黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
757 / 960
23章

風呂敷の中身

しおりを挟む
 スクルードのお誕生日が無事に終わり、二歳になったスクルードと庭で枯葉を集めていると庭に【刻狼亭】の元料理長をしていたアーネスさんが風呂敷を手にやって来る。

「大女将、ご無沙汰です」
「アーネスさん、お久しぶりです!」
「うー?」
「スーちゃん、もぐもぐを作ってくれてたアーネスさんだよ」
「もぐもぐー!」

 【刻狼亭】の料亭で離乳食を『もぐもぐ』と覚えてしまっているので、アーネスさんはもぐもぐの人なのである。

「ハハッ、スー坊も元気そうでなによりですな。坊ちゃんは?」
「ルーファスなら今、入国記録を見に料亭の事務所に行ってます」

 アーネスさんはルーファスのお父さんが生きていた頃から居る【刻狼亭】の古株だった人で、ルーファスが生まれた頃からいるから『坊ちゃん』とルーファスのことを今でも呼んでいる数少ない人。

「そうですか。なら、これを坊ちゃんに渡しておいてください」
「はい。ちゃんと渡しておきますね」

 持っていた風呂敷包みをアーネスさんから受け取ると、「では、失礼します」と言ってスクルードの頭を撫でて、しわの深い顔で笑って庭から出て行った。

「ははうー、なーに? なーに?」
「なんだろうねー? 父上が帰ってきたら見せて貰っちゃおうね」
「うー! もぐもぐ?」
「もぐもぐかはわかんないよー?」

 風呂敷を持って縁側から屋敷の中に入って、大広間のテーブルの上に置くとまた庭に戻って、私とスクルードは枯葉を拾う作業に戻る。
枯葉を集めて、枯葉に色を塗り付けて布地に押し付ける……そう、枯葉アートをするつもりなのである。それをリックサックにしようと思っているところで、二人でせっせと形の良い葉っぱを見付けている。
世界に一つしかないオリジナルというところがポイント。
それに、こうして二人で枯葉を集めつつ遊べるのも楽しいから一石二鳥かな?

「かみさんー!」
「かみさん? なにが?」

 スクルードが大きな声を出して指をさし、私は後ろを振り向くと、この間の黒髪の男性がうちの屋敷の中から出て行くところだった。
一瞬、ポカーンとしてしまったけど、男性の手にアーネスさんの風呂敷包みがあったことに気付き、私は息を吸い込む。

「泥棒ー!!」

 私は力の限り叫んで、スクルードが男性に駆けだそうとしたのを抱きしめて止める。
男性は屋敷の中に逃げ込み、どうしよう? とオロオロしていると、私の声を聞き付けた宿舎の従業員が「大女将どうしましたー?」と声を掛けてくる。

「屋敷の中に泥棒がいるの!」
「えぇ!? 直ぐに行きます!!」

 バタバタと従業員が走って駆け付けてくれて、屋敷の中を見て回ってくれた。
その間に私はスクルードから「かみさんって誰なの?」と聞いてみたけど、「かみさーん!」としか教えてくれなくて、サッパリだった。

「大女将、屋敷の中にはもう居ないみたいですよ」
「本当? お勝手口から逃げたのかなぁ……怖い」
「一応、獣人の鼻の良いのを呼んできましょうか? まぁ、大旦那が戻れば直ぐに分かるとは思うんですけど」
「そう、だね……でも、まだ屋敷に入るの怖いなぁ……」
「大旦那を呼んでみては?」
「あっ、そうだよね」

 テンパリ過ぎていて、腕輪で連絡を取るのを忘れていた。
従業員にお礼を言って、私はルーファスに連絡を取る。

「ルーファス、屋敷に泥棒が入ったの!」
『なんだと!? 直ぐに帰る! アカリもスーも無事か!?』
「うん。こないだの、男の人が犯人なの! アーネスさんからルーファスに渡すように言われた風呂敷包みを盗まれちゃったの」
『とりあえず、直ぐ戻るから安全な場所に居ろ』

 通信を終えて、こないだは怖い人だとは思わなかったけど、いきなり屋敷に入ってきたりして怖いと感じる。
体がガタガタと恐怖で震え始めると、腕の中のスクルードが「ははうー?」と首を傾げる。

「スーちゃんは、母上が守ってあげるからね」
「ははうー! あはーっ」

 笑顔でスクルードが拾った枯葉を手にニコニコしていて、ギュッと抱きしめてルーファスの帰りを待っていた。

「ははうー、さみーみ」
「寒いの? 母上の上着を貸してあげるね」

 鼻水をスンッと吸い込むスクルードの鼻を布巾で拭いて、羽織っていた着物用のコートを脱いでスクルードを包み込むと、秋風にブルッと私も寒さを感じる。
屋敷の中は怖いけど、風避けに入った方がいいだろうか?
でも、ルーファスが帰って来るまでは外に居た方が安全だから、もう少し我慢しよう。

「アカリ! 無事か!?」
「うん。怖かった……怖かったよー……ぐすっ」

 ルーファスの顔を見た途端、安堵から涙がポロッとこぼれて抱きしめてもらうと、ルーファスの体温の温かさもあってか、じーんっとしてしまった。

「もう大丈夫だ。スーも大丈夫か?」
「うー! かみさーん! きたー!」
「かみさん?」
「ぐすっ、なんかね、スーちゃんが、犯人の男の人を『かみさん』って呼んでて、聞いたんだけど、かみさんとしか言わないの」

 涙をルーファスに拭ってもらいながら、スクルードにもう一度「かみさんってだーれ?」と聞いたけど「かみさーん」としか言わない。
二歳児にはこれ以上聞き出すのは無理そうで、ルーファスが屋敷の中を匂いを嗅ぎながら見回ってくれたけど、不審な匂いはしなかったらしくて、屋敷を見てくれた従業員の匂いしか真新しいものはなかったようだ。

「アーネスに風呂敷の中身を聞いてくる。アカリは【刻狼亭】の事務所に居ろ」

 そう言ってルーファスが出て行き、私とスクルードは戸締りをしてから事務所の方へ向かい、【刻狼亭】に戻ってきたテンと小鬼にお茶菓子を出してもらいながら、ルーファスの帰りを待っていた。

 ルーファスが帰ってきたのは、夕方過ぎてからで、その顔は酷く落ち込んでいた。
ルーファスが私を抱きしめて肩に顔を埋めると、「アーネスが死んだ」と消えてしまいそうな声でそう言った。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。