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9章
魔法陣
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刻狼亭の事務所でテンが机の上でコロコロと飴玉を追って走る小鬼を指で止めながら、『産休届』を提出した従業員フリウーラに「おめでとうございます。元気なお子さん産んでください~」とルーファスから預かった祝い金の封筒をフリウーラに手渡す。
「ありがとうございます。旦那にも今度お礼に伺いますって伝えといてくださいな」
「は~い。フリウーラの復帰をこちらはいつでも待ってますからね~」
「いやですよぉ。テン、あたしは今から産休だってのに、もう戻る話なんて」
テンの背中をバシバシと叩き、フリウーラが大きなお腹を誇らしげに撫でてお辞儀をすると事務所から出ていく。
廊下ではフリウーラが世話してきた後輩たちが「姐さん~」と騒いでしばしのフリウーラ不在を嘆いている声がする。
「さて、事務仕事はこのぐらいですねぇ。小鬼、次の仕事に行きますよ~」
ヒョイッと小鬼をつまむと、テンが他の事務員に「あとは任せましたよぉ」と、いつもの様に間延びした声で事務所を出ていく。
テンが出ていった後の事務所は少し「ホッ」とした雰囲気になり、気が緩む。
「テンさん、お仕事は何をするんです?」
「いつものお仕事です。今回は拷問どうこうの話では無い様なので、出る幕があるかどうか疑問ですけどねぇ」
「なら僕は関係ないのでお暇したいです!」
「ダメですよぉー。小鬼はしっかり情報持って行かないとでしょ?」
「ううっ・・・僕、テンさんと一緒だと変な情報ばかりになります」
「他の小鬼と別の情報が得られて良いじゃないですかぁ」
嘆く小鬼をテンが連れて【刻狼亭】の座敷牢へ続く分厚い扉を開くと、中ではハガネと製薬部隊のピルマーが椅子に座っていた。
「よう。来たか」
「お疲れ様です。テンさん」
ハガネが片手を上げ、ピルマーが軽く頭を下げてテンに挨拶すると、座敷牢の中を指さす。
座敷牢の格子の中で褐色の肌の男トティッシュ・タイプが壁をガリガリと爪で魔法陣を描きながらブツブツと何かを喋っていた。
「何だかもうこの人、心が壊れていませんか?」
テンが一目でこれは駄目だなとハガネとピルマーに向きなおす。
「あー、やっぱテンもそう思うか?」
「ハガネさん、やはり精神ダメージのある人からは聞き出すのは無理ですよ」
ハガネが頭をガシガシ掻き毟って「あーもう、面倒くせぇ。どうすっかなぁ」と厄介なお荷物になったトティッシュを見つめ、適当に捨てるわけにもいかないし、本当に面倒くさいと「うへぇ」と舌を出す。
「テンさん、僕にあの人の壁の魔法陣見せてください」
「おや、小鬼は魔法陣が判りますか?」
テンが小鬼を手に持ち、格子から落ちないように支えると、小鬼は食い入るようにトティッシュが爪で描いている魔法陣を見つめ、足をぴょんぴょん跳ねながら「もう少し近付いて見たいです」と騒いでいる。
少し困った顔をしながらテンが座敷牢を開けて小鬼を壁に近付ける。
一心不乱に壁に魔法陣を描くトティッシュの手は止まる事を知らない。
「これは古代の禁呪の魔法陣に似ています。僕の情報では無いので仲間の小鬼の誰かの情報ですから詳しくは無いですけど・・・あっ、テンさん仲間に聞いてみます?コレ次第ですけど」
親指と人差し指で輪を作り小鬼がテンにニッコリ笑うと、テンが「おやおや」と言って、ハガネの方を見る。
「わかったよ。俺が旦那に言っとくから金は払うから情報を貰ってくれ」
「毎度有り難うございます!僕、頑張ります!」
小鬼が今見た魔法陣を他の小鬼と共有して情報を得る為に、目をせわしなく動かしながら、情報共有をしていく。
相変わらず、小鬼独自の情報共有は目をくるくると動かして傍から見ると少し心配にもなる。
「はい。情報共有完了です。そうそう、この魔法陣は血を媒介にするので、その男が血を魔法陣にかけないよう壁から引きはがすなり、魔法陣の一部を砕くなりしろって仲間が言っています」
「バカ!そういうのは早く言えよ!」
ハガネが魔法陣の一部に火で焦げ目をつけて消すと、テンが小鬼を連れて座敷牢から出る。
ハガネも座敷牢から出ると、隣りの部屋で小鬼を囲んで魔法陣の話に聞き入る。
「あの魔法陣はドラゴンが人に教えた魔法陣でしたが、危険な為に今は使われていない物らしいです。この魔法陣が使われたのは、旧バステト王国が栄えていた時代、戦争をしていた時に使われていたもので、仲間はこれを旧バステト遺跡の中で目にしたそうです。バステトと戦争をしていたミシマリーフ国が使っていたもので、相手に呪詛をかける魔法陣です」
「おいおい。ドラゴンもロクなもん教えてねぇな」
「ドラゴンさえも呪詛にかける魔法陣。教えたドラゴンも無茶をすると僕は思いますよ。バステトではこの呪詛の魔法陣を解呪する為の研究が行われていたようです。これの資料は仲間がバステト遺跡から持ち帰っているので、取り寄せになっていいなら、こちらに送ってくれる様に頼みますか?」
「ああ。頼んだぜ。金は旦那に追加で頼んどく」
ハガネと小鬼が商談成立とばかりに小さく握手をしていると、テンとピルマーがハガネをツンツンと突き、座敷牢の中を指さす。
「ハガネ、なんかヤバそうですよ!」
「ハガネさん、座敷牢の中の人何か危なそうなんですけど!」
座敷牢の中のトティッシュが床を転げまわり、ビクビクと痙攣を始め声にならない声を上げ始める。
体がボコボコと動き始め、嫌な予感にハガネが手で印を結び始める。
「ヤバい!【結界】!!」
バシュ・・・。
ハガネの作ったトティッシュを覆う四角い結界の中が赤く染まり、トティッシュが物言わぬ躯になった。
「何が起きたんだ・・・こいつに?」
「ハガネ、遺体の中に何か見えますよ」
トティッシュの真っ赤な死体の中に何か金属製の5cm程の長方形の板が光っている。壁に掛かれた魔法陣によく似た魔法陣が板に刻まれていた。
「どうやら、この魔術師自体も呪詛を掛けられていたようですねぇ」
「でも、こいつどう見ても自分から望んで呪詛掛けに行くタイプだろ?脅されてた風には見えねぇけど」
「大方、この魔術師が失敗したときの隠蔽用に他の魔術師にこっそり仕掛けられていたんでしょうねぇ」
「こいつ面倒くせぇとか思ってたけど、こんな風になるのも面倒くせぇな。処理どうすんだよ」
「壁の魔法陣をキチンと消し去るまでは結界解いちゃ駄目ですよぉ?」
「マジかよ!テンでもピルマーでもいいから早く誰か呼んで、壁どうにかしてくれ!俺この後、アカリの店番頼まれてんだよ!」
ハガネが「アカリに遅れると怒られる」と騒ぎながら、ピルマーが他の従業員を呼びに外へ飛び出していった。
「ありがとうございます。旦那にも今度お礼に伺いますって伝えといてくださいな」
「は~い。フリウーラの復帰をこちらはいつでも待ってますからね~」
「いやですよぉ。テン、あたしは今から産休だってのに、もう戻る話なんて」
テンの背中をバシバシと叩き、フリウーラが大きなお腹を誇らしげに撫でてお辞儀をすると事務所から出ていく。
廊下ではフリウーラが世話してきた後輩たちが「姐さん~」と騒いでしばしのフリウーラ不在を嘆いている声がする。
「さて、事務仕事はこのぐらいですねぇ。小鬼、次の仕事に行きますよ~」
ヒョイッと小鬼をつまむと、テンが他の事務員に「あとは任せましたよぉ」と、いつもの様に間延びした声で事務所を出ていく。
テンが出ていった後の事務所は少し「ホッ」とした雰囲気になり、気が緩む。
「テンさん、お仕事は何をするんです?」
「いつものお仕事です。今回は拷問どうこうの話では無い様なので、出る幕があるかどうか疑問ですけどねぇ」
「なら僕は関係ないのでお暇したいです!」
「ダメですよぉー。小鬼はしっかり情報持って行かないとでしょ?」
「ううっ・・・僕、テンさんと一緒だと変な情報ばかりになります」
「他の小鬼と別の情報が得られて良いじゃないですかぁ」
嘆く小鬼をテンが連れて【刻狼亭】の座敷牢へ続く分厚い扉を開くと、中ではハガネと製薬部隊のピルマーが椅子に座っていた。
「よう。来たか」
「お疲れ様です。テンさん」
ハガネが片手を上げ、ピルマーが軽く頭を下げてテンに挨拶すると、座敷牢の中を指さす。
座敷牢の格子の中で褐色の肌の男トティッシュ・タイプが壁をガリガリと爪で魔法陣を描きながらブツブツと何かを喋っていた。
「何だかもうこの人、心が壊れていませんか?」
テンが一目でこれは駄目だなとハガネとピルマーに向きなおす。
「あー、やっぱテンもそう思うか?」
「ハガネさん、やはり精神ダメージのある人からは聞き出すのは無理ですよ」
ハガネが頭をガシガシ掻き毟って「あーもう、面倒くせぇ。どうすっかなぁ」と厄介なお荷物になったトティッシュを見つめ、適当に捨てるわけにもいかないし、本当に面倒くさいと「うへぇ」と舌を出す。
「テンさん、僕にあの人の壁の魔法陣見せてください」
「おや、小鬼は魔法陣が判りますか?」
テンが小鬼を手に持ち、格子から落ちないように支えると、小鬼は食い入るようにトティッシュが爪で描いている魔法陣を見つめ、足をぴょんぴょん跳ねながら「もう少し近付いて見たいです」と騒いでいる。
少し困った顔をしながらテンが座敷牢を開けて小鬼を壁に近付ける。
一心不乱に壁に魔法陣を描くトティッシュの手は止まる事を知らない。
「これは古代の禁呪の魔法陣に似ています。僕の情報では無いので仲間の小鬼の誰かの情報ですから詳しくは無いですけど・・・あっ、テンさん仲間に聞いてみます?コレ次第ですけど」
親指と人差し指で輪を作り小鬼がテンにニッコリ笑うと、テンが「おやおや」と言って、ハガネの方を見る。
「わかったよ。俺が旦那に言っとくから金は払うから情報を貰ってくれ」
「毎度有り難うございます!僕、頑張ります!」
小鬼が今見た魔法陣を他の小鬼と共有して情報を得る為に、目をせわしなく動かしながら、情報共有をしていく。
相変わらず、小鬼独自の情報共有は目をくるくると動かして傍から見ると少し心配にもなる。
「はい。情報共有完了です。そうそう、この魔法陣は血を媒介にするので、その男が血を魔法陣にかけないよう壁から引きはがすなり、魔法陣の一部を砕くなりしろって仲間が言っています」
「バカ!そういうのは早く言えよ!」
ハガネが魔法陣の一部に火で焦げ目をつけて消すと、テンが小鬼を連れて座敷牢から出る。
ハガネも座敷牢から出ると、隣りの部屋で小鬼を囲んで魔法陣の話に聞き入る。
「あの魔法陣はドラゴンが人に教えた魔法陣でしたが、危険な為に今は使われていない物らしいです。この魔法陣が使われたのは、旧バステト王国が栄えていた時代、戦争をしていた時に使われていたもので、仲間はこれを旧バステト遺跡の中で目にしたそうです。バステトと戦争をしていたミシマリーフ国が使っていたもので、相手に呪詛をかける魔法陣です」
「おいおい。ドラゴンもロクなもん教えてねぇな」
「ドラゴンさえも呪詛にかける魔法陣。教えたドラゴンも無茶をすると僕は思いますよ。バステトではこの呪詛の魔法陣を解呪する為の研究が行われていたようです。これの資料は仲間がバステト遺跡から持ち帰っているので、取り寄せになっていいなら、こちらに送ってくれる様に頼みますか?」
「ああ。頼んだぜ。金は旦那に追加で頼んどく」
ハガネと小鬼が商談成立とばかりに小さく握手をしていると、テンとピルマーがハガネをツンツンと突き、座敷牢の中を指さす。
「ハガネ、なんかヤバそうですよ!」
「ハガネさん、座敷牢の中の人何か危なそうなんですけど!」
座敷牢の中のトティッシュが床を転げまわり、ビクビクと痙攣を始め声にならない声を上げ始める。
体がボコボコと動き始め、嫌な予感にハガネが手で印を結び始める。
「ヤバい!【結界】!!」
バシュ・・・。
ハガネの作ったトティッシュを覆う四角い結界の中が赤く染まり、トティッシュが物言わぬ躯になった。
「何が起きたんだ・・・こいつに?」
「ハガネ、遺体の中に何か見えますよ」
トティッシュの真っ赤な死体の中に何か金属製の5cm程の長方形の板が光っている。壁に掛かれた魔法陣によく似た魔法陣が板に刻まれていた。
「どうやら、この魔術師自体も呪詛を掛けられていたようですねぇ」
「でも、こいつどう見ても自分から望んで呪詛掛けに行くタイプだろ?脅されてた風には見えねぇけど」
「大方、この魔術師が失敗したときの隠蔽用に他の魔術師にこっそり仕掛けられていたんでしょうねぇ」
「こいつ面倒くせぇとか思ってたけど、こんな風になるのも面倒くせぇな。処理どうすんだよ」
「壁の魔法陣をキチンと消し去るまでは結界解いちゃ駄目ですよぉ?」
「マジかよ!テンでもピルマーでもいいから早く誰か呼んで、壁どうにかしてくれ!俺この後、アカリの店番頼まれてんだよ!」
ハガネが「アカリに遅れると怒られる」と騒ぎながら、ピルマーが他の従業員を呼びに外へ飛び出していった。
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