狼兵は運命の番を逃がさない

ろいず

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拾い物には注意を

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 一週間分の食料を買い込んで、あとはマンションに帰るだけのはずが……俺は十代の女の子を連れて帰っている。

 ___つい十分くらい前の話だ。

 買い物袋を車に詰め込んでいた時に、駐車場の奥の方で悲鳴のようなものが聞こえて、思わず様子を見に行ってしまったところ、この女の子が男たちに襲われかけていた。
 しかも、甘い香りが漂っていたことから、誘惑香と分かったわけだ。
 男たちはアルファなのだろう……まだ年若い見た目からして、学生かもしれない。
 
「ごめんな!」

 一応、謝罪をして男たちに護身用のスタンガンを食らわせ、少女の手を取り逃げ出した。
 少女は泣きじゃくりながら、俺の事も怯えていたようだけど、発情したオメガをアルファが襲った場合、罪とみなされるのはオメガの方なのだ。
 自分の健康管理を怠って、発情期でアルファを無理やり犯罪に巻き込んだ。と、そう判決は下るだろう。
 被害者は常にアルファであり、オメガは加害者でしかない。

「嫌っ! 放して!」
「抑制剤は? 持ってるなら手を離すけど、持ってないならこの場から逃げるしか無いんだよ!」
「持って、無い……」
「俺の抑制剤は、錠剤で眠気が凄いから……飲ませるわけにもいかないし、家は?」
「家は、帰れない……アナタ、オメガなの?」
「見た目がオメガっぽくないけど、オメガだよ」

 女の子を車に押し込んで、車を発進させると、女の子は泣きながら身の上話を始めた。
 彼女は美羽みうという名で、年齢は十六歳。
 ストレートの黒髪に大きな黒い瞳、色白で守ってあげたくなる儚くて可愛い様は、オメガの少女らしいといえるだろう。
 美羽には、生まれた頃からアルファの許嫁が三人いるらしく、三人の子供を産み、そのうちの一人と結婚するように言われているのだそうだ。
 それが嫌で逃げ出したところ発情期になり、先程の男たちに襲われかけたそうだ。

「いつもはどういうタイプの、抑制剤を飲んでいるの? 薬局で買えるタイプなら買ってくるけど……」
「分からない……いつも、お医者様が家に来て処方してくれるから」
「そっか……でも、困ったな。俺のだと、直ぐに眠くなるタイプだし……ああ、即効性のヤツを貰ったな。俺の家で即効性を打ってから、病院に処方しに行こうか」

 美羽はコクリと頷き、俺は少し不味ったな……と、頭を悩ませていた。
 お金、そんなにないんだよね。
 『グランアージュ』では働き始めたばかりだし、さっき一週間分の食料を買って手持ちがそんなにない。
 美羽はお財布すら持ってなさそうだし……保険証も、持ってきてないだろうな。
 元々、オメガの抑制剤は保険外で値段が、普通の錠剤タイプでも安くて三千円以上する。
 医者から処方してもらうとなると、診察代に薬代でお金に羽が生えて飛んで行ってしまう。

「アナタ、名前は?」
「俺は、咲。名執咲だよ。二十三歳で、一応、番が居るよ」
「一応なの?」
「今、相手が海外飛び回ってるからね。出会ったのも一ヵ月前なら、放置されているのも一ヵ月。このまま会えなくなるかもしれないから、一応、だよ」
「そういうものなの?」
「どうだろう? 俺も番になったのは初めての経験だから、分かんないよ」

 他愛のない話をしてマンションに着くと、美羽を自分の部屋へと招き入れた。
 冷蔵庫の中から、メイデルに貰った瞬間抑制剤を取り出して、美羽の首筋に打ち込んだ。
 美羽が落ち着きを取り戻し始めると、椅子に座りながら足をもじもじと動かしている。

「トイレなら廊下だけど?」
「そうじゃなくて……あの、下着が、濡れてて気持ち悪い……」

 小さな声で恥ずかしそうにそう言われ、流石に女の子の下着は我が家には無い。
 出費がかさみそうだ……お金は無くなる時は、勢いがついたようになくなるのは何故なのか……

「じゃあ、コンビニで買ってくるから。飲み物は冷蔵庫にあるジュースか、コーヒーと紅茶が棚にあるから、好きに飲んでて」

 それだけ言ってマンションを出て、女の子用の下着を買いにコンビニに走る。
 コンビニの下着の高さに、少しだけ涙ぐみながら購入してマンションに戻ると……家から美羽は消えていた。
 しかも、冷蔵庫に入れていた瞬間抑制剤と、キッチンの棚に置いておいた錠剤タイプの抑制剤も一緒に消えているし、一週間分買ってきたはずの食料も無いわ、服とカバンも幾つか無くなっているし、本当に勘弁してほしい。
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