黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
151 / 960
7章

遠い日の約束

しおりを挟む
 「俺は言ったはずだ!冷やかしにくると!」

 とても演技がかったポーズと共にアシュレイが言うと、ルーファスが半目でアシュレイを見つめ、手はお腹を抱えて笑う朱里の背中をさすっている。

「ああ、【病魔】騒ぎの時に言っていたが、そんな事の為に来たのか?暇な奴だな」
 
冷めた反応のルーファスにアシュレイが「ぐぬぬ」っと声を絞り出す。

「噂を信じて来たのに、噂と違う!何処が『美女』で『黒真珠』なんだ!」
「オレの番は美女ではなく『可愛い』だ。黒髪黒目、まさに『黒真珠』だろう?まぁ、貴族連中に言われているだけで、オレに言わせれば番の可愛らしさは宝石で例えられる物ではないな」

 ルーファスがフッと笑い朱里の髪を撫でると、朱里が顔を上げて困った顔で「お腹痛い~」と手をお腹に当てながら笑う。

「ハァー、ハァー、ふぅ。ごめんなさい。もう、顔見るだけで笑えちゃって、ふふ」
「困った子だな。可愛いアカリのお腹が筋肉痛を起こす前に出て行ってもらおう」

 朱里の笑いすぎでにじみ出た涙を唇で吸い取るとルーファスが満足そうに舌で唇を舐め「相変わらず甘い」とクスリと笑うと朱里が「メッ」とルーファスの唇に指を押し当てる。
ルーファスと朱里の様子にアシュレイが髪を掻き上げながら不機嫌な顔になって撫すくれる。

「お前は本当に俺の幼馴染のルーファスなのか?そんな腑抜けになって!」

 朱里がルーファスの顔を見て首をかしげる。

「この人と幼馴染なんですか?」
「【刻狼亭】と【風雷商】は昔からの馴染みで代々付き合いがある。父上が生きていた頃にコイツとは出会ったから6歳ぐらいだったか?」

 アシュレイが髪を掻き上げて髪をなびかせるような仕草をすると、ルーファスが「昔はマトモな子供だったんだがな・・・」と、少し遠い目をしてから朱里の頬に顔をスリ寄せる。

「お前こそ!ルーファス少し前のお前は、女にデレデレする様な奴じゃなかったはずだろ?大体そんなちんちくりんはお前の趣味じゃなかったはずだ!」

「いい加減にしろ!口が過ぎるぞ!それ以上言う様なら直ぐ様叩き出すぞ!」

アシュレイとルーファスが険悪なムードになると朱里が眉を下げて笑う。

「私が居ると色々話せないだろうから、食器を片付けてこようかな」

 朱里が朝食の皿をまとめてトレイに置くと逃げる様にクロと一緒に食堂ルームから出ていく。
ルーファスが嫌そうな顔でアシュレイを睨むと、アシュレイがサッと表情を変える。
真面目な顔でルーファスに静かに微笑む。

「久しぶりだな【刻狼亭】」
「始めからそっちでくればいいものを。久しぶりだ【風雷商】」
「そうは言ってもな【刻狼亭】の女将になる娘を『目利き』するのも【風雷商】の代々の務めだからな」
「そんなものは頼んではいない。アカリ以外はオレは娶ろうとは思っていない」

 頬杖を付きながらルーファスが「面倒な奴はこれだから嫌なんだ」と悪態を付けば、アシュレイが「面倒くさいのはお互い様だ」と悪態を突き返す。

「で、本当に何をしに来たんだ?」
「【刻狼亭】の女将を見に来たのと、新しい【刻狼亭】を作ると聞いたから結婚祝いに色々贈ろうと思ってきたんだが、中々に面白い女将でつい揶揄からかってしまった」
「お前は昔から素直じゃない奴だよ【風雷商】」
「あとはコレを渡しにきた」

テーブルの上に金色のロケットペンダントを置くと、ルーファスが、ロケットを開けると小さな紙が出てくる。

『しょうらい こくろうていとふうらいていを おおきくする るーふぁす あしゅれい』

名前の後ろには血判までついている辺り、あの頃のルーファス達は大人に憧れる背伸びした子供達だった。
 
2人で約束をしたのだ。

『妻は作らず2人で店を大きくして自分達の様に悲しい子供を作らない様にしよう』

 ルーファスもアシュレイも年齢も同じなら生まれ育った境遇も同じ物だった。
1人息子で母親は居ない。
背負うものは代々続いた老舗の由緒ある物。
父親は妻を亡くした事で何処かいつも悲しみに暮れていて、自分達はいつも目の前に居ても寂しいと思っていた。
父親の悲しみの元は妻を亡くしたことなら、自分達は妻をもたなければ良いと思った。
自分達の様に悲しいだけの存在はこの代限りにしようと。

あの頃は本気で思っていた。

 次第に周りに妻はともかく子供は作るべきだと無責任な事を言われ、アシュレイは妻は娶らないが跡取りの子供を作り、既に3人程子供が居る。
始めに約束を破ったのはアシュレイだし、子供の頃の約束でルーファスも気にも留めていない事なのだが、アシュレイはずっと首からこのロケットを下げていた。
 
 アシュレイなりの気持ちの整理のつかない物だったのかもしれない。
結局、ルーファスが番を得て、ようやくアシュレイもロケットを手放し、寂しい子供時代の自分と決別する事にしたのだろう。と、ルーファスは思っている。
 
「【刻狼亭】の女将は『目利き』だと希少だが扱いが難しい。壊れやすく厳重に壊れない様にしまい込んでおかなければいけない商品・・・と、いうところだな」
「オレの番は繊細なんだ。だから【風雷商】お前も取り扱いには気を付けろ」

食堂ルームに再び朱里が顔を出すと新しいお茶を用意して持ってくる。

「お茶とお茶請けのマフィン置いておきますね」

「ありがとう」

朱里が小さく笑って、アシュレイに頭を小さく下げてからトテトテと部屋から出ていく。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。