黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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19章

土竜の卵

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 冒険者ギルドの本部へ魔獣回収の依頼をし、とりあえずは落ち着きを取り戻し始めた温泉大陸は大陸内の被害は無かったので、直ぐにいつも通りの日常が始まっていた。
 温泉大陸付近の海域が魔獣の死骸で埋め尽くされている事で船での旅行客が大橋との大陸続きになっているタンシム国方面へ船を停め、陸路で3日かけて来るという形が今の所多いくらいである。

「あんまり変わらないね」
「そうだな。ネリリスの『4の砲は北へ』という予言のおかげで陸地までの被害はなかったとも言えるな」
「酷い被害が出なくて良かったね」

 旧・女将亭のある場所の庭で朱里とルーファスがサクサクと周りの土を耕している。
大きな竜の形をした土は耕される程に平たくなっていく。この土はニクストローブの死骸で、ニクストローブが自分の死骸は良い土になるから畑にでもしてくれと言うので耕しているのである。
当の本人、ニクストローブは籠の中で岩の様な質の卵になってしまっている。ドラゴンにしては珍しい老衰を迎えての卵孵りなので、竜の癒し木の実も要らなかった。
出会った時から既に老竜だったので卵孵りも近いだろうとは思っていたが、朝起こしに行ったら眠る様に亡くなり、卵に孵った。
ドラゴン達総出でニクストローブの死骸を運び、この土地へ持って来たのである。
一番大きなドラゴンなだけに運んだ全員が今は疲労困憊で休んでいる所だ。

「ニクストローブどのくらいで卵から孵ってくるだろうね」
「大きさが大きさだからな・・・エデンの様な小ささなら直ぐだろうが、ニクストローブはでかいからな」

 ニクストローブの卵は大体1メートル程の大きさで、ドラゴン達いわく、卵の大きさで孵る日程が変わるそうだ。
卵孵りの時に自分の体を捨てざるを得ない状況になっていた場合は小さな卵で直ぐに新しい体に生まれ変わって逃げるが、危険が無ければ大きさは自由なのだとか。
ニクストローブはここが安全だと思っているので普通に大きいサイズで卵になったのだろうとドラゴン達は言う。

「早く孵ってくると良いね」
「そうだな。またチェスでもして主従契約を結ぶかな」
「ふふっ、子供相手に大人げなく勝負しちゃ駄目ですからね?」
「幼竜相手に完全完勝したら流石に不味いか・・・」
「ルーファス、それは駄目ですよ」

 手に付いた土をルーファスが払うと朱里が水玉を出して、ルーファスが手を洗い、その水を耕した地面に撒いていく。

「こんなもので良いか」
「ええ。休憩しましょう」

 家の1階の元はレストランのあった場所が今はガラス張りの大浴場になっている。
ドラゴン達の酒飲み場の1つとして新たに設置されたものである。大浴場の縁に腰を掛けて足だけを湯船につけてルーファスが「ふぅ」と息を吐くと、朱里も横に並んで足を湯船に浸ける。

「ルーファス、私ここでこうしてて良いのかなぁ・・・?」
「シューが帰って来るまではアカリはいつも通りでいい」
「でも・・・」

 腕輪を眺めて朱里が小さく溜め息を吐く。
カイナの書簡によって異世界の人の血を引いている人間ならば月刀ー山茶花ーを扱える可能性があるのならば、朱里の子供であるシュトラールにも扱える可能性があるかもしれないと、カイナが帯刀していた月刀ー山茶花ーを回収しにワヴィナスと共に魔獣の王が討たれた島へ向かっている。

 それと同時に小鬼にこの世界に存在する異世界人が朱里とありすと早田倫子の3人以外に居ないかを調べている。
早田倫子は今現在は冒険者としては活動しておらず、結婚して夫と共に料理屋をしているらしい。
協力を仰いではいるがいるが、月刀ー山茶花ーを手に入れなくては話にはならない。

「シューちゃん、大丈夫かな?」
「シューは自己回復も出来るし、ヒドラのクリスタルも持って行っている。何より、自分の番と子供がこの大陸で帰りを待っているのだから大丈夫だ」
「もし、シューちゃん達にも扱うのが難しい刀なら、私、頑張るから」
「アカリがやる必要はない。一撃でも魔石にあてる事が出来れば良いだけならば、オレにも出来るかもしれないからな。アカリは無茶をするな」
「ううん。だからこそ、一撃入れるだけで良いなら私頑張るよ」

 ルーファスは眉根を下げながら朱里の手を握る。
小刻みに震えている朱里の手に、出会った頃から朱里は怖がりな少女のままだと知っているからこそ、危ない場所にも危険な事にも関わって欲しくはない。
ただ、自分の隣りで笑っていて欲しいだけなのに、ままならない。

「本当に、無茶だけはしないでくれ」
「うん・・・。あのね、私に何かあってもルーファスには子供達も居るし、孫が二人も居る事、忘れないでね?【刻狼亭】の人や温泉大陸の人達も居るの忘れないで」
「アカリ、そんな事は言うな。2人の子供達で孫達なんだ。だからアカリは何かあったりと余計な事は考えるな」
「そう、思いたい。でも・・・このまま【怨嗟】が残っていたらまた魔獣がこの大陸に来るかもしれない。またクロ達が変になっちゃうかもしれない。誰かがどうにかしないといけなくて、私はそれが出来る資格があるから・・・ううん、そうじゃない。私はただ、家族を失いたくない・・・ルーファスや子供達が危険な目に合ってほしくない」
「オレはアカリにも同じことを言いたい。オレにはアカリが大事で子供達を含めて危険な目にあって欲しくない。もしアカリの手を借りなければならない時はオレは絶対にアカリの側に居る」

 手を握りしめてお互いに思うのは自分の番と家族の無事。それだけだった。
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