黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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4章

引っ越し

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メリメリメリ・・・と、容赦のない木の軋む音に声を上げたのはアルビーだった。

「やめて!ルーファスは私の宝物に手を触れないで!」

アルビーが自分の自室に飾ってあった肖像画を拾い集めながら、肖像画を無造作に壁から外していくルーファスに文句を言う。

「いや、そんな物を宝にするな」

「私とルーファスの子供の頃の肖像画なのに?!」

「あー、だからこそ要らんだろ?」

「酷いよ!私はこれを見ていつも過ごしてきたのに!」

アルビーが肖像画を抱きしめて首を左右にふる。
そんなアルビーにルーファスがこの旧友はとても面倒くさいと、再びアルビーの部屋の物を木箱に放り投げていく。


「ルーファス、木箱足りるかな?ってギルさんが聞いてたよ?」

朱里がぎこちない動きでアルビーの部屋に顔を出す。

「アカリ、木箱は大丈夫だが・・・体はまだ痛そうだな」

「ううっ・・・全身筋肉痛」

ほんのりと薬草臭くなった朱里が泣き声をあげながら再び歩き始める。
熱が下がったあとに襲ってきた筋肉痛をギルが「筋肉痛は体力が付いてくる証拠だから動きなさい」と容赦なく朱里に軽い用事を言いつけては動かしている。
一応、筋肉痛を和らげる薬草を塗っているものの朱里は動きまわっているせいで効いているのかは不明だ。

「アカリ、あまり無理はするな」

「うん。でも体力が無いのは駄目だからギルさんの言う通りにするよ」

ルーファスに声を掛けられながら、次はようやく人型に戻れたハガネの所へ顔を出す。
ハガネは主に魔法関連の道具を箱詰めしていて、箱に何を入れたかを台帳に書き記していっている。

「ハガネ、進行状況はどんな感じ?」

「おう。大体大雑把なもんは入れたけど、細かい奴はもう少し整頓して入れないと、混じるとやべぇなってのが多くて、小分けにもう少し時間かかりそうだな」

「大変そうだね。私が手伝えたら良いんだけど、魔法道具は扱いが難しいから手伝えなくてごめんね?」

「別にいいって。俺も一応、こういうの得意ってだけだしな。適材適所だろ?アカリは熱引いたばっかなんだから無理せずに休み休み動けよ」

「はーい」

ギギギと、油の切れかかった人形の様に朱里は再び歩き出す。
次はネルフィームの所に用事が無いか聞いて、そしてギルの所に報告に行く。それが朱里がギルに言われた事。
広い屋敷で歩き回るというのは意外に疲れるもので、筋肉痛の体は悲鳴を上げながら休みを訴えている。

屋敷の1階の奥深くに黒い扉があり、その黒い扉がネルフィームの部屋。
扉をノックしながら開けると、中は黒いレースとフリルの部屋だった。
朱里が最初に寝せられていた白いフリル部屋の黒バージョン。

中で美女姿のネルフィームが黒い毛糸を大量に抱えて紙袋に入れていっている。

「ネルフィーム、お引越しの準備はどこくらい進みましたか?」

「ああ、アカリか。御覧の通りだ。片づけても片づけてもギルに押し付けられた物が溢れ出てくる・・・」

溜め息を吐きながらネルフィームが朱里に紙袋を手渡してくる。

「ネルフィームは編み物をするの?」

「するわけがない。アカリにあげよう。ギルは女は皆編み物とレースとフリルが好きだと思っている節があるからな。私はどちらかと言えば宝石や貴金属の方が好きだ」

「私、編み物なんてメリアス編みでマフラーくらいしか作れないよ」

朱里が困った顔をするとネルフィームは「一切編めない私よりマシだ」と半笑いする。
手伝いが無いか聞くと「無い」と言って朱里を手で追い払う。
朱里は紙袋いっぱいの毛糸玉を持って、朱里は最後にギルの部屋に足を動かす。


ギルの部屋は書斎の横にある部屋で、ノックして入ると中でギルが優雅にお茶をしながら朱里を待っていた。
朱里にティーカップを持ち上げて要るか聞くと朱里は勢いよく拒否する。
ルーファスにもハガネにもアルビーにも『ギルから貰うモノは口に入れるな』と言い聞かされたからだ。

「皆はどんな感じでしたか?」

「ルーファスとアルビーは肖像画でもめてました。まぁアルビーが一方的に嘆いていただけだけど。ハガネは大まかなのは終わったけど、細かい物に関してはもう少し時間が掛かるそうですよ。ネルフィームはギルさんがくれた物が次から次に出てくるって片付かないと言ってました」

ギルは嬉しそうに頷きながら紅茶を飲むと朱里に椅子に座る様に促す。
部屋に不釣り合いな小さな木の椅子に朱里が座ると、ギルが朱里の手を取って小さく魔法を唱える。
パチッと音がしてギルが朱里から手を離して手を左右に振る。

「アカリ、君は魔法反射か何かしていますか?」

「してないと思いますけど?」

「このぐらいの赤い丸い石か何か身に着けていたりするかい?」

ギルが指で丸を作り朱里に尋ねると、朱里は「あっ」と呟いて首から下げていたネックレスを取り出す。
魔獣クロがくれた赤い石のネックレス。
ルーファスに言われていつも身に着けている朱里の宝物。

「うちのクロがくれたのをルーファスがネックレスにしてくれたんです」

「クロ?」

マジマジとネックレスを見ながらギルが小さく「ふむ」と口にする。

「黒くて小さな魔獣なんです。ルーファスと一緒に飼ってるんです」

クロの姿を思い出して朱里の頬が緩むとギルがテーブルにネックレスを置き小さく魔法を呟く。
バシッと机の上に稲妻が走りネックレスを中心に焦げた円が出来る。

「わーっ!ギルさん何するんですか!!」

「アカリ、その魔獣はカーバンクルです。魔法反射の石を額で作る宝石獣。普通は馴れない魔獣なんですけど、上手くやっている様なら私は文句はないです。でも、回復魔法まで弾いるので改良の余地ありですね。引っ越し先についたら私が改良してあげます」

「私、これ気に入ってるので変な風にしないでくださいね?」

「ほんの少し砕くだけですよ。魔法反射を屈折させる為にね」

不安そうな目で朱里が見上げると、ギルは悪い笑みを口に浮かべる。
机の上のネックレスを朱里がサッと手に掴んで首を振ると、ギルが朱里の手に手を伸ばす。

「いやーっ!駄目です!駄目ったら駄目です!」

「まぁまぁ。悪い改良じゃないから。やった事はないけど、理論上はいけるはずですから」

「尚更、駄目ったら駄目ー!」

ドコッとギルの頭に銀色の塊が飛んできてギルが頭を押さえると、床に銀色の変形した卵型の物が転がる。

「ギル叔父上!アカリに何をしているんだ!」

ルーファスが息を切らせながら部屋に入り朱里を庇う様に手を広げる。

「痛っ、ルーファス・・・って、ああああ!私のコレクションの卵投げましたね!何てことするんだい?!中身が無いから良いけど、あったら中身死んでますからね?!」

銀色の卵を拾い上げながらギルがブツブツ文句を言って卵の変形を見てガクリと項垂れる。

「アカリ大丈夫か?ギル叔父上に何もされてないか?」

「ギルさんが私のネックレス砕こうとしたの!」

「ギル叔父上・・・」

ルーファスが怒気を発するとギルが「誤解ですよルーファス!!!」と叫んで、また屋敷の壁がまた穴を増やしたのはすぐの事だった。


そして、ようやく引っ越しの作業が終わったのは次の日の昼頃。
ネルフィームが荷馬車に詰めた引っ越し用品を手に抱えて、背中には朱里以外が全員獣化して乗り込んでいる状態で空を飛びながら温泉大陸を目指して飛んでいった。
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