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4章
新居
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温泉大陸の庶民街の奥。
青果店や魚市が軒を連ねるその先に昔、温泉を気に入った物書きが住んでいたという洋館がぽつんと建っている。
温泉街の子供達に『お化けの出る洋館』物書きが夜な夜な出ると噂があるくらいにはそこそこ有名。
その洋館に6メートルの黒いドラゴンがゆっくりと降り立った。
「ネルフィーム、ご苦労様だったね」
ギルがネルフィームに声を掛けると黒いドラゴンから黒髪の美女の姿になる。
黒いスリットの入ったドレス姿で手をブルブルと振りながら首を回す。
「手がくたびれた。まったく、ギルが横着せずに陸路で引っ越し屋でも雇えば楽だったものを」
ネルフィームがギルを睨むとギルは両手を上げて眉を下げて笑う。
ネルフィームの持ってきた荷馬車は玄関前にすでに置いてある。
その荷馬車の中ではギュウッと押し込まれるように黒狼姿のルーファスを寝床に朱里が寝て、アナグマ姿のハガネとハガネの大きさと同じぐらいに小さく変化させたアルビーが寝ている。
ネルフィームが速度を速めて移動したせいで朱里が空の気温の寒さに耐えきれずにネルフィームの背中から落ちそうになり、荷馬車の中にもこもこ毛玉軍団で朱里を温めながらここまで来た。
結局、皆寝ながらの移動でネルフィームだけがくたびれた旅路だった。
「ほらほら、君達もう着いたんだから起きて欲しいな」
ギルが4人に声を掛けると4人は気温の暑さにすぐさま馬車から降りる。
夏の残暑と温泉大陸のほんのりとした暑さはそのまま寝ていたら確実に脱水症状を起こしかねない。
ハガネが人型に戻り大きく欠伸をしながら洋館の庭を見渡す。
「うへぇー・・・こりゃ草刈りとか大変そうだな」
「ああ。良く気付いたね。勿論手伝ってもらうからね?」
ギルがハガネに笑顔を向けるとハガネはサッと顔を反らして「俺【刻狼亭】で仕事溜まってそうだなー」と忙しいアピールをする。
「私は部屋を見てきたいな。日当たりのあまりよくない部屋でジメジメしてない部屋探さなきゃ」
アルビーはさっそく自分の部屋探しに洋館の窓を覗き込みながら飛んでいる。
アルビーの部屋選びは基本、本が日焼けせずに尚且つ本にカビや湿気がこない部屋である。
ルーファスが人型に戻り、朱里の顔を触りながら熱や顔色が大丈夫かを調べて、朱里を抱き上げる。
「アカリ、疲れただろ?一度休んだ方がいいな」
「筋肉痛が残ってるだけだよ?」
「そうは言っても、空の上でガタガタ震えていたんだから、温泉で温まるべきだ。筋肉疲労にも効能があるから丁度いいだろう」
「地上に降りたら一気に暑くはなったけどね。でも温泉に浸かりたいのは確かかも」
「ゆっくり浸かってその薬草臭いのをどうにかしないとな」
ルーファスが朱里の頭に自分の顔をスリ付けると朱里がくすぐったそうに笑いながらルーファスの耳をふにふにと触りルーファスも少しくすぐったそうに笑う。
ギルとネルフィームの視線に気づきルーファスが朱里から少し顔を上げる。
「ギル叔父上、荷解きは自分達でやってくれ。オレは【刻狼亭】に一度戻って状況を把握しないといけない。後で暇な人員が居ればこちらに派遣する」
「ルーファス、引っ越しっていうのは家族が手伝ってくれるモノじゃないのかい?」
ギルが腰に手を当てながらルーファスを見るが、ルーファスは片手を上げるとサッサッと朱里を抱いたまま温泉街の方へ足を動かし、ハガネも隙を逃さずについていく。
「ネルフィーム、親離れというヤツなんだろうか?」
「いや、ルーファスは子供という年齢では無いし、もう番がいるのだから諦めろ」
「ハァー・・・私には愛息子しか残ってない・・・」
「言ってはなんだが、主も自分の家庭を持てば良いのでは?」
「私はアルビーさえ居ればいいんだよ」
ギルとネルフィームが洋館の2階の窓に張り付いているアルビーを見ながら目を細める。
アルビーは首をゆらゆら揺らしながら太陽と部屋の位置を見て尻尾を揺らしながら飛んでいる。
ルーファスが【刻狼亭】へ戻ると従業員達がホッとした様な顔でわらわらとフロントロビーに集まり始める。
「皆ー!若達が帰ってきたぞー!」
「若女将大丈夫でしたか?心配しましたよ!」
「アカリ大丈夫だったかい?」
「若!ちゃんと何処に行くか言ってから出て行って下さい!」
「ハガネ!仕事溜まってるから!」
ワッと一気に従業員が話掛けルーファスが朱里と目を合わせて困った顔で笑うと、シュテンが低い声で「仕事してください」と一言いうと、全員蜘蛛の子を散らす様に自分の持ち場に戻る。
「まったく、皆仕事をサボる口実をすぐに見つけるのだから」
「気合いが足りないの!」
シュテンが帳簿を手にフロント内部からメビナと出てくる。
「若、報告がありますから後で部屋に伺いますが、今は休んでください」
「ルーファスも朱里も薬草臭いよ」
鼻の良い狐獣人の2人は朱里の薬草臭さがルーファスにも移っている事で2人に休めと促す。
申し訳ないと思いつつもルーファスは朱里を連れて自室へ戻ると、ルーファスの仕事用机の上には書類の束が所狭しと乗っかていた。
「どうやら仕事が溜まっていそうだな・・・」
「これは大変そうだね・・・」
青果店や魚市が軒を連ねるその先に昔、温泉を気に入った物書きが住んでいたという洋館がぽつんと建っている。
温泉街の子供達に『お化けの出る洋館』物書きが夜な夜な出ると噂があるくらいにはそこそこ有名。
その洋館に6メートルの黒いドラゴンがゆっくりと降り立った。
「ネルフィーム、ご苦労様だったね」
ギルがネルフィームに声を掛けると黒いドラゴンから黒髪の美女の姿になる。
黒いスリットの入ったドレス姿で手をブルブルと振りながら首を回す。
「手がくたびれた。まったく、ギルが横着せずに陸路で引っ越し屋でも雇えば楽だったものを」
ネルフィームがギルを睨むとギルは両手を上げて眉を下げて笑う。
ネルフィームの持ってきた荷馬車は玄関前にすでに置いてある。
その荷馬車の中ではギュウッと押し込まれるように黒狼姿のルーファスを寝床に朱里が寝て、アナグマ姿のハガネとハガネの大きさと同じぐらいに小さく変化させたアルビーが寝ている。
ネルフィームが速度を速めて移動したせいで朱里が空の気温の寒さに耐えきれずにネルフィームの背中から落ちそうになり、荷馬車の中にもこもこ毛玉軍団で朱里を温めながらここまで来た。
結局、皆寝ながらの移動でネルフィームだけがくたびれた旅路だった。
「ほらほら、君達もう着いたんだから起きて欲しいな」
ギルが4人に声を掛けると4人は気温の暑さにすぐさま馬車から降りる。
夏の残暑と温泉大陸のほんのりとした暑さはそのまま寝ていたら確実に脱水症状を起こしかねない。
ハガネが人型に戻り大きく欠伸をしながら洋館の庭を見渡す。
「うへぇー・・・こりゃ草刈りとか大変そうだな」
「ああ。良く気付いたね。勿論手伝ってもらうからね?」
ギルがハガネに笑顔を向けるとハガネはサッと顔を反らして「俺【刻狼亭】で仕事溜まってそうだなー」と忙しいアピールをする。
「私は部屋を見てきたいな。日当たりのあまりよくない部屋でジメジメしてない部屋探さなきゃ」
アルビーはさっそく自分の部屋探しに洋館の窓を覗き込みながら飛んでいる。
アルビーの部屋選びは基本、本が日焼けせずに尚且つ本にカビや湿気がこない部屋である。
ルーファスが人型に戻り、朱里の顔を触りながら熱や顔色が大丈夫かを調べて、朱里を抱き上げる。
「アカリ、疲れただろ?一度休んだ方がいいな」
「筋肉痛が残ってるだけだよ?」
「そうは言っても、空の上でガタガタ震えていたんだから、温泉で温まるべきだ。筋肉疲労にも効能があるから丁度いいだろう」
「地上に降りたら一気に暑くはなったけどね。でも温泉に浸かりたいのは確かかも」
「ゆっくり浸かってその薬草臭いのをどうにかしないとな」
ルーファスが朱里の頭に自分の顔をスリ付けると朱里がくすぐったそうに笑いながらルーファスの耳をふにふにと触りルーファスも少しくすぐったそうに笑う。
ギルとネルフィームの視線に気づきルーファスが朱里から少し顔を上げる。
「ギル叔父上、荷解きは自分達でやってくれ。オレは【刻狼亭】に一度戻って状況を把握しないといけない。後で暇な人員が居ればこちらに派遣する」
「ルーファス、引っ越しっていうのは家族が手伝ってくれるモノじゃないのかい?」
ギルが腰に手を当てながらルーファスを見るが、ルーファスは片手を上げるとサッサッと朱里を抱いたまま温泉街の方へ足を動かし、ハガネも隙を逃さずについていく。
「ネルフィーム、親離れというヤツなんだろうか?」
「いや、ルーファスは子供という年齢では無いし、もう番がいるのだから諦めろ」
「ハァー・・・私には愛息子しか残ってない・・・」
「言ってはなんだが、主も自分の家庭を持てば良いのでは?」
「私はアルビーさえ居ればいいんだよ」
ギルとネルフィームが洋館の2階の窓に張り付いているアルビーを見ながら目を細める。
アルビーは首をゆらゆら揺らしながら太陽と部屋の位置を見て尻尾を揺らしながら飛んでいる。
ルーファスが【刻狼亭】へ戻ると従業員達がホッとした様な顔でわらわらとフロントロビーに集まり始める。
「皆ー!若達が帰ってきたぞー!」
「若女将大丈夫でしたか?心配しましたよ!」
「アカリ大丈夫だったかい?」
「若!ちゃんと何処に行くか言ってから出て行って下さい!」
「ハガネ!仕事溜まってるから!」
ワッと一気に従業員が話掛けルーファスが朱里と目を合わせて困った顔で笑うと、シュテンが低い声で「仕事してください」と一言いうと、全員蜘蛛の子を散らす様に自分の持ち場に戻る。
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「気合いが足りないの!」
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