方が、何十倍も可愛いです。ええ、断言できます」
「……~っ。俺の負け」

 ルカリオンの言葉はストレートにくるから、言葉を返すのが難しい。
 少しでも照れが入ると言い返せなくなる。
 俺の頭にキスを落として、腰に手を回して歩きだす。

 ちなみに、帰りは非常に簡単だった。
 魔塔の内側の部屋の中には、魔道具で作られた昇降機が設置されていて、各階に好きなように移動できる。
 外の階段はなんだったのか? アレは石橋から来る面倒ごとを持ってくるであろう人々のためのものなのだ。
 魔塔は魔術研究をしているために、予算を使い込んだり、魔塔のせいで訳の分からない植物や奇怪な現象が起きる事がある。
 それに文句を言いに来る人々への時間稼ぎと、魔塔に行くのは面倒くさいと思わせるためのもの。
 どう考えても、魔塔の住民が悪いと思う。
 王族と魔塔の住民だけが、この内側の昇降機を使えるらしく、なかなかに曲者揃いの魔塔住民に、俺は大事な弟を預けておくのが不安しかならない。
 でも、シグマの世話をしているのは、ナースメイド。つまり、育児専門の乳母や見習い専門のメイドが三人交代でお世話をしてくれているので、魔塔の住民さえ変な事をしなければ、安全……かな?

「フェル、ルカリオン。たまにはこういうのも良いよな!」
「ヒルクスは、体を動かすのが好きだよね。俺は、多分、明日は筋肉痛で動けないし、眠っていたい」
「フェルは昔っから体力ないもんなぁ」

 俺の頭をぐしゃぐしゃとヒルクスが撫でまわし、ルカリオンとは違う剣だこのあるごつごつした手に驚く。
 いつの間にこんなに大きな手になったのだろう? ゲームでは明るいだけの正義感攻略対象でしかなかったのに、現実だと努力家で仲間想いで、とても無邪気なヤツなのだ。
 俺がヒルクスとじゃれ合っていると、ルカリオンの喉はヴヴヴと小さく唸る。
 尻尾も感情バロメータなら喉の唸り声も感情バロメータだ。
 やきもち妬きの恋人、それがルカリオンで、昔も今も変わらない俺だけの従者。

「ルカリオン」
「……なんですか」
「まだ夜会で演奏が続いていたら、踊ってみようか?」

 パササと尻尾が勢いよく揺れる。
 
「あ、それならオレもフェルと踊るかな」
「あなたは、そこら辺の令嬢と踊っていて下さい。まるで飢える寸前の、今にも肉に飛びつこうとしている令嬢たちが待っていますよ」
「それはルカリオン狙いだろ」
「いいいえ。わたしの目は自分に向けられた物かどうかを見分けることが出来ます。ですから、あなたです」

 ヒルクスとルカリオンの言い合いに、余計な事を言ってしまったと思わないでもないが、ルカリオンがヒルクスにもじゃれるようにしているところも、俺は好きだけどね。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される

水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。 絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。 長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。 「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」 有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。 追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...