29 / 58
世話焼きな弟分(シズクside)
しおりを挟む
「相変わらず、趣味の悪いネイルだね」
「演技の小道具に、文句を言わないで欲しいわ」
店仕舞いをした『グランアージュ』のバーカウンター前の椅子にシズクが座り、それに対して琴吹千弦は片眉を小さく上げて鼻でフンッと言う。
「うちの小鳥はどう? 結構器用でしょ」
「そうね。組織で育った割に、スレてないわね」
「そりゃあ、僕が変なのに目を付けられないよう大事に大事に育ててきたんだから、当たり前でしょ」
「弟としか見られてないのに、よくやるわよ。しかも、トンビに油揚げを盗られちゃって」
「うるさいなぁ。それよりなんか食べるもの無いの?」
頬を膨らませて自分の可愛さをアピールするシズクに、琴吹はレーズンバターとサラミを切って差し出す。
ビールもついでに置くと、シズクはカウンターの中に手を伸ばして、ライムをビールに絞りいれて飲み始める。
「あんたって、見た目は可愛いのにオッサンくさいわよね」
「ミスマッチさが、可愛い~とか言えないわけ?」
「かっわぁいい~、これでオッケー?」
「うわっ、嬉しくない!」
舌を出してシズクは琴吹にブツブツ文句を言いつつ、サラミをヒョイヒョイと口に入れていく。
琴吹もグラスにビールを注いで飲み、椅子に座って足を組む。
「それにしても、あたしの店に咲ちゃんを雇わせるなんて、どういう風の吹き回しよ?」
「んー。ただ単に、小鳥にはこれ以上危ない事はさせられないし、でも仕事はしないと駄目だろうし……で、小鳥の休みとかに融通が利いて、僕が安心して置いておける所は、ここぐらいかなーって」
「確かに、うちはオメガの子は働いてるし、オメガ休暇もあるけど……安全かしらね?」
「大丈夫。小鳥に何かあれば、僕が出るし……何より、小鳥の番が大暴れするよ」
咲の番のメイデルを思い出して、シズクは一気にビールを飲み干すと「お替わり!」と、グラスを琴吹の前へ出す。
琴吹は、荒れるぐらいなら口に出さなければいいのに……と、思いつつもシズクにも可愛い所があるものだとニンマリ笑う。
「そうそう。咲ちゃん、明日からオメガ休暇で一週間は休みのはずよ。あんたが店に代わりに出てくれるの?」
「そんなわけないでしょ。僕には僕の仕事があるの」
「相変わらず、ボスにコキ使われてるの?」
「そんなんじゃないよ。あいつ等に僕の行動を束縛する権利はないし」
「どうなんだか」
シズクは口を尖らせたまま、ポケットから手のひらサイズのゲーム機を出す。
見た目はゲーム機ではあるが、シズクの指がボタンを押すと、画面が切り替わっていき、それは監視カメラを映し出す。
「なにそれ?」
「街の監視カメラの映像」
「もしかして、咲ちゃんをそれでストーカーしてるの?」
「ストーカーとか、人聞き悪いこと言わないで!」
どう見てもストーカーでしょ? と、いう言葉を呑み込み琴吹はビールをシズクのグラスに注ぎ入れて、ライムを絞る。
「あっ、ビールもう要らない! 僕、少し出てくる!」
「ちょっ! もう!」
シズクが椅子からピョンと飛び降りると、走って店の出口へ行ってしまう。
残された琴吹は、「まったく」と文句を言って、シズクの残したビールを飲み干して眉間にしわを寄せる。
「酸っぱ……っ」
ふるりと震えて琴吹は渋い顔をして、口直しにレーズンバターを口に入れる。
そして、シズクの出て行った出入り口を眺めて、溜め息を吐く。
親離れや子離れとは言うけれど、兄離れ出来ないシズクに頭を左右に小さく振り、やれやれとぼやいた。
「演技の小道具に、文句を言わないで欲しいわ」
店仕舞いをした『グランアージュ』のバーカウンター前の椅子にシズクが座り、それに対して琴吹千弦は片眉を小さく上げて鼻でフンッと言う。
「うちの小鳥はどう? 結構器用でしょ」
「そうね。組織で育った割に、スレてないわね」
「そりゃあ、僕が変なのに目を付けられないよう大事に大事に育ててきたんだから、当たり前でしょ」
「弟としか見られてないのに、よくやるわよ。しかも、トンビに油揚げを盗られちゃって」
「うるさいなぁ。それよりなんか食べるもの無いの?」
頬を膨らませて自分の可愛さをアピールするシズクに、琴吹はレーズンバターとサラミを切って差し出す。
ビールもついでに置くと、シズクはカウンターの中に手を伸ばして、ライムをビールに絞りいれて飲み始める。
「あんたって、見た目は可愛いのにオッサンくさいわよね」
「ミスマッチさが、可愛い~とか言えないわけ?」
「かっわぁいい~、これでオッケー?」
「うわっ、嬉しくない!」
舌を出してシズクは琴吹にブツブツ文句を言いつつ、サラミをヒョイヒョイと口に入れていく。
琴吹もグラスにビールを注いで飲み、椅子に座って足を組む。
「それにしても、あたしの店に咲ちゃんを雇わせるなんて、どういう風の吹き回しよ?」
「んー。ただ単に、小鳥にはこれ以上危ない事はさせられないし、でも仕事はしないと駄目だろうし……で、小鳥の休みとかに融通が利いて、僕が安心して置いておける所は、ここぐらいかなーって」
「確かに、うちはオメガの子は働いてるし、オメガ休暇もあるけど……安全かしらね?」
「大丈夫。小鳥に何かあれば、僕が出るし……何より、小鳥の番が大暴れするよ」
咲の番のメイデルを思い出して、シズクは一気にビールを飲み干すと「お替わり!」と、グラスを琴吹の前へ出す。
琴吹は、荒れるぐらいなら口に出さなければいいのに……と、思いつつもシズクにも可愛い所があるものだとニンマリ笑う。
「そうそう。咲ちゃん、明日からオメガ休暇で一週間は休みのはずよ。あんたが店に代わりに出てくれるの?」
「そんなわけないでしょ。僕には僕の仕事があるの」
「相変わらず、ボスにコキ使われてるの?」
「そんなんじゃないよ。あいつ等に僕の行動を束縛する権利はないし」
「どうなんだか」
シズクは口を尖らせたまま、ポケットから手のひらサイズのゲーム機を出す。
見た目はゲーム機ではあるが、シズクの指がボタンを押すと、画面が切り替わっていき、それは監視カメラを映し出す。
「なにそれ?」
「街の監視カメラの映像」
「もしかして、咲ちゃんをそれでストーカーしてるの?」
「ストーカーとか、人聞き悪いこと言わないで!」
どう見てもストーカーでしょ? と、いう言葉を呑み込み琴吹はビールをシズクのグラスに注ぎ入れて、ライムを絞る。
「あっ、ビールもう要らない! 僕、少し出てくる!」
「ちょっ! もう!」
シズクが椅子からピョンと飛び降りると、走って店の出口へ行ってしまう。
残された琴吹は、「まったく」と文句を言って、シズクの残したビールを飲み干して眉間にしわを寄せる。
「酸っぱ……っ」
ふるりと震えて琴吹は渋い顔をして、口直しにレーズンバターを口に入れる。
そして、シズクの出て行った出入り口を眺めて、溜め息を吐く。
親離れや子離れとは言うけれど、兄離れ出来ないシズクに頭を左右に小さく振り、やれやれとぼやいた。
1
あなたにおすすめの小説
氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。
水凪しおん
BL
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。
「君はもう、頑張らなくていい」
――それは、運命の番との出会い。
圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。
理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
こじらせΩのふつうの婚活
深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。
彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。
しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。
裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
金色の恋と愛とが降ってくる
鳩かなこ
BL
もう18歳になるオメガなのに、鶯原あゆたはまだ発情期の来ていない。
引き取られた富豪のアルファ家系の梅渓家で
オメガらしくないあゆたは厄介者扱いされている。
二学期の初めのある日、委員長を務める美化委員会に
転校生だというアルファの一年生・八月一日宮が参加してくれることに。
初のアルファの後輩は初日に遅刻。
やっと顔を出した八月一日宮と出会い頭にぶつかって、あゆたは足に怪我をしてしまう。
転校してきた訳アリ? 一年生のアルファ×幸薄い自覚のない未成熟のオメガのマイペース初恋物語。
オメガバースの世界観ですが、オメガへの差別が社会からなくなりつつある現代が舞台です。
途中主人公がちょっと不憫です。
性描写のあるお話にはタイトルに「*」がついてます。
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる