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三章 悪の華
感情バロメーター
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名残惜しい弟との触れ合いも、俺たちのところにヒルクスが合流してから夜会の会場に戻ることになった。
ヒルクスの怪我を治し、服も魔塔で用意されていたものを着直してと、俺たちがどう動くかは、全て王族の手の平の上の事だったようだ。
なんとなくラローシュの手の平で転がされた事は悔しい、それでも国王に交渉をしてくれた事には感謝するしか無いだろう。
「フェルの従兄弟だっけ? あいつが一番根性あったぞ」
「アシュレイが?」
ヒルクスは自分に何度も挑んでくる気概のある人間が好きなんだよねぇ。気概というより、歯向かってくる人間が好きなのだ。おそらくアシュレイは、ヒルクスに何度も挑んだのだろう。
ヒルクスがニッと歯を見せて笑っている事から、アシュレイは確実に目を付けられた。ヒルクスの『よし、強くしてやろう。お前ならまだ高みを目指せるはずだ!』という強制強化に引きずられていく日も近いだろう。
「ヒルクスの悪い癖が、出なければ良いのですが」
上機嫌のヒルクスの後ろを歩きながら、ルカリオンが俺に同意を求める。
多分、もうロックオンされているから、心配するだけ無駄だ。
「アシュレイには初めて会ったけど、あの叔父夫婦の子だからな。いい薬になるんじゃない?」
「そうですねぇ。あの夫婦は、坊ちゃんに対する当たりが厳しかったですからね」
「でもルカリオンが睨みをきかせてくれていたから、すぐに逃げてたしな。実害はほぼ無いよ」
「坊ちゃんを守るのは、わたしの役目ですから」
パサパサと尻尾が『褒めてくれ』と語っている。
ルカリオンの尻尾を手で梳いて、撫でて、ギュッと両手で抱きしめ、尻尾の先に唇を触れさせた。
「坊ちゃん……ッ」
感極まった! という顔をして、フルッと身を震わせ、ルカリオンが後ろを向く。
うちの従者は、こういうところがとても可愛いのだ。
獣人の尻尾はデリケートで、それは感情そのものと言っていい。
触っていいのも抱きしめるのもキスをするのも、相当親しい物だけの特権である。
逆に言えば、尻尾を触ろうとして手を叩かれた時は、相当嫌われているか機嫌が悪い。
感情のバロメーター。
「ルカリオン、可愛い」
「坊ちゃんの方が、何十倍も可愛いです。ええ、断言できます」
「……~っ。俺の負け」
ルカリオンの言葉はストレートにくるから、言葉を返すのが難しい。
少しでも照れが入ると言い返せなくなる。
俺の頭にキスを落として、腰に手を回して歩きだす。
ちなみに、帰りは非常に簡単だった。
魔塔の内側の部屋の中には、魔道具で作られた昇降機が設置されていて、各階に好きなように移動できる。
外の階段はなんだったのか? アレは石橋から来る面倒ごとを持ってくるであろう人々のためのものなのだ。
魔塔は魔術研究をしているために、予算を使い込んだり、魔塔のせいで訳の分からない植物や奇怪な現象が起きる事がある。
それに文句を言いに来る人々への時間稼ぎと、魔塔に行くのは面倒くさいと思わせるためのもの。
どう考えても、魔塔の住民が悪いと思う。
王族と魔塔の住民だけが、この内側の昇降機を使えるらしく、なかなかに曲者揃いの魔塔住民に、俺は大事な弟を預けておくのが不安しかならない。
でも、シグマの世話をしているのは、ナースメイド。つまり、育児専門の乳母や見習い専門のメイドが三人交代でお世話をしてくれているので、魔塔の住民さえ変な事をしなければ、安全……かな?
「フェル、ルカリオン。たまにはこういうのも良いよな!」
「ヒルクスは、体を動かすのが好きだよね。俺は、多分、明日は筋肉痛で動けないし、眠っていたい」
「フェルは昔っから体力ないもんなぁ」
俺の頭をぐしゃぐしゃとヒルクスが撫でまわし、ルカリオンとは違う剣だこのあるごつごつした手に驚く。
いつの間にこんなに大きな手になったのだろう? ゲームでは明るいだけの正義感攻略対象でしかなかったのに、現実だと努力家で仲間想いで、とても無邪気なヤツなのだ。
俺がヒルクスとじゃれ合っていると、ルカリオンの喉はヴヴヴと小さく唸る。
尻尾も感情バロメータなら喉の唸り声も感情バロメータだ。
やきもち妬きの恋人、それがルカリオンで、昔も今も変わらない俺だけの従者。
「ルカリオン」
「……なんですか」
「まだ夜会で演奏が続いていたら、踊ってみようか?」
パササと尻尾が勢いよく揺れる。
「あ、それならオレもフェルと踊るかな」
「あなたは、そこら辺の令嬢と踊っていて下さい。まるで飢える寸前の、今にも肉に飛びつこうとしている令嬢たちが待っていますよ」
「それはルカリオン狙いだろ」
「いいいえ。わたしの目は自分に向けられた物かどうかを見分けることが出来ます。ですから、あなたです」
ヒルクスとルカリオンの言い合いに、余計な事を言ってしまったと思わないでもないが、ルカリオンがヒルクスにもじゃれるようにしているところも、俺は好きだけどね。
ヒルクスの怪我を治し、服も魔塔で用意されていたものを着直してと、俺たちがどう動くかは、全て王族の手の平の上の事だったようだ。
なんとなくラローシュの手の平で転がされた事は悔しい、それでも国王に交渉をしてくれた事には感謝するしか無いだろう。
「フェルの従兄弟だっけ? あいつが一番根性あったぞ」
「アシュレイが?」
ヒルクスは自分に何度も挑んでくる気概のある人間が好きなんだよねぇ。気概というより、歯向かってくる人間が好きなのだ。おそらくアシュレイは、ヒルクスに何度も挑んだのだろう。
ヒルクスがニッと歯を見せて笑っている事から、アシュレイは確実に目を付けられた。ヒルクスの『よし、強くしてやろう。お前ならまだ高みを目指せるはずだ!』という強制強化に引きずられていく日も近いだろう。
「ヒルクスの悪い癖が、出なければ良いのですが」
上機嫌のヒルクスの後ろを歩きながら、ルカリオンが俺に同意を求める。
多分、もうロックオンされているから、心配するだけ無駄だ。
「アシュレイには初めて会ったけど、あの叔父夫婦の子だからな。いい薬になるんじゃない?」
「そうですねぇ。あの夫婦は、坊ちゃんに対する当たりが厳しかったですからね」
「でもルカリオンが睨みをきかせてくれていたから、すぐに逃げてたしな。実害はほぼ無いよ」
「坊ちゃんを守るのは、わたしの役目ですから」
パサパサと尻尾が『褒めてくれ』と語っている。
ルカリオンの尻尾を手で梳いて、撫でて、ギュッと両手で抱きしめ、尻尾の先に唇を触れさせた。
「坊ちゃん……ッ」
感極まった! という顔をして、フルッと身を震わせ、ルカリオンが後ろを向く。
うちの従者は、こういうところがとても可愛いのだ。
獣人の尻尾はデリケートで、それは感情そのものと言っていい。
触っていいのも抱きしめるのもキスをするのも、相当親しい物だけの特権である。
逆に言えば、尻尾を触ろうとして手を叩かれた時は、相当嫌われているか機嫌が悪い。
感情のバロメーター。
「ルカリオン、可愛い」
「坊ちゃんの方が、何十倍も可愛いです。ええ、断言できます」
「……~っ。俺の負け」
ルカリオンの言葉はストレートにくるから、言葉を返すのが難しい。
少しでも照れが入ると言い返せなくなる。
俺の頭にキスを落として、腰に手を回して歩きだす。
ちなみに、帰りは非常に簡単だった。
魔塔の内側の部屋の中には、魔道具で作られた昇降機が設置されていて、各階に好きなように移動できる。
外の階段はなんだったのか? アレは石橋から来る面倒ごとを持ってくるであろう人々のためのものなのだ。
魔塔は魔術研究をしているために、予算を使い込んだり、魔塔のせいで訳の分からない植物や奇怪な現象が起きる事がある。
それに文句を言いに来る人々への時間稼ぎと、魔塔に行くのは面倒くさいと思わせるためのもの。
どう考えても、魔塔の住民が悪いと思う。
王族と魔塔の住民だけが、この内側の昇降機を使えるらしく、なかなかに曲者揃いの魔塔住民に、俺は大事な弟を預けておくのが不安しかならない。
でも、シグマの世話をしているのは、ナースメイド。つまり、育児専門の乳母や見習い専門のメイドが三人交代でお世話をしてくれているので、魔塔の住民さえ変な事をしなければ、安全……かな?
「フェル、ルカリオン。たまにはこういうのも良いよな!」
「ヒルクスは、体を動かすのが好きだよね。俺は、多分、明日は筋肉痛で動けないし、眠っていたい」
「フェルは昔っから体力ないもんなぁ」
俺の頭をぐしゃぐしゃとヒルクスが撫でまわし、ルカリオンとは違う剣だこのあるごつごつした手に驚く。
いつの間にこんなに大きな手になったのだろう? ゲームでは明るいだけの正義感攻略対象でしかなかったのに、現実だと努力家で仲間想いで、とても無邪気なヤツなのだ。
俺がヒルクスとじゃれ合っていると、ルカリオンの喉はヴヴヴと小さく唸る。
尻尾も感情バロメータなら喉の唸り声も感情バロメータだ。
やきもち妬きの恋人、それがルカリオンで、昔も今も変わらない俺だけの従者。
「ルカリオン」
「……なんですか」
「まだ夜会で演奏が続いていたら、踊ってみようか?」
パササと尻尾が勢いよく揺れる。
「あ、それならオレもフェルと踊るかな」
「あなたは、そこら辺の令嬢と踊っていて下さい。まるで飢える寸前の、今にも肉に飛びつこうとしている令嬢たちが待っていますよ」
「それはルカリオン狙いだろ」
「いいいえ。わたしの目は自分に向けられた物かどうかを見分けることが出来ます。ですから、あなたです」
ヒルクスとルカリオンの言い合いに、余計な事を言ってしまったと思わないでもないが、ルカリオンがヒルクスにもじゃれるようにしているところも、俺は好きだけどね。
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