狼兵は運命の番を逃がさない

ろいず

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世話焼きな弟分(シズクside)

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「相変わらず、趣味の悪いネイルだね」
「演技の小道具に、文句を言わないで欲しいわ」

 店仕舞いをした『グランアージュ』のバーカウンター前の椅子にシズクが座り、それに対して琴吹千弦は片眉を小さく上げて鼻でフンッと言う。
 
「うちの小鳥はどう? 結構器用でしょ」
「そうね。組織で育った割に、スレてないわね」
「そりゃあ、僕が変なのに目を付けられないよう大事に大事に育ててきたんだから、当たり前でしょ」
「弟としか見られてないのに、よくやるわよ。しかも、トンビに油揚げを盗られちゃって」
「うるさいなぁ。それよりなんか食べるもの無いの?」

 頬を膨らませて自分の可愛さをアピールするシズクに、琴吹はレーズンバターとサラミを切って差し出す。
 ビールもついでに置くと、シズクはカウンターの中に手を伸ばして、ライムをビールに絞りいれて飲み始める。

「あんたって、見た目は可愛いのにオッサンくさいわよね」
「ミスマッチさが、可愛い~とか言えないわけ?」
「かっわぁいい~、これでオッケー?」
「うわっ、嬉しくない!」

 舌を出してシズクは琴吹にブツブツ文句を言いつつ、サラミをヒョイヒョイと口に入れていく。
 琴吹もグラスにビールを注いで飲み、椅子に座って足を組む。

「それにしても、あたしの店に咲ちゃんを雇わせるなんて、どういう風の吹き回しよ?」
「んー。ただ単に、小鳥にはこれ以上危ない事はさせられないし、でも仕事はしないと駄目だろうし……で、小鳥の休みとかに融通が利いて、僕が安心して置いておける所は、ここぐらいかなーって」
「確かに、うちはオメガの子は働いてるし、オメガ休暇もあるけど……安全かしらね?」
「大丈夫。小鳥に何かあれば、僕が出るし……何より、小鳥の番が大暴れするよ」

 咲の番のメイデルを思い出して、シズクは一気にビールを飲み干すと「お替わり!」と、グラスを琴吹の前へ出す。
 琴吹は、荒れるぐらいなら口に出さなければいいのに……と、思いつつもシズクにも可愛い所があるものだとニンマリ笑う。

「そうそう。咲ちゃん、明日からオメガ休暇で一週間は休みのはずよ。あんたが店に代わりに出てくれるの?」
「そんなわけないでしょ。僕には僕の仕事があるの」
「相変わらず、ボスにコキ使われてるの?」
「そんなんじゃないよ。あいつ等に僕の行動を束縛する権利はないし」
「どうなんだか」

 シズクは口を尖らせたまま、ポケットから手のひらサイズのゲーム機を出す。
 見た目はゲーム機ではあるが、シズクの指がボタンを押すと、画面が切り替わっていき、それは監視カメラを映し出す。

「なにそれ?」
「街の監視カメラの映像」
「もしかして、咲ちゃんをそれでストーカーしてるの?」
「ストーカーとか、人聞き悪いこと言わないで!」
 
 どう見てもストーカーでしょ? と、いう言葉を呑み込み琴吹はビールをシズクのグラスに注ぎ入れて、ライムを絞る。

「あっ、ビールもう要らない! 僕、少し出てくる!」
「ちょっ! もう!」

 シズクが椅子からピョンと飛び降りると、走って店の出口へ行ってしまう。
 残された琴吹は、「まったく」と文句を言って、シズクの残したビールを飲み干して眉間にしわを寄せる。

「酸っぱ……っ」

 ふるりと震えて琴吹は渋い顔をして、口直しにレーズンバターを口に入れる。
 そして、シズクの出て行った出入り口を眺めて、溜め息を吐く。
 親離れや子離れとは言うけれど、兄離れ出来ないシズクに頭を左右に小さく振り、やれやれとぼやいた。
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